第196話 近衛騎士団への支援
◆◇◆◇◆◇
賢塔国セジウムからアークディア帝国の帝都エルデアスへと戻ると挨拶回りを行なった。
その挨拶回りの最後に、皇城にある近衛騎士団の隊舎を訪れていた。
「ーーコレが納品予定の魔剣ですか?」
アークディア帝国の近衛騎士団団長であるアレクシアが、台に置かれた一振りの魔剣を興味深そうに眺めながら尋ねてくる。
彼女の周囲には他の近衛騎士達もおり、彼らもアレクシアと同様に台の上の魔剣に興味津々だ。
先日、ドラウプニル商会の貸金業への参入について宰相と交渉した際に、次の戦争に向けてドラウプニル商会から物資などを最大限支援することを約束した。
この魔剣もその支援の一つで、皇帝であるヴィルヘルムの盾であり矛でもある近衛騎士達の戦力を強化するためのモノだ。
今日はアルヴァアインへ戻る前の挨拶のついでに、近衛騎士団に納品予定の魔剣のデモンストレーションを行いに来ていた。
「ええ。魔剣の銘は夜明けを意味する〈
光護剣アカツキは、現在エリンに使わせている退魔刀アマツの長剣バージョンに近い存在だ。
アマツのように聖剣術式は使われていないものの、聖剣術式と形状以外はアマツによく似ている。
アマツの〈退魔〉や聖剣の〈聖気〉ほどではないが、〈破魔〉も魔力に対する優位性を有している。
「光護剣アカツキですか。名称から察するに、光系統の魔剣でしょうか?」
「そうなります。等級は
台の上に置かれてある光護剣アカツキと同じモノを【無限宝庫】から取り出すと、アレクシア達近衛騎士達が見ている前でアカツキを鞘から抜き放つ。
微量の魔力消費で発動した【光覇魔刃】によって、アカツキの剣身が薄っすらと白い光を纏う。
「このように見た目の光量こそ弱いですが、この光刃の切断力は中々のモノです。現在の近衛騎士の基本装備に
そう告げると、近衛騎士の装備と同性能の魔剣を取り出して右手に持ち、左手にアカツキを持つ。
全員が見ている前で双方の基本能力である魔刃を発動させ、同じ力加減で剣身同士をぶつけ合わせた。
「「「おおっ!!」」」
「折れた、いえ、見事に斬れましたね」
近衛騎士達とアレクシアの驚愕の声の通り、アカツキの光刃がもう一方の魔剣の剣身を魔刃ごと一撃で斬り裂いていた。
遺物級と宝物級で等級の違いがあるものの、このあたりの等級の魔剣が一つ上の等級の魔剣によって一撃で破壊されることは滅多に無い。
破壊されたほうが粗悪品ならばまだしも、近衛騎士の正式装備と同等の品質の物を用意したため、質が悪いということも考えられない。
破壊されたほうの魔剣をアレクシアに手渡し、彼女からもそのような小細工が無いことを確認してもらった。
「次に二つ目の能力ですが、此方は身体能力の強化ですね。名称は【護光強身】です。強化のほどは体験しなければ実感出来ないでしょうから、後でご確認ください」
【護光強身】を発動させると、身体を一瞬だけ光が包み込み即座に消えた。
これは、身体強化系の能力を有する
身体強化系魔導具で発動する身体強化能力は、使用者自身が保有する身体強化系スキルとは別の枠組みであるため、同時に使用することで単体で使用するよりも大きな力を得ることができる。
中堅どころの冒険者や騎士が何かしらの身体強化系スキルを取得していることは珍しくない。
自分自身が保有するスキルの場合、筋力値などの一部の身体能力値を強化する単体強化系スキルと、全ての身体能力値や複数の身体能力値を強化する複合強化系スキルは重複しないが、それぞれの系統内では重複する。
効果の種類が重複した時は、最も強化率の高い効果のみが反映されるため、同系統の身体強化系スキルを取得するのは非効率であることが多い。
このあたりが身体強化系魔導具の需要の高さの理由だ。
ただし、この身体強化系スキルや能力も、強化効果が加算式や乗算式かでまた系統が細かく分かれたりするうえに、強化効果に別の付加効果ーー炎や雷を纏うなどーーがある場合は更に系統が分かれて重複しなくなるため、地味に計算が面倒くさかったりする。
俺の場合は、【強化合成】でそれらのスキルを一つに纏めて合成し、上位互換のスキルや別系統のスキルに昇華しているので問題無いが、他の者達ではそうはいかない。
故に、実際にスキルを使ってみるまでどうなるか分からないため、はじめから重複しない魔導具に頼るようになるというのもまた、身体強化系魔導具の需要が高くなっている理由の一つというわけだ。
光護剣アカツキの三つ目の能力は、そのあたりの仕組みなどを理解したうえで組み込んだ、二つ目の能力とは別系統の強化能力になる。
「最後の三つ目ですが、これも二つ目の【護光強身】と同様の身体強化系の能力になりますが、効果は重複しないので両方の効果が得られます」
三つ目の能力を発動させると、俺の身体を纏うような形状の白色の光の鎧が具現化した。
これは退魔刀アマツのほうにも実装してある【光装闘衣】であり、身体強化の効果以外にも、自分自身には光の鎧を纏うことによる物理的な防御力を付加する効果と、能力を発動したアカツキ自体にも光の刃を追加で纏わせて物理的な攻撃力を増大させるという効果がある。
「肉体だけでなく、矛と盾も強化するのがこの【光装闘衣】の効果です。複合能力なだけあって発動に必要な魔力消費量はそれなりに多いので、普段使いは魔力に余裕がある方以外は止めたほうがいいでしょうね」
「随分と性能の良い魔剣ですが、近衛騎士団全員の分を用意して本当に大丈夫なのですか?」
光護剣アカツキには聖剣術式が使われていないので、退魔刀アマツの下位互換でしかないが、それ以外の仕様は殆ど変わらない。
遺物級という等級も含めて、大量生産する魔剣のわりには、かなりの高級品なのは間違いない。
アレクシアが心配するように、近衛騎士全員分を納品するのは無理だと考えるのが普通だろう。
だが、俺は【
消費した魔力もすぐに回復するため、実質的なコストはゼロだとも言える。
だから大したことは無いのだが、そんな秘密を明かすことは出来ないので適当にそれらしいことを言っておく。
「まぁ、流石に無料というわけではありませんから、費用については気にする必要はありませんよ。生産については賢者だからとでも思っておいてください。商会のトップという以外にも、帝国に属する賢者でもありますからね。賢者として、出来る限りの支援はさせてもらいますよ」
無料ではないとは言ったが、定価の二割の金額で納品するため普通ではあり得ないことには変わりない。
納品数って幾つだったか……予備も含めれば軽く百は超えていたかな。
生産力については、春までに複数回に分けて納品して誤魔化すのでどうとでもなる。
「……ありがとうございます。我ら近衛騎士一同、此度の戦では必ずやエクスヴェル卿のご期待に応えてみせます!」
「ええ、期待しています」
ありきたりの言葉を返したところ。どうやらアレクシア達を感動させたらしく、全員から仰々しい敬礼を返されてしまった。
動揺を顔に出さずに、即座に言葉を返せた自分を褒めてやりたい。
本来なら、この後に事前の通達に無かった装身具タイプの戦闘用魔導具の支給も行おうと考えていることを話すつもりだったのだが、今そんな話をしてしまったらアレクシア達から向けられる熱意に耐えられなくなりそうなので、これについては後日にまわすことにした。
武器とは違って慣らし期間は必要ないから後回しでも構わないだろう。
ゴルドラッヘン商会への納品のほうも午前中に済ませたし、予定通り今日までは帝都の屋敷に泊まって明日の朝にアルヴァアインへと戻るとしよう。
スキルレンタル業の発表後に、真昼間に向こうの市中を出歩いてはいないので、俺が戻ってきたことを知ってどんな反応があるのか少しだけ心配ではある。
まぁ、なるようになるだろう。
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