第178話 カルマダ包囲網と準備
◆◇◆◇◆◇
三回目の迷宮探索から戻った翌日。
諸々の手配を行うために俺は神迷宮都市アルヴァアインの行政府を訪ねていた。
「ーーエクスヴェル卿が仰ってた通りの場所にて、特定のクランの冒険者の出入りが確認できました。先日引き渡してくださった者達から得た情報と合わせますと、そこがカルマダの本拠地、あるいは拠点の一つとみてほぼ間違いないでしょう」
向かい側に座るアルヴァアインの代官であるクロウルス伯爵が、手元の資料を捲りながらそう説明する。
警備システムを兼ねた蒐集迷宮ラビリンスにてカルマダの構成員達を処理した後、ギムレー養護院などで捕縛したカルマダの構成員達を情報源として行政府に引き渡した。
その際には、俺の傘下にある風俗系犯罪組織〈淫蛇の美魅〉改め、繁華街の統括組織〈聖蛇の美貌〉に命じて、客として来店していたカルマダの構成員達も捕縛して一緒に引き渡している。
情報源を引き渡して僅か一日で俺が提供した情報の裏付けが取れたのは幸いだ。
「では?」
「はい。エクスヴェル卿のご提案なされた作戦の通りに動くと致しましょう。現時点をもって、カルマダに与していると思われるクランの団員達の捕縛命令を各所に通達致します。ギルドマスターもよろしいですかな?」
「勿論よ。ただ、低位の冒険者なら兵士達だけでも大丈夫でしょうけど、高位の冒険者を相手にするのは厳しいと思うから、信用できる冒険者に緊急依頼を出して捕縛に協力させるわ。依頼料はギルドの方で持ちましょう」
「それは有り難いですな。ご協力感謝致します」
「ギルドの長として、ギルド員の不始末に対処するのは当然なのでお気になさらず」
この会議の場には俺とクロウルス伯爵以外にも人がおり、冒険者ギルドの責任者としてギルドマスターのヴァレリーと、偶々アルヴァアインにいたからという理由で帝都へ本作戦の書類を届けるのを買って出てくれたオリヴィアがいる。
他にもクロウルス伯爵とヴァレリー付きの秘書がそれぞれ室内にいたが、関係各所への指示を出すためにちょうど会議室を出ていったところだ。
「日中に構成員を出来るだけ捕縛して、その日の夕方には本拠地に突入とは、中々ハードな日程よね」
「時間をかけ過ぎると国外に逃亡されそうですからね。早いに越したことはありません」
ヴァレリーの発言に言葉を返しつつ、眷属ゴーレム越しに本拠地の監視を続ける。
今のところは静かだが、構成員や協力者達が捕縛されているのが分かれば動きがあるだろう。
一日やそこらで撤収出来るとは思えないが、
カルマダの構成員を根刮ぎ排除するためには、都市内外の関所を使うのが最適だ。
そのためには行政府と代官であるクロウルス伯爵の協力が必須になる。
犯罪者とはいえ、冒険者ギルドに属する冒険者という表の顔があるため、捕縛する際には当たり前だがギルドマスターのヴァレリーの協力も必要だ。
二人ともカルマダの存在には頭を悩ませていたので、俺からのカルマダ包囲網の提案は意外と簡単に通った。
俺の疲労を度外視すれば一人でも殲滅できるだろうが、協力してもらったほうが楽が出来るし、行政府と冒険者ギルドにも恩が売れるので、長期的な視点で見ればそこらの財宝よりも価値がある。
件のアーティファクトの危険性と希少性から、個人的に所有する許可を得るのに多少苦労したが無事に獲得することが出来た。
これで公に使用する際の弊害が無くなったので、今後の予定も幾らか楽になりそうだ。
「それにしても。本当にリオンさん達三人だけで大丈夫なの?」
オリヴィアが一抹の不安を滲ませた声音で尋ねてくる。
オリヴィアはこの場の他二人よりも俺の能力を知っているが、それでも場所が場所なので不安なのだろう。
「戦場は相手のホームですから大人数で向かっても被害が拡大するだけです。それに、少数精鋭のほうが動きやすいですし、気を配る必要性も最小限で済みますから却って安全ですよ」
「それならいいんだけど……気をつけてね」
「ええ、ありがとうございます」
カルマダの本拠地には俺とリーゼロッテ、フェインのヴァルハラクランのSランク三人のみで突入することになっている。
地の利が向こうにある上に、相手側に残っている戦力を考えると、Aランク以下の冒険者達を連れていったら被害が出るのは確実だ。
他クランのSランク冒険者達ならば大丈夫だろうが、作戦後の分け前が減るのと諸々の交渉の時間が無いので参加要請は出していない。
Sランク冒険者への指名依頼は高額なので、事前の捕縛依頼に関しても彼らには要請は出していないそうだ。
「作戦時には兵士達で本拠地を包囲することになっていますが、他にも何か必要なことはありますかな?」
クロウルス伯爵からの確認の質問に対して、元々頼む予定だった事を話しておく。
「そうですね……おそらくは内部には様々な用途のために捕らえている人々がいると思いますので、彼らの受け入れ体制を整えてくださっていると助かります」
「虜囚ですか?」
「はい。以前、巨塔のダンジョンエリアにてカルマダが中継拠点の開拓部隊へと魔物の大群を誘引したことがあったのは、覚えていらっしゃいますか?」
「勿論ですとも。確か報告書には、魔物の群れを誘引してきた実行犯は、何者かに脅されていたと思われると書かれていましたな」
「ええ。そういった使い捨ての駒にする人員を強制的に動かすための人質が、どうやら本拠地に集められているようです。直接確認したわけではないので真偽は不明ですが、備えておく必要があると思いますので……」
事前に本拠地の内部を確認できれば良かったんだが、アーティファクトだからか鍵を使わない限り眷属ゴーレム達は侵入することは出来なかった。
【万里眼】でも視ることが出来ない上に、【発掘自在】などで無理矢理内部を確認しようとしたら、流石に察知されてしまうだろうから、ぶっつけ本番で確認するしかない。
まぁ、そっちのほうは変装させた分身体と眷属ゴーレム達に探させれば大丈夫だろう。
「人質達を見つけたらリーゼとフェインを付けて入り口まで送らせますので、受け入れをお願いします。その際に生きたまま捕縛できたカルマダの幹部がいたら、それらも一緒に連れて行かせます」
「承知致しました」
「リオンはどうするの?」
「当然、カルマダのボスを倒しにいきますよ。出来るだけ生かしたまま捕らえるつもりですが、あまり期待しないでくださいね」
「こちらで集めた情報からも本拠地でのカルマダのボスの強さはSランク相当だと聞いております。ですので生死問わずで構いません。アーティファクト回収による本拠地の崩壊を持って作戦の成功だと判断して問題無いでしょう」
クロウルス伯爵の言葉に全員が頷く。
それから行政府を後にしてオリヴィアと共に屋敷へと戻った。
クロウルス伯爵が纏めた書類を手に帝都へと戻るオリヴィアを見送ってから、自室にて一息つく。
三回目の迷宮探索はカルマダのせいで予定より一日早くダンジョンから戻ることになってしまった。
オリヴィアは気にしないでいいとは言ってくれたが、こちらの事情に付き合わせたのだから、何かしら埋め合わせをするべきだろう。
「それにしても、カルマダのボスか……」
本拠地内のマップ情報が見れないから断言出来ないが、俺の勘ではSランク相当では無い気がしている。
この感覚には前の異世界でも経験があるから、おそらく想定よりもカルマダのボスは強いのだろう。
まぁ、それならそれで今の全力を持って対処するだけだ。
他にも今の段階でやれることと言えば……スキル合成とかか。
色々と合成案が思い付いていたから今のうちにやっておくとしよう。
[スキルを合成します]
[【
[【戦猿の目】+【未来予測】+【星王の瞳】+【貪欲な嗅覚】+【鑑定】+【霊視】=【
[【
[【武術の極み】+【剣身一体】=【武真合一】]
[【賢蛇の練理】+【二律共鳴】=【双星賢理】]
[【偽装の極み】+【超回避】+【神隠れ】+【逃避行】=【
[◼️◼️◼️◼️より恩寵が与えられます]
[称号〈隠密神の加護〉を獲得しました]
[加護の効果により、以後、一部スキルの取得経験値が増大されます]
[加護の効果により、一部スキルの必要経験値が変更されました]
[保有スキルの熟練度が調整されます]
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[ジョブスキル【
[マジックスキル【虚影魔法】がマジックスキル【幽影魔法】にランクアップしました]
[経験値が規定値に達しました]
[ジョブスキル【
スキル合成によって、今回の作戦で役立ちそうなスキルと加護を得られたのは僥倖だ。
この合成で得たスキルや加護は、捕らわれている人達を救出する際には大いに役に立つことだろう。
スキルの確認をしていると部屋の外にリーゼロッテがやってきたので、ノックをする前に【強欲王の支配手】の念動力で扉を開けてやった。
「おかえりなさい、リオン」
「ただいま、リーゼ。フェインの戦闘スタイルの確認は済んだのか?」
俺は戦場でフェインと相対したので熟知しているが、リーゼロッテはそうではないため、俺が行政府で話し合っている間はエリン達を相手に模擬戦を行い、互いの戦闘スタイルの確認をしてもらっていた。
「大体のところは分かりましたので大丈夫です」
「そうか。フェインは?」
「まだ地下鍛錬場でエリン達を相手に模擬戦をしていますよ。私はリオンが戻ってきたのが分かったので抜けてきました」
「なるほどな」
俺の自室にある自作冷蔵庫の中から慣れた手付きで飲み物を取り出すリーゼロッテを尻目に、魔導リクライニングソファに身体を沈めたまま、脳内で新規スキルの確認を続ける。
「スキルリストがまた変わっているようですが、合成ですか? それともユニークスキルですか?」
「合成」
確認している最中なのでおざなりに返事をすると、抗議するかのようにリーゼロッテが膝の上に乗ってくる。
膝の上に乗ってきたリーゼロッテの身体に刺激されたある種の欲望を【無二無三】で鎮めると、ふとあることを思い出した。
「そういえば、リーゼ」
「はい」
「ユニークスキルがランクアップしたな。おめでとう」
「ありがとうございます」
俺が行政府で会議をはじめて間も無く、【主従兼能】の繋がりを通してリーゼロッテのユニークスキルがランクアップしたという通知があった。
同様の繋がりを通して俺のユニークスキル【
「【
「はい。今夜の作戦を前に幸先が良いです」
【忠義】の内包スキルだった【主従兼能】も【
名称的に俺がリーゼロッテのスキルを借りれるか怪しかったが、幸いにも【王権代行】になっても変わらず相互にスキルのレンタルは可能だった。
このユニークスキルから常時借りるのは、前と同じ【成長深化】と、新たな内包スキルである【傲慢の君主】ぐらいだろう。
レンタル可能なスキルの数も五つになっているから、新たに一つ増えたのは都合が良い。
残る二つの内包スキルも強力なので、状況によってはその二つもレンタルするのも良さそうだ。
「そうだな……作戦実行前に実際に見せてもらおうかな」
「地下に向かいますか?」
「ああ。ついでに今のフェインのコンディションも確認しておくか」
動く気配の無いリーゼロッテを横抱きにして持ち上げると、そのまま屋敷内を徒歩で移動して地下鍛錬場へと向かった。
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