第166話 下位の冒険者
◆◇◆◇◆◇
「ーーほほう。では、皆さんはゴブリンの骨を武器として使っているのですね?」
「うん。木製の武器みたいに加工しなくてもそのまま鈍器として使えるんだ」
「ゴブリンの死体は素材としての価値が無いから、そこら辺にそのまま放置されているしな」
「状態が悪くて壊れやすいから予備を持っておく必要があるけどね」
「替えがきくけど、解体ナイフで肉を削ぐのが大変なんですよ」
第二エリア帯の小エリアの一つにて出会った四人組の少年少女達から、彼らのような駆け出し冒険者達ならではの話を聞かせてもらっていた。
彼ら四人の装備は、衝撃吸収性を上げるために重ね着した平服を防具に、ゴブリンの骨の中で最も長くて丈夫な太腿骨を手持ち武器として使っており、一目見て冒険者だとは分からない格好をしている。
正直言って、そんな装備で大丈夫か? っと思わず尋ねたくなるような装備だ。
おそらくだが、蛮族や盗賊とかのほうが彼らよりもマトモな格好をしていることだろう。
神造迷宮があるアルヴァアインが冒険者の都市であることから、武器防具の需要が高いのは自然なことだ。
そして、需要がある武器防具の販売価格が上がるのもまた自然なこと。
ただし、いくら需要があるとはいえ、あまりにも高すぎると買う者がいなくなるため、ぼったくりと言われるほどの法外な金額が付けられることは滅多にない。
それでも、懐事情が心許ない駆け出し冒険者達にとっては、マトモな武器防具は手が出せない高価な代物であることには変わりないらしく、彼らのような装備が整っていない駆け出しや新人といった下位の冒険者は珍しくないとのこと。
「武器が買える見通しは立っているのですか?」
「ミトーシ?」
「将来的に買える予定はあるのですか、という意味ですよ」
「ちょっとずつ貯めているから、近いうちに買える予定なんだぜ!」
快活な少年の言葉に他の三人も頷いている。
彼らは貧しく厳しい日々でも前向きに活動しているようだ。
この小エリアの魔物は基本的に群れないそうなので、四人で一体をタコ殴りにすれば安定して勝てるらしい。
ギルドが出している常設採取依頼を受けて日銭を稼いでおり、
そんな最適な場所を初対面の俺に教えていいのかと思ったが、きっと誰にでも言いふらすわけでは無いのだろう。
発動している【百戦錬磨の交渉術】【誘導尋問】【親愛】【友愛なる心証】【交感】に意識を向けつつ、情報料代わりに
「骨を武器にか……『
「ギ、ギャァッ!?」
草藪にしゃがみ込んで隠れていたゴブリンを、背後から魔法で攻撃する。
上半身を酸性の水弾で溶かしてしまうと、残る下半身から右足を捥ぎ取った。
【幽世の君主】の力を使って太腿骨を残して肉を腐り果てさせ、残った太腿骨を【光煌の君主】の力で浄化して臭いと汚れを消し去る。
「これで良、あっ……力が強過ぎたか」
【
こんなことになった理由は、主に【光煌の君主】の力だろうが、状況的に【幽世の君主】の力も無関係ではあるまい。
「興味深いが、まぁ後回しだな」
【万骨成形】を発動させて祝福された太腿骨に加工を施す。
成形の途中で追加で注入した魔力を制御して弄った結果、〈祝福された小鬼骨魔剣〉という名の骨製魔剣が出来上がった。
全体的に白く、所々に血管のように赤く光る魔力線が刻まれているのが特徴的だ。
元はゴブリンの太腿骨なので、サイズは短剣以上長剣以下といったところか。
等級は
スキルのみで適当に作ったのだから当然の低さと言える。
有する能力も魔力を消費して使用者の身体能力を少々強化する【鬼骨魔気】だけだし、真面目に持てるスキルと魔法、製作技術の全てを駆使して作る高ランクの魔剣と比べると、コレはオモチャのようなモノと言っても過言ではない。
そんな代物でもアルヴァアインでは一定の価値があるというのだから、世の中面白いものだ。
残るゴブリンの左足のほうも使用して骨魔剣を製作した。
君主スキルの力を抑えて製作したことによって、こちらの骨魔剣には〈祝福された〉の文字が無く、【鬼骨魔気】の身体強化率が多少下がったが、見た目と等級に違いはない。
魔導具かどうかでの差異を調べるべく、追加でゴブリンを倒して〈小鬼骨剣〉を作った。
血管のような魔力線が無いことと、等級が一般級であること、そして【鬼骨魔気】が無いことを除けば、剣の質は然程変わらない。
「ふむ。性能は鉄剣以下でも、含有する魔力がある分だけ木剣よりは使えそうだな」
安定かつ安価に得られるため素材としては優秀だが、要求される製作技術が特殊なのが難問だ。
骨に干渉し加工できる能力が無ければ、ゴブリンの骨を剣の型にすることは出来ない。
暗黒系統の基本魔法に骨に干渉する魔法がありはするが、完成度の高い骨剣を製作できるほどに加工できるかは怪しいところだ。
【万骨成形】があれば容易く解決する話だが、骨剣を作るためだけに【
俺が一人で作るというのも依存と負担が過ぎるので、少なくとも一般級の骨剣は部下の職人達に作らせるのがマストだ。
「いや、人件費削減かつ大量生産で単価を下げられることを考えると、全自動生産というのもアリか?」
俺のゴーレム技術と魔導具技術を使えば、基本的に無人で稼働する工房系魔導具を作れそうだ。
これもある意味では俺の力に依存していると言えるだろうが、工房系魔導具を操作管理するのは部下なので、俺一人で黙々と生産するよりかは断然マシだろう。
魔導具のメンテナンスも予めマニュアルを作っていれば俺じゃなくても可能なはずだ。
骨剣を安定して大量生産できるようになれば、下位の冒険者達に安価に武器を供給できるようになる。
死亡率が下がり、攻撃力が上がることでレベルアップもしやすくなるだろう。
レベルが上がれば更に上の狩場に移れるようになり、収入も増える。
収入が増えれば市場に金が回るから、巡り巡ってドラウプニル商会も潤うことになる。
骨剣の生産と販売はドラウプニル商会の独占になるため、骨剣を使う冒険者の多くは、必然的に俺の商会の常連になるだろう。
骨剣を扱う段階を過ぎても、店内にディスプレイされている高位魔剣や良質な商品の数々が、冒険者達を再びドラウプニル商会へと足を運ばせることになる。
骨剣の素材であるゴブリンの骨を集めるのが多少面倒だが、採取依頼として冒険者ギルドに歩合制で出しておけば、誰かがやるはずだ。
やらないなら商会に新設予定の迷宮部門に回収しに行かせれば済む話なので、大した問題ではない。
ゴブリン達が出現する幾つかのエリア帯が、この第二エリア帯のように入り口である第一エリアから近い距離にあるのも良いポイントだ。
「ま、それも魔導具が作れなければ無理な話だけどな。これも全て鉄が高いのがいけない」
アルヴァアインの神造迷宮でも鉱石を採掘することができるのだが、第一エリアから最も近い採掘場まで移動に一日弱かかる。
移動後も採掘場に出現する魔物と戦いながら採掘しなければならないため、そこで採れる鉄鉱石の価格が上がり、鉄製品の販売価格も同様に上昇。
鉄鉱石はアルヴァアインの外からも仕入れているが、護衛費含めた輸送費の問題もあって価格は少し安い程度にしかならない。
その結果、鉄剣などの鉄製武器は駆け出し冒険者が気軽に買えないような代物になってしまったわけだ。
せめて、採掘場があるエリアが入り口から近い距離にあったり、都市外から安価に仕入れられたら違ったのだろうが、現実は非情である。
ドラウプニル商会内で使用している金属類は、俺の能力で生み出したモノなので元手は俺の魔力だけだ。
だが、その能力で生成した鉄を市場に流しても需要からすれば焼き石に水にしかならず、下手すればデフレが起こりかねないので市場には流していない。
迷宮商人オーズとしてダンジョンエリア内で出会った下位の冒険者達から聞いた話によると、最下級冒険者である駆け出しの間はゴブリンの太腿骨による骨棍棒や木製武器を使い、まだまだ新人ではあるが駆け出しを脱した下級冒険者になると、購入資金が貯まり次第鉄製武器に変更するのが普通らしい。
中級冒険者にもなると、甲殻系魔蟲の素材から作られた頑強な魔蟲製や、魔法金属製の武器などに装備を更新するのが、アルヴァアインの冒険者の一般的な流れなんだそうだ。
ちなみに、最下級というのがFランク、下級がEランクとDランク、中級がCランクとBランクの冒険者のことを言っており、最下級と下級の冒険者を纏めて下位の冒険者と表現されている。
防具も似たようなもので、重ね着した平服、革鎧、魔物素材製か魔法金属製の順に移り変わっていくそうだ。
以前見かけた下級冒険者の時も思ったことだが、アルヴァアインの下位の冒険者達の装備事情は本当に酷い。
今回、下位の冒険者達から話を聞いていて気付いたが、他の冒険者を襲って装備と金だけでなく命まで奪う犯罪組織カルマダが生まれた背景には、こういったアルヴァアインが抱える事情があるようにも思える。
だとすれば、下位の冒険者の装備事情の改善は、カルマダを滅ぼした後に第二第三のカルマダが生まれるのを防ぐことにも繋がりそうだ。
「武器は暫定的にゴブリン骨でいいとして、防具はどうするかな……そのあたりの情報を重点的に集めるか」
遠くに見かけた冒険者パーティーから情報を聞きだすべく、交渉系スキルなどを発動させてから彼らの方へと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます