第162話 ロンダルヴィア帝国
◆◇◆◇◆◇
風俗系犯罪組織〈淫蛇の美魅〉をはじめとした複数の犯罪組織を襲撃した翌日。
自宅であるアルヴァアインの屋敷で戦利品を整理しながら、リーゼロッテにことの経緯を説明していた。
「ーーなるほど。そういう経緯で繋がりをつけましたか。目敏いですね」
「そこは賢いと言ってくれ」
ある意味で今回のことは投資だからな。
昨晩の襲撃において複数の犯罪組織が壊滅した中で、淫蛇の美魅だけが生き残ったことを怪しむ者がいるかもしれない。
なので、怪しまれ色々と探られるぐらいならばと、よそ向けに分かりやすいストーリーを用意してやることにした。
違法なことに手を染めて富を築いていた先代のトップである派手で偉そうな老婆。
その支配と組織体制をどうにかしたいと思っていたとある女性幹部は、ついに一念発起してクーデターを決意する。
だが、彼女の私兵だけでは老婆側の戦力には太刀打ちできないため、外部に助力を請うことにした。
その外部というのが俺の商会であるドラウプニル商会だ。
帝都にある違法娼館が国から摘発された際に、路頭に迷った元娼婦達を庇護したという噂を聞いていた彼女は、ダメ元でドラウプニル商会に助力を請い、その願いは聞き届けられた。
こうして、ドラウプニル商会の会長兼Sランク冒険者である俺と商会の戦闘部門という援軍の力もあって旧体制は駆逐された……というストーリーだ。
まぁ、あながち間違ってないので無理のある話ではない。
なにせ、この外向けのストーリーの中で嘘なのは、事前に協力を願い出ていたことと、実際に襲撃したのは正体を隠していた俺だけという二点だけだからだ。
「というわけで、改めて言わせてもらうが、風俗界隈の支配と裏との窓口の役割、あと情報収集の三つが任せることだ。今回のことで俺との繋がりは暗に示したが、それでも手を出してくる輩がいたら言ってくれ。それが表であろうと裏であろうと排除してやろう」
「ありがとうございます。この度の恩に報いるべく、裏のことはわたくしどもにお任せくださいませ」
そう言って、目の前で深々と頭を下げるのが新生淫蛇の美魅の新しいトップである艶魔族のギネヴィアだ。
二十代ぐらいの外見の美貌には疲れが見えるが、思いのほか元気なようで何よりだ。
昨夜の怯えた表情でも美人ではあったが、今の悠然とした表情の方がギネヴィアには似合っている……内心はまだ怯えがあるようだけどな。
流した噂の信憑性を高めるために、助力への感謝という名目で屋敷に来訪させたわけだが、昨日の今日なので組織を完全に掌握しきれておらず、挨拶が終わり次第ギネヴィアは帰っていった。
「ま、あとは彼女に任せるとして、献上品の確認を済ませるか」
今回の来訪の際に、ギネヴィアが見つけた先代トップの老婆の隠し金庫にあった財宝を俺に献上してくれた。
俺が【
嬉しさのあまり、当初ギネヴィアに渡す予定だった支援金を五倍にしてしまったほどだ。
淫蛇の美魅への襲撃の後、四つの中規模犯罪組織を潰したのだが、その戦利品はいずれも組織の規模に相応しい微妙なモノだった。
金銭価値のある物もあったが、既に類似品を持っていたりして〈強欲〉を大きく刺激するほどではなかった。
フィーア達ノクターンに任せた小規模犯罪組織から得た戦利品に関しては言うまでもない。
まぁ、それでも全部懐に納めたのだが。
そんな折にギネヴィアから先代トップの隠し財産を献上されたのだが、それらが中々素晴らしいものだった。
ギネヴィアによれば、おそらくは先代トップが若い時に大変親しい仲だった冒険者の遺産とのこと。
結構著名な冒険者だったそうだが、ダンジョンにて亡くなってしまい、当時同棲していた先代が彼の遺産を継いだんだとか。人に歴史あり、だな。
[アイテム〈雷霆宝来の黒鳴杖〉から能力が剥奪されます]
[スキル【雷霆招来】を獲得しました]
[スキル【
[アイテム〈ギルタブルの毒針〉から能力が剥奪されます]
[スキル【身を侵す劇毒】を獲得しました]
[スキル【猛毒無効】を獲得しました]
[アイテム〈重禍の腕環〉から能力が剥奪されます]
[スキル【重力異場】を獲得しました]
そんな遺産を複製した中から三つを選んで能力を剥奪した。
更に今回の分も含めての能力を纏めていく。
[スキルを合成します]
[【猛毒生成】+【身を侵す劇毒】=【万毒】]
[【君主の気品】+【魅了】+【艶技】=【
[【高位演算】+【神算鬼謀】=【超位演算】]
[【豪運】+【金運】+【悪運】+【幸運の白金蛇】=【天運招く黄金竜蛇】]
[【極光武葬】+【陽光支配】+【熾天使の浄光】+【極光の壊理】=【光煌の君主】]
[【死の支配者】+【闇夜の支配者】+【冥府の祝福】+【死天魔導】=【幽世の君主】]
[【炎熱の支配者】+【
[【空間の支配者】+【短距離転移】+【空間入替】=【亜空の君主】]
[【魔蟲の支配者】+【
[【大地の君主】+【天空の支配者】+【森林の支配者】+【溶岩の支配者】+【星辰の民】+【溶岩遊泳】+【水棲】+【
[保有スキルの
[ジョブスキル【
[マジックスキル【雷電魔法】がマジックスキル【雷霆魔法】にランクアップしました]
[スキル【結界作成】がスキル【結界術】にランクアップしました]
我ながら強力なスキルに仕上がってしまったな。
君主系も内包するアクティブスキルが元になったスキルよりも強化されてるので、今後役に立つのは間違いない。
かなりキャパシティを空けられたし、これだけあれば新規スキルを取り零すこともないだろう。
「色々スッキリしたな」
「これはまた……まぁ、今更ですか」
【主従兼能】の繋がりを通して新たなスキルの一部を確認して、リーゼロッテが呆れたような感心したような声を漏らしていた。
そんなリーゼロッテを横目に出掛ける準備をする。
「ロンダルヴィアに行くのですか?」
「ああ。今日は向こうの皇女様にアポを取るだけだが、事前に直接首都を見ておこうと思ってな」
「私も行っても?」
「んー、変装アリなら大丈夫かな」
「支度をしてきます」
風のように自室へと去っていったリーゼロッテを見送りつつ、近くで待機していたフィーアから茶をもらった。
◆◇◆◇◆◇
大陸の全体図で見ると中央から東部に寄った辺りに国土を広げているのが、今回の目的地であるロンダルヴィア帝国だ。
国家としての歴史はアークディア帝国よりも若干新しくはあるが、国名が変わらずに現代までに存続している国の中でも有数の大国になる。
東西南北に戦線を抱えている上に、内部では次期皇帝を決める皇位争いまで始まったため、至るところに闘争の火種が転がっていると言ってもいいだろう。
そんな物騒な世の中でも、ロンダルヴィア帝国の首都〈帝都ロンムス〉は活気に溢れており、市中には国内外から集まった人や物で満ちていた。
「辛い食べ物が多い印象ですね」
「今の時季だと、北からの風の影響で結構寒い地域だからな。暖房系の
リーゼロッテと共に、出店で買った赤い香辛料が振り掛けられた魔物肉と新鮮な野菜を挟んだパンを食べながら、帝都ロンムスの街並みを歩く。
既に生み出した分身体には高級ホテルに泊まらせてから、皇女のところにアポを取らせた。
まだ返答待ちだが、どのみち所在ははっきりさせておく必要があるので、そのまま滞在させて応対は任せることにした。
一方で俺達は、一見であっても金さえあれば購入することができる魔導具店や武具店、衣料店があれば入店し、気に入った商品をぼったくり価格の物を除いて値段を気にせず購入していく。
運気系スキルを統合して作った【天運招く黄金竜蛇】の効果か、想像以上に掘り出し物に出会えた。
「結構買いましたね」
「そうだな。特に衣類がな」
「向こうに残る皆の分もありますので私の物だけではありません」
「サイズは大丈夫なのか?」
「浴場で見て正確に把握済みです」
自分の眼ーー【妖精真眼】を指差しながら胸を張って答えるリーゼロッテ。
まぁ、大丈夫ならいいか。
裏路地にて、冬用のコートに偽装した【
「次は奴隷商館にいくか」
「人材雇用ですか?」
「それもあるが、慈善事業の面もあるかな。人族以外の種族の奴隷や元メイザルド王国から流れ着いたアークディア帝国民の違法奴隷がいるようだから、彼らの救出も兼ねている」
「なるほど。ちなみに何人ほどですか?」
「んー、大体二十人ぐらいかな。アークディアや種族などに関係ない技術職の奴隷もいるみたいだし、出来れば彼らも買って連れて行きたいところだ。場合によっては購入した奴隷の家族も一緒に連れていくかもしれないから、もしかすると三十人前後にまで増える可能性がある」
「……大人数を帝都の外に連れ出すための馬車や偽装用の荷物も必要ですし、出費が重なりますね」
「昨日得た臨時収入で賄える範囲だから安いものさ」
実質懐は痛まずに利益が得られるのだから気にしない気にしない。
奴隷商館に着くと、変装しているとはいえ、高級仕立ての衣類を身に纏う高貴なオーラを放つ俺達の応対に商館の一番上が出てきた。
揉み手姿を幻視できるほどに低姿勢で現れた商館主と秘書に護衛達に、【心霊掌握】と【支配者の言葉】を発動させて、俺達の正体と購入目的を探らないように命じておく。
後はパパッと目的の奴隷達を購入しつつ、追加料金を支払って帝都の外に出るための旅に必要物資を商館主達に買ってこさせた。
馬車やら物資やらは、皇女と交渉する際に必要になりそうだから無駄にはなるまい。
準備が整うまでの間は暇だったので、商館主から怪我などの理由で廃棄予定だった奴隷なども見せてもらい、救いようのない悪人でなければ、捨て値で全員購入していった。
最終的に五十人を軽く超えてしまったが、半分ぐらいは捨て値なので大して増額していない。
『一気に増えたナー』
『白々しい発言ですね』
『これでも〈救済〉を冠する〈英雄〉なのだから仕方がないじゃないか』
『別に責めてはいませんよ。単に言葉通り白々しいと思っただけです』
『なんか妙に辛辣だな?』
『……』
【意思伝達】に合わせてプイっと横を向いたリーゼロッテの機嫌は後でとるとして、帝都ロンムスから少し離れた平原にて隠蔽結界を張って周りから見えないようにしてから、連れて帰る奴隷達の治療作業を行っていく。
自分達を購入した俺への不信感を払拭するために、正体を明かしてから全員が見ている前で奴隷達の怪我や部位欠損、重病といったモノを治しているところだ。
一人二人と治したあたりから奴隷達が向けてくる視線に崇敬の念が宿りだした。
思ったより念が強い気がするが、害は無いので気にしないでおくことにする。
全員の治療を終えると、【亜空の君主】の強化された転移能力を使って全員でアルヴァアインへと帰還した。
奴隷の中には即戦力の者もいるし、これで商会の人材不足問題は多少なりとも解決するだろう。
ロンダルヴィア帝国来訪の主目的である皇女ともアポがとれたようなので、そっちの方も上手くやらないとな。
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