第161話 ベルゼビュート
◆◇◆◇◆◇
「ーーそれでは行ってまいります」
「ああ。気をつけてな」
「ありがとうございます」
夜が深まった頃。
頭を下げるフィーアを筆頭に、その背後にいる老若男女の八人のノクス族の面々の身体の表面が黒く染まっていく。
全身が沈み込むと気配が完全に消え去り、【
ノクス族の種族特性である、影への非常に高い親和性は、敵に回すと中々に厄介だ。
実際、ナチュア聖王国の首脳陣の一部を狩っている際に、標的の護衛についていたノクターンの面々から襲撃を受けた時は、その隠密性の高さには驚かされたものだ。
彼女達が強制的に隷属させられているのは視て分かったので、殺さないように無力化する際に少々厄介ではあったな。
【第六感】などにより強化されている直感力によって何処にいるかが大体分かるのと、【
「さて、俺も移動するか」
【
外見上の違いは、鬼や悪魔のような角があることぐらいで、性能自体は以前使っていた
続けて、背中から
この黒翼の正体は、スキル【
このスキルが生まれたキッカケになったのは、先日のダンジョン探索時に魔蟻のエリアボスであるベルレギナの人型版を倒した時のこと。
ネタ寄りの切り札である、【
この技自体は【氷嵐炎雷の天葬君主】を生み出して間も無く思いついたのだが、実戦でエリアボスに使った後にふと思ったのだ。
これって他のスキル事象でも似たようなことが出来るのでは? っと。
そうして、ダンジョン滞在中に幾つかの
[スキル【強化合成】が発動されました]
[ユニークスキル【
[スキル【熾天翼顕現】はスキル【墜天喰翼顕現】に
【熾天翼顕現】の四対八翼の黄金色の翼に暴食のオーラを大量に纏わり付かせてから【強化合成】を発動させたところ、こんな情報が脳内に通知された後に【熾天翼顕現】が【墜天喰翼顕現】に生まれ変わっていた。
黄金翼も暴食のオーラも共にスキルにより発生した事象であることには変わりない、という理屈の元に試したら大成功したわけだ。
【天地狩る暴食の覇王】の【
だが、物理干渉ができるとはいえ、その本質が不定形非実体のオーラであることには変わりなく、あくまでも形だけでしかなかった。
その点、実体のある天使の翼を顕現させる【熾天翼顕現】を元にした【墜天喰翼顕現】は、オーラではなく実体があるのでコスパや性能、安定性など全てにおいて上回っている。
【熾天翼顕現】と比べても上位互換と言える性能なので、この合成で【熾天翼顕現】が犠牲になったという認識は一切ない。
暴食のオーラの性質があるためか、形も自由自在に変えられるので、今回のローブのような上着に偽装することも可能だ。
目立つ翼形態でなければ使用できない制限が無くなったため、平時でも何かしらの上着に偽装していれば安全性と戦闘力の強化ができるだろう。
他にも色々と使い方があるが、それは追々だな。
「武器は……別にいいか」
本来ならば、暗躍時や襲撃時の装備として使用している〈
神造迷宮のある土地柄、神迷宮都市アルヴァアインには神塔星教の信徒は多いため、万が一誰かに姿を目撃されると、その情報が神塔星教の総本山である神教国まで流れ、活動拠点がバレる可能性がある。
そこから正体が俺だとバレたら目も当てられないので、今回の襲撃では念のため使用しないことにした。
最初の襲撃場所は、現時点までに調べた限りではアルヴァアインで三番目ぐらいに大きい犯罪組織〈淫蛇の美魅〉だ。
表向きは合法な娼館経営を行いつつも、裏では他の組織と結託して非合法に従業員を確保したり、客から得た情報の他の組織への売買なども行っている。
ここを最初の襲撃場所に選んだ理由は、女性従業員が多いドラウプニル商会としては女性絡みの犯罪行為が他人事ではないのと、他の組織の情報を確保するためだ。
他にも今回の襲撃予定の組織の中で最も力がある組織なので、警戒されないうちに真っ先に潰しておきたかったからという効率面からの理由もある。
まぁ、潰すとはいったが、完全に潰してしまうと他の組織に表の娼館経営が乗っ取られる可能性が高いので、完全に潰すわけにはいかない。
よって、正確には犯罪推奨方針なトップや幹部陣の挿げ替えを行う予定だ。
「〈隠身〉〈気配遮断〉〈浮葉〉〈人避け〉」
【
運の良いことに今日は組織の定例会議であり、トップと全ての幹部が勢揃いしている。
その分、警備は非常に厳重なのだが、国の中枢に攻め込むのと比べれば大したことはない。
「所詮は一犯罪組織レベルだな」
本拠点の建物の屋上にいた警備を無力化する。
罪が重すぎる者達は狩るつもりだが、〈淫蛇の美魅〉の戦力の低下を防ぐために、それ以外の警備に関しては気絶させるだけに留めるつもりだ。
だから、後のことを気にせず潰せるのは、他の組織を潰す時になる。
「……代わりが必要か」
無力化した警備の意識が回復するまでの間、足元の影の中にいるオオカミ型眷属ゴーレム〈ゲリフレキ〉を周辺警戒用に複数体派遣しておく。
「外はこれでいいとして、内部は基本的に掃除かな」
屋内は主に各幹部の私兵が警備についているのだが、どうせ殆どの幹部は処理するため、その私兵も同じように処理しても構わないだろう。
ローブ形態になっているベルゼビュートの翼の一つを竜の頭部へと変えて、階段を降りた先にいる私兵を背後から丸呑みにする。
この竜頭形態だと暴食のオーラの時と同様に、敵の処理と記憶の強奪を同時に実行できるのだが、実体がある分だけオーラ状態で行うよりもパワーがある。
これは、【
竜を模るぐらいは以前から出来たが、今の竜頭形態と比べれば、実寸大の
なお、丸呑みにした私兵は、竜頭の喉奥に展開されている濃厚な暴食のオーラによってすぐさま消滅されるため、竜頭のサイズ以上の体積を超えても問題無く捕食することができる。
建物内を歩いていき、私兵達が気付く前に次々と竜頭で捕食していく。
目的地である会議室に到着するまでに黒ローブの背中部分から生えている竜頭の数は四頭に増えており、捕食した私兵の数は五十を優に超えていた。
新規スキルこそ手に入らなかったが、保有スキルの
昔の恐竜映画に出てくる銃火器を持つ兵士達のように、本領を発揮する間も無く喰われていたが、きっと強者だったに違いない。
会議室の扉前にいた警備を処理すると、会議室を囲むように【結界作成】で遮音結界を張った。
これで内部の音は外には漏れない。
「ご開帳ー」
バンと音を立てて観音開きの扉を開けると、室内にいる者達の視線が一斉に此方を向く。
さて、生かしておく幹部とその護衛は……ふむ、アレか。
彼女達以外を排除すればいいので分かりやすいな。
「何者だ!?」
「りゅ、竜か? アレは?」
「警備は何をしている!?」
「わ、私を守れ!」
「侵入者を排除しろ!!」
こんな室内で攻撃魔法を使うなよ、と思いつつ【
矢やナイフはベルゼビュート製ローブを突き破れないので無視だ。
驚愕する非戦闘員の者達を尻目に、幹部直属の護衛達が武器を抜いて躍り掛かってくる。
竜頭達が、相手の反応速度以上の速さで武器ごと護衛達を捕食するが、一部の護衛は竜頭の顎を潜り抜けて俺に肉迫してきた。
それらの攻撃を竜頭以上の速さで繰り出した手足で迎撃し、動きが止まったところを他の護衛達と同じように捕食していった。
[スキル【加速】を獲得しました]
[スキル【一気呵成】を獲得しました]
「抵抗を止めるなら楽にしてやる。抵抗するなら苦しめてから殺してやる。好きな方を選ぶといい」
室内の中央にあったコの字型の大テーブルを竜頭に喰わせながら、残りの者達に通告する。
「チッ、時間を稼ぎな!」
「……」
一番偉そうな装いの老婆の命令を受けて顔に傷のある褐色男が襲い掛かってきた。
「オーケー。苦しみをご所望ならオーダー通りにくれてやる」
「ーーッ!?」
短剣片手に一瞬で距離を詰めていた褐色男の動きを【強欲王の支配手】で一時的に止めると、【
彼の隷属状態の解除と潰された喉の治療は後でやるとして、老婆の方へと向かう。
「この役立たずがぁっ! お前達、死ぬ気でヤツを止めーー」
「『喧しい。静かにしろ』」
発動させた【支配者の言葉】を受けて、室内の喧騒がピタリと消え去る。
パクパクと口を開閉して声が出ないことに混乱している者達に向かって、更に【竜種の眼光】を発動させる。
四つの竜頭の眼と俺自身の肉眼からの眼光に見抜かれて、室内の者達がガタガタと震えだす。
「連帯責任だ。生かす予定の者以外は話が終わるまで苦しんでおけ」
【
放たれた災いは意思を持つように狙い定めた者達のみに襲い掛かり、その心身を侵し尽くしていく。
重い罪を冒し、魂を黒く染めた者達が阿鼻叫喚と悲鳴、金切り声を上げる。
遮音結界を張っていなければ屋外にまで響き渡っていたのは間違いない。
そんな喧しい罪人達を部屋の隅へと放りやると、灰色の魂をした青褪めた表情の残りの者達の前へと移動する。
「ーーさて、今後の話をしようじゃないか」
淫蛇の美魅の上層部の中で唯一マトモな感性の女性幹部とその護衛達を四つの竜頭と共に見下ろしながら、組織の今後について決定事項を告げるのだった。
[スキル【聴取】を獲得しました]
[スキル【魅了】を獲得しました]
[スキル【艶技】を獲得しました]
[スキル【組織経営】を獲得しました]
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