第152話 スキルの実践と密林フィールド



 ◆◇◆◇◆◇



『ーーでは、別に異常は無いのですね?』


「ああ。ただ単に今回はユニークスキルの数が多かっただけだよ。今はそれら新規スキルも含めてスキルの実践中だ」



 迫る敵の攻撃を避けながら、離れた場所にいるリーゼロッテと会話を続ける。

 自らのユニークスキル【忠義ザ・ロイヤリティ】の【主従兼能】による俺との繋がりから俺のスキルに起こった変化に気付いたらしく、『念話テレパス』を使って急遽俺に連絡を取ってきていた。

 今回対価で消費したスキルの一部はリーゼロッテが自由にレンタルできるスキル一覧の中にあったので、それらが纏めて消えたので気付いたようだ。

 それらのスキルは新しいユニークスキルの内包スキルとして更に強力になっている。

 だが、【主従兼能】でレンタルできるのは特異権能エクストラ級以下のユニークスキルの内包スキルと、ユニークスキルではない通常のスキルだけだ。

 獲得した新しいユニークスキルはどちらも帝王権能ロード級なので【主従兼能】ではレンタルすることはできない。

 リーゼロッテがレンタル不可になったスキルに関しては魔導具マジックアイテムで代用できる能力なのと、あまり使う機会は無かったスキルなので大した問題は無いだろう。



『ーーまぁ、私のユニークスキルもそろそろランクアップすると思うので、その際にはまたレンタルできるようになるでしょう』


「【傲慢ザ・プライド】の方は?」


『そちらもランクアップすると思います。【傲慢】の方が熟練度レベルを重ねていましたが、リオンと会ってからは【忠義】も一気に熟練度が上がりましたので大体同じぐらいになりますね』


「なるほどな」



 発動条件を満たせず使えなかった【忠義】はまだしも、【傲慢】の方はリーゼロッテが生きてきた年数だけ自然と熟練度を積み重ねてきたはずだ。

 冒険者として活動し始めてからは使用頻度も増えただろうし、ランクアップに至ってもおかしくはない。



『……何か余計なことを考えませんでしたか?』



 リーゼロッテが生きてきた年数、つまり年齢にチラッと思考が触れたのが分かったらしい。

 相変わらずの勘の良さに内心で軽く慄きつつも適当に誤魔化しておく。



「何がだ?」


『……まぁ、いいでしょう。それでは帰還時刻に変更はありませんね?』


「ああ。今戦っているエリアボスを倒したら、少し遠回りして転移用の簡易拠点を作りながら帰る予定だ」


『分かりました。リオンには無用の心配でしょうが、お気をつけてお帰りください』


「そっちも気をつけてな」



 通信を切ると、本体分の思考の全てを眼前の戦闘へと向ける。

 視線の先には体高五メートルほどの巨体の黒い蜥蜴人リザードマンの姿があった。

 個体名は〈黒鱗蜥蜴戦騎ウォーナイツ・ブラックリザード 人の大族長マン・グレイトチーフアクルムト〉。

 この第六十一エリアのエリアボスであり、このエリアの〈密林〉フィールド内における一大勢力の一つ〈黒鱗蜥蜴戦騎人ウォーナイツ・ブラックリザードマン〉達の群れのトップでもある。

 何かの遺跡跡のような廃墟を利用したこのキャンプ、いやブラックリザードマン達の村とでも呼ぶべき拠点全域がエリアボスの支配領域であるため、アクルムトと戦うには必然的にブラックリザードマン達とも戦わざるを得ない。



「アクルムトはデカいから姿は見えている。でも、ブラックリザードマン達の物量的に辿り着くのが大変だな」



 ここのボス戦フィールドを批評しながら両手を振るう。

 両手の指と指の間から伸びる緋色の刃の正体は、【燦爛たる緋焔竜爪牙】によって俺の骨の一部が強化変質して生み出された緋焔竜爪だ。

 親指と人差し指の間を除いた三つの緋焔竜爪が両手分で最大六本まで同時展開出来る。

 スキル名に竜爪牙とあるように俺の歯も似たような強化変質が可能だが、今は必要無いため、両手の六本だけ展開している。

 ちなみに両足の指の間には何故か展開出来なかった。

 名称的に足も含まれていると思ったのだが、あくまでも両手と歯だけらしい。



「シューッ!」


「シャーッ!」



 両脇から突き出してきた鋭い槍の一突きを仰け反りながら躱し、両手の緋焔竜爪を掬い上げるようにして振り上げる。

 今の緋焔竜爪は、生産系スキル【万骨成形】によって一つに束ねられ、緋色の竜刃と化している。

 最初こそ片手あたり三本の爪形態で使っていたのだが、せっかくのブラックリザードマンの死骸に無駄な傷が増えてしまって勿体無かったので、爪から刃へと変化させてみたのだ。

 元が俺の骨ならば【万骨成形】ならば使えるはずだと思い発動させてみれば、予想は的中。

 ついでに多少使い難かった竜爪の形成場所もズラせないか試してみたが、残念ながら形成場所までは変更出来なかった。



「まぁ、剣身みたいな形状になって使いやすくなったから良しとしよう」



 股下から頭の天辺まで斬り裂かれた二体のブラックリザードマンの身体が左右に分かれる。

 戦闘の余波で傷付かないように【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】で死亡判定になり次第即座に回収しておく。

 その後も、目の前で群れの仲間が死のうと一切臆することなく、怒涛の勢いで襲い掛かってくるブラックリザードマン達を、両手の緋焔竜爪刃で捌き続けた。



「味方全てが死ぬまで動かなかったな。ギルドの情報通りか」



 最後のブラックリザードマンを倒すと、村の奥にある石の玉座に座ったまま動かなかったアクルムトがやっと動きを見せた。

 筋骨隆々の肉体に艶やかな黒い輝きを見せる鱗と外皮、ブラックリザードマン達よりも更に強固そうな全身鎧に似た外殻鎧皮は、さながら黒い竜頭全身鎧を着た巨人のようにも見える。



「GYSYAAAAAAーッ!!」



 アクルムトは俺に向かって威嚇混じりの咆哮を上げると、その全身から赤いオーラを放つようになった。

 ギルドの資料によれば、アクルムトは配下が死ねば死ぬほど強化されるボス級魔物であるらしく、どれだけ配下を殺さずにアクルムトを倒せるかで討伐難易度が大きく変わるそうだ。

 また、強化されるほどにアクルムト自身の素材の質も向上するそうなので、アクルムト以外の全てのブラックリザードマンを倒した今ならば、その素材は最上品質の物になっていることだろう。

 これならば戦獣クランのマスターであるディルクから受けた製作依頼に使う素材として申し分ないはずだ。



「別に配下全てが死んでから討伐とか指定は無かったけど、討伐後の宝箱の中身まで良くなると聞いたらやらざるを得ないよな?」



 製作依頼のための討伐依頼で挑む相手ではあるが、多少欲を出してもバチは当たらないはずだ。



「SYAGYAAAAAA!!」


「おっと」



 具現化させた魔法の両刃斧を振りかぶりながら、一瞬で距離を詰めてきたアクルムトの一撃を避ける。

 今のスピードとパワーからアクルムトの強さを大まかに予想し、強さの指標を一段階上げつつ、その巨体を緋焔竜爪刃で斬りつける。

 この赤いオーラに防御性能は無いためオーラ自体は容易く斬り裂いたものの、その下の黒い外殻鎧皮は途中までしか斬り裂くことが出来なかった。

 解析能力と斬った感触から判断するに、強化率が今の半分ぐらいだったなら、大ダメージを与えられる程度には斬り裂けた気がする。



「防御力も優秀っと。流石にこのままだと通じないか。さて、どうやって倒そうかな」



 アクルムトの死骸、特にその皮には価値があるため、素材の状態を出来るだけ損なわずに倒すのが前提条件だ。

 そうなると取れる討伐手段は限られてくる。

 例えば、身体の内部を破壊する殴打による撲殺などが有効な手段として挙げられるだろう。



「そうだな……肉弾戦も嫌いじゃないし、偶には素手もいいだろう。ーー【巨神穿つ闘覇の煌体ギガントマキア】」



 ユニークスキル【万夫不当の大英雄ヘラクレス】の【巨神穿つ闘覇の煌体】を発動し、身体の表面に電子回路のような黄金色の光の筋が浮かび上がると、身体能力が一気に跳ね上がったのを感じた。

 他の内包スキルのうち、常時発動している【怪物殺し】【不死身特性】【理外不屈の金剛闘身】もあるので十分だろうが、今回は普段使わないスキルの実践も兼ねているので、残る一つの内包スキル【英勇覇争】も発動させて更なる身体強化を得ることにした。

 【燦爛たる緋焔竜爪牙】を解除して竜爪を消すと、革手袋型の防具である〈鉱喰竜の革手袋〉に空いた穴を【造物主デミウルゴス】の内包スキル【復元自在】で修復しておく。

 竜爪を使う際に毎回手袋に穴が空くのは問題なので、今後使うつもりなら手袋を作り直さないといけないだろう。或いはスキルの方を合成で変化させるとかか。

 ま、詳しくは後で考えるとして。



「さぁ、始めようか!」


「GYSYAAAAAA!!」



 沸き起こる人外の暴力を全身に迸らせながら、見上げるような巨体であるアクルムトに向かって躍り懸かった。



[スキル【報復命刻】を獲得しました]

[スキル【鬨の声ウォークライ】を獲得しました]

[スキル【黒曜外殻鎧】を獲得しました]

[スキル【大族長の斧葬術】を獲得しました]

[スキル【水棲】を獲得しました]




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る