第151話 スキルの実践と火山フィールド
◆◇◆◇◆◇
「ーー火山フィールドか。普通なら専用の環境対策装備が必要なんだろうな」
【狩猟神技】の力で空中に立ったまま周囲を見渡す。
製作依頼のアイテムに必要な魔物素材を得るために、第一大階層では下層に区分される第六十五エリアにやってきていた。
第六十五エリアの自然環境は、噴き出る汗が即座に蒸発するレベルで熱くて暑い火山フィールドなのだが、【炎熱吸収】がある俺にとってはいつでもエネルギーが補給できる環境でしかない。
「いや、軽く蒸し暑いから若干の不快感はあるか」
【炎熱吸収】をオフにしたら一転して厳しい環境に変わってしまうので、常にアクティブにしておくのを忘れないようにしよう。
暑さに関しても【環境適応】で次第に気にならなくなるかもしれない。
そんな大気に宿る自然由来の強い〈炎の氣〉を大気中の魔力ごと吸い込み、体内で精錬し順応させてから心身に取り込む。
【魔氣収歛】による一連の流れを意識して行うことでそれぞれの効率が良くなる。
この時に【
ここまで一属性に偏った純粋な自然の氣は珍しいので、エリアボスに挑む前に取り込めるだけ取り込んでおきたい。
[周囲の環境属性に適合しました]
[スキル【炎熱適性】を取得しました]
[保有スキルの
[ジョブスキル【
どうやら全体的に炎熱系の能力が強化されたようだ。
あとは、耐性系スキルの力が無くても炎や高熱に対して強くなったのを感じる。
まぁ、この火山地帯ではあっても無くても大して変わらないのだが、強くなれたのは良いことだ。
「さて、そろそろ始めようか」
「CWOOOOOO!!」
発動させていた【神隠れ】を解除して姿を現した瞬間、地上の溶岩湖の中からエリアボスが顔を出してきた。
自らの領域にいつのまにか侵入者がいたのだから、エリアボスもきっと驚いたことだろう。
炎の氣の純度が高かった理由の一つが、俺がいるのがエリアボスの領域だったからだ。
溶岩の中から姿を現したのは、額中央の紅く輝く結晶と細長い顎が特徴的な、火竜の一種である〈灼岩漿竜ラヴァルダタ〉。
火竜ではあるが、火山地帯でも溶岩の中に生息していることから分かる通り、地竜の性質も持っている。
全長三十メートルほどの身体を構成する竜鱗や竜皮といった体色は赤とオレンジ色で中々綺麗だが、その細長い口から放たれる〈
様子見も無しに放たれたブレスが迫ってくるが、俺は慌てることなく防御系スキルを発動させる。
距離もある上にそこまで速くないので余裕で回避できるが、せっかくの機会だから竜種に対する一部のスキルの性能試験を行うことにした。
防御系スキル【星鱗煌く強欲神の積層災鎧】を発動させると、防具の上から身体を覆うように蒼紫色の鱗状の半透明の障壁が積み重なって展開される。
そんな積層
一割ぐらいは削られるかと思っていたが、その更に半分以下しか削られなかったのは良い意味で予想外だ。
成竜のブレスを真正面から受け止めても、これだけの防御力を発揮できるならば、大抵の攻撃は防ぎ切れるに違いない。
「CWO、CWOO!!」
「これは……配下を喚んだのか」
「CWOOOOOWU!!」
「「「CAWOOO!!」」」
ラヴァルダタが一鳴きすると、周りの溶岩が波打ち、数十体の〈
ラヴァルダタの子供みたいな見た目のラーヴァリザード達は、ラヴァルダタの咆哮の後に紅いオーラを纏うようになったので、どうやらラヴァルダタが強化したようだ。
ラーヴァリザード達は一斉に溶岩弾を放ってくる。
元の威力がどのくらいかは知らないが、今は星鱗障壁に傷を付けるぐらいの攻撃力があるらしい。
「数の暴力で突破する気か? その程度では一枚も抜くことはできないぞ?」
傷が付くとすぐさま星鱗障壁が自動修復されていく。
今の攻撃速度では修復速度の方が上なのでいつまで経っても破壊されることは無いだろう。
「一体何を、ああ、そういうことか」
二撃目のブレスを受け止めたことでラヴァルダタの狙いが分かった。
どうやら、ラヴァルダタが次のブレスを放つまでの間、破壊した分の星鱗障壁の修復速度を遅らせることがラーヴァリザード達の役目のようだ。
確かにこれを続けていれば、いずれ星鱗障壁を突破して俺にブレスを直撃させることができるだろう……あくまでも理屈の上ではだが。
「でもそれって、俺が移動も反撃も何もしない前提だよな。賢そうに見えて残念だな。取り敢えず、死ね」
眼下のラヴァルダタとラーヴァリザード達を視界に入れた状態で【極死の魔眼】を発動させる。
以前より強化された即死系魔眼の攻撃は、エリアボスであるラヴァルダタには効果が無かったが、配下のラーヴァリザード達に関しては一度で即死させることができた。
[スキル【溶岩遊泳】を獲得しました]
どうやら、今回獲得した新規スキルを使えば溶岩の中を泳げるようになるらしい。
使える機会と言えばまさに今この時なんだが、わざわざ溶岩の中を潜らなければならない理由も無いので、このまま死蔵することになりそうだ。
「CWOOOOOOOOOO!?」
「配下を殺されてお怒りかな? 邪魔者も消えたし次のスキルを試すか」
【星鱗煌く強欲神の積層災鎧】を解除して次に発動させたのは【熾天翼顕現】スキルだ。
蒼紫色に煌く鱗状の障壁が消えると、代わりに背中から四対八翼の天使のような黄金色の翼が顕現した。
腰から背中にかけて違和感を感じるものの、手足を動かすのと同じように動かすことができる。
バサァ、と翼を動かしていると、ラヴァルダタが三度目になるブレスを放とうとしているのが見えた。
俺が空中にいるからだろうが、ブレス以外に魔法は使わないのだろうか?
「まぁ、比較できるから構わないんだけどな」
解き放たれたブレスを前に防御系スキル【天翼翅絶】を発動すると、八つの熾天翼を身体の正面に持っていって盾代わりにした。
熾天翼にブレスが直撃するが、防御系スキルの力を帯びた熾天翼は微塵も揺らぐ事なくブレスを受け止め続けている。
熾天翼の素の性能の高さと【天翼翅絶】自体の力もあるんだろうが、熾天翼は俺の身体の一部扱いであるため、保有する各種耐性スキルの力が及んでおり、それらがこの異様に高い防御性能の理由なのだろう。
翼一つだけでも背後から身体の前面を覆い隠せるほどに大きいーーある程度はサイズを変えられるみたいだーーので、全身を八つの翼で覆っている今の俺は、傍から見れば金の卵みたいな状態になっているに違いない。
「一番外側の翼も損壊する様子は無いし、ブレスの熱も内側までは届かないな。盾として使っても問題無さそうな性能だ。では、攻撃の方はどうかな?」
やがてブレスが途切れると、反撃とばかりに【天翼翅弾】による
黄金色の翅はラヴァルダタの身体に傷を付けるだけの攻撃力があるらしく、ガトリングのように絶え間なく放たれる翅弾の雨を前に、ラヴァルダタは溶岩の中へと退避した。
「逃がすか」
【一滅一射】【魔弾超過】【乾坤一擲】【超狙撃】【防御貫通】を重複発動させて、地上に向けた八つの翼のそれぞれの先端から一発の翅弾を撃ち放つ。
計八発の黄金の翅弾は、【星王の瞳】で看破したラヴァルダタの急所を的確に撃ち貫いた。
「CWOAAAAAAAAA!?」
思わぬ大ダメージを受けて、堪らず溶岩から飛び出してきたラヴァルダタ。
その意識がこちらに向く前に攻撃系スキルを発動させた。
ーー【
神速の速さで聖剣デュランダルを鞘から抜き放つと同時に、その剣身に発動した【神薙斬り】によって発生した黒と銀の入り混じった攻撃的な色合いのオーラを纏わせる。
そのままの勢いでデュランダルを振り抜くと、黒銀のオーラは一瞬で十数メートルを超える長大なサイズの刃へと形を変え、ラヴァルダタの太くて長い強靭な首を容易く両断してみせた。
「……手に伝わる感触からしてオーバーキルだったみたいだな」
【神薙斬り】状態を解除しつつ、今の攻撃をそう分析した。
名称的にも〈神を薙払う〉とか〈神が如き斬撃〉といった意味があるだけあって、エリアボスとはいえ成竜でしかないラヴァルダタには過剰な一撃だったようだ。
使うにしても真竜や、それと同格以上の魔物に対して使用するのが適切だろう。
[スキル【耐灼溶竜殻】を獲得しました]
[スキル【眷属強化】を獲得しました]
[スキル【溶岩の支配者】を獲得しました]
溶岩の中に沈もうとするラヴァルダタの死骸を、先に倒したラーヴァリザード達の死骸ともども【
溶岩湖に近い陸地に現れた宝箱も中身をザッと確認してから同じように収納した。
[一定条件が達成されました]
[ユニークスキル【
[対価を支払うことで新たなスキルを獲得可能です]
[【
[新たなスキルを獲得しますか?]
[同意が確認されました]
[対価を支払い新たなスキルを獲得します]
[ユニークスキル【祝災齎す創星の王】を獲得しました]
通知があって気付いたが、どうやらラヴァルダタを倒してレベルアップしていたらしい。
前回の戦争時にレベルアップしてから約二ヶ月もかかってしまった。
次は今回以上に経験値が必要なことを考えると、レベルアップするのにどれだけの時間がかかるのやら……。
[一定条件が達成されました]
[ユニークスキル【
[最上位権能による干渉が確認されました]
[ユニークスキル【虚飾】は特殊なランクアップが可能です]
[対価を支払う必要があります]
[【
[ユニークスキル【幻想無貌の虚飾王】にランクアップしますか?]
[同意が確認されました]
[対価を支払いランクアップします]
[ユニークスキル【虚飾】はユニークスキル【幻想無貌の虚飾王】にランクアップしました]
「……まさかの二連続とはね。【祝災齎す創星の王】の対価を支払ってキャパシティに余裕ができたことで、【虚飾】が【幻想無貌の虚飾王】にランクアップできたみたいだな」
少し驚いたが、
今朝方、第二拠点を出発する前に使用した【御神籤】スキルの内容の通りに行動したからだろうか?
『先に暑い場所で仕事をこなすのが吉』だったっけ。
あってると言えばあってるけど、経験値的にどのみちレベルアップしていたのは間違いないから、このことではない気がする。
宝箱の中身はまぁまぁ良かったから、もしかするとそっちのことかもしれない。
「あとは、『帰りは遠回りをして帰ると良いことがある』だったか。このどうとでも解釈できる微妙な感じは、まさにおみくじって感じだよな……」
なんとも言えない気持ちになりつつも、次の討伐依頼対象のエリアボスがいるエリアに向かうために、火山フィールドを後にした。
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