第150話 重魔導銃



 ◆◇◆◇◆◇



 巨塔ダンジョンへの第二回探索の二日目。

 昨日立てた予定通りに今回のクランメンバーを二つの班に分けた。

 俺を班長としたエリン、カレン、セレナのレベル上げ班。

 リーゼロッテを班長としたマルギット、シルヴィアの素材収集班。

 レベル上げ班はその名の通り班員のレベル上げを目的とした班だ。

 そのため、素材収集班も当然ながらエリア内の素材集めを目的とした班になるのだが、リーゼロッテ達が狙う獲物のレベルは準ボス級まではいかずとも高めなので、結果的にアチラの班もレベル上げが出来そうな感じになっている。



「それでは行ってきます」


「ああ、三人なら大丈夫だろうけど、気をつけてな」


「うん、分かった」


「そっちも気をつけてね」



 森林を抜けた先の草原で二手に分かれ、互いに反対の方角へと進む。

 リーゼロッテ達が向かった先には、このエリア内における比較的高レベルの魔物達が生息しており、そこで採れる素材はそれなりに希少なモノばかりだ。

 一方の俺達が進む方には、このエリア内では大体真ん中ぐらいの位置付けの強さの魔物の生息地が広がっており、その魔物素材の価値はピンキリだが、とにかく魔物の数が多い領域になっている。



「さて、この辺でいいか」



 暫く草原を歩き、森林を広く見下ろせる場所にある丘の上で立ち止まると、【悪魔顕現】を発動させる。

 生成したのは嘲笑の笑い声を上げる体長一メートルほどの一対の翼と角を生やした鳥頭の悪魔〈嘲笑する悪魔リディキュール・デビル〉だ。

 そのリディキュール・デビルを五体ほど生成すると、森林と草原の双方へと向かわせた。



「「「オーホゥホゥホホホホゥ!!」」」


「……なんかイラっとするわね」


「アレってフクロウの頭なのかな?」



 飛び立っていくリディキュール・デビルを見送りながら感想を述べるカレンとセレナ。

 そんな二人と同じように鳥頭の悪魔を見ていたエリンが傍に寄ってきた。



「ここで迎え撃つのでしょうか?」


「ああ。この丘からなら全周囲を見通せるからな」



 エリンと話しながら【無限宝庫】から自作の魔導兵器マジックウェポンを取り出す。

 手持ち武器というよりも魔導砲台やバリスタのように外壁上などに設置するタイプの大型武器だ。

 設置型で高い火力と殲滅力を持つことから分類的には重機関銃だろうか。

 名称は適当に〈重魔導銃〉と名付けたそれを丘の上に固定する。

 その調整をしているとカレンとセレナも傍にやってきた。



「強そうな武器ね」


「ファンタジーのようなSFのような見た目の銃?だけど、これを私が使えばいいの?」


「ええ。今日はまず先輩にはこの重魔導銃を使って一息にレベル上げをしてもらいます。目安はエリンとカレンと同じぐらいですかね。そこまでいったら普通にパーティーを組んで戦ってレベル上げをします」



 最初にレベルを調整しておかないといつまで経っても差が縮まらないからな。

 扱う武器の大まかなジャンルも近いので、ついでに役に立つスキルの取得を狙うという目的もある。



「パワーレベリングにならないかしら?」


「先輩は遠距離型の銃使いですし、ちゃんと狙いをつけないといけないので大丈夫ですよ」



 セレナを手招きして重魔導銃の使い方を教える。

 興味を持ったエリンとカレンにも教え、各々が試射を行なったりして過ごしていると、遠くの方が騒がしくなってきた。



「お、来たな」


「……多くない?」


「大丈夫かしら……?」


「ご主人様がいるから大丈夫ですよ」



 軽い地響きとともに遠方の森林や草原から魔物の大群が走ってくるのが見える。

 森林の方からはフォレストゴブリンをはじめとした、他のゴブリン種やオーガ種といった人型魔物、全長三メートルから十メートルぐらいの様々な大蛇タイプの魔物、体高二メートル近い巨大アリなどといった、昨日もこのエリアで遭遇し討伐したことのある魔物達の姿が確認できる。

 草原からは岩のようなゴツゴツとし頭部をしたサイのような魔物〈岩頭粉犀ロックライノセラス〉の群れが向かってきている。

 それらの集団の前方にはリディキュール・デビル達の姿があり、あの悪魔達の能力によって他の魔物達は挑発されて自らの縄張りを飛び出してきたわけだ。

 狩猟犬による追い込みとは違うが、その役割は同じようなもので、リディキュール・デビルの嘲笑の声によって怒り心頭になった周辺の魔物達は、俺達が待ち構える草原の丘へと誘導されてきた。



「では先輩。やっちゃってください」


「分かったわ。えい!」



 セレナによってトリガーが引かれ、大口径の銃口から大型の魔力弾が射出される。

 銃撃の雰囲気と発射確認用に備え付けたマズルフラッシュを再現した閃光が銃口付近で絶え間なく瞬く。

 秒間何発かは知らないが、連なる魔弾は傍目にはレーザーのように見えなくも無い。

 左右に振られる重魔導銃の動きに合わせて、連射される魔弾は魔物の群れを薙ぎ払っていく。



「魔法涙目な威力ね……」


「確かに殲滅力は凄いけど、魔法ほどの汎用性と機動性は無いからな。燃費も悪いから一概に魔法より優れているわけじゃないさ」



 重魔導銃から伸びるコードの先にある直方体の側面から、貯蔵魔力が空になった魔力貯蔵槽マナタンクを取り外し、代わりに【無限宝庫】から取り出した魔力未使用のマナタンクをセットする。

 この外付け魔力バッテリーは最大で五つのマナタンクをセット可能で、接続することで重魔導銃使用者の魔力消費を肩代わりしてくれる。

 カレンに言ったように重魔導銃は燃費が悪いので、それを解消するために用意した。

 一つあたり上級攻撃魔法を一、二回発動できるほどの魔力が貯蔵されているが、そんなマナタンクも二十秒ほどで一つ使い切ってしまう。



「ふむ。ロックライノセラスの皮膚は貫けないか。先輩、ロックライノセラスには無理せずキャノンを使ってください」


「分かったわ!」



 人差し指でトリガーを引きながら親指でボタンを押すと、魔弾を放つ銃口の下部にある一回り大きな銃口から強い光を放つ魔弾が放たれた。

 その魔弾が、これまでの魔弾を弾いていたロックライノセラスの頭部に着弾した瞬間、ロックライノセラスの頭部を覆い隠すほどの大爆発を引き起こす。

 銃口の下部、キャノンと称した大型銃口から射出された高威力の爆裂属性の魔弾は、頑丈な皮膚と外殻に守られたロックライノセラスの頭部を丸ごと消し飛ばしていた。

 先頭を走っていた個体が死んだことで、後に続いていたロックライノセラス達の足が止まる。

 そこにキャノンによる爆裂魔弾が次々と放たれて、ロックライノセラスの群れを殲滅していった。



「狙い通りの高火力だが、燃費の悪さも予想通りだな……」



 キャノン一発でマナタンク内の魔力を一割消費しているため、今の連射で一気にマナタンク三本半の魔力が消費された。

 同じ結果を出すにしても、上級魔法ならば一発で実現できることを考えると、まだまだ改善の余地がある兵器だと言える。

 まぁこの欠陥に関しては、マナタンクを使わざるを得ないほどに小型化した上に、使われている術式を最小限にして生産性を向上させるというコンセプトで作ったからだ。

 帝国軍への販売も視野に入れて開発した魔導兵器の試作品を、テストがてらセレナの今回のレベル上げに使用してみた。


 都市などの防衛設備として実際に売る際には、マナタンクを使うのではなく魔力炉と接続して使用できる仕様にした方が良さそうだ。

 セキュリティ面を考えると、もう少し大型化して魔力炉との接続しなければ使えない仕様にするのも良いかもしれない。

 それからほどなくして誘導した魔物の群れが殲滅された。

 なお、魔物達を誘導してきたリディキュール・デビル達も流れ弾で討伐されている。



「ちょうど良いぐらいにレベルが四十四になったし、重魔導銃によるレベル上げは今回だけで大丈夫でしょう」



 セレナの基礎レベルも目標値には達したし、【乱射魔トリガーハッピー】などの射撃系スキルもいくつか取得したようなので成果は上々だ。



「一気にレベルが上がったのは嬉しいけど、精神的に疲れたわ……」


「まぁ、何度か近くまで迫られましたからね。直近でプレッシャーを感じたのだから当然でしょう。そうですね……三十分ほど時間をとるので今のうちに休んでおいてください」

 

「はーい」



 若干疲労の色が見えるセレナにそう告げてから重魔導銃と魔力バッテリーを収納する。

 続けて、原型が分からないほどに細かく砕かれて草原に散らばっている魔物の死骸の山を片付けるために、【狩り屠る貪喰の竜王ファブニール】の暴食のオーラを展開させて喰らい尽くしていく。


 その後始末の作業の途中に、ギルドで受注した指名依頼の討伐対象のエリアボスがいるエリアへと向かっていたが目的地に到着した。

 【情報蒐集地図フリズスキャルヴ】のマップから導き出した最短ルートを【天地駆ける神馬の蹄スレイプニル】を使って駆け抜けたのだが、思ったよりも時間がかかってしまった。

 途中途中に【領域の君主】の転移用の簡易拠点を作りながら行かなければ、もっと早く着いたんだろうが、朝早くから出発して昼前には下層エリアに到着したことを考えると十分すぎるほどに早いか。


 分身体こっちの方は今から休憩で暇だし、意識を本体の方のエリアボス討伐に向けるとしよう。

 まずは焔輝クランのクランマスター、ヘルムートからの依頼対象のエリアボスか。

 一体どんなボスなのか、そしてどんな戦利品が手に入るのか今から楽しみだ。




 

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