第149話 第三十三エリア



 ◆◇◆◇◆◇



 ユニークスキル【輝かしき天上の宮殿ヴァーラスキャルヴ】の内包スキル【宮殿創造】を使用して、第三十三エリア帯のとある小エリアの一角にダンジョン内におけるヴァルハラクランの第二拠点を築いた。

 第二拠点は第二十四エリア帯に作った第一拠点よりも規模が大きめだ。

 これらの拠点を築いたからには、その維持管理も行わなければならない。

 しかし、こんな危険なところの管理人に生きた人間を派遣して駐在させるのは流石にどうかと思うので、ドラウプニル商会の人材不足問題解決の一案として考えていた〈ドールズ〉を配備することにした。



「五、いや、三体もいれば十分か。お前達にはこの拠点の維持管理を任せる」



 【無限宝庫】から人型魔導具マジックアイテム魔導人形ドールズ〉の〈リーヴスラシル〉タイプを三体取り出して起動させる。

 俺からの指示に首肯して応える三体のリーヴスラシルは妙齢の女性の外見をした女性型だ。

 ドールズとは簡単に言えば、パッと見は人間に見える人型ゴーレムと言ったところか。前世にも存在したアンドロイドやガイノイドといった人間そっくりのロボットなどを参考にしている。

 初めこそ男性型の〈リーヴ〉も作ったのだが、外見以外に違いは殆ど無いので家事用ドールズは女性型のみに変更した。

 男性型は戦闘用ドールズとして再設計中だ。

 別に拠点の維持管理要員に人間そっくりのドールズを使う必要はないのだが、人目に触れない場所という環境は、半分ぐらいは勢いで作ったアイテムの試験運用の場にはうってつけだった。

 行わせる作業というのも拠点内の掃除ぐらいなのも都合が良い。



「……本当に人間にしか見えないな」


「下着は……無いのね。服を着てなかったら流石に人間には見えないかな?」



 シルヴィアが興味深そうにリーヴスラシルの一体をまじまじと眺めている。

 セレナはリーヴスラシル達に着せているメイド服を捲ったりしながら、下着の有無や服の下の身体構造を確認していた。

 前世に似たようなモノがあったからか、その動きに遠慮というものがない。



「これって人と同じように動けるの?」


「ああ。一般人よりは動けるぞ。道具の扱い方は学習させれば大体の物は使えるはずだ」


「へぇ……連続稼働時間はどのくらい?」


「周囲の大気中の魔力濃度次第で変わるから断言は出来ないな」



 マルギットはリーヴスラシルの性能に興味があるようだ。

 武官系上級貴族であり軍務卿の娘としては気になるらしく、次々と質問が飛んでくる。

 それらの質問に答えたり答えなかったりしつつ、少し遅い昼食を済ませてから狩りに出掛ける準備をする。



「さて、今日は中央の第三十三エリアを軽く見て回ろうか。本格的にエリアを見て回るのは明日からだな」


「あれ? 小エリアは見て回らないの?」



 俺の発言を聞いてカレンが疑問の声をあげる。



「ここの拠点を作る時も魔物はいなかっただろ? このエリア帯に生息する魔物の殆どは第三十三エリア内にいるんだよ。そういう環境になっているからか、第三十三エリアはかなりの広さになっている。だから今日は軽く入り口辺りの森を見て回る予定だ」



 第三十三エリア帯、いや第三十三エリアで構わないだろう。

 このエリアは単一の自然環境で構成されておらず、中心地から〈巨大湖〉〈草原〉〈森林〉〈山〉の順に四つの地形が広がっていくという、少し珍しいタイプの複合環境エリアになっている。

 それぞれのフィールドに出現する魔物のタイプにも共通するものは無く、飽きることなく狩りを楽しむことができるだろう。

 また、エリアボスがいるのはエリア中央にある巨大湖なので、そこに近づきさえしなければボスに遭遇することが無いのもポイントだ。

 エリアボスを除いた一般魔物のレベルも、他の中層エリア帯に出現する魔物の平均レベルと大体同じなので、準ボス級といった特殊な個体もいない。

 人間が行動しやすい地形であることも踏まえて総合的に評価するならば、中堅クラスの冒険者のレベル上げにちょうど良いエリアだと言えるだろう。



「ーーというわけで、このエリアでは主にクラン内の平均レベルの向上を目指そうと考えている。主にエリン、カレン、先輩の三人のレベル上げだな」

 


 現時点での俺達の基礎レベルだが、俺がレベル九十一、リーゼロッテがレベル八十四、マルギットとシルヴィアがレベル六十七、エリンがレベル四十七、カレンがレベル四十六、セレナがレベル三十九となっている。

 今回の探索中にエリン達三人のレベルを五十以上にしておきたいところだ。

 エリアボスを使ってパワーレベリングをすれば比較的楽に達成できるだろうが、それでは地力が育たないため選択肢には上がらない。

 俺がスキルを使って生み出した魔物を倒させてレベル上げをする方法もあるが、わざわざダンジョン内でやることでも無いので、この選択肢もまた除外した。



「そう言うってことは、分かれて戦うの?」


「そのつもりだけど、詳しくは今から実際に戦ってみてからだな。その結果を見てから、明日から分かれて戦う際の班分けを決める」


「なるほど」


「他に質問はあるか? 無いなら出発だ」



 ◆◇◆◇◆◇



 第二拠点がある小エリアの洞窟然とした景色から一転して、第三十三エリアには青空と見渡す限りの緑が広がっていた。

 小エリアから伸びる通路が繋がっていたのは、第三十三エリアの外縁部に位置する山の中腹にある洞穴だ。

 この場所からは眼下に広がる森林だけでなく、その奥の草原との境界線までよく見える。



「この辺りの山には魔物がいないようだから、このまま麓の森に降りよう。今日は真っ直ぐ草原まで向かってから拠点に帰る。ルートはエリンに任せる」


「分かりました」



 エリンを先頭に俺、シルヴィア、カレン、セレナ、マルギット、リーゼロッテの順に連なって下山する。

 山を降り切る頃になると、森の中から此方の様子を窺う生物の気配を感じるようになった。

 斥候であるエリンも感じ取ったようで、エリンは隊の進路をその気配がする方へと向ける。

 実際に向かう前にエリンが全員に声掛けをしており、俺とマルギットの位置を入れ替えてから全員が戦闘態勢をとったまま進む。



「……こういう場合は先手を取るべきなのでしょうか?」


「相手の位置や戦力が分かっているなら仕掛けてもいいと思うぞ」


「では、此方から仕掛けます。カレンとセレナさんは先制攻撃をお願いします。大体の位置は分かりますか?」


「うん、大丈夫」


「私も分かるわ」


「それなら狙いとタイミングは二人にお任せします。射程範囲内に入ったら攻撃を仕掛けてください」



 それから程なくして、魔法と魔銃による攻撃が前方の草藪や木々へと放たれた。

 断末魔の叫びがいくつか上がった後に飛び出してきたのは、緑色の肌をした人型の魔物であるゴブリンだ。

 その中でも〈フォレストゴブリン〉と呼ばれる森林適性が高い種であり、一般的なゴブリンよりも肌の緑色が濃いめだ。

 森林適性が高いとは言ってもお察しのレベルであり、その強さも中層エリアの魔物の中では底辺に近い。

 それはこの第三十三エリアでも同様で、ギルドの資料によれば外縁部に近い森林の一部が生息域なようで、資料の書き方からすると地味にレアな魔物のようだ。



「ギャギャッ、ギャァ!」


「ハッ!」


「シッ!」



 飛び掛かってきたフォレストゴブリンをエリンとマルギットが瞬殺する。

 壁役であるシルヴィアは後衛であるカレンとセレナを守るために盾を構えつつも、魔法を放って攻撃にも参加している。

 シルヴィアの背後からはカレンとセレナも引き続き遠距離攻撃を放っており、彼我の戦力差がありすぎるため敵の意識を誘導するまでもなく蹂躙していた。



「この程度なら楽勝みたいだが、少人数になるか敵のレベルが上がるとフィールド的に微妙か?」


「そうですね。マルギットとシルヴィアは二人だけでも問題無いでしょうが、エリン達三人だと少し不安があります」


「前衛一に後衛二だからな。レベル上げのためには経験値的にこの分け方がベストなんだが……やはり俺が壁役として入るべきか。攻撃に参加しなければ経験値の配分も最小限で済ませられるだろう」


「となると、私はマルギットとシルヴィアとですか」


「その方が前衛二と後衛一でバランス良くなるな」


「……まぁ、良いでしょう。これを機に交流を深めておくとしましょう」



 彼女達の一方的な蹂躙劇を後方でリーゼロッテと共に観戦しながら、明日以降の班分けを決めていく。

 俺ではなくシルヴィアを加える編成もアリだが、安全マージンをとるには手札の多い俺が盾役として参加した方がいいだろう。

 戦闘開始から五分と経たないうちに三十体ほどのフォレストゴブリン達を討伐し終えると、草原に向かって森の中を進む。

 その後も数種類の魔物と接敵したが、レベルは高くても三十台だったので比較的安定して戦うことが出来ていた。

 森を抜けるまでにセレナのレベルも四十に上がっておりレベル上げは順調だ。

 後は軽く草原の魔物と戦ってから拠点に戻るとしよう。




 

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