第143話 クランランキング



 ◆◇◆◇◆◇



 夕食に出たエリアボス〈燦焔緋殻飛竜フレイレットワイバーン〉の竜肉を使った各種肉料理を堪能した後、屋敷二階の共用スペースのリビングにて、ギルドで貰ったとある用紙を見ていた。



「クランランキングか……」



 神造迷宮巨塔ダンジョンの初回探索で得た戦果の一部を冒険者ギルドにて売却した際に、ギルド職員からこのクランランキングが書かれた紙を受け取っていた。

 なんでも、冒険者ギルドで登録された正式クランを対象にしたランキング表であり、ギルドの方で把握している討伐・採取・売却額などといった各種実績を元に製作された総合ランキングだ。

 クランの活動意欲向上のために半月毎に更新されており、上位になったからといって特に何か貰えるわけではないーーアルヴァアイン支部の権限内での優遇措置などはあるようだーーが、ランキング制度を導入したギルドの思惑通り、大体のクランの活動指標の一つになっているらしい。



「ん、ありがとう」



 魔導具マジックアイテムで冷やした紅茶を淹れてくれたメイドに礼を言うと、微笑を浮かべてお辞儀をしてきた。

 彼女の名はフィーア。

 二十代ほどの外見に、後方に向かって側頭部から生える一対の黒角を持つ超希少種族である〈ノクス族〉の黒髪金眼の美女で、俺が雇っているこの屋敷の使用人だ。

 彼女はナチュア聖王国に捕えられていた異種族の一人であり、救出後に行く宛が無かったところを屋敷の使用人として雇用している。

 フィーアと同様の事情を抱えている他の者達も、帝都の屋敷やドラウプニル商会などで雇っており、各所の人材不足問題の解決に一役買っていた。


 フィーアが淹れてくれた冷えた紅茶で、風呂上がりで渇いた喉を潤す。

 での活動のために培った技術の一つとのことだが、他の家事技能も含めて使用人として十分やっていけると思う。

 屋敷の使用人の選定は、ドラウプニル商会本店の支配人であるヒルダに一任した結果、荒事の多い土地柄という理由から自衛能力がある者達が選ばれている。

 故に、フィーアを始めとした使用人達は最低限の戦闘能力を有しているため、屋敷の安全性は結構高い。


 フィーアが後ろに下がったタイミングで、大浴場が上がった女性陣がリビングにやってきた。

 魔導馬車での移動時などで湯上がり姿は幾度となく見ているが、こうやって広々とした場所で見るのは少し新鮮な光景だ。

 いや、新鮮な光景だと感じる理由が他にもあった。



「……随分とラフになったな」


「ダンジョン内での拠点でも一緒に生活していたんだから、これぐらいは今更でしょう?」



 思わず漏れた俺の呟きに、暖房の効いた屋内だからこその涼しげな格好をしたマルギットがそう言葉を返した。

 下着姿ではないが、肌面積の多いスポーティーな格好なので、湯上がり姿なのも相まって大変色っぽい。

 



「マルギットが慣れてしまったようで残念だな」


「悪かったわね」



 投げられたタオルを顔面で受け止めると、肩を竦めてから横にいるフィーアにタオルを手渡す。

 まぁ、俺自身が風呂上がりにハーフパンツとタンクトップ姿なので、とやかく言われる筋合いは無いだろうが、もう少し異性からの視線を気にして欲しいものだ。

 見慣れているリーゼロッテとエリンはそうでもないが、それ以外からはチラチラと俺の身体に視線が向けられているので、俺が異性として見られていないことはおそらく無いだろう。

 だから、これは信用されていると見るべきかな?



「何を見ていたんですか?」


「マルギット」


「そっちではありません」


「ん? ああ、これのことか」



 俺の考えていることを遮るように隣に座ってきたリーゼロッテが、俺の手元の用紙を覗き込んできた。

 腕に押し当てられて形の変わるリーゼロッテの胸に意識が向きつつ、リーゼロッテからも見えるように用紙をテーブルの上に移動させる。



「これは……帰り際に渡されたランキング表ですね。リオンはこのランキングに関心があるのですか?」


「ああ。これを見れば今のアルヴァアインで力を持つクランや冒険者が分かるからな。予め情報を把握しておけば色々役立つこともあるだろう」


「今日会った焔輝クランが一位で、戦獣クランが三位なのか」


「あら、本当ね。二大クランっていうからてっきり一位と二位だと思ってたわ」



 シルヴィアとマルギットが言うように、ディルク率いる戦獣クランのランキング順位は、一位や二位どころか三位だった。

 しかも、総合ポイント数を見るに四位のクランとは僅差であることも分かる。



「二位の〈剛覇〉クランはマスターがSランクで、四位の〈剣武〉クランのマスターはAランク、五位の〈白竜の翼〉クランのマスターもAランク、んで六位の〈双華〉クランのマスターはSランクらしいぞ」


「んー? アークディア帝国のSランク冒険者は、現在は全部で十人だったわよね? 人数が合わない気がするんだけど……」



 セレナの言う通り、これだとアルヴァアインにいるSランク冒険者の数が一人足りなくなる。

 まぁ、答えは単純なのだが。



「ああ、そのことですか。それは、六位の双華クランにSランクが二人いるからですよ。マスターとサブマスターが双子の姉妹でSランクなんだとか」



 アークディア帝国のSランク冒険者だが、冒険者ギルド帝都本部のギルドマスターであり、実質的に冒険者を引退しているヴォルフガング。

 アークディア帝国の皇族であり、レイティシア・アルヴァールという偽名を使って正体を隠し、主に帝都周辺で活動している皇妹レティーツィア。

 アルヴァアインが拠点で戦獣クランのマスターであるディルクと、焔輝クランのマスターであるヘルムート。

 まだ直接会っていない剛覇クランのマスターに、双華クランのマスターとサブマスター。

 そしてヴァルハラクランのマスターである俺リオンと、サブマスターであるリーゼロッテ、そして現在はドラウプニル商会勤務である外国から移籍してきたフェイン。

 これら十人が現在のアークディア帝国所属のSランク冒険者だ。



「ねぇねぇ、ご主人様」


「どうした、カレン?」


「双華クランってSランクが二人いるのに、何で六位なの?」


「それはまあ、単純にまだ昇級して一年も経っていないのと、クランの規模が小規模だからだな」


「ふーん……あ、そういえばご主人様達よりも数ヶ月早くSランクに上がったのが三人いたわね。もしかして?」


「ああ、その三人の内の二人だよ。ちなみに残る一人は剛覇クランのマスターだ」


「双華と違ってコチラは随分と順位が上ですが、規模が大きいのでしょうか?」


「確かに、クランマスターがAランクの時から存在していて構成人数が多くて規模が大きいというのもあるが、一番は積極的に討伐実績を重ねているからだろうな。だからか、クラン全体の基礎レベルや冒険者ランクが高くて、そういったクランメンバーの質の高さもランキングに反映されているんだそうだ」



 エリンの疑問に推測込みで答えを返す。

 加えて、【情報蒐集地図フリズスキャルヴ】のマップ上から集めた情報も伝えておく。

 


「Aランク上位であるレベル七十台も十名ほどいるみたいだから、総戦力としては剛覇クランが一番かな」


「なるほど。ところで、ご主人様もランキング上位を目指されるのでしょうか?」


「ランキング上位か……」



 ランキング上位になったからといって、冒険者ギルドから目の色を変えるような褒賞が貰えるわけではない。

 だが、ランキング上位ともなれば、それだけアルヴァアインの冒険者界隈での名声が自然と高まることになる。

 そしてそれは、覚醒称号〈黄金蒐覇〉の発動条件とも重なり合う。

 相応に面倒ごとも増えるだろうが、更なる強さが得られるメリットの方が大きい。

 となれば、答えは一つだ。



「……ランキング制度があるなら上げたくなるよな」


「それでは?」


「ああ。せっかくだから上位を、いや、一位を目指そうじゃないか」


「承知しました」


「ま、基本方針は何も変わらないんだけどな。次回の迷宮探索からは、ランキングを意識した探索を行うとしよう。安全かつ確実に強くなりつつ、富と名誉を獲得していこうじゃないか」



 クランマスターである俺の宣言に仲間達が首肯する。

 改めて仲間達の意思を確認したところで、タイミング良く屋敷のメイド達が各種酒類やノンアルコール飲料を運んできてくれた。

 酒にあうツマミも大量にあり、どれもこれも美味しそうだ。

 大浴場で汗を流した後、寝る前の時間帯である今から行われるのは飲み会だ。

 夕食は夕食として普通に食べたが、消費カロリーの多い冒険者であるためか、仲間達は全力で呑み食いする気満々だ。

 今回は初回探索お疲れ様会と、この屋敷を維持管理をしてくれる使用人達ーー全員女性だーーとの交流も兼ねて事前に企画されていたため、フィーア達使用人も全員が参加している。



「それじゃあ、改めて皆お疲れ様。そして、これからもよろしく。乾杯!」


「「「乾杯!」」」



 簡単な挨拶とともに始まった飲み会だが、今回のように気楽な酒の入った飲み食いは今生では初めてだったので、非常に楽しい時間だった。

 夜も更けてきた頃に解散すると、カレンや一部の使用人といった未成年組と、酔い潰れたマルギットとシルヴィア、セレナの三人を各々の自室に戻らせた。

 そして、酔い潰れていない残る俺達大人組は、俺の無駄に広い寝室で朝まで過ごした。


 カレン達を部屋に戻らせた後に、リーゼロッテが「リオンの部屋に移動しますよ」と発言した際に、フィーア達使用人勢が酒とは別の理由で赤面した時点で、これからナニをヤる気かは察した。

 念のため確認したが、エリンの時と同様に当人達が望んだのをリーゼロッテが差配して叶えた結果らしい。

 まぁ、男として彼女達から慕われ好意を向けられるのは悪い気はしない。

 美女美少女達から求められるのを拒否する理由は無く、彼女達を自分のモノにしたいという〈強欲〉な衝動に正直になっても良いだろう。

 それに、リーゼロッテとエリンの二人だけでは分からなかった自分の夜のソッチ方面の体力的な限界を知る良い機会でもあった。

 経験者なリーゼロッテとエリンを抜きにしても、彼女達は十人以上もいるため、最終的に【精力絶倫リビドー】を初めて発動させることになった。

 【精力絶倫】を発動したらしたで、再び彼女達を圧倒することになってしまったが、全員嬉しそうだったので良しとしよう。

 人数が人数なので【化身顕現アヴァター】の分身体も役に立った。

 役には立ったが、魔力と同様に精力も本体と分身体で共有であるため、これが【精力絶倫】を使うことになった一番の原因なのは間違いない。

 まぁ、そのおかげで元の世界は勿論のこと、前の異世界でも経験したことが無いほどの肉欲と愛欲に満ちた夜を過ごすことが出来たのだが。


 カーテンの隙間から朝日が差し込む中、追加で取り出した別のキングサイズのベッドの上でスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている彼女達一人一人にブランケットと『状態浄化ピュリフィケーション』を掛けていく。

 それから室内の浄化と換気を済ませると、唯一まだ起きていたリーゼロッテと一緒に昼前まで深い眠りにつくのだった。


 

 

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