第137話 屋敷建築とクラン結成



 ◆◇◆◇◆◇



 神迷宮都市アルヴァアインに着いた二日後。

 ドラウプニル商会を通して購入した自宅兼クラン用の土地の一角に、自宅となる屋敷の建築にやって来ていた。

 元々建っていた古びた屋敷と、【無限宝庫】内にあった各種素材などを建材として使用して【拠点建築】を発動させた。

 軽い地響きと仄かな魔力光を発しながら、脳内の設計図に従って半自動的に建造物が構築されていく。

 やがて、十分ほど経った頃になってイメージ通りの屋敷が完成した。

 【拠点建築】だけでは補えない細部は調整する必要があるが、現時点でも満足のいく出来栄えだ。


 そんなタイミングで脳内に例の通知が浮かんできた。



[一定条件が達成されました]

[ユニークスキル【強欲神皇マモン】の【拝金蒐戯マモニズム】が発動します]

[対価を支払うことで新たなスキルを獲得可能です]

[【拠点建築】【守護領域】【領域内転移】【領域の支配者】【戦神の祝福】【大地神の祝福】【魔導神の祝福】【狩猟神の祝福】【造形神の祝福】と大量の魔力を対価として支払い、ユニークスキル【輝かしき天上の宮殿ヴァーラスキャルヴ】を得ることができます]

[新たなスキルを獲得しますか?]


[同意が確認されました]

[対価を支払い新たなスキルを獲得します]

[ユニークスキル【輝かしき天上の宮殿】を獲得しました]



 広大な屋敷の建築、というよりも大規模な拠点の建造を行うことが条件だったのか、【拠点建築】の上位互換とも言えるユニークスキルを取得することが出来た。



「完成しましたね」



 隣から聞こえてきたリーゼロッテの声に我に返ると、【高速思考】と【並列思考】で能力の確認を行いながら口を開く。



「いや、もう一つやることがある」


「もう一つですか?」


「ああ。たった今新しいユニークスキルを手に入れた。その力を使って再度作り直す」


「「「……」」」



 その言葉にこの場に集まった者達が無言になった。

 ついさっきまで短時間で完成した屋敷を見て騒いでいたのに、今はとても静かだ。



「……ユニークスキルってそんなに簡単に取得出来るものだったかしら?」



 マルギットの呟きは皆の耳に届いたようで、周りの者達も同意するように頷いている。



「取得出来たんだから仕方ないだろ。というわけで、【宮殿創造】」



 完成したばかりの屋敷を素体に大量の魔力を消費して内包スキル【宮殿創造】を発動させる。

 能力的な制限で前の【拠点建築】時では出来なかった要素を盛り込んだ結果、完成したのはより煌びやかで上品な外観になった屋敷だった。

 あとで別途行う予定だった各種術式の調整や、造る予定だった庭園なども含めて全てが創造されている。

 防衛設備なども時間をかけて設置していく予定だったが、脳内の設計図をアップグレードするだけで纏めて創造できたので大変楽ができた。



「ここを〈主要拠点〉に認定する」



 術者である俺の宣言を受けて、内包スキル【宮殿領域】によってこの拠点が守護領域の中でも重要な主要拠点に登録された。

 元になった【守護領域】は、ダンジョンのボス魔物などが持つ能力であり、自らが守護する領域フィールドにいる間は様々なバフを受けるという効果があった。

 一方の【宮殿領域】は少し違い、自らの拠点として認められた領域内にいる全ての者達ーー正確には自勢力のみーーに様々な効果の祝福バフを与えるという効果になっている。

 加えて、〈主要拠点〉として登録された領域は、より効果の高い祝福を受けられるようになっており、その主要拠点にこの屋敷がある土地全体を登録した。

 今はまだ無いが、クラン用の建物も敷地内に建てる予定なので、【宮殿領域】による恩恵を受けられるはずだ。



「後で行う予定だった細部の調整も済んだのですね」


「ああ。手間が減って何よりだよ」



 全員で完成した屋敷の隅々まで見ていく。

 設計通りとはいえ、その出来栄えは自画自賛をしたくなるほどの完成度だ。

 【拠点建築】よりも【宮殿創造】の方が格上であるためか、イメージを完璧に反映出来ている。

 九割五分が十割になるぐらいの差ではあるが、質が良くなるのは製作者としても利用者としても大歓迎だ。



 ◆◇◆◇◆◇



 屋敷の内見を済ませると、その足で冒険者ギルドへと向かった。

 共に向かうのはクランメンバーのみで、これからギルドで行うのはクランの結成登録だ。

 当初はクラン結成の最低人数である十人だけで向かう予定だったのだが、屋敷の完成を見に来た者達の中には後で入団予定の商会の警備部門の者もいたので、その者達も一緒に連れていくことにした。


 屋敷から冒険者ギルドまでの距離は近い。

 冒険者ギルドだけでなく、ドラウプニル商会との距離も近いことがあの土地に決めた理由の一つだ。

 本来ならばアルヴァアインに到着した翌日である昨日にクランを結成する予定だったのだが、ドラウプニル商会傘下の各店舗の視察とアルヴァアインの行政への顔見せに時間が掛かったので今日に変更になった。

 どちらも先方とは初の顔見せとあって思ったよりも時間が掛かってしまった。


 そんなこんなで冒険者ギルドにやって来たわけだが、役所のような外観の建物内に足を踏み入れた瞬間、一階ロビーにいた冒険者達が一斉に振り返ってきた。

 十人以上の集団で入ってきたのも理由の一つだろうが、一番の理由は俺を筆頭にリーゼロッテとフェインのSランク冒険者三人が、日常生活では無意識に抑えている気配を抑えずに入って来たからだと思われる。

 分かりやすく言うならば、強者の気配といったところか。

 後ろに続く仲間達の中にはAランク冒険者もいるのだが、そちらには誰も注目していなかった。


 魔物に限らず、冒険者においてもSランクとAランクを隔てる壁は高い。

 基礎レベルを上げるのに最高の環境であるはずの神迷宮都市ですら、Sランク冒険者に昇級出来る者は滅多にいない。

 理論上は魔物を倒し続けていれば、誰であってもSランクの領域に至れるはずなのだが、強敵との戦闘の厳しさと戦死率の高さから、良くてもAランク下位レベル六十台止まり。

 そんな険しい壁を越えた生物が自然に放つ気配は、それよりも下の生物にとって本能的に無視することが出来ないモノだ。



「クランを結成したいのですが、ここで合ってますか?」


「は、はいっ。ここで合ってます!」



 ギルド内にクラン結成用のカウンターがあるのは事前に調査済みなので、入り口にある魔導具マジックアイテムから整理券は取らずに直接受付に向かった。



「それでは、まず最初にクラン結成のためにメンバー確認と登録を行いますので、皆様冒険者プレートの提示をお願い致します」



 全員が自分の冒険者プレートを取り出してカウンターに置く。

 取り出す際に見えたのか、俺達以外の冒険者達がざわつき出した。

 蒼銀色ミスリル製のSランク冒険者の証明証ライセンスプレートが三枚カウンターに出されたのが原因らしい。

 まぁ、他の冒険者達が気付くようにして取り出すようにリーゼロッテとフェインに指示を出したのだから、この反応は期待通りだ。

 


「エ、Sランクが三人……ハッ、失礼しました。では、お預かり致します」



 三つの蒼銀色のプレートの輝きを前にした受付嬢の動きが止まったが、すぐに再起動した。

 この立ち直りの早さは、流石は迷宮都市の冒険者ギルド職員と言うべきか。



「クランマスターはどなたがなられますか?」


「自分です」


「かしこまりました」


「ああ、それと。まだ拠点をアルヴァアイン支部に変更していないプレートは変更しておいてもらえますか?」


「承りました」



 どなたが、と聞かれたが、向こうも俺だと言うのか分かっていたようで、尋ねつつ片手には既に俺の冒険者プレートが握られていた。

 プレートに刻まれた俺の冒険者番号を見ながら書類に記入していく受付嬢。



「それでは代表者であるエクスヴェル様は此方の用紙の空欄への記入と規約の確認をお願い致します」


「分かりました」



 俺が書類の空欄を埋めている間、受付嬢は他のメンバーの分の冒険者番号も記録していっていた。

 【空間把握センス・エリア】で彼女の手元を確認したところ、それぞれの冒険者番号だけでなく、ランク、名前、種族、性別、年齢なども記入しているようだった。

 意外にも、といったらギルドに失礼かもしれないが、ちゃんと所属メンバーの詳細まで確認しているらしい。

 そんなことを考えながら用紙の空欄を埋めていき、同時進行で規約にも目を通していく。

 最後に規約に同意することを示す空欄にチェックを入れてから受付嬢に記入用紙を渡した。



「はい、ありがとうございます。ふんふん……はい、問題ありませんね。クラン名は此方でお間違いありませんか?」


「ええ。それでお願いします」


「かしこまりました。それでは此方の内容で処理致しますので、少々お待ちください」



 受付嬢が全員の冒険者プレートに魔導具を使ってクラン名を打ち込んでいくのを眺めながら暫し待つ。



「クラン名って〈ヴァルハラ〉よね?」


「ええ、分かりやすいでしょ?」


「まぁ、らしいと言えばらしい名前だけど、この辺りの人には意味が分からないでしょうね」



 セレナが言う通り、この世界あたりの人には分からない名称ではある。

 これまでにも、ドラウプニル商会やミーミル社といった自分の組織名には、ユニークスキル【魔賢戦神オーディン】の原典関連の名称を使用してきた。

 そのため、今回のクランという冒険者組織にもそれらの前例に従ってオーディン関連の名称を採用した。

 何度も死にながら自らを鍛える勇士達の楽園である〈ヴァルハラ〉は、神造迷宮という危険なダンジョンに挑む冒険者にはピッタリのクラン名だと個人的には思っている。

 俺の前世関連を知らない者達には、古い書物で知った異界の神話に出てくる英雄達の楽園の名前とだけ説明した。

 幸いにも、此方の世界の神話や伝承でも似たような場所が語られているので、ヴァルハラという名称は普通に受け入れられた。


 異界人フォーリナーが反応しそうな名称だが、ドラウプニル商会やミーミル社が既にあるので今さらのことだ。

 それに、ユニークスキルなどを持っている確率が高い異界人を雇用出来る機会があるというメリットもある。

 先日も、帝都を発った俺達と入れ替わりで帝都にやってきた異界人の女性が、帝都支店に就職希望で訪れたので採用した。

 能力的にも知識的にも使えそうなので、通常の社員ではなく特殊技能社員枠での採用だ。

 社員の福利厚生に力を入れているので、彼女もこれから頑張ってくれることだろう。



「お待たせ致しました。皆様の冒険者プレートをお返しします」



 各自が自分の冒険者プレートを回収すると、代表者である俺にはクランの証であるメダリオンとクラン関連の資料が渡された。

 メダリオンにはクラン名〈ヴァルハラ〉と刻まれている。



「此方のメダリオンは冒険者ギルドが〈ヴァルハラ〉をクランと正式に認定した証になりますので、大切に保管していてください。資料につきましては、ギルド認定の正式クランの特典や注意事項が書かれていますので、一度目を通しておいてくださいね」


「分かりました」


「以上で手続きは終了ですが、何か質問はございますか?」


「大丈夫です。資料を読んで分からないことがあったら、その時にお願いします」


「かしこまりました。職員一同、クラン〈ヴァルハラ〉の皆様のこれからのご活躍と安全を心よりお祈りいたしております」



 受付嬢から激励の言葉を貰うとギルドを後にした。

 さっそくダンジョンに挑みたいところだが、もう昼を過ぎた時間なのと、完成したばかりの屋敷の引越し作業もあるので、挑むのは明日だ。

 幾つかの連絡事項を伝えると、フェイン達商会員とはギルド前で別れて屋敷へと戻った。



 

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