第135話 帝都から神迷宮都市へ



 ◆◇◆◇◆◇



 帝都エルデアスに来て四ヶ月が過ぎた。

 途中の一ヶ月は戦争で帝都にいなかったが、それでも三ヶ月ほどは暮らしていた帝都から、活動拠点を神迷宮都市へと移すために今日帝都を発つ。



「……あっ。そういえば、もう八ヶ月か。早いもんだ」


「何が八ヶ月なのですか?」


「この世界に来てからだよ。来たのが春頃だったから、八ヶ月も経てばそりゃあ寒くもなるか」


「帝都に着いたのが夏頃でしたから、それぐらいになりますか。私にとっては過ごしやすい季節になるので歓迎ですけどね」


「流石は〈氷刻の魔女〉だな」



 俺達の視線の先ではマルギットとシルヴィアが仕事を抜け出して見送りに来たオリヴィアと話をしている。

 祝勝パーティーの後から今日までの一週間の間に帝都の知り合い達との別れの挨拶は済ませており、今この場に見送りに来ているのはオリヴィアとドラウプニル商会帝都支店支配人のミリアリアを始めとした一部の商会員達だけだ。

 ちょうど仕事で帝都を離れていたりして挨拶を出来なかった者達には手紙を残している。


 ヴィルヘルムにアメリア用の精神安定系魔導具マジックアイテムも納品したし、先日の戦争時に発注を受けた魔導馬車スパティウムもシェーンヴァルト公爵家とアーベントロート侯爵家に納品済みだ。

 帝都にあるドラウプニル商会の各部門の視察も行ったので、商会関連は問題無し。

 帝都の屋敷の管理を行う者達も手配出来たので屋敷に関しても問題無い。



「商会と屋敷は問題無いとして、他に何かやり残したことってあったっけ?」


「そうですね……冒険者ギルドにも挨拶はしましたし、何も無いかと思います」


「だよな」



 ごく個人的な用事のうち、スキルに関してはこの一週間の間に済ませておいた。



[アイテム〈増化の種〉が使用されました]

[スキル【増化の種】を取得しました]


[アイテム〈貸し手〉から能力が剥奪されます]

[スキル【能力賃貸】を獲得しました]


[アイテム〈天換転工の作業槌〉から能力が剥奪されます]

[スキル【能力転換】を獲得しました]

[スキル【術式干渉強化】を獲得しました]

[スキル【天工の御業】を獲得しました]


[アイテム〈双蛇の賢環〉から能力が剥奪されます]

[スキル【賢蛇の練理】を獲得しました]


[アイテム〈熾天使の翼環〉から能力が剥奪されます]

[スキル【熾天翼顕現】を獲得しました]

[スキル【熾天輪顕現】を獲得しました]


[アイテム〈圧搾のグローブ〉から能力が剥奪されます]

[スキル【高圧縮】を獲得しました]

[スキル【物質干渉強化】を獲得しました]


[アイテム〈懲罰神使の伐災鎌〉から能力が剥奪されます]

[スキル【鎌斬り・天威】を獲得しました]

[スキル【鎌斬り・地威】を獲得しました]

[スキル【刈り取る者】を獲得しました]

[スキル【罪を識る者】を獲得しました]


[アイテム〈星眼のアミュレット〉から能力が剥奪されます]

[スキル【天の瞳】を獲得しました]

[スキル【地の瞳】を獲得しました]


[アイテム〈焔禍煌玉の紅蓮杖〉から能力が剥奪されます]

[スキル【焔禍齎す炎理の宝玉フラムル・ディアーザイアス】を獲得しました]


[アイテム〈不老の腕環〉から能力が剥奪されます]

[スキル【不老】を獲得しました]



 この一週間の間に能力を剥奪した魔導具は、ヴィルヘルムから貰った依頼報酬を除けば、ナチュア聖王国のダンジョンで手に入れた宝物の一部だけだ。

 他のダンジョンから自力で入手した物や、ナチュア聖王国の首都にある城の宝物殿から奪ってきた宝物などはまだまだあるのだが、数が数なので全体の四割ほどしかチェックは済んでいない。

 聖なる武具は優先的にチェックしたのだが、殆どが叙事エピック級よりも下のランクであるため有用な能力は無く、どれも似たり寄ったりで凡庸な能力だったのが残念なところだ。


 魔導具からの能力剥奪以外だと、聖王都で行われている聖王国軍対俺製アンデッド軍の戦いによって幾つか新規スキルが得られた。

 新規スキルは、【早撃ちクイックドロウ】【反射盾リフレクト】【引き篭もり】【同調圧力】の四つに加え、【恩寵の贈り手ギフテッド】【三位一眼トリニティサイト】の二つのユニークスキルを獲得している。

 聖王都が襲撃されて二週間が経とうとしているが、戦闘はまだ終わっていなかった。

 当初の予定では二週間で聖王都の軍が半壊し、作戦は次の段階に移行するはずなのだが、このままだと時間がかかりそうだ。

 今も戦闘中だし……ちょうどいいから、この後本体で聖王国軍の中心人物を襲撃するとしよう。リーゼロッテにも『念話テレパス』を使って一応伝えておく。



『ーーというわけだから後で馬車に分身体を置いて行ってくる』


『帰りはいつ頃になりますか?』


『状況次第だが、一人だけだから一時間もかからない予定だ』


『分かりました。お気をつけて』


『ああ。気をつけて行ってくるよ』



 話が終えて戻って来たマルギットとシルヴィアを魔導馬車に乗せると、俺達も見送りに来てくれた者達に軽く会釈してから魔導馬車へと搭乗した。

 見送りに来たオリヴィア達との話は済んでいるので、最後に手を振り返してから外壁の門を潜る。

 帝都へ入るための列に並んでいる者達の視線が集まる中、空へと魔導馬車を飛び立たせて帝都を旅立った。



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーデアルナラバ、我ガ身ノ役目モココマデデショウ。最後ニ、我ガ命、我ガ能力ヲオ納メ下サイマセ」


「ああ。ご苦労だった」



 アンデッド軍の総指揮を任せていた〈冥府の戦導死使ネザーヴァルデネス〉を暴食のオーラで喰らい、その力を奪い尽くす。



[スキル【死使暗黒戦衣ヴァルデネス・オーラクロス】を獲得しました]

[スキル【戦意高揚】を獲得しました]

[スキル【死天魔導】を獲得しました]

[スキル【上位命令】を獲得しました]

[スキル【支配耐性】を獲得しました]

[スキル【術式理解】を獲得しました]

[スキル【戦の旗手】を獲得しました]

[スキル【冥府の祝福】を獲得しました]

[スキル【死の支配者】を獲得しました]

[スキル【戦場の支配者】を獲得しました]


 

 生成体なのに妙にスキルが大量に手に入ったな……生成してからそれなりに時間が経った個体だからだろうか?

 まぁ、単純にそれだけ強い種族だからという可能性もあるか。

 そんな強い種族であるネザーヴァルデネス自身を進軍させれば敵の主要戦力は容易に壊滅できるだろうが、それではスキルの蒐集率が悪い。

 生成体越しの【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】ではスキル獲得確率がグッと下がってしまう。

 敵の主要戦力を潰せば、あとはネザーヴァルデネスよりも下位の〈絶死冥聖の魔導王ヘルセイデス・リッチロード〉でも軍の指揮はこなせる。

 元より強すぎるネザーヴァルデネスはこの後の計画段階に移る前に処理する予定だったので、それが少し早まっただけに過ぎない。

 姿は露出させていなかったので、いなくなっても不都合は無い。



「後はお前が引き継げ」


「カシコマリマシタ」



 リッチロードに軍の指揮を任せると、暴食のオーラを凝縮させて全身甲冑を具現化させる。

 ただし、その形状は普段とは違って〈死天冥聖騎士王ヘルヴデス・パラディンロード〉の全身鎧に似たデザインになっている。

 本物との相違点は、少し細身の漆黒の全身甲冑姿であるのと、武装が大剣と大盾ではなく漆黒の大剣一振りのみであること、青白い燐光の代わりに【死使暗黒戦衣】による黒紫色の死のオーラを纏っていることの三点ぐらいか。



「万が一見つかった時はこれで大丈夫だろう。お前も準備をしておけ」


「ハッ。承知致シマシタ」



 自らの全身を確認してからパラディンロードにも声掛けをしておく。

 纏っている暴食の鎧は高密度の魔力によって構成されているため、鑑定解析系の能力や魔法は自然と通じ難くなる上に、【情報賢能ミーミル】や【鑑定妨害】などのスキルも発動させている。

 仮にそれらを突破したとしても、その先にあるステータスは【偽装の極み】で偽装した魔物仕様のステータス情報であるため、おそらく見抜かれることは無いだろう。

 大前提として、姿を見られる前に倒せばいいだけなのだから問題は無い。



「では行くか」



 なんとなく作った伝説レジェンド級の武具シリーズの一つ〈貪り満たす喰竜の剣グレイフル〉を肩に担いで大地を駆ける。

 途中で【神隠れ】を発動させて不可視化状態になると、【狩猟神技】によって地上から空中へと駆け上がっていく。

 やがて、眼下に人とアンデッドの軍勢同士が争う戦場が視認できた。

 人側の軍勢の後方には、聖王都を囲う外壁が左右に広がっており、外壁の上には前線司令部らしき砦も確認できる。



「あそこか」



 前線司令部に向かって急接近しながら魔剣グレイフルに大量の魔力を注いでいく。

 剣身から溢れ出た破壊のオーラは切っ先に収束され、二十メートル近いサイズの黒き巨大な刃が形成される。

 【神隠れ】はこの状態になってもなお、俺と魔剣グレイフルの不可視化状態を維持していた。

 以前の【認識遮断】のままだったら、今のような攻撃行動に移ったら確実に不可視化は解除されていただろう。素晴らしい隠密性能だ。



「このあたりかなっと!」



 頑強な造りの砦の中でも更に丈夫に造られた作戦室。

 その作戦室に集まっていた者達のうち、特殊なスキルを持つ異界人フォーリナーの少年がいる位置を【看破の魔眼】で見抜き、砦の外から壁越しに黒き巨剣を振り下ろした。



[スキル【空間入替】を獲得しました]

[ジョブスキル【運搬者ポーター】を獲得しました]



 幾重にも張られていた障壁ごと砦を斬り裂いたことで、前線司令部だった砦が半壊した。砦の下の聖王都の外壁部分こそ無事だが、砦の方はそうはいかない。

 ここまでやってもなお不可視化状態は維持されていたが、先ほどまでよりも効力が落ちているのが分かった。



「今のうちだな」



 半壊した砦の一部に着地すると、手に入れたばかりのスキル【空間入替】を発動させて俺とパラディンロードがいる空間を入れ替えた。

 すると、俺がいた場所にパラディンロードが現れ、先ほどまでパラディンロードがいたアンデッド軍の本陣に俺が移動していた。

 【千里眼】で確認すると、半壊した砦から飛び降りたパラディンロードが、聖王国軍の背後から襲い掛かっている光景が確認出来た。



「これで聖王国軍が取れる手段は真っ向勝負のみ。司令部も崩壊したし、軍の壊滅も時間の問題かな?」



 この【空間入替】を主軸に聖王国軍はアンデッド軍に抵抗していた。

 今使った【空間入替】を使って味方の部隊を退避させたり、部隊ごと移動させてアンデッド軍を強襲するなどが主な使い方だ。

 予め自らの魔力が付与された場所、つまりはマーキングした場所を基点とした指定範囲内の空間同士しか入れ替えることは出来ないが、通常の転移魔法よりも発動が早く低コストで移動できるという利点がある。

 なお、今回の場合においては、パラディンロード自体が俺の魔力で出来ているため、マーキングは不要だ。



「ふむ。本体と分身体の場所を瞬時に交換出来るのは便利そうだな。せっかくだからコレで戻るか」



 【空間入替】を発動させると、魔導馬車内の自室に移動させた分身体と本体である俺がいる場所が入れ替わった。

 マーキング先の空間の広さと自らがいる空間の広ささえ同じであれば入れ替えることが出来る。

 空間内の人員や物資の大量輸送が瞬時に可能であり、戦術だけでなく補給の面においてもこのスキルは聖王国軍の生命線だったわけだ。



「これで予定通り事が進むな」



 装備やスキルを全て元の状態に戻し、向こうに送った分身体を消してからリーゼロッテ達の元へと戻った。



[スキルを合成します]

[【首狩り】+【鎌斬り・天威】+【鎌斬り・地威】=【神薙斬り】]

[【見切り】+【心眼】+【看破の魔眼】+【星視る眼】+【地の瞳】=【星王の瞳】]

[【千里眼】+【天の瞳】=【万里眼】]


 

 

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