第127話 ナチュア聖王国
◆◇◆◇◆◇
帝都に凱旋した翌日。
護衛依頼中は殆ど出来なかった日課の朝練を久しぶりにしっかりと行うと、朝食を摂ってからナチュア聖王国の首都へと向かった。
ナチュア聖王国の国家元首兼教主である聖王の居城は、石製の特殊な白い建材で作られているため、青い屋根部分を除けば全体的に真っ白な外観をしている。
白いのは外観だけでなく城内も基本的に白いのだが、外とは違って豪奢な内装で飾られており、個人的には俗っぽい印象を受けた。
【認識遮断】を発動させたまま城内の回廊を進むと、次第に人気が少なくなっていく。
やがて辿り着いたある場所には、レベルの高い騎士と魔法使いが三人ずつ配置されており、設置されている警戒用
そんな警備網を気にすることなく【看破の魔眼】と【短距離転移】を併用して、彼らが守る扉の先へと転移した。
「ここが、召喚の間か……」
【結界作成】にて室内の音が室外に漏れないように遮音結界を張ってから独り言ちる。
薄暗い石造りの室内の印象は一言で言えば儀式場だ。
【儀式の心得】の効果もあって、部屋の形や祭具などの配置が持つ意味と効果を何となく理解出来る。
それら全ての効力は、祭壇に敷かれた古びた石版に集められているのを感じる。
「ーーチッ。やっぱり〈異界人召喚術式陣〉か」
アークディア帝国の救国の勇者が、元々はとある王国によって強制的に召喚された異界人であるという情報。
先日の戦争に参戦しようとしていたナチュア聖王国の粛聖騎士団の者達と、
今日のために前もってナチュア聖王国に放っておいた、諜報用の眷属ゴーレム達が集めた直近の現地情報。
これまでに集めたこれらの情報から、ほぼ間違いなく存在するとは考えていたが、こうして実物を目にすると吐き気がする。
自分達の世界の問題に別世界の者を巻き込む異界人召喚術式陣。
前の異世界で討伐したマッチポンプ腐れ女神、もとい邪神の所業も思い出させるので、不快感マシマシだ。
「しかもタチの悪い強制召喚タイプか。案の定、帰還術式の組み込まれてない一方通行タイプだな。意思疎通用に言語機能は組み込まれているみたいだが……付加されるのはそれだけか」
自分の意思で同意して召喚される承認召喚タイプならまだしも、この強制召喚タイプは存在を許す気は無い。
前の異世界の時から無作為に異界人を拉致するこの行いは大嫌いだったので、見つけ次第全て破壊していた。
自分達の世界の問題は自分達で解決するのが筋というものだ。
偶発的にこの世界に
だが、現地人による異界人の拉致は許すつもりはない。
俺がナチュア聖王国を攻撃することに決めた一番の理由は、異界人を強制召喚しているからだ。
俺がナチュア聖王国が召喚した【勇者】持ちの異界人を殺したことによって、この国の上層部は追加の戦力を獲得するために、近日中に再度の異界人召喚を画策しているらしい。
それを未然に防ぐのも今回の目的だ。
「取り敢えず真っ二つに、いや、八分割にしてから収納しておくか」
何かの拍子に発動することが無いように、召喚術式陣が刻まれた特殊な石材で作られた石版をデュランダルで八分割にしてから【無限宝庫】に収納した。
周囲に置かれた祭具や魔導具なども全て収納し、部屋の構造も【発掘自在】で適当に作り変えておく。
「あとは、トラップだな」
儀式場に入ってきた者達へのトラップとして、室内に【
発症対象はナチュア聖王国の国民のみなので、今は亡き勇者くんと共に召喚された子達には無害なはずだ……まぁ、この国の在り方に賛同しているようなら発症するんだけどな。
「最重要目標はこれで達成、っと。保管されている関連資料などはラタトスク達に盗ませるとして……お前達はこの聖王都にいる異界人召喚の有識者達と転移魔法が使える者を殺してこい」
「グルルルッ」
俺の命令に応えるように軽く唸りながら、室内の凡ゆる影の中から黒い狼が大量に現れる。
オオカミ型戦闘用眷属ゴーレム〈ゲリフレキ〉。
今回の国崩しのためにドラウプニル商会本店と帝都支店に配備している、警備用の個体達を除いた全てのゲリフレキを連れてきた。
戦闘力はAランク下位相当。使用するスキルや不死身性を考えればAランク上位に迫るレベルだ。
「指揮は任せるぞ、ヒルドルヴ」
「ガウッ」
周りのゲリフレキ達を上回る巨躯の黒狼が音も無く現れる。
俺のユニークスキル【
各種眷属ゴーレムの性能は、作成時に血肉や毛髪などの俺の肉体の欠片をどれだけ使用したかに左右される。
他の殆どの個体が髪の毛数本や血を数滴なのに対して、このヒルドルヴは切断した左手を丸ごと使って生み出した個体だ。
瞬時に元のカタチに復元する【復元自在】を使わずとも、【神速再生】などの回復系スキルによって十秒足らずで左手は元通りになるので大したことではない。
正確な戦闘力は不明だが、Sランク冒険者と良い勝負が出来るぐらいの戦闘力はあると思う。
「喰らって奪った記憶情報を精査しても、討つべきか判断に迷う相手がいたら思念で連絡しろ。いいな?」
「ガウッ」
「よし。では、いけ」
「ガウッ!」
ヒルドルヴもゲリフレキ達も影に溶け込むようにして室内から去っていった。
「さて、それじゃあ俺は城の宝物殿の中身を根刮ぎ奪うとしますか」
それが終わったら聖王都の隔離工作を行なって、それからダンジョン攻略に移るとしよう。
◆◇◆◇◆◇
聖王城の宝物殿にあった全ての宝物を強奪した後、聖王都近郊の森へと転移して次の行動に移った。
「ふむ。まぁ、こんなところか」
目の前には強力な力を持つ
その中でも特に強力なのはーー
黒紫と金飾の豪奢なローブに身を包み、色鮮やかな宝珠の数々が嵌め込まれた金色の
青白い燐光を薄らと纏う黒紫色の全身鎧に身を包み、重厚な存在感を漂わせる黒盾と赤い刻印が剣身に刻まれた大剣を持つ〈
常闇のような色合いの黒骨の身体を持ち、聖職者のような純白のローブに身を包み、青黒い燐光を纏う血のように紅い長杖を携えた〈
ーーの三種だ。ネザーヴァルデネス以外の二種は、その下位種も多数生み出している。
【上位アンデッド顕現】によって形成された三百体にも及ぶ高位アンデッドの軍勢の役割は、聖王都を混乱と恐怖に陥れることだ。
内部ではヒルドルヴ達による暗殺を、外部からはアンデッド達による侵攻を行わせている間に、ナチュア聖王国の命綱であるダンジョンを攻略する。
このダンジョンは〈幻造迷宮〉であり、最深部にある迷宮核を破壊すればダンジョンは崩壊し、そこで採れた資源や財宝は二度と取れなくなる。
ナチュア聖王国の近くにあるこのダンジョンはかなり特殊なダンジョンらしく、内部で取れる資源や宝箱から手に入るアイテムには、聖なる属性の類の代物が多いのが特徴だ。
ナチュア聖王国の国宝であった聖剣なども、このダンジョンの深層のボス魔物を討伐して現れた宝箱から入手した物らしい。
ダンジョンから取れるそれらの品々を、自分達の神からの贈り物と称し、国民の団結と異教徒の弾圧などに使用してきた歴史がある。
そんなナチュア聖王国の異界人召喚術と並ぶか、それ以上の生命線とも言える
事前に調べた情報によれば、ここのダンジョンは構成する階層が少なく、階層一つあたりの広さも広くないらしい。だが、出現する魔物の平均レベルは高いため、幻造迷宮の中でも難易度はかなり高い方だそうだ。
数が少なく広くないのは朗報だが、この世界のダンジョン攻略はなにぶん初めてなので、もしかしたら攻略に手間取る可能性がある。
時間がかかれば異常を察したナチュア聖王国が邪魔をしてくるのは間違いないため、それを防ぐべくアンデッド達には聖王都を攻めてもらう必要があった。
途中で攻略は分身体に交代する予定だが、出来れば今日の午前中のうちに攻略してしまいたいところだ。
「……エクスカリバーを使えば今日中にクリア出来そうな気がするな」
性能が下がる分身体に任せるには不安があるので、本体でさっさと攻略するのが良さそうだ。
本当ならじっくりと攻略して資源を奪い去りたいところだが、リーゼロッテ達との約束を破るわけにはいかない。
「お前達は聖王都近くに進軍しろ。到着後は、奴らの対応次第で攻撃頻度は調節しろ。奴らを安易に皆殺しにするのが俺の望みではない。クズ共が苦しみ絶望するのが俺の望みだと思え」
「是。主ノ望ミヲ叶エルベク全力ヲ尽クシマス」
総指揮官として生み出したネザーヴァルデネスが代表して承諾の意を示す。
ネザーヴァルデネスを先頭に、全てのアンデッド達が跪いている光景は中々壮観だ。
スキルで下位のアンデッドを生み出せるので、兵の数が不足することもあるまい。
「期待している。奴らの武具やアイテムで希少なモノや強力なモノがあれば回収しておけ。それと、敵の強者は優先して殺せ。ただし、異界人が出てきた場合は適度に攻撃して、後退するように仕向けろ。彼らは拉致被害者だからな。この国の在り方に賛同したクズなら別だが、まだ調査中だから殺すなよ」
「是」
「あとは、現時点でも隷属されている他国の者達は殆ど救出したが、もしかすると他にもいるかもしれん。戦場に戦闘奴隷が出てきた場合は気絶させて回収しておけ」
「是」
聖王都に転移してすぐに、分身体達を聖王都中に派遣して捕まったり隷属されている者達を救出させているが、状況的に救出が難しい者もいるからな。
「……指示はこんなところか。では、始めるとしよう。『
戦術級魔法『天候操作』によって、聖王都一帯の上空の天気を曇天へと変えたことで、陽の光によってアンデッド達が弱体化することは無くなった。
【
アンデッドの弱点である聖光属性の被攻撃ダメージを大きく軽減し、同時に強化を齎す『闇の守護者』があれば簡単にはやられないだろう。
他にも支援出来る魔法や能力はあるが、これ以上強化してしまうと一方的過ぎる蹂躙になってしまう。
時間を稼ぐという目的からは外れるし、一般人含めて殺し過ぎてしまうのも狙いから外れる。
この先の予定のためにも三つあたりが妥当だろう。
「主ヨ、感謝致シマス」
「ああ。では、後は任せた」
「ハハッ!」
ネザーヴァルデネス達にやれるだけの支援を施すと、ここから少し離れたところにあるダンジョンへと飛翔して向かった。
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