第128話 星王剣エクスカリバー
◆◇◆◇◆◇
「ッ!? 何者だ!」
「怪しい奴め! 聖王国の者ではないな?」
目的のダンジョンに到着すると、特に隠れることなくダンジョン入り口を警備するナチュア聖王国の騎士達の前に降り立った。
怪しい奴と言われるように、今の俺は全身黒ずくめに白仮面の隠密スタイルだ。
元々いた騎士達に加えて、ダンジョン入り口横にある屯所らしき建物から出てきた騎士達も剣を向けてきた。
「何者だ、と言われたら……そうだな。このダンジョンを終わらせる者、かな?」
「何だとっ!?」
「いや、このクソみたいな国を終わらせる者と言った方が正しいかな? 邪教徒共よ」
「コイツを殺せっ!」
俺の【挑発】を受けて怒れる騎士達が、隊長らしき者の命令により一斉に斬り掛かってくる。
「後腐れなく力を振るえるって嬉しいモノだな?」
「びぎゃっ」
「げぇっ」
「ぎゅっ」
【強欲王の支配手】の最大出力に【
命令した隊長含めて全ての騎士が、金属鎧ごと手のひらサイズの球体にまで一瞬で圧縮された。
[スキル【勤勉誠実】を獲得しました]
[スキル【狂信】を獲得しました]
「我ながらエゲツないねぇ」
続けて発生させた【
人はいなかったが、ダンジョンについての情報が書かれた資料などがあったので、サッと【速読】する。
数秒で内容を把握すると、装備を普段の冒険者活動時の装備に変更する。
「さて、装備はフルでいこうか」
更にその上から【狩り屠る貪喰の竜王】のオーラを纏って貪喰竜鎧ファブニールを具現化させ、攻防一体の黒の全身甲冑姿になる。
そして使う武器は……〈
「待たせたな、エクス。この世界での初の使用が、邪教徒共の生命線であるダンジョン攻略というのは、俺達に相応しいだろう?」
俺の発言に反応して、ネックレス形態から長剣形態へと瞬時に変化したエクスカリバーが明滅した。
それを確認すると、エクスカリバーが有する七つの能力の一つ【
身体能力超強化に飛行自在、体力回復力超強化、魔力回復力超強化、精神干渉完全防御、各種耐性超強化など数々の強力な効果が俺に付与されていく。
神迷宮都市に向かう前に、この世界のダンジョンを体験出来る又と無い機会だ。
神造迷宮と幻造迷宮との違いを知ることも出来るし、ダンジョン踏破の経験も積めるので良いこと尽くしだな。
駄目押しとばかりに所持する各種身体強化系スキルも発動させてから、屯所の建物の外に出て空を見上げる。
「やはり、ここには監視の目は無いな。昼時まであと三時間余り……巻きでいくか」
用済みの屯所を暴食のオーラで処分すると、エクスカリバーを片手に今生では初のダンジョンへと足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇
ナチュア聖王国唯一のダンジョン。
ナチュアの民からは〈聖福の迷宮〉と呼称されるこのダンジョンは、神々が生み出した神造迷宮とは異なり、世界が生み出した幻造迷宮であるため、その最深部に存在する迷宮核を破壊されると消滅してしまう。
迷宮核の破壊を防ぐためではないものの、国内唯一のダンジョンというのもあり、この聖福の迷宮に他国の者が入ることを禁じている。
そもそもの話として、ナチュア聖王国には冒険者ギルドが無いため、ダンジョンに挑む主たる者達である冒険者も存在しない。
よって、聖福の迷宮内にいるのはナチュア聖王国の国民だけだ。
より正確に言うならば、〈ナチュア聖教〉の剣にして盾である聖教騎士団の騎士達のみと言うべきか。
彼らは日々、彼らが信じる神による恵みにして試練である聖福の迷宮に潜り、自らの力を高め続け、その富と戦果の証を持ち帰っていた。
そんな彼らの変わらぬ日々は、突如終わりを告げる。
聖剣の上位互換たる星剣を振るう強欲の勇者の手によって、進路上にいた彼らは何が起こったか分からぬままに焼滅した。
「【
黒と黄金色の剣身から放たれた黄金色の斬撃は、それが人であろうと魔物であろうと金属であろうとも、一切合切を等しく焼滅させる。
超高速でダンジョンの回廊を飛ぶリオンの進路上にいたのが不幸と言うべきか。
神器とも称される
「あっという間に第五階層か。全能力使用の力押しだからこその攻略スピードだな」
リオンが聖福の迷宮の攻略を開始して三十分が経っていた。
聖福の迷宮が全二十五階層であることを考えると、異常な速さだと言える。
一つの階層を進むのに平均して三時間ほど掛かるナチュア聖王国の者が知ったら、自分の耳を疑うのは間違いない。
「っと、ここがボス部屋か」
二十メートルはある巨大な扉を、リオンは【強欲王の支配手】で押して開き、空中に浮かんだまま入室する。
回廊と同じ材質の石製の壁に囲まれた大広間の中央には、石製の翼を持つ巨大な石柱があった。
リオンが大広間に入ると、強制的に扉が閉められる。
ゴゴゴッという音を立てながら柱の節々で別々に横回転しており、柱の全面に渡って眼のような理解出来る紋様から、理解が難しい幾何学的な紋様まで様々な紋様が描かれていた。
「【
石柱型の魔物へと向けられたエクスカリバーの剣先から、瞬時に巨大な光線が伸びていき、その巨大な石柱の身体を縦に真っ二つにした。
突き入れられた光刃の熱によって分かたれた左右の身体が爆散する。
完全にボスが死亡したのを確認すると光線が元の長さへと戻っていった。
このことから分かるように、【薙ぎ払う星の刃】は巨大な光線を放つ能力ではなく、基本能力【解放されし星の光剣】により形成されたエクスカリバーの光刃を伸縮させる能力だ。
その光刃の伸びる速さが速すぎて、光線のように見えただけだったのだが、瞬時に伸縮出来るならば、光刃だろうと光線と同じようにも扱えるだろう。
[スキル【紋章術】を獲得しました]
[スキル【奇紋遁甲】を獲得しました]
[スキル【死を招く眼】を獲得しました]
[スキル【夢幻へ誘う眼】を獲得しました]
「やっと新規スキルが手に入ったな。そして、これが宝箱だな?」
道中の魔物からは手に入らなかった新規スキルに喜ぶリオンは、トーテムポールのような
自らの近くに現れた宝箱に、罠などが仕掛けられて無いことを確認してから蓋を開けた。
「ほう……紛い物のダンジョンでこれか。神造迷宮の方にも期待が高まるな。それとも宝箱の中身の質は変わらないのか?」
宝箱の中には、敷き詰められるような量の金銀財宝に加えて、戦闘用と非戦闘用の魔導具が数点ずつ納められているのが確認出来る。
それらの品々の情報にザッと目を通すと、リオンはフロアボスの残骸と出現した宝箱を【
「宝箱の中身がコレなら、残り四体のボスを倒すだけでも充分そうだな」
そう言って今後の方針を決めると、リオンは再び空中に浮かび、フロアボスを倒したことで出現した通路を通って最深部へと向かって飛翔した。
その後もフロアボスに標的を絞って突き進む。
続く第十階層の深奥で待ち受けていたフロアボスは、黄金の翼を持つ白銀の巨猪だった。
リオンがフロアボスがいる空間に足を踏み入れた瞬間、蒼炎を纏いながら突進攻撃を仕掛けてきたのだが、【薙ぎ払う星の刃】を発動させたエクスカリバーの一振りで真っ二つになって討伐された。
身に纏う蒼炎は攻防一体の強力な炎だったのだが、エクスカリバーの光刃の前では意味を為さなかった。
[スキル【猪突猛進】を獲得しました]
[スキル【恐怖の嘶き】を獲得しました]
[スキル【蒼炎纒鎧】を獲得しました]
第十五階層のフロアボスは、透明感のある鱗と二対の翼を持つ、見上げるほどに巨大な大蛇だった。
色取り取りな光を放つ極彩色の水晶樹が多く生えるボス部屋の中を常に移動しており、体皮の色も変化させる能力や気配を消す能力を持つことから、隠密・奇襲に秀でたフロアボスであることが分かる。
フロアボスのサイズを基準にしても空間が広いため、巨躯であっても隠れながら移動することに不都合は無く、攻撃性能の高さも相まって通常ならば厄介な相手だろう。
だが、リオンには持ち前の感知力と直感力に、それらを強化・補助する【
それらのスキルによってフロアボスは一切潜伏出来ずに、素材価値の高そうな胴体を傷付けないように【首狩り】にて頭部を斬り落とすようにして討伐された。
[スキル【光学迷彩】を獲得しました]
[スキル【幻惑の極彩色】を獲得しました]
[スキル【領域同化】を獲得しました]
第二十階層で待ち受けていたのは、一対の白翼を持つ人間大の七つの浮遊球体を追従させる、直径五メートルほどの深蒼色の球体のフロアボスだった。
カラフルな色合いの七つの小球体には、色に沿った属性を内包した光線を放つ能力と、本体である深蒼色の大球体が受けた致命的なダメージを肩代わりする能力を持っている。
大球体自体には消費した小球体を再生成する能力と、自らの領域内を自由自在に転移する能力、強い光を放って目眩しを行う能力がある。
小球体が放つ光線の直径は二メートルにも及ぶ上に攻撃力が高く、速度も音速を超えているため、ここまで辿り着いた者でも対処することは難しい。
リオンはそんな球体群のフロアボスの懐に【先手必勝】を発動させてから飛び込むと、大球体が反応する前にエクスカリバーを縦横無尽に振るって全ての球体を斬り裂いてしまった。
[スキル【身代わり】を獲得しました]
[スキル【属性付与】を獲得しました]
[スキル【領域内転移】を獲得しました]
[スキル【極光の壊理】を獲得しました]
リオンが聖福の迷宮の攻略を開始して三時間弱が過ぎた頃。
リオンは最深部である第二十五階層の深奥にある
「あれが此処のラスボスか。やっぱり翼持ちなんだな」
というか最後は天使タイプか、と呟くリオンの視線の先にて、空間が滲み出るようにして天使タイプのダンジョンボス〈
体長十メートルの白い全身甲冑姿に三対の銀翼と三対の金翼。
五つの角があるようにも、星に似た型のようにも見える頭部の中央には深蒼色の宝珠と、それを囲む同色の菱形結晶の視覚素子が確認出来る。
頭部の上部に浮かぶ金色の天使の輪からは光の波動のようなモノが常に放たれており、おそらくは領域系強化能力だとリオンは推測した。
異様に大きい特徴的な両腕を持つことから、何かしらの能力の基点になることが窺える。
「避けたか。これまでのとは違うらしいな?」
ダンジョンボスであるセラフブラウが姿を現した瞬間、リオンは即座に光刃を伸長させたエクスカリバーを振るった。
だが、セラフブラウは神速で迫る光刃を紙一重で避けてみせただけでなく、頭部の深蒼宝珠から蒼い光線を放ってきた。
その攻撃を難なく避けつつ、これまでのボス級魔物とは違うようだと意識を切り替えたリオンは、一度刃の長さを元に戻すと、黄金色の星の光を宿す斬撃をセラフブラウに向けて放ち続ける。
セラフブラウの方も一撃でも直撃すると負けるのが分かっているのか、初撃の斬撃を回避してすぐに三対の銀翼を煌めかせて回避力を強化し、初撃より後の音速を超えて迫る斬撃の数々を見事に回避していく。
多少は余裕が出来たセラフブラウは、反撃とばかりに深蒼色の光剣を大量に生み出してリオンに向けて射出した。
「洒落臭い」
迫る光剣の弾幕に対して、リオンは【魔装具具現化】にて周囲に具現化させた魔剣を射出して全ての光剣を相殺していく。
黄金色の斬撃を避けていたセラフブラウはその結果を認識すると次は金色の翼を煌めかせた。
すると、ダンジョンボスの部屋である大広間の各所に金色の術式陣が形成され、そこから天使タイプの魔物が出現し、リオンに向かって襲い掛かる。
「召喚、いや顕現スキルか」
リオンはセラフブラウが攻撃を回避しながら天使達を生み出してきたことに多少驚きつつも、具現化魔剣の数を増やして天使達を迎撃する。
【紅蓮爆葬】も発動させて増援の天使達を爆殺していると、セラフブラウがその巨大な腕をリオンに向けて何かの能力を行使してきた。
だが、エクスカリバーの精神干渉完全防御を始めとした能力によって弾かれ不発に終わる。
攻撃が通じなかったことによる動揺なのか、セラフブラウの動きが一瞬だけ停止する。
その隙を見逃さなかったリオンは、【短距離転移】にてセラフブラウの背後へと瞬時に転移し、神速の振り下ろしによって天使の輪から股下までを一刀両断に斬り裂いた。
[スキル【星罰の光】を獲得しました]
[スキル【断罪の光剣】を獲得しました]
[スキル【破導の天手】を獲得しました]
[スキル【心導の天手】を獲得しました]
[スキル【星視る眼】を獲得しました]
[スキル【未来予測】を獲得しました]
[スキル【天の覇導】を獲得しました]
[スキル【天避の翼理】を獲得しました]
リオンが地に落ちたセラフブラウの死骸の傍に着地すると、これまでで最も巨大で豪華な宝箱が出現した。
「まぁまぁの相手だったな。さて、中身は何だろうか」
これまでに一度だけダンジョンボスは討伐されたらしく、ナチュア聖王国には当時の記録が残されており、その中には褒賞の内容ーー討伐後に出現する宝箱の中身についての情報も記されていた。
リオンはその情報のことを思い返しながら、普通車ぐらいのサイズの宝箱を開いた。
「ふむ……試行回数が少なすぎて断言は出来ないが、たぶん運気が関係してそうだな」
リオンが開けた宝箱の中には、過去の記録に記されていた戦果を上回る量と質の財宝が納められていた。
魔導具以外の財貨や宝石に貴金属だけでも人族基準で数世代遊んで暮らせる額になるだろう。
「伝説級一点は同じでも、それ以外は上回ってるな。伝説級一点は固定報酬なのだろうか……ま、いいか」
考察を一旦中止し、宝箱とセラフブラウを始めとした天使達の死骸を収納してから大広間の奥地へと歩を進める。
奥の壁に生まれていた先ほどまでは無かった通路の中を進むと、一分足らずで一辺五メートルほどの小部屋に辿り着いた。
その小部屋の中央には、流動する金色の粒子を内包した蒼と翠の入り混じった色合いの直径一メートル半ほどの球体が浮かんでいた。
「これが迷宮核か」
リオンは迷宮核を少しの間だけ観察すると、エクスカリバーで迷宮核を両断ーーする寸前でその動きを止めた。
「いや待てよ。もしかしたら可能かもしれないな。奪い解けーー【
リオンの持つユニークスキル【
その内包スキル【
リオンの両腕が指先から順に硬質な輝きを放つ黒に染まっていき、腕の表面にはカラスの翼のような紋様が浮かび上がる。
基礎レベルが上昇したことで一部のユニークスキルの制御力も上がり、以前のように肩部からカラスのような翼が具現化されることが無くなっていた。
緻密に制御されたことで強欲の力が圧縮され、強奪出力が増した手で迷宮核へと触れる。
すると、あっという間に迷宮核が粒子状に分解・吸収されていった。
[解奪した力が蓄積されています]
[スキル化、又はアイテム化が可能です]
[どちらかを選択しますか?]
[スキル化が選択されました]
[蓄積された力が結晶化します]
[スキル【迷宮創造】を獲得しました]
「狙い通りの力が手に入ったが、色々と条件があるみたいだな?」
リオンが自らの身に宿ったスキルの把握に務めつつ【強奪権限】を解除していると、聖福の迷宮が徐々に震えだした。
「深部から順に崩壊していくんだっけか。用は済んだし長居は無用だな」
エクスカリバーを再びネックレス形態に変化させたリオンは、崩壊が始まった聖福の迷宮を後にして地上へと転移した。
神がいる世界において、存在しない神を信仰する異端な国、ナチュア聖王国。
三百年以上の歴史を持つ宗教国家の落日は、今日この日に始まった。
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