第121話 機甲錬騎



 ◆◇◆◇◆◇



 黒弓〈破滅の真竜弓〉によって敵の主力を攻撃し始めて暫く。

 開戦から一時間が経とうとするタイミングで、本陣中央にある最も守りが堅い指揮所の建物から、アークディア帝国軍側の総大将である皇帝ヴィルヘルムが出てきた。

 周りには近衛騎士団を伴っており、ヴィルヘルム含めた全員が戦装束を纏った状態で戦闘馬ウォーホースに騎乗している。

 そのまま正門、つまり俺達がいる場所へと進んできたので、黒弓を【異空間収納庫アイテムボックス】に収納すると、マルギットとシルヴィアと共に外壁屋上から地上へと降り立つ。



「陛下。ご出陣でしょうか?」


「うむ。リオンの働きもあって懸念事項であった数の差も覆りつつある。戦場が膠着している今こそ好機と判断した」


「なるほど。では、そろそろ向こうもSランク冒険者を投入してくるかもしれませんね」


「ああ。だがその前にロンダルヴィアから派遣された機甲錬騎団を排除したい。伝え聞く機甲錬騎を相手にするには、一般の兵士達では荷が重いようだ。リオンには我らと共に戦場に出た後、先にそれらを出来るだけ潰してきてもらいたい」


「承知致しました。では、陛下達が距離を詰めるまでの囮役も兼ねて派手にいかせていただきます」


「ああ、方法は任せる。それと、合流前に此方にSランク冒険者が現れた際の連絡手段だが、この魔導具を渡しておく。今回の戦場ほどの広さならば問題無く使えるだろう」


「かしこまりました」



 ヴィルヘルムから手渡された、イヤホンマイクのような形と使い方の通信用魔導具を装着する。

 それにしても、ロンダルヴィア帝国の機甲錬騎か。

 少年心を擽ぐる搭乗型魔導兵器は、研究対象として是非とも実機を鹵獲したいものだ。

 集めた情報によれば、そこらの凡兵でも一線級の戦力になる、がコンセプトだったかな。

 少し前から戦場に現れた機甲錬騎は、【破滅魔弾】の破滅の矢に耐えられない強度しかないのだが、機能停止後に俺の攻撃によるものでは無い理由で崩壊していた。

 ラタトスク達が見聞きして集めた情報によると、今回派遣された分の機甲錬騎には鹵獲防止のために、全身に自壊術式が盛り込まれていることが判明している。

 なので、鹵獲する場合には倒し方に気をつける必要があるだろう。

 遠距離からでは無理だったが、近付けるなら簡単だな。


 【異空間収納庫】から三体のホースゴーレムを取り出す。

 このホースゴーレム達は、これまでにその場で即席で生み出して使っていたホースゴーレムとは違い、三体とも眷属ゴーレムの一種だ。

 黒いボディに金色の装飾が施された個体が、俺専用の生体金属式空陸両用ホースゴーレム〈グラニ〉だ。

 他の二体の、白いボディに銀色の装飾が施された個体が、パーティーメンバー専用のホースゴーレム〈グラーネ〉になる。

 今回、マルギットとシルヴィアには、リーゼロッテとエリンの分のグラーネに騎乗してもらう。

 帝都からイスヴァル平原までの間で、彼女達には試乗をしてもらっているため、慣れたようにそれぞれのグラーネへと騎乗する。

 俺もグラニに騎乗すると、自動的に手元に伸びてきた手綱を握り締める。



「リオンよ。全員に例の支援を頼む」


「承知致しました。ーー【救恤聖戦レリーフィング・ウォー】」



 全員の身体に黄金色の光が宿ると同時に、ユニークスキル【救い裁く契約の熾天使メタトロン】の内包スキル【救裁聖権サルヴェイション】の【救恤聖戦】によって、全員に強力な支援強化バフが付与される。

 体力魔力の自己回復力と全能力値を一時的に五割強化し、致命的な攻撃を一度だけ無効化する、という効果内容を開戦直前に教えられた近衛騎士達は、実際に身を持って体験する支援効果に驚愕しているようだった。


 ヴィルヘルムは実妹であるレティーツィアからこの能力のことを聞いており、事前に要請を受けていたので今回行使したわけだが、流石に付与対象が百人以上にもなると消費される魔力量も凄まじい。

 十分もすれば元通りになるだろうが、自然回復を待つ必要もないので【炎熱吸収】と【雷光吸収】を発動させて、降り注ぐ太陽光の熱と光をエネルギーに変換し、消費した分の魔力を速攻で回復させる。

 更にヴィルヘルムだけは、戦争に備えて俺が御用商人として紹介した商品である〈血製強化魔法薬:竜ブーステッド・ブラッドポーション・ドラゴン〉も服用して、その身を強化していた。


 全ての準備を済ませた一団は、僅かに開けられた外壁の正門から城外へと進み出た。

 戦闘中の帝国軍の後方を迂回して向かうのは、右翼の騎馬部隊のところだ。

 敵の騎馬部隊が半壊した後、左右の味方の騎馬部隊は数度に渡って敵陣の横っ腹に攻撃を仕掛けている。

 そこにこれまでの騎馬部隊よりも攻撃力のあるヴィルヘルム達が突貫し、一気に敵陣を擦り潰すのが狙いだ。

 右翼の騎馬部隊の隊長と情報の擦り合わせが行われると、すぐさま敵陣に向かって進軍を開始した。



「速さが求められるから、二人は陛下達と共に向かってくれ」


「分かった」


「気をつけてね」


「ああ、そっちもな」



 敵陣に向かう途中で、俺だけ進路を両軍が衝突する最前線へと向ける。

 標的である機甲錬騎は、現在は最前線で戦闘を行っており、破滅の矢では味方まで巻き込んでしまうため、攻撃は戦場に現れたばかりの時ぐらいしか出来なかった。

 だが、近距離ならば何の問題もない。



「囮役をこなすには派手にいかないとな」



 〈不滅なる幻葬の聖剣デュランダル〉の能力には、直接的な放射攻撃系の能力は無い。そのため、斬撃を飛ばしたり魔法かスキルを使う必要があるのだが、ここは試運転がてらスキル【万魔弾装の射手】を使うことにした。

 攻撃前に馬型眷属ゴーレムであるグラニに実装している【疾風迅雷】を発動させる。

 蹄が地を蹴るたびに雷を撒き散らし、風の鎧を纏っている黒馬は非常に目立つ。

 結果、王国軍の横合いへと突っ込んでくる俺に向かって魔法や矢が飛んできた。



「その程度の攻撃ではな?」



 向かってくる攻撃に対して一切の防御を行うことなく突っ込んでいく。

 当然ながら次々と攻撃が直撃するが、グラニの風の鎧は騎手である俺のことも守っているので、攻撃は防がれるか、その勢いを軽減される。

 中には風の守りを突き抜けてくる攻撃もあるが、下級相当の攻撃ーー自らよりも六十レベル以下の存在の肉体による物理攻撃や魔法攻撃、または希少レア級以下のアイテムによる攻撃ーーならば被弾しても【下級物理攻撃無効】と【下級魔法攻撃無効】の効果で一切ダメージを負わない。

 稀に下級判定では無い攻撃も混ざっていたが、そういった攻撃は【物理攻撃完全耐性】や【物理攻撃軽減】といった耐性スキルによって威力が減衰され、身体に纏う【魔装術】の魔力の鎧に防がれていく。

 仮にそれすら突破したとしても、次は身に付けている真竜素材製防具の出番になる。

 つまるところ、眼前の兵士達では戦いという同じ土俵に立つことすら出来ないのだ。



「耐性スキルや防具が無くても素の肉体だけで大丈夫だったみたいだな。運が悪かったと諦めてくれ」



 【万魔弾装の射手】によって周囲に生成された多種多様な球体型魔弾を射出していく。

 火炎、水冷、風塵、岩土、爆裂、氷凍、雷電、重力、聖光、暗黒などといった保有する魔法スキルの属性に由来する魔弾から、猛毒や強酸などのスキル合成の材料に使われたスキルの魔弾までが、次々と生み出されては放たれる。

 発動している【射出】【超狙撃】【乱射魔ハッピートリガー】により強化された魔弾は、寸分違わず王国兵にクリーンヒットし、その生命を無慈悲に奪っていく。

 稀にいる通常の魔弾にも耐えるような強めの兵士に対しては、【魔弾超過】で通常よりも多く魔力を消費して性能を強化した魔弾をお見舞いしておいた。

 魔弾以外にも、グラニによる風雷や体当たり、蹄による踏みつけによっても兵士達が粉砕されている。

 更に、【森羅万象ワールド・ルーラー】と【極光武葬】による放射攻撃も追加しておいた。既に過剰攻撃オーバーキル気味だったが、使いたかったのだから仕方ない。

 王国軍が形成していた強固な守備陣を薄紙のように破り、進路上の邪魔する全てを塵芥へと変えていった。


 マップ上に表示される標的に向かって突き進んでいると、やがて全長十メートルほどのずんぐりとしたフォルムの巨大な鎧巨人が現れた。

 この全身鎧を纏った巨人のようなのがロンダルヴィア帝国の搭乗式武装ゴーレム〈機甲錬騎〉だ。

 その巨体に合わせたサイズの無骨な大剣と大盾以外にも、両肩に設置された魔導砲、手首の部分にある魔導機銃などの銃器系魔導具の固定装備が搭載されている。

 それらの装備はサイズに恥じない攻撃力を有しており、前線で戦っている帝国兵にかなりの被害が出ていた。

 総合的な戦闘力はBランクの人型魔物ぐらいだろうか? 火力に関してはそれ以上のようにも見える。

 妖精騎士団などの名のある貴族麾下の騎士団がいる場所では、小隊規模の騎士達の尽力によって機甲錬騎が破壊されているようだが、全体的には機甲錬騎団の方が優勢のように見える。



「ま、高火力装備が満載だからな。グラニ、好きに暴れていろ。味方には攻撃するなよ」


「ブルルッ!」



 寡黙なタイプであるグラニの貴重な返事を聞くと、座っていた鞍を蹴って宙へと跳躍した。

 【狩猟神技】にある空中歩法能力で空中を駆け抜け、機甲錬騎との距離を一気に詰めていく。

 それに対して、眼前の機甲錬騎が王国兵への誤射を気にせず両肩の魔導砲を撃ってきたのには驚いたが、迫る魔力砲弾を鞘から抜き放ったデュランダルで割断し無力化する。

 あっさり防がれたことに焦ったのか、魔導砲だけでなく魔導機銃、秘匿していた火炎放射器などの内蔵兵器まで全弾発射してきた。



「おいおい。いくら自国の兵じゃないからって酷いもんだな……」



 直撃してもダメージは負わないだろうが、直撃の衝撃で吹き飛ばされるかもしれない。

 そのため、直撃する分だけをデュランダルで斬り払っていくのだが、それ以外の狙いが逸れた攻撃は周りの王国兵へと降り注いでいた。



「それもコレで終わりだ」



 伝説レジェンド級である聖剣デュランダルの刃の鋭利さの前には、機体の耐久性は脆いものだ。

 ロンダルヴィアの兵士が乗っている搭乗席コックピットの場所は【看破の魔眼】で見えているため、外側からデュランダルで兵士の心臓部を貫いた。

 と、同時にデュランダルの柄を握るのとは逆の手で機体の表面装甲に触れて、ユニークスキル【強欲神皇マモン】の【強奪権限グリーディア】を発動させた。



もらうぞ、その機体」



 【強奪権限】を使い、搭乗者死亡によって自動発動しようとしていた鹵獲防止の自壊術式に干渉し、その発動を強制的に停止させる。

 続けて、干渉中の自壊術式の一部を破壊することで誤作動や外部からの再発動も封じてから、デュランダルをコックピットから引き抜いた。



「鹵獲完了、っと」



 機甲錬騎から飛び降りると、【強欲王の支配手】でその巨体を浮かせて【異空間収納庫】の黒穴へと収納する。



「これで最低限の目的は果たしたが、機体ごとに違いがあるかを確かめたいな。他の機体も鹵獲するか」



 勇ましく剣や槍を振りかぶって襲い掛かってくる王国兵達をデュランダルを振るって両断しつつ、次の標的の位置をマップで確認する。

 思念で呼び出したグラニが王国兵達を蹴散らしながらやって来るのを認識しつつ、視線を王国軍の後方へと向ける。

 すると、視線の先にて、王国軍の頭上へと天から白金色の雷が大量に降り注いできたところだった。



「ふむ。ソルトニスの【天雷招来】も問題無く使えるみたいだな」



 【千里眼】の視界の先では、雷光聖剣ソルトニスを振るって王国軍を蹂躙しているヴィルヘルムの姿があった。

 他にもアレクシア達近衛騎士もヴィルヘルムに近付く敵を排除していっている。

 マルギットとシルヴィアもそこに混ざって、ヴィルヘルムとアレクシアに次ぐぐらいの活躍を見せていた。



「敵の本陣もヴィルヘルムの存在を認識したか。あまり時間は無いが、緊急性も無いな」



 依頼主ヴィルヘルムに危機が迫っているならグラニに乗らずに動くのだが、現状ではそこまでの事態には至っていない。が、少し巻きで動く必要はありそうだった。

 道中をショートカットするために、グラニに実装している【狩猟神技】で障害の無い空中を駆け抜け、上から魔弾を降らせながら次の機甲錬騎へと襲撃を仕掛ける。

 王国軍の本陣に潜ませているラタトスクから送られてくる情報に意識を向けつつ、機甲錬騎を無力化し鹵獲していった。



[スキル【一滅一射】を獲得しました]

[スキル【全弾発射フルバースト】を獲得しました]

[ジョブスキル【操縦士パイロット】を獲得しました]

[ジョブスキル【整備士メカニック】を獲得しました]





 

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