第111話 地下鍛錬場 後編



 ◆◇◆◇◆◇



 屋敷の地下に鍛錬場を作った一番の利点は、やはり外部から見えない点にあるだろう。

 これまでに築いた情報網によれば、様々な勢力が俺達の情報を欲していることが分かっている。

 それは日課の朝練でも同様であり、シェーンヴァルト邸に滞在していた時は、情報漏洩の観点からかなり控えめに行っていた。

 そのため、この地下鍛錬場に限らず屋敷の敷地内全域の防諜は最低でも皇城に匹敵するレベルだと自負している。


 物理的に視認出来ない地下鍛錬場の防諜レベルは特に高く、ここでは先ほどのリーゼロッテとの模擬戦のように今までの環境下では出来なかったことを行うことが出来る。

 今やっているコレもその一つだ。



「……魔物を生み出せるってチートよね?」


「さっきも似たようなことを聞いたな」



 【上位アンデッド顕現】によって目の前に生成された一体の〈裂傷の不浄騎士ラサレイション・アンデッドナイト〉がいた。

 そんな棒立ち状態のアンデッドナイトに【極光掃射】を浴びせて消滅させる。



[スキル【疲弊無き戦闘行動】を獲得しました]



「うん。やはり経験値とスキルが得られるな」



 これまでは気軽に使える機会も場所も無かったのと、顕現スキルを解除した場合は倒した扱いでは無かったから気付かなかったが、どうやら顕現スキルで生み出した魔物を倒してもスキルと経験値が得られるらしい。

 ただ、自らが生み出した生成体だからか、得られた経験値は本来の値よりは少ない気がする。あくまでも直感でしかないが、おそらくあっているだろう。

 続けて、その場に残っていたアンデッドナイトが持っていた〈呪われし裂傷の騎士剣〉を拾い、能力を剥奪する。



[アイテム〈呪われし裂傷の騎士剣〉から能力が剥奪されます]

[スキル【衝撃裂傷】を獲得しました]



「こっちも問題無く成功、っと」



 新たに生み出したアンデッドナイトに軽く抜け殻の騎士剣を振るい、それを同じ騎士剣で防御させる。

 その衝撃を受け止めた瞬間、発動させていた【衝撃裂傷】によってアンデッドナイトの肉体に裂傷が発生した。



「うーん、防御無視に近いか? いや、外皮の耐久性次第では通じないか。まぁ、基本的に対人用かな」



 再度アンデッドナイトを倒してから、次は〈死鎧騎士デスナイト〉を生み出した。



「二人にはデスナイトと戦ってもらう。目的は、スキルで生み出した生成体から経験値を得てレベルアップ出来るかどうかの検証だ」


「分かりました……以前戦ったアンデッド組織のデスナイトよりも強いように感じられます」


「術者のステータス次第で生成体の種類やレベル上限が変わるみたいだからな。それが理由だろう」



 俺には称号やら加護やらユニークスキルやらが多数あるため、実際の基礎レベルよりもかなり上のステータスをしている。

 その影響を受け、生成したデスナイトの基本性能も高くなっていた。

 高レベルにするとその分だけ魔力消費量も増えるが、総量からすれば大したことはない。



「取り敢えずは一体ずつかな。それじゃあ、好きなタイミングで始めてくれ」



 俺の意思に従い、デスナイトが少し離れた場所に移動してから剣と盾を構えた。

 エリンも刀型魔導具マジックアイテム〈退魔刀アマツ〉を構えて【光装闘衣】を発動させる。その背後からカレンがエリンに魔法による複数の支援強化バフをかけていく。

 エリンが纏っている防具は以前の軍服風ワンピースから変わっており、動きやすさと耐久性を重視したレザージャケットとレザーパンツになっている。

 胸元の開いたインナーシャツは俺の【万能糸生成】で生み出した特別な糸で縫製されており、見た目以上に着心地が良い上に丈夫で質も良い。上着とパンツに使われている革も風竜系である深緑竜の竜皮から作られているため、薄くてもかなり頑丈だ。

 退魔刀との組み合わせもあって全体的にカッコいい系なのだが、身体のラインが分かるタイトなデザインであるため、エリンのスタイルの良さが際立って多分にエロさが増している。



「リオンはああいうのが好きなのですか?」


「動きやすさと耐久性を考えた結果だぞ?」



 俺の視線で気付いたのか、心を読んだかのようなリーゼロッテからの質問に慌てることなく答える。



「好きか嫌いかで答えてください」


「……まぁ、好きだな」


「そうですか。では、私の分もああいうのを作ってください」


「今の防具の方が性能が上だから要らないだろ」


「この下に、インナーとして着れるような薄手の物なら無駄にならないと思います」


「んー」



 確かに今のリーゼロッテのインナーは魔導具じゃないから一考の価値はあるか。



「リオン好みのデザインでお願いします」


「……取り敢えず性能や素材と相談だな」



 せっかくだから、現在開発中のパワーアシスト機能付きインナー型魔導具〈強化服〉の試作品を流用して作ってみるかな。

 ボディスーツとか全身タイツ、所謂ぴっちりスーツ的なデザインだからリーゼロッテの要望には応えられるだろう……個人的には物凄く見たい。今夜見せてもらおう。

 半分ぐらいは遊びで作った物だが、リーゼロッテが言ったように既存の防具の下に追加で身に付けられるという利点がある。あとは全身をほぼ覆うから必然的に防御力や保温性が上がるのも利点か。

 素材が俺のスキル頼りなため生産性は低いものの、身内だけで使うならば問題は無い。

 全身タイプやら競泳水着タイプやら幾つかデザイン案があるし、テスターがてらリーゼロッテだけでなくエリン達にも着せてみるか。


 そんなことをリーゼロッテと話している間に準備が整ったようで、初手にエリンが仕掛けた。



「ハッ!」



 腰だめに構えた状態から振り抜かれた斬撃がデスナイトへと放たれる。

 光属性を帯びた飛ぶ斬撃はアンデッドであるデスナイトには効果抜群だ。

 そのことを理解しているデスナイトが黒いオーラを纏わせた大剣で飛んできた斬撃を撃ち落とした。

 エリンはデスナイトの大剣を持つ右手とは反対側に素早く回り込みつつ、退魔刀アマツに魔力を込めて一時的に斬撃の強化を行う。

 それを黙って見るわけがないデスナイトが身体の向きを変えようとするが、その動きを遮るようにカレンが『光槍ライト・ジャベリン』を放って防御行動を取らせる。

 デスナイトが光槍を打ち払った時には懐にエリンが潜り込んでおり、第一撃で大盾を持つ左手を斬り落とす。流れるような第二撃で左足も刈り取ると、俺の教えを守って深入りせずに一旦距離を取った。

 一息で敵の腕と機動力を奪ったことで一気に優位になったところに、エリンが再び斬撃を飛ばし、カレンが光槍を連射した……これ、決まったんじゃないか?

 そんな予想を裏切ることなく、光属性の斬撃と魔力槍が片足を失って倒れ込んだデスナイトに炸裂し、そのまま灰になってしまった。

 デスナイトは攻撃を打ち払おうとしていたが、片足と片腕を共に左側を失ったことで体勢が限定されていた上に、数の多い光槍は正面から、飛ぶ斬撃は背後からと前後に挟まれて放たれたことでどうすることも出来なかったようだ。



「あらら。もう終わってしまったか」



 一番の勝因は属性的な相性が良かったことだが、想像以上にエリンの動きが速かったことも大きい。

 脚力然り、刀を振る速さ然り、動きのキレ然り。

 最近のエリンは朝練時に自主的にランニングなどもしていたので、その成果が出ているのかもしれない。

 他にも、私生活の変化によって心身に活力が満ちているのも関係ありそうだ。

 手足を斬り落として後退する一連の動きも、以前のアンデッド恐竜との戦いの時よりもキレがあった。

 勿論、毎日魔法の練習を行っていたカレンによる魔法のサポートも勝因の一つだ。



「エリンの動きも良かったが、カレンも良いタイミングで魔法を当てたな」


「えへへ。そう?」


「ああ。今みたいな感じで頼むぞ。二人共ちゃんと経験値が得られているようだし、レベルが上がるまでドンドンいこうか」



 そこからデスナイトを十五体倒したところで二人のレベルが上がった。【超成長】のような成長系スキルがあればもっと早かったんだろうけど、普通はこんなものか。



「リ、RTAリアルタイムアタックをさせられてる気分だったわ……」



 息絶え絶えな状態のカレンがそんなことを言っている。

 攻撃開始から討伐までの平均タイムは大体十秒ほど。最後は八秒を切っていたのでベストタイムを更新していた。

 合間に息を整える時間を取っていたため、全部で二十分かからないぐらいか。

 


「流石にソレらには勝てる気がしません」


「まぁ、完全に格上だからな」



 カレンよりも体力のあるエリンが乱れた呼吸を整えながら、俺の横へと視線を向ける。

 レベルアップの検証も終わったので、コレを最後の一体にしよう。

 【命狩り奪る死神の刃デスサイズ】によって剣身に黒い燐光を纏わせたデュランダルを振り抜き、【上位天使顕現】で傍に生み出した無機質な形容の人型天使を両断した。

 エリンとカレンが戦っている間、その様子を観ながら片手でデュランダルを振るい、顕現スキルで生み出した生成体からスキルを回収し続けていたのだ。

 


[スキル【光熱線】を獲得しました]

[スキル【天の重圧】を獲得しました]

[スキル【天翼翅弾】を獲得しました]

[スキル【天翼翅絶】を獲得しました]

[スキル【光子吸収】を獲得しました]

[スキル【飛翔の心得】を獲得しました]

[スキル【守護天使の剣防術】を獲得しました]

[スキル【物理ダメージ貫通】を獲得しました]

[スキル【魔法ダメージ貫通】を獲得しました]

[スキル【天の言葉】を獲得しました]

[スキル【破滅の天使】を獲得しました]

[スキル【救済の天使】を獲得しました]

[スキル【天空の支配者】を獲得しました]

[スキル【天使の守理パワー・オブ・エンジェル】を獲得しました]

[スキル【大天使の伝理パワー・オブ・アークエンジェル】を獲得しました]

[スキル【権天使の権理パワー・オブ・アルケー】を獲得しました]

[スキル【能天使の戦理パワー・オブ・エクシア】を獲得しました]

[スキル【力天使の天理パワー・オブ・ヴァーチェ】を獲得しました]

[スキル【主天使の監理パワー・オブ・ドミニオン】を獲得しました]

[スキル【座天使の物理パワー・オブ・スローネ】を獲得しました]

[スキル【智天使の管理パワー・オブ・ケルヴィム】を獲得しました]

[スキル【熾天使の力理パワー・オブ・セラフィム】を獲得しました]


[特殊条件〈天使大量討伐〉〈天使の天敵〉などが達成されました]

[スキル【天使種殺し】を取得しました]



 棒立ち状態の多種多様な天使タイプの魔物を数十体ほど倒した結果、大量の新規スキルを手に入れた。

 ただ、自らが生み出した魔物な上に、無抵抗状態を倒しただけなので、魔物の格の高さと数の割りには得た経験値は少ない。

 獲得した新規スキルの数も思ったほどの数では無く、経験値と同様に生成体だから強奪できる確率が低くなっている可能性がある。

 もっと倒せば分かるかもしれないが、面倒だし腹も減ったので、そのうちやるとしよう。今は恒例のスキル整理を兼ねた合成だけをしておこう。



[スキルを合成します]

[【天使の守理】+【大天使の伝理】+【権天使の権理】+【能天使の戦理】+【力天使の天理】+【主天使の監理】+【座天使の物理】+【智天使の管理】+【熾天使の力理】=【天使長の神理パワー・オブ・ロード】]

[【物理ダメージ貫通】+【魔法ダメージ貫通】=【防御貫通】]

[【雷電吸収】+【光子吸収】+【雷光耐性】=【雷光吸収】]

[【限界突破】+【限界制御】=【限界超越】]



 生成体が初めから身に付けていた武具は、大半が似たようなやつばかりだったから【無限宝庫】に収納だけしておく。加工してから店頭で売っても良いし、素材に使うも良し。勿論、能力を剥奪するのもアリだろう。

 素晴らしきかな、顕現スキル。

 天使系とアンデッド系以外の魔物の顕現スキルも手に入れたいところだ。

 経験値獲得の検証は出来たし、【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】で全ての魔物の死骸を回収してから地上に上がって朝食を食べるとしよう。




 

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