第101話 折れた剣の修復とアヴァターの検証



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーあっ」


「ん?」



 残党の討伐に参加して間も無く、近くで戦っていたレティーツィアの思わず零れたかのような声が聞こえた。

 気になって振り返るとレティーツィアが使っていた細剣が折れていた。

 剣が折れても問題無さそうに周囲に浮かせた黒い魔力剣でアンデッドを滅多斬りにしているが、その絶世の美貌は驚愕の表情で硬直したままだ。



「大丈夫か?」


「……大丈夫じゃないわね」



 レティーツィアに話しかけている間にもデュラハンが斬り掛かってきたので、その剣を避けて反撃とばかりにデュランダルで逆袈裟懸けに斬り捨てる。



「そんなに大事な剣だったのか?」


「大事と言えば大事かしら。Sランクになってからはずっと使っていたからね」


「まぁ、帝都に戻ったら職人に修復してもらうしかないな」


「……いないのよ」


「職人が?」


「ええ。少なくとも帝都に伝説レジェンド級を修復出来る職人は私が知る限りはいないわね」


「今まではどうしてたんだ?」



 エリン達の背後に回り込んでいたアンデッドの一団を、【極光掃射】で手のひらからレーザーのような極光を放って纏めて消し去る。



[スキル【暗黒弾】を獲得しました]


[特殊条件〈アンデッド大量討伐〉〈アンデッドの天敵〉などが達成されました]

[スキル【不浄種殺し】を取得しました]



 レティーツィアも具現化させた魔力剣を飛ばして、別のアンデッド達を滅ぼしつつ会話を続ける。



「以前一度だけ折れた時は、小国家群の方にいる凄腕の職人の元へ行って直して貰ったの。剣が戻るのに数ヶ月かかったわね」


「結構時間かかるんだな」


「帝都から距離があるから移動にかかる時間も込みよ。前に修復してからかなり経っているから折れるのも仕方ないわ……職人が今も存命か調べるところからね」



 ざっと情報を視る限り迷宮秘宝アーティファクトみたいだし、他の職人の手が入ってるならちょっと見てみたいな。



「ふーん。レティさえ良ければ俺が直そうか?」


「……一応言っておくけど、これって伝説級のアーティファクトよ?」


「みたいだな。とても興味ある逸品だから、元通り直すついでにその構造や術式を見させてもらいたいんだ。駄目か? 修復代金はその剣の解析許可と今回のアンデッド退治で得た戦利品のうちレティの取り分を半分でいい」


「元通りに直るならそれで構わないけど……」


「それは良かった。帝都に戻るまでに急ぎで直すよ」


「えっと、念のため聞いておきたいんだけど、一体何処で直すの?」


「帰りの馬車の中だけど?」



 何やら再び固まったレティーツィアを放置して、近付いてきていたデスナイトを袖の中で具現化してから放ったグレイプニルで拘束して近くに引き寄せた。

 拘束されて動けないデスナイトに対して、ユニークスキル【救い裁く契約の熾天使メタトロン】の【聖裁炎武】で生み出した黄金色の炎を放って一瞬で焼滅させる。

 最後のアンデッドを滅ぼしたことをマップで確認してから、足元に転がっていたレティーツィアの細剣の破片を拾い上げた。



「帝都に戻るまでって言うけど、そんなに早く直せるものかしら?」


「壊れたばっかりで破損した箇所の術式の劣化もまだ無いからな。ふむ……レティーツィアのスキル、たぶんユニークスキルだろうけど、剣を触媒にして発動する技とかがあったりする?」


「あるわよ。骸骨竜もそれで倒したわ」


「折れた直接的な原因はそれかな。ユニークスキルによる負荷が一点に集中し過ぎて耐えられなかったんだろう」


「よく分かるわね。瘴気の鎧を抜けた先の竜骨が思ったよりも硬かったから出力を上げたのよ。アレが悪かったのね」


「まぁ、他には劣化していたのもあるけど、主な原因はそれだな。リーゼはよく倒せたな?」


「いつも通り凍らせてから砕いただけですよ。まぁ、凍りにくくて時間はかかりましたので、その間は敵の攻撃を避けながら氷塊をぶつけて弱らせたりしてました」


「あー、氷塊による打撃か。なるほどね。ま、取り敢えず剣は預かるよ」



 戦闘が終わって近くに来ていたリーゼロッテに尋ねるとそんな答えが返ってきた。ま、無事だったならそれで良い。

 レティーツィアから折れた剣を預かると、辺りに散らばるアンデッドの残骸を浄化しながらマルギット達の元へと向かう。



「生きてるか?」


「見ての通り生きてるわ」


「リオンの魔法でダメージを受けていてもキツい相手だったぞ……」


「レベルは十も離れていない上に相性の良い攻撃手段もある。それに一人じゃなかったから大丈夫だっただろ?」


「前衛陣は全員が攻撃無効化のバフを消費するぐらいにはギリギリだったけどな」


「それはそれは。怪我は無いようで何よりだよ」


「くっ。バフが無かったら間違いなく無事じゃなかっただろうから強く出れないっ」


「ここだけでレベルが二つも上がったわね。全体で見ても五つも上がったし……暫く連戦は勘弁願いたいわ」



 精魂尽きたように座り込んでいるマルギットとシルヴィアから愚痴を吐かれた。

 敵の数と質もだが、環境的にもハードだったから愚痴ぐらい言いたくもなるか。

 レティーツィアと言葉を交わしてるのを見る限り、ユリアーネは比較的平気そうに見えるな。高レベルなのと遊撃という役割の違いだろう。



「エリンとカレンはこの中で一番レベルが低かったけど、大丈夫だったか?」


「どうにか、無事です……」


「……」



 疲労困憊ながら受け答えをするエリンと、緊張の糸が切れた際に意識を手放したのか、エリンの膝を枕にしてカレンが寝落ちしていた。

 レベルが上がっても身体は変わらず子供なので、大人よりは体力が少ないため仕方ない。



「ご主人様、カレンが申し訳ありません」


「いや、構わないさ。寝かしといてやれ……敵もいないし、馬車だけ先に出しとくか」



 【異空間収納庫アイテムボックス】から魔導馬車を引っ張り出して、カレンは車内で休ませることにした。

 それから周辺の浄化を済ませた残骸を集めて七人で検分を行なう。

 剣などのまだ使える物と人型アンデッドの骨などのいらない物とに分け、いらない物は【発掘自在】で空けた穴の中に放り込んで焼却処分にした。


 首魁であるアークリッチが持っていた収納系魔導具マジックアイテムの中にあったアンデッドの組織の情報に繋がる品々は、収納アイテムごとレティーツィアに渡してギルドと国に提出してもらう。

 あとは今回の戦利品を各パーティーごとに分け終えてから、魔導馬車に乗って帝都へと飛び立った。

 ちなみに、アンダレイにはレティーツィアの方で連絡を入れておくらしいので、真っ直ぐ帝都への帰路に就くことが出来た。



 ◆◇◆◇◆◇



 戦闘の疲れを癒す目的で寝ていたカレンも含めた女性陣を車内の浴室へと送り出してから、レティーツィアから預かった剣の修復を行うために自室に篭る。



「そうだ。今のうちに試しておくか。【化身顕現アヴァター】」



 目の前に黄金の魔力が一瞬集まると、次の瞬間には俺自身が形成されていた。正確には、俺の分身体が形成された。



「……俺の視界から俺が見えるのは変な感じだな」



 眷属ゴーレムの視界から見えるのとはまた違ったリアルな感じだ。

 どうやら分身体を動かすのも本体の意思によるものらしく、身体は複数生成することが出来るが、精神や自我自体は複製出来ず本体のものだけのようだ。

 つまりは、身体は複数あっても考える頭は一つしかないというわけだ。



「十全に動かすには分身体用に【並列思考】で思考を分ける必要があるな」



 【情報賢能ミーミル】で分身体を調べたところ、どうやら全能力値が本体の七割ほどしかないこと以外は本体と何も変わらないらしい。だからスキルはユニークスキルも含めて使用可能だ。

 【無限宝庫】や【異空間収納庫】といった収納空間は共通なようで、分身体が収納した物を本体の方で取り出すことが出来た。

 分身体生成に消費される魔力量は、一体生成するごとに一割消費し、その使った一割は分身体がある間は回復しない。

 加えて、分身体が使用する魔力は本体が持っている魔力と共有だ。

 このあたりはスキルが共有なのと同じ事情らしい。


 そのため、この能力を使うと本体の魔力を減らすことに繋がるので乱用は出来ないが、元々の規格外な魔力量を考えれば一、二体程度ならば問題無い。

 ただし、性能を七割から更に落とせば生成の際に消費される魔力量も減らせるみたいなので、人手が必要な時などは重宝するだろう。

 また、分身体も普通に血を流したり腹が減ったりはするらしく、死体も他の顕現スキル同様に任意で解除しない限りはこの世界に残り続けると思われる。

 試しに解除してみたところ魔力の粒子になって分身体が消えたので、そのあたりも他の顕現スキルと同じのようだ。


 他のことも調べてみよう。

 再び分身体を作り、その血を採取する。

 それを二つの瓶に分けて、片方を【血製秘薬】を使って秘薬化する。

 その後に顕現状態を解除すると、秘薬の方は残ったが、もう一方の瓶の中に入っているただの血は分身体と共に粒子になって消えた。

 【化身顕現】で生み出した分身体から得られた素材も、他の顕現スキルから得られた素材同様に、一定以上の加工が成されないとスキル解除時に一緒に消えてしまうのが確認できた。

 獲得したばかりの【上位アンデッド顕現】で生み出したスケルトンから採取した骨で試してみたが、素材単品である骨、剣に加工した骨、術式を刻み魔剣にした骨の三パターンを用意してからスケルトンを解除したら骨製魔剣のみが残った。

 ふむ。見た感じでは消えない基準は同じぐらいか。



「次に強さだが、本体の七割というなら、単純にレベルだけで考えれば大体六十三の時の性能になるはずなんだが、実際には八十ぐらいの時の性能があるみたいだな」



 レベル九十時に【覚醒者アルティマ】と〈黄金蒐覇〉で一気に能力値が上がったおかげだろう。

 とはいえ、スキルはそのままでも本体より弱いのは間違いないので過信は禁物だ。

 疲労は分けた思考を通して本体に伝わるみたいだし、使わない時はなるだけ解除しておこう。

 【化身顕現】の総評としては多用は出来ないが、暗躍とか生産といった思考のみでは出来ない肉体が必要な作業、つまりは雑務を本体とは別で行う時に便利なスキルってところか。

 今後〈黄金蒐覇〉を高めていく際に役立ってくれることだろう。



「さて、アヴァターの検証はこれぐらいで良いとして剣の修復に取り掛かるか。【復元自在】を使えば一発だけど、偶には自分の手でやらないと腕が鈍る。ただ折れただけならちょうど良い。気合いを入れて修復しよう」



 そうボヤきながら収納空間から取り出した携帯鍛冶場の中に入っていった。

 その後、帝都に着くまでに剣の修復を終わらせることが出来た。

 修復しながら解析した術式は中々興味深いモノだったので、能力の確認がてら同じ術式を使ったアイテムを作ってみるのも良いかもしれないな。



[スキルを合成します]

[【勇猛豪胆】+【血流操作パンプアップ】+【竜血強身ドラゴン・ブースト】+【鬼帝の豪血体エンペラー・ストレングス】=【英勇王の戦錬血操】]

[【甲殻強化】+【防盾光壁】+【破魔鎧装】+【拒絶鎧壁】=【聖錬鎧殻】]

[【破魔金剛】+【暗黒鎧気ダークネス・オーラ】=【混沌鎧気ケイオス・オーラ】]

[【勇光聖闘気】+【混沌鎧気ケイオス・オーラ】=【聖神闘鎧気】]



 

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