第100話 旧アンダレイでの戦い 後編
◆◇◆◇◆◇
尖兵のアンデッド達を迎撃した後は遺跡の中央へと進んだ。
初戦から更に二度の襲撃があったが、それら全てを退けて昼を過ぎた頃に目的地である中央エリアへと辿り着いた。
「結界か。こうして目の前で見る限り、かなり頑丈そうだな」
遺跡内で最も広い中央広場を中心に数百メートルの範囲が黒い結界で覆われていた。
向かっている途中でこの結界が張られてしまい、【千里眼】で内部を見ることが出来なくなったため中で何が待ち受けているかは不明だ。
「頑丈そうだけど、破壊するしかないわね」
「ああ、それは俺がやろう。でもその前に全体を強化しておくか、【
俺を含めた全員に発動エフェクトである黄金色の光が宿っては消える。
【救恤聖戦】は【
これで味方全員の体力魔力の自己回復力と全能力値が一時的に五割強化され、致命的な攻撃を一度だけ無効化する祝福が与えられた。
「……とんでもない効果ね。有効距離と時間はどのくらいかしら?」
「少なくとも同じ戦場内なら大丈夫なはずだ。時間は一時間は確実で、発動時に通常よりも消費する魔力を増やせば倍ぐらいにまでは延びるかな」
「本当に破格の効果ね。これならこの先で待ち受けてる相手でも問題ないわ」
「まぁ、個人的には明確な弱点が無い生前の方が強そうだけど」
「フフッ、そうかもね。じゃあ、お願いできる?」
「了解」
直接触るのはなんか嫌だったのでデュランダルの剣先で結界に触れ、その接触面から【発掘自在】を発動させて黒の結界を強制的に解除させた。
解除した瞬間、結界内部に充満していた瘴気が噴き出してきたので、【
「今のは……」
「俺のスキルで瘴気を処理したんだよ」
「さっきの
「我ながら秘密が多くてね。レティは秘密が多い男は嫌いか?」
「謎めいた人って私は好きよ。秘密を一つ一つ解き明かす楽しみがあるもの」
「リオンに秘密があっても私は構いませんよ。まぁ、私は既に色々知ってますけど」
「リーゼはリオンの秘密を知ってるのね?」
「ええ。少なくともレティよりは知ってますよ」
「私よりも付き合いが長いなら知っていて当然じゃない?」
レティーツィアに対抗するようにリーゼロッテが主張したかと思ったら、何故かマウントの取り合いが始まった。
「アレらを前にして三人とも余裕ね」
「三人にとっては脅威じゃないんだろうな。話しながらも攻撃を防いでるし……」
マルギットとシルヴィアが言うように、瘴気が晴れた先には敵の本隊が待ち構えていた。
中心には敵の首魁らしき〈
アークリッチの周りには先ほどまで儀式の補助を行わされていたアンデッド化した神官達もいた。
他には重装備の冒険者や元神殿騎士らしき者がアンデッド化した〈
〈
目立った人型アンデッドはこれぐらいかな。
元人類種な人型アンデッド以外は、初戦で遭遇したアンデッド恐竜が三体いるのが目立つぐらいで、あとは有象無象の他の魔物製アンデッドが全部で百体余りほどいる。
リッチ達による攻撃魔法を暴食のオーラで防ぎつつ敵側の戦力の把握を行う。
取り敢えず今のうちに転移封じの『
「さて、さっきの充満していた瘴気で多少強化されているみたいだし、数も事前情報よりも増えてるから少し間引くぞ。『
敵の戦力を確認しながら【並列思考】で構築していた戦術級神聖魔法を発動させた。
アンデッド達の頭上に瞬時に巨大な魔法陣が展開され、そこから虹色に輝く巨大な光の槍が全部で十二本地上に降り注いだ。
直撃したアンデッドは即消滅。地面に着弾すると、その場所から虹色の光の波動が辺りに撒き散らされ、一定以下の力しかないアンデッドはそれだけで灰になっていく。
[スキル【穢れ無き信仰】を獲得しました]
[スキル【一心不乱】を獲得しました]
[スキル【冷静沈着】を獲得しました]
[スキル【上級騎士の剣魔術】を獲得しました]
[スキル【冥導崩斬】を獲得しました]
[スキル【
[スキル【重装騎士の身のこなし】を獲得しました]
[スキル【魔法共導】を獲得しました]
[スキル【狂竜怒涛】を獲得しました]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[保有スキルの
[ジョブスキル【
[マジックスキル【火炎魔法】がマジックスキル【業炎魔法】にランクアップしました]
[マジックスキル【聖光魔法】がマジックスキル【煌天魔法】にランクアップしました]
【聖光属性超強化】によって通常より強化されているのもあって、これだけで大半のアンデッドを退治することが出来た。
「……なるほど。さっきの黒い結界はアークリッチの魔法、いや、杖の能力だったわけか。レティが東の方で倒した首魁らしき奴って、アレと比べてどっちが強い?」
「同じアークリッチみたいだけど、装備的にもこっちが上かしらね」
「そうか。ならアレが本物の首魁かな?」
まぁ、【
「あの結界で防がれてアークリッチと骨竜は無傷か。それ以外は七、八割は潰せたな。残ってるのも魔法の余波を受けて弱ってるし、今がチャンスか」
『天上の聖裁槍』を受けて、アークリッチの近くにいた分の神官アンデッドと二体のリッチに十体のデスナイトは無事だが、離れた場所にいたリッチ三体と神官アンデッドは全滅。デュラハンは八体が残り、結界の外にいたデスナイトは十体が健在。アンデッド恐竜などの他の魔物製アンデッドはほぼ全滅している。
「それじゃあ相性的にアークリッチは俺がやろう。骨竜二体はそれぞれリーゼとレティに任せた。残る皆は五人でパーティーを組んでから、魔法も使えるデュラハン、丈夫なデスナイト、その他のアンデッドの順で倒していってくれ。リーゼ達も骨竜を倒したらデュラハンから順に倒してくれ。じゃあ、そういうことでよろしく!」
手早く指示を出し終えると、体勢を立て直して行動しようとするアークリッチ達に向かっていく。
行く手を阻もうとするデスナイトをデュランダルで一蹴し、飛び掛かってきたデュラハンを斬撃を飛ばして正中線で真っ二つにする。
「断ち斬れーー〈
認識しているならば、一日に四度だけ天すらも斬ることができるこの力を使い、杖の厄介な結界形成能力自体を割断した。
人やアイテムに限らず、この能力で割断された能力は丸一日使用不可能になる。これで少なくともこの戦闘中は使用が出来なくなった。
デュランダルの鍔に四つある紫紺色の宝珠の一つが光を失ったのを確認しつつ、周りのアンデッドを斬り裂いて道を切り拓き、飛行魔法を使って地面を滑るようにして後退するアークリッチを追いかける。
それを妨げるように、左右から瘴気の鎧を纏った骨竜が人を容易く潰せそうな骨手で攻撃を仕掛けてきた。
しかし、俺の後方から極寒の冷気の衝撃波と黒い魔力剣の雨が放たれ、それぞれの骨竜へと襲い掛かりその動きを封じ込めた。
どうやらリーゼロッテとレティーツィアが追い付いてきたようだ。後は二人に任せて俺はアークリッチへと向かった。
「クッ、オノレ……ッ!」
結界を張ろうとして出来ないことに気付いたアークリッチの骨の顔が歪んだような気がした。
アークリッチ自身の魔力が活性したのを感じとり注視していると、アークリッチが状態異常系を主体とした様々な魔法を連続発動させてきた。
即死から始まり、猛毒、麻痺、気絶、睡眠、催眠、呪詛、火傷、凍結、感電、腐蝕、裂傷、苦痛、酸化、混乱、混濁、魅了、狂乱、精神汚染
レティーツィアは分からないが、リーゼロッテだったらいくらかは通じそうなほどに多種多様な魔法の数々を、デュランダルの基本能力である【割断聖刃】のみを使って襲い掛かってくる魔法を全て叩き斬っていく。
先ほどの【四天割断】とは異なり、発動済みの魔法や物などの既に目の前に存在しているモノしか斬ることが出来ないし、有効なのもデュランダルの刃が届く範囲までだ。
だが、基本能力なだけあって使用回数に制限は無いため、後は使用者である俺の剣の技量次第。
アークリッチが行使した全ての魔法を蹴散らしながら彼我の距離を更に詰めていく。
【停止の魔眼】を使って動きを止めたいところなんだが、瘴気を纏っていて直視出来ないし、アークリッチ相手ではたぶん
とはいえ、理由もなく長々と戦闘を引き延ばす趣味は無いので、速度を上げるために【疾風迅雷】を発動させた。
風と雷による強化を受けて瞬く間に距離を詰めたが、その瞬間アークリッチの身体から数多もの瘴気の刃が放たれてきた。
初撃を反射的に避けると、追撃に放たれてきた二撃目以降はデュランダルで斬り払う。
「瘴気を操る種族スキルか」
速度を緩めた此方に向かって攻撃魔法が飛んでくるが、その全てを斬り捨てて再び距離を詰める。
瘴気の刃や衝撃波、様々な攻撃魔法が放たれてくるが、デュランダルを振るう俺を止められるわけがなく、今度こそ終わり……いや、【
どうやらこの先の広場に罠が仕掛けられているらしい。
【高速思考】により加速した思考内でそのことに気付いたが、特に危険は感じないし、むしろチャンスだと【第六感】は感じている。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。いや、別に危険では無いだろうから少し違うか?
そんなことを考えつつ、アークリッチを追って広場に入る。
その直後、地面から大量の瘴気が天に向かって噴き出してきた。
ふむ……なるほどね。これは確かに致死量の瘴気だな。
「カッカッカッ! オロカナリ、ユウシャヨ。ワガヒガンヲジャマシテクレタレイハ、ンガッ⁉︎ ナ、ナンダ、コノクサリハ⁉︎」
「ーー【
「バカナ……ッ! ナゼコノショウキノアラシノナカデブジナノダ⁉︎」
「この程度の瘴気の濁流は
「イッタイナンノ、グオッ⁉︎」
瘴気の嵐の外で高笑いしていたアークリッチを【貪り封ずる奪力の鎖】で具現化した黄金の鎖を伸ばして捕縛した。
そのまま瘴気の嵐の中にグレイプニルで拘束した状態で引き摺り込むとそのまま首を掴み上げる。
そういえば人のことを勇者呼ばわりしていたけど、聖剣で判断したのかな?
「あと、今の俺に瘴気は意味が無いんだ。この世界のスキルって便利だよな」
普段は発動を切っている【魔瘴吸収】を発動させて周囲の瘴気を全て吸収し、体力や魔力などのエネルギーへと変換して回復する。
地面に予め仕込まれていた魔法陣からは変わらず瘴気が噴き出しているが、【
「……バカナ。キサマハ、ホントウニニンゲンナノカ?」
「この程度のことで非人間扱いされても困るんだがな。ま、いいや。さっさと終わらせよう」
【悪辣器用な手癖】と【強奪権限】を使って目の前のアークリッチの杖などの装備や所持しているアイテムを素早く且つ強引に剥ぎ取っていった。
ものの数秒で作業を終わらせると、アークリッチに無理矢理魔力を注ぎ込んでいく。
「ナ、ナニヲスルッ⁉︎」
「何って、俺の魔力は爆薬兼起爆剤にも出来るみたいだから、それを使ってみるだけだよ。ちょうど良い相手がいて嬉しいよ」
「ヤ、ヤメ」
「アンデッドが命乞いとは笑えないな」
そう告げてから【紅蓮爆葬】を発動させた。
一瞬後にアークリッチの身体を起点に旧アンダレイを揺るがすほどの大爆発が起こり、アンデッド組織の首魁であるアークリッチは爆炎の中で木っ端微塵になって消えていった。
[スキル【至高の死手】を獲得しました]
[スキル【下級物理攻撃無効】を獲得しました]
[スキル【上位アンデッド顕現】を獲得しました]
[スキル【儀式の心得】を獲得しました]
[スキル【結界の心得】を獲得しました]
[スキル【魔法熟達】を獲得しました]
[スキル【闇夜の支配者】を獲得しました]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[マジックスキル【死冥魔法】を獲得しました]
[経験値が規定値に達しました]
[スキル【爆裂耐性】を習得しました]
大爆発は当然ながら俺の目の前で起こったわけだが、俺には【炎熱吸収】に【物理攻撃完全耐性】などの耐性系スキルがあるので無傷だ……痛みは多少あったけど痣も残らないレベルでしかない。
身に付けている防具も真竜の素材で作られているので軽く焼け焦げるだけで済んだ。その焦げも【復元自在】ですぐに元通り。
爆炎とその後の燃焼によって周囲の酸素が失われたが、【酸素不要】があるのでこれまた問題無い。
「……唯一の失敗は使う魔力が多すぎたことだな。まぁ、大体の程度は分かったから次に活かせるか。あ、討伐証明は無事だったのか。少し罅は入ってるけど頑丈だな」
事前に装備とアイテムを剥ぎ取っておいて良かった。何気に拘束に使っていたグレイプニルも無傷だった。意図せず耐久実験が出来たな。
なお、アークリッチの討伐証明である心臓部の宝珠は、リッチの物よりも濃い赤色だった。
グレイプニルを解除して宝珠を回収し、周囲の炎と熱を吸収して消火する。
念の為ここら一帯を神聖魔法で浄化し終えてから駆け足でリーゼロッテ達の元へと向かった。
[基礎レベルが規定値に達しました]
[ジョブスキル【
[覚醒称号が贈られます]
[覚醒称号〈黄金蒐覇〉を取得しました]
[基礎レベルが規定値に達しました]
[ユニークスキル【
[スキル【ミーミルの導き】が使用可能になりました]
[スキル【
皆のところへ向かう道中で【情報通知】を見返す。
レベルが九十に達したところで新たな力を手に入れた。
特に気になるのは【覚醒者】と〈覚醒称号〉とやらだ。
これまでに集めた情報によればSランク冒険者も上級と下級とに分けられるらしく、その上級Sランクの証がレベル九十になって手に入るこの二つの力の存在だ。
【覚醒者】はジョブスキルの中でも身体能力値への補正力がかなり高く、これが有るか無いかで身体能力の差がかなり出てくる。
そして覚醒称号だが、これは個々人の固有特性みたいものらしい。
俺の〈黄金蒐覇〉は読んで字の如く、『黄金を蒐集することで覇者となる』のような効果を持っている。
この場合の黄金とは、そのまま貴金属の金のことではなく、黄金の価値があるモノになる。
つまりは、『自らが保有している金銀財宝や魔導具などの財産、スキルの数と等級、社会的地位や知名度など、形の有無に関わらず凡ゆる“価値あるモノ”があればあるほど、全ての能力値が増大する』という意味になる。
おそらく、この覚醒称号の効果が発動する条件や増大する値は結構シビアなはずだ。
だが、現時点の俺の保有スキルや財産、そして冒険者としての知名度などは条件を満たしていたらしく、〈黄金蒐覇〉の効果が反映された結果、全能力値が一気に増大した。
今の身体能力ならば【疾風迅雷】を使わずとも逃げるアークリッチに追い付けたに違いない、と思わせるほどに素晴らしい効果だ。
唯一の欠点は、知名度といった見ず知らずの他人も関わるモノもあるから、どのくらいの黄金で能力値が上がるかを検証出来ないことか。
「一度増大した能力値は永続的にそのままみたいだし、条件も〈強欲〉とは相性抜群だな。お、リーゼとレティはちょうど終わったところか」
氷漬けにされた上で砕かれた骨竜と、バラバラに斬り裂かれた上で所々が粉砕されている骨竜の残骸が眼下に見えた。
周囲の建造物も凍り付いていたり、家屋が完全に倒壊していたりしている。
骨竜の傍にはリーゼロッテとレティーツィアがおり、様子を見るにほぼ同時に討伐したようだ。
こちらに気付いた二人に手を振り返すと、今エリン達が戦っている個体以外のアンデッドを掃討しに向かう。
日が暮れ始める前には終われそうなので、今日中には帝都に戻れそうだ。
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