第83話 午前、シェーンヴァルト邸にて
◆◇◆◇◆◇
「ようこそ、戦神の鐘の皆様。私の名前はオリヴィア・アウロラ・シェーンヴァルト。ここにいるシルヴィアの母です。この度は娘を救っていただき感謝致します」
シルヴィアの実家であるシェーンヴァルト家を訪問した俺達は、使用人に案内されて屋敷の談話室へと通された。
そこには、シルヴィアとマルギットの二人だけではなく、シルヴィアの母親であるオリヴィア・アウロラ・シェーンヴァルトもいて、娘達と共に俺達を出迎えてくれた。
種族はハイエルフ。娘と同じ明るい金色の長髪に、トパーズのような透明感のある金色の瞳、芸術品のように整った顔立ちをした二十代後半ぐらいの外見の金髪金眼の長身美女だ。
娘のシルヴィアも美人だがタイプが違う。
シルヴィアは格好と口調の所為もあって女騎士なカッコいい系の美女なんだが、オリヴィアは全体的に穏やかな雰囲気の母性感漂う優しい系の美女だ。
あとは……デカい。
身長も高めではあるが、彼女を見たら何よりもまずその立派な胸部に目がいってしまうだろう。
服越しではあるが見慣れているリーゼロッテのよりも大きそうだ。
胸が凄い一方でウエストは細くて脚は長く、大変グラマラスなスタイルをしている。
胸元が開いたデザインのドレスを着ているため、より一層視線が惹きつけられてしまう。
リーゼロッテとは違うタイプだが、オリヴィアの見た目も雰囲気もメチャクチャ好みだった。
我ながら
ま、顔には出さないし露骨に胸に視線を向けたりしないけど。
「初めましてシェーンヴァルト様。Aランク冒険者のリオン・エクスヴェル名誉男爵です。そしてこちらが仲間のリーゼロッテ・ユグドラシア名誉騎士爵。そしてエリンとカレンです」
「久しぶりですね、オリヴィア。そして、其方の二人は初めましてですね。リーゼロッテ・ユグドラシア名誉騎士爵です。リーゼロッテとお呼びください。以前はソロでしたが、今はリオンとパーティーを組んでいて、個人的に
奴隷の身なので黙礼だけするエリンとカレンとは違い、リーゼロッテは初見であるシルヴィアとマルギットに対して意味深な自己紹介をした。
というかコレって、なんかマウント取ってないか?
「そ、そうですか。シルヴィア・シェーンヴァルト名誉騎士爵です。私もシルヴィアでいいです。リオンには身体を治してもらいまして、とても世話になりました」
「……マルギット・アーベントロート名誉騎士爵です。私もマルギットと呼んでください。リオンと共に依頼を受けた際に命を救われました」
わざわざ俺を引き合いに出して自己紹介しなくても……まぁ、三人の共通事項と言えば俺だから不思議ではないのか?
シルヴィアの顔は若干引き攣ってるし、マルギットは表情が変わらなくて何か怖い。
オリヴィアは三人の様子を面白そうに見ていて、残るエリンとカレンは場の空気に若干怯えている。
うん……場の空気を変えよう。
「えっと、シェーンヴァルト様。私はお嬢様を名前で呼んでいたのですが、この場でも名前呼びでも構わないでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。シルヴィアから言い出したのでしょう?」
「はい」
「だったら問題ありません。それにしても男嫌いだったシルヴィアがねぇ……あ、私のこともオリヴィアと呼んでね?」
「いえ、流石に失礼かと思いますのでーー」
「リーゼロッテのことはリーゼって呼んでるのに?」
「あー、いえ、それはですね……」
「やっぱりそうよね。こんな年上の未亡人のオバさんを名前呼びは出来ないかぁ」
「何を言ってるんですか。一目見てシルヴィアのお姉さんかと思ったほどに若くて美しいですよ」
いや、ホントに。エルフなどの長命種は凄いと改めて実感した。
胸も肌も綺麗で張りがあって若々しく、大きな娘がいるとは思えないほどだ。
というか年上云々を言ったら、この場ではエリンとカレンを除けば皆俺より年上になる。
それに俺はステータス上と肉体的には二十二歳だが、転生してからまだ三ヶ月程度しか経っていない。
つまり、ある意味では俺って零歳児なので、エリンとカレンですら年上と言えなくもなかったりする。
オリヴィアの実年齢はステータスで知っているが、前の異世界の長命種の基準で考えればまだまだ若い。この世界の長命種の基準では分からないけど。
見た目も二十代で、長命種的に若者の範囲に入るであろうオリヴィアをオバさん呼ばわりなんかしたら、年の近いリーゼロッテもそうな……なんか寒気がしたな。これ以上考えるのはヤメヨウ。俺は年上の女性が大好きです。
「あら、お世辞でも嬉しいわ」
「私は女性を褒める際には嘘を吐かない主義なので、お世辞ではありませんよ」
これは前世からの俺のポリシーだ。
だから茶化すでもなく真剣な顔で答える。
「……エクスヴェルさんは、年上の女性はお好きかしら?」
「大好きですね、あ痛っ」
「何故、オリヴィアを口説き始めてるんですか?」
横に座っているリーゼロッテから強烈な肘打ちを食らった。
俺の防御力でも普通に痛みを感じるほどの肘打ちに、思わず視線を横に向けると、極寒の視線が返ってきた。
身体が震えそうになるが、それしきでは俺は屈しない。
「そんなつもりは、ぐっ。あ、私のことはどうぞ、リオンとお呼びください。エクスヴェルだと言いづらいでしょうから」
「それなら、私のこともオリヴィアと呼んでくれる?」
可愛い感じにお願いしてくるオリヴィア。うん、可愛い。
そこまで言われたら答えは是だ。
「分か、痛っ、分かりました。では、オリヴィアさん、っと呼ばせていただきます」
「じゃあ、私もリオンさんと呼ばせてもらうわね」
「ええ、分かりました」
リーゼロッテから激しい妨害を受けたが、オリヴィアと少し親しくなれた気がする。
「……嬉しそうですね、お母様」
「あら、そうかしら?」
「随分と機嫌が良い様に見えますよ」
「気のせいよー」
頬に手を当て、明後日の方向に視線を逸らすオリヴィア。
偽わりの無い正直な気持ちで接したのだが、どうやら娘に指摘される程度には好感触のようだ。
最近は常時発動させている【百戦錬磨の交渉術】と【親愛】のおかげだろうか?
「あ、そういえば。シルヴィアとマルギットもAランクに昇級したんだな。おめでとう」
「あら、ありがとう。リオンはオリヴィア様に夢中で、私達のことは忘れたのかと思ったわ」
「ハハハッ。そんなわけないさ」
「どうかしら」
微笑を浮かべてはいるが、マルギットの目が笑ってない。
どうやらマルギットの機嫌はよろしくないようだ。
会話はしてくれるようなので、どうにか宥めるとしよう。
「昇級試験を受けたのは、タイミング的には帝都に戻ってからか?」
「ええ、そうよ。元々昇級試験を受けられるだけの実績はあったから、いつでも受けられたの。シルヴィアの体調が安定するのを待つために先延ばしにしていただけよ」
「一人でも試験は受けられたのに、優しいんだな」
「どうせ試験を受けるなら、気心知れた相手と一緒の方が良かっただけよ」
「別に照れなくていいのに」
「照れてない」
「大丈夫。マルギットが優しいのはちゃんと知ってるから」
「何が大丈夫なのよ……」
呆れたような口調だが、恥ずかしいのか顔を逸らすマルギット。
シルヴィアが患っていた呪いの治療手段を探すために、一人で商隊の護衛依頼を受けて遠出するぐらいの優しさがあるからな、マルギットは。
「確かにマルギットには世話になってるな」
「だろ?」
「ああ。マルギットが一人でアルグラートに行くと言い出した時は、どうやって止めるか悩んだよ。だが、マルギットがアルグラートに向かおうと思わなかったら、リオンと出逢うこともなかった」
「言われてみればそうだな」
「結果論でしょう」
「そうかもしれないけど、マルギットがリオンに私の事情を話してくれたから私の身体も治ったんだし、マルギットには感謝しかないよ。改めてありがとう、マルギット」
「……どういたしまして」
左には悪気の無い笑顔で感謝を告げるシルヴィアが、右には暖かい目を向ける俺がいるから顔を逸らすことが出来ず、誤魔化すようにお茶を啜るマルギット。
髪と瞳と同じように頬が赤く染まっている。
凛々しい武人系美女の照れ顔が大変可愛いです。
よくよく考えたら、シルヴィアのスキルを正常化させた報酬として受け取ったスキルが、今の【
人の縁がどう繋がるか分からんものだ。
それから、遠慮して大人しくしていたエリンとカレンも入れて五人で談笑する。
リーゼロッテはオリヴィアと近況報告を兼ねて歓談中なので放置でいいだろう。
「へぇ、リオンって馬車を持ってるのか」
「ああ。馬車を引くのはホースゴーレムだし、ある程度は自律行動できる。だから御者はいなくてもいいんだが、御者無しで走ってたら目立つだろ?」
「ゴーレム馬車自体はあるけど、確かゴーレムの自己判断能力はそこまでの性能はなかったはずだ。馬型ゴーレムってだけでも目立つのに、御者がいなかったら更に衆目を集めるだろうな」
「だよなぁ。ま、そういった理由でエリンとカレンを購入したわけだな。ちなみに御者に奴隷を使う案はリーゼの提案だ」
ちゃんと言っておかないと、俺が女奴隷好きの変態と思われるかもしれないからな。
「御者に少女を選んだのは何故なんだ?」
「リーゼがいるからだな。男だとデメリットが大きいし、同性でも魅了されるようなのは駄目だから、巡り巡って二人を選んだわけだ」
「なるほど……まぁ、確かにリーゼロッテさんって綺麗だからな。例え隷属術があっても精神的に異性はアウトか。私はあそこまでの美人を見るのは二人目だよ」
シルヴィアから気になる情報を聞いたが食い付かないぞ。
そのもう一人とやらには心当たりがあるし。
「二人は行く当てが無いそうだから、解放代を稼ぎ終えて奴隷じゃなくなってからも行動を共にする予定だ」
「ご主人様からの数々のご配慮には妹共々感謝しております」
「感謝しています」
エリンはいつも通りだが、カレンが他所行きの顔で喋るのには違和感があるな……こうしていると残念美幼女には見えない。
「ふーん。話から察するに二人も冒険者になってるのね?」
「はい、仰る通りです、アーベントロート様」
「長いからマルギットでいいわよ。そっちのカレンもね」
「私もシルヴィアで構わない」
「で、ですが……」
「良いって言ってるから、奴隷のうちは私的な場だけ名前呼びで良いんじゃないか?」
「……かしこまりました。マルギット様、シルヴィア様」
「お名前で呼ばせていただきます、マルギット様、シルヴィア様」
恐る恐る名前を呼ぶエリンとカレン。
貴族令嬢と奴隷という身分差があるから、気軽に呼ぶのは流石に無理かな。
「ええ、よろしく。それでリオン。二人の解放代はあとどのくらいなの?」
「二人併せての購入だったから、あと二万オウロ弱だな。神造迷宮に行く前には解放しときたいから、帝都を発つのは早くてもそれからだ」
「神造迷宮か……そういえば
「そうだな」
「あ、そうなんだ?」
「今ならまだしも、以前の私の状態では色々不都合があったからな……」
「なるほど」
神迷宮都市とは、そのまま神造迷宮がある迷宮都市のことだが、そこは国内外から良くも悪くも人が多く集まる場所だ。
実力が伴わない訳ありの貴族令嬢だけで向かうには、確かに少々リスキーか。
「神迷宮都市では何か目標でもあるのか?」
「目的か? そりゃあ、レベル上げるためにダンジョンに行ったり、色々と金稼いだり、アイテム集めたりして好きに過ごすことだよ」
「ある意味、理想的な迷宮都市の冒険者像だな」
「実際のところはただの自由人ね」
「まぁ、長期的にはSSランク冒険者になるっていう、一応の目標はあるぞ。まずはSランクにならないといけないけど、それは時間が解決しないと無理だからな……」
「そうなの?」
「実績は十分だけど、冒険者になって日が浅いから慣例的に難しいんだとさ」
まぁ、ランクは上げられなくてもレベルは上げられるから、そこまで困らないんだけど。
「ご主人様の今の実績って、単独での竜殺しが一番有名ですよね」
「うんうん」
エリンの言う通り、それが一番認知度が高いだろうな。
「他にも数百体規模のオークコロニーを二人で殲滅したのよね?」
「あ、知ってるんだ」
「私の家は武官系だから。国を脅かすようなレベルの魔物関連の情報は自然と入ってくるのよ」
「なるほど」
「だからつい最近も、迷宮都市ヴォータムであったダンジョン・スタンピードで大活躍したことも聞いているわ」
「耳が早いな」
武官って言うからには、アーベントロート家は国の軍部に影響力があるんだろうな。
ダンジョン・スタンピードなら下手したら軍や騎士団が出張る事態だろうし、そのあたりで情報網が構築されていそうだ。
「あ、そうそう。今日の昼からも時間はあるのよね?」
「ああ。手紙にも書いてあったから空けてるぞ」
「昼からは、このまま私の家に行くからよろしくね」
「アーベントロート家に?」
「ええ。父が会いたいそうなのよ」
「まぁ、良いけど……何用だろう?」
敵の攻撃で猛毒に罹ったマルギットを助けたお礼だろうか?
「噂の竜殺しの力を知りたいんだと思うわ」
「えー」
「嫌そうね」
「だって闘うんだろ?」
「ご名答」
「メリットが無いなぁ……」
「軍の重鎮だから覚えが良くなるかもよ?」
「嬉しくないな」
「でしょうね。ま、何なら何か要求したら? よっぽど無茶な内容でも無い限り聞いてくれると思うわ」
「ふむ。そういうことなら考えておこう」
個人的に価値を感じない報酬だったら嫌だが、自分である程度選べるなら話は別だ。
まだ空手形だが、娘であるマルギットが言うならほぼ間違いあるまい。
何がいいかな……アーベントロート家の爵位は確か侯爵だったっけ。
それなら、戦闘用
でも、模擬戦だけで魔導具を要求するのは、流石に要求し過ぎか?
物じゃなくて、何かしら便宜を図ってもらうのも良いだろう。
まぁ、その便宜自体が思い付かないのが問題なんだが。
取り敢えず、皆と話しながら【並列思考】で何かしら考えておくとしよう。
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