第80話 地方との違い
◆◇◆◇◆◇
帝都エルデアスにある冒険者ギルドには、冒険者達の互助組織という一面以外にも、アークディア帝国の各地の冒険者ギルド支部を取り纏める本部としての役割がある。
そういった理由からか、本部である建物は、これまでに見た冒険者ギルドの中でも最も大きい。
外観もそうだが、内部も広々としており、大変清潔感がある内装をしている。
入り口から入ってすぐのロビーのイメージは、前世の役所などの公的機関の建物のロビーだろうか。病院やホテルのロビーとはちょっと違う感じだ。
受付カウンターに並ぶ際も、地方のギルドでの流れとは異なる。
入り口の方に設置された
何というか、同じ冒険者ギルドでも、地方と都会でここまで違うとは思わなかったな。
「こちらが依頼の成功報酬になります。ご確認ください」
そう言って受付嬢から差し出されたトレイの上にある硬貨の数を確認する。
「はい、確かに」
「他に何かご用はおありですか?」
「帝都にいる他の冒険者へ帝都に着いたことを知らせたいのですが、手紙の配達は可能ですか?」
「ギルドの方に滞在を知らせているならば可能です。此方の書類に相手方の名前と冒険者ランク等の記入をお願いします。手紙の配達は有料になりますが、構いませんか?」
「大丈夫です」
書類に必要事項を記入し、用意しておいた手紙と一緒に手渡す。
「……念の為ですが、この方々とは本当にお知り合いなのですか?」
連絡を取る相手はBランク冒険者のシルヴィアとマルギット、そしてSランク冒険者であるレイティシアの三人だ。
シルヴィアとマルギットの二人の居場所、というか実家の場所は【
レイティシアに関してはマップ上を検索しても居場所が分からないのと、まぁ同じように礼儀云々が理由だ。
これまでに集めた情報から、レイティシアの正体はほぼ分かっている。
予想通りなら、いきなりお宅に訪問するのは絶対無理だ。
【情報蒐集地図】で見つけられないのは、以前会った時にステータスが見抜け無かったのと同じで、何らかの情報を偽装・隠蔽する手段がある所為だろう。
【
Sランク冒険者ならば、そういった強力な偽装アイテムを持っていても不思議ではない。
「二人とは依頼を共にした縁で知り合ったんです。残る一人とは偶然知り合いましてね。帝都に着いたら会う約束をしていたんですよ。先方に私の名前を伝えれてくれれば分かるはずです」
広いロビーにはそれなりに人がいる。
中には聞き耳を立てている者もいるだろうから、個人名は伏せた上で説明する。
この受付嬢の反応から推測するに、ギルド本部の方では三人の身分を一職員までもが把握しているようだ。
そんな美女三人に連絡を取りたいと要請する他所から来た男性冒険者……まぁ、怪しいかな?
背後に美女と美少女姉妹を引き連れているのも怪しい一因かもしれない。
「そういう事情でしたら、分かりました。お受け致します」
「ありがとうございます」
相手に訴えかけるような表情を意識して作り、追加で【百戦錬磨の交渉術】【親愛】を発動させてから弁明した甲斐があったようで、どうにか信じて貰えた。
先程までは警戒心があったのかお堅い感じだった受付嬢が、若干表情を柔らかくして受け取った書類を処理していく。
そんな受付嬢の様子を見たからか、背後にいるリーゼロッテから脛をつま先で軽く蹴られた。
ゴブリンの頭部が陥没する程度の威力があったが、俺の対物理防御力と防具の前ではノーダメージだ。
宥めるように、前を向いたままリーゼロッテの手をポンポンと軽く叩くと、ガシッと手を捕獲され、そのまま手を絡まされた。
「あ、またイチャつきだした」
ボソッと呟かれたカレンの発言を聞き、されるがままだった手を離した。
まぁ、傍から見たらそう見えるよな。というか、“また”って何だ。“また”って。
どちらかと言うと弄られているのに近い気がするんだが……あ、そうだ。
「手紙を渡す際に、今日から明後日にかけては用事があって連絡が付かないかもしれない、とも伝えてもらえますか?」
「かしこまりました。先方には滞在先を伝えても構いませんか?」
「はい」
今日明日はのんびりしたいし、明後日の商談はどのくらいかかるか分からないからな。
余裕を持って伝えておくのがいいだろう。
「では、此方はお預かり致します」
「よろしくお願いします」
代金と手紙を渡してからカウンターを離れる。
周りから向けられる視線をスルーし、依頼が貼られている掲示板前へと移動した。
「帝都内の依頼は……微妙かな?」
「市民からの雑用委託系が主ですね」
「他は護衛系がありますけど……」
「護衛系は二人だけでは無理だからな」
「はい。やっぱり受けるなら野外の採取依頼でしょうか?」
「そうだな。帝都近くならそこまで強い魔物はいないようだし、二人なら群れに囲まれなければ大丈夫だろう」
エリンとカレンの二人だけで向かわせるなら、幾つか保険をかけておく必要がある。
武器と防具は今のままでも良いから、それ以外だな。
「ま、今日のところは確認だけだし、そろそろ出ようか」
今日は帝都に着いたばかりなので依頼を受けるつもりはない。
明日も服選びがあるし、明後日の俺とリーゼロッテがいない時にでも受けさせるか。
「このままホテルですか?」
「いや、その前に武具と魔導具を見に行こう」
「そういえば先程場所を聞いていましたね」
ベルン会長との雑談の中で、帝都にある魔導具が手に入る店の場所を聞いておいた。
帝都は広いので、魔導具を取り扱う店も相応に存在しており、今日中に全部を見て回るのは不可能だ。
そのため、品揃えが豊富だったり、希少な魔導具を扱っている店を幾つか教えてもらった。
一部は一般人お断りの高級店らしいが、Aランク冒険者であり、名誉男爵位である俺がいるなら大丈夫なんだとか。
他にも、闇組織の者達から奪った記憶の中にあった、訳アリの品を売買する隠れ魔導具店もあるが、そこはそのうち一人で行こうと思う。
宿泊先のホテルまでの動線にベルン会長から聞いた店を加える。
運の良いことに、ギルドから見たら全ての目的地が同じ方角だった。
一つ一つはそこまで離れていないし、このまま徒歩で向かうとしよう。
「何か掘り出し物あるかなー」
「国の首都ですからきっとありますよ」
リーゼロッテはそう言うと、横に並んで腕を組んできた。
ただでさえリーゼロッテがいることで周囲の視線を集めていたが、それらからの視線の圧が更に増す。
周りに見せ付けるかのようなリーゼロッテの行動に何か言おうと思ったが、別に困るわけではないし今更かと思い直し、そのまま好きにさせることにした。
「リーゼさんって積極的だよね」
「そうね」
「エリンお姉様も反対側に行けば?」
「今は邪魔しない方が良い気がするから遠慮しておくわ」
「【直感】?」
「【直感】と【危機感知】よ」
俺達から少し距離を空けて、小声で話し合う姉妹の会話を聞き流しつつ、帝都の街並みを歩いて行く。
それから複数の武具屋と魔導具店をハシゴしてからホテルへと辿り着いた。
◆◇◆◇◆◇
夕暮れ時に着いたホテルは、この世界に来てから最も高級な宿泊施設だった。
前世のホテルのイメージに近く、宿泊する部屋に備えられている魔導具の効果を踏まえれば、前世以上かもしれない。
この世界でも文句無しの高級ホテルのようで、周りも富裕層といった格好をした者達ばかりだ。
俺達の格好は冒険者活動時に着る装備であるため、一見浮いているようではあるが、よく見れば質の良い高級品だと分かる。
そのため、宿泊するにあたっては何の問題もなかった。
「さて、夕食前に今日の戦利品を頂くとしようか」
【無限宝庫】から今日手に入れた魔導具を取り出し自室のベッドに並べる。
魔導具から能力を剥奪するのは久しぶりだ。
まずは【
それから複製品を一つずつ残して、全てを収納してから【
[アイテム〈天煌魔花の霊薬〉から能力が剥奪されます]
[スキル【生命力超増強】を獲得しました]
[スキル【魔力超増強】を獲得しました]
[スキル【霊薬生成】を獲得しました]
[アイテム〈勇猛なる蛮族の秘薬〉から能力が剥奪されます]
[スキル【勇猛豪胆】を獲得しました]
[スキル【
[アイテム〈魔狼の指環〉から能力が剥奪されます]
[スキル【魔狼顕現】を獲得しました]
[アイテム〈身代わりの護符〉から能力が剥奪されます]
[スキル【身代わりの宝珠】を獲得しました]
[アイテム〈見えない手の手袋〉から能力が剥奪されます]
[スキル【
[アイテム〈類稀なる解体大包丁〉から能力が剥奪されます]
[スキル【生物解体】を獲得しました]
[スキル【刀身浄化】を獲得しました]
[アイテム〈
[スキル【影葬牙衝】を獲得しました]
[スキル【
[アイテム〈
[スキル【多重鱗壁】を獲得しました]
[スキル【流水皮膜】を獲得しました]
これで良し。あとは、解析も終わったし、コレらからも強奪しておくか。
ついでに部屋にある魔導具も一部複製して頂いておこう。
[アイテム〈
[スキル【破魔金剛】を獲得しました]
[スキル【武装破壊】を獲得しました]
[スキル【魔法破壊】を獲得しました]
[アイテム〈
[スキル【拒絶魔刃】を獲得しました]
[スキル【対象拒絶】を獲得しました]
[スキル【拒絶鎧壁】を獲得しました]
[アイテム〈ドウキン社製室温調整機〉から能力が剥奪されます]
[スキル【気温調整】を獲得しました]
[スキル【湿度調整】を獲得しました]
[アイテム〈テュープ社製空気清浄機〉から能力が剥奪されます]
[スキル【空気清浄】を獲得しました]
さてさて、何か良いスキルの組み合わせはあるかな?
新たなスキル合成について思案していると、部屋の外から声を掛けられた。
「リオン、用事は終わりましたか? 食事に行きましょう」
「ああ、分かった。今行く」
部屋の外からの呼び掛けに応えると、抜け殻になった複製品を回収してからリーゼロッテ達と合流し、ホテル内にあるレストランに向かった。
その後、夕食で食べた料理はどれも非常に美味だった。
ベルン会頭が出してくれるのは宿泊費だけなので、食事代は別料金だ。
自腹だから気にすることなく〈暴食〉の欲求を満たさせてもらったが、メニューの半分をオーダーしたのはやり過ぎだったかもしれない。
ま、偶にはこういう欲求に正直になる日も良いだろう。
レストランのスタッフの顔が若干引き攣っていた気もするが、大量に注文しても行儀良く食べたので問題無いはずだ。
明日の夕食では残り半分を注文する予定なので、気にしないことにした。
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