第67話 計画的な迎撃
◆◇◆◇◆◇
「『
開幕はリーゼロッテの魔法から始まった。
森の奥から空き地へと姿を見せたゴブリン達が野営地の裏手に回らないよう、森の中にまで続く氷の壁を左右に作らせた。
上空から見れば、俺達がいる塀の部分から扇状にゴブリン達を囲うように氷の壁が作られているのが分かるだろう。
その中心角四十五度ぐらいの扇形の弧の辺りにゴブリン達が、そこから下に行った中心角の部分に俺達がいるわけだ。
『
ヤツらにとっての獲物である俺達の姿が見えた瞬間から、魔法による動きの制御が効かなくなる。
大半はそのまま真っ直ぐ向かってくるだろうが、確実ではないため物理的な誘導が必要だった。
野営地の周りに作られた塀の外側には堀が作られており、今回のゴブリン達では飛び越えることが難しいほどの幅がある。
一度堀の底に降りてから壁を登ろうにも、飛び降りたら死ぬか大怪我を負うほどの深さがあるので現実的ではない。
そのため、ゴブリン達は拠点内部と唯一繋がっている橋のような道を通って来るしか無い。
道幅は小柄なゴブリンが三体並べるぐらいしか無い上に、道の左右は深い堀になっているので、慌ただしく進むゴブリンに押された別のゴブリンが、堀の底に落ちていき接敵前に死んでいっている。
[スキル【野生の勘】を獲得しました]
堀を作ったのが俺だからか、【
味方に押されて死ぬという、【野生の勘】が活かされない状況だったな……。
ゴブリン達が渡ってきた先は半円状の広場になっており、その中央にエリンが待ち構えている。
その背後に聳え立つ塔の上に俺がいて、ゴブリン達が入って来た半円状の闘技場の入り口の左右の塀の上に、それぞれカレンとリーゼロッテがいた。
この布陣が今宵の狩り場だ。
「さて、始めようか。【
俺が味方と認識している三人に黄金色の光が宿る。
発動エフェクトである光はすぐに消えたが、リーゼロッテ達には各種
今のはユニークスキル【
その能力は、『味方と認識している範囲内にいる全ての対象の体力魔力の自己回復力と全能力値を一時的に五割強化し、対象が負うはずだった致命的な攻撃を一度だけ無効化する祝福を与える』という破格な効果を持つ。
加えて、戦闘が始まる前にカレンとエリンには『
そして、【軍神覇道】にある【
これで距離が離れていても、声を張らずとも通常の声量で互いの声が届くようになり、それぞれの状態も認識できるようになった。
「しゅ、しゅごい強化された⁉︎ これで勝つる!」
少し距離があるのにカレンの浮かれた声が脳内に届いた。
なるほど。こういった感じで届くんだな。
声に出す必要があるが、伝わり方は『
『念話』よりも肉声に近く、『念話』の方は例えるなら電話越しの声みたいな感じだ。
有効距離は魔法である『念話』の方が上なので、あくまでもパーティー単位の戦闘用なのだろう。
伝える相手を意識すれば、その相手にのみ声を伝えられるようで、逆に意識しなかったらカレンのように全員に声が届くらしい。
カレンは塀の上の壁の狭間から僅かに顔を出しながら、対岸のゴブリン達に向かって
前世の感覚を引きずって人型の魔物を倒せないのではと心配していたが、思っていたより平気そうだな。
まぁ、一時的に精神が高揚して気になって無いだけかもしれないけど。
光球を撃ちまくっているが、自前のユニークスキルの【魔力炉心】と、装備している夜天の月套の【夜天強魔】によって夜間は総魔力量が大きく強化されているから問題ないだろう。
同様に、夜天の月套の【月光浴】で月が出ている間は体力と魔力の自然回復力が強化されるから、あれぐらいの弾幕なら弾切れにはならないはずだ。
「エリンは大丈夫そうか?」
「ーーはい、問題ありません」
エリンは、飛び掛かってきたゴブリンを袈裟懸けに斬り捨て、一息ついてから返答してきた。
エリンは数ある種類の武器の中から最終的に刀を選んだ。
長柄のグレイブと暫く悩んでいたが、別に一度決めた武器種から変更出来ないなんて決まりは無いので、使ってみて違うと思ったら別の武器種に変えればいい。
そう伝えたところ、直感的にコレだと感じた刀を使ってみることにしたようだ。
素材は耐久性を重視した魔鋼製で、戦利品の中にあった物を使わせている。
確か、リーゼロッテが捕らえられていた場所にいた【
「そう、ちゃんと常に敵を視界に入れるんだ。敵が複数の場合でも気配を察知できない内は全ての敵を視界に入れるようにして動くんだ。相対する一個体にのみ集中し過ぎたら視野が狭まるから気を付けろ」
「はい! はぁっ‼︎」
「ギャッ⁉︎」
ゴブリンが振りかぶった木の棍棒を避け、そのまま横を走り抜け様に胴体を深々と斬り裂いた。
「確実に絶命したと分かるまで気を抜くなよ」
「えっ、ッ⁉︎」
腹を斬られた部分を手で押さえたゴブリンが瀕死の状態ながら、他のゴブリンとの戦闘に入ったエリンの背後から襲い掛かってきたが、エリンは俺の忠告で背後の動きを察知し、転がるようにして攻撃を避けた。
すぐに起き上がったエリンの元へ、相対していたゴブリンと、瀕死のゴブリン、そして追加で三体のゴブリンが距離を詰めてくる。
「流石に多いな、っと」
魔銃を増援の三体に向けて三連射。
通常の魔力弾を喰らった三体のゴブリンの頭部が弾け飛ぶ。
それから、橋を渡ってきたばかりのゴブリン達の足元にも、牽制のために数発撃ち込み怯ませる。
その間にエリンは、先に瀕死のゴブリンにトドメを刺し、流れるような動きでもう一体のゴブリンの頸部を斬り払った。
元々
やはり実戦に勝る経験は無い。
自らの命に関わるから嫌でも神経が研ぎ澄まされ、生き残るために成長を強いられるからな。
まぁ、今日初めて使う武器な上に、更に初と言ってもいい集団戦に挑ませるのはかなりハードだから、サポートはしっかりとしてやる必要はあるけど。
「エリン、休む時間はいるか?」
「はぁ、はぁ、大丈夫です」
「……無理はするなよ」
「はい!」
エリンが着ている上着には【衝撃軽減】【状態保全】のスキルがあり、籠手には【筋力強化】【疲労軽減】が、靴には【敏捷強化】【体幹補正】のパッシブスキルがある。
遠距離魔法型のカレンとは異なり、エリンの体力とスタミナの消耗は激しいが、度重なるレベルアップと装備による強化によって問題無く動けていた。
使っている魔鋼製の刀は【鋭刃】と【頑強】の能力しかない下級の
もうちょっと性能の良い刀も戦利品にはあるんだが、今のエリンには過ぎた武器なので却下。
カレンの夜天の月套は仕方ないが、基本的に実力に見合わない装備を与えると、基礎的なモノが成長しないので安易に与えない方針だ。
「お、ヘッドショット!」
射線が通ったゴブリンメイジの頭部を狙い撃つ。
カレンとエリンの様子を見ながらも堀の向こう側にいるメイジなどの後衛系のゴブリンを狩っていたのだが、ある時を境に後衛系をホブゴブリンなどの身体が頑丈で大柄な個体が護衛するようになった。
とはいえ、遠距離からやられているのには気付いたようだが、どこから攻撃されているかは分かっていないので、待っていれば割りと狙える。
上が気付き指示を出せても、下がそれに応えられるかは別問題だからな。
「その原因の統率種を倒したら、たぶん森の中に逃げそうなんだよな」
群れを率いている統率種ーーゴブリンキングの姿は既に見つけており、一番後方にいるのが確認できる。
周りにジェネラルなどもいるが、それでも倒すのは簡単だ。
だが、キングを倒した時の他のゴブリン達の動きが予想出来ない。
「統率種を先に倒した方が、他が弱体化するから楽になるんだけど、どうするかな」
「リオン」
「どうした?」
「私が群れ全体を囲みましょうか?」
「氷の壁で?」
「はい」
「でも森の中までは見えないから狙いをつけられるのか?」
「リオンの場所からなら良く見えるかと」
リーゼロッテの提案を受けて森の中、ゴブリンキングの更に後方に目を向けてみる……確かに良く見えるな。
「確かにな。じゃあ、囲い込みを頼めるか?」
「お任せを」
氷の矢を降らせて適度に間引いていた作業を切り上げ、塀の上から一度のジャンプで俺がいる塔の上にやって来た。
「おっと、すいません。狭いもので」
「いや、大丈夫だ」
着地する際に俺に抱き着いてきたが、まぁ、役得でした。
そのまま俺から離れず、抱き着いたまま視線を森の中へと向けて手を翳す。
すると、開幕に作られた氷の壁が更に伸長していき、ゴブリン達を囲い込むようにして左右の氷の壁が繋がった。
「よくやった」
貫通の魔力弾を選択すると、背後の氷の壁の方を振り向いて隙を見せているゴブリンキングとゴブリンジェネラル達の後頭部を【超狙撃】した。
見事に命中した後は、その周辺に爆裂の魔力弾を適当にばら撒いておく。
これで敵の統率種達は壊滅だろう。
[スキル【王の威圧】を獲得しました]
[スキル【王者の圧政】を獲得しました]
[スキル【悪鬼の叫び】を獲得しました]
[スキル【鬼種の剛体】を獲得しました]
[スキル【受け流し】を獲得しました]
[スキル【生存本能】を獲得しました]
[スキル【同族殺し】を獲得しました]
[特殊条件〈支配者の心〉〈威風堂々〉などが達成されました]
[スキル【君臨する者】を取得しました]
[経験値が規定値に達しました]
[スキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
狙い通り銃系スキルを習得したのを確認してから戦場を見渡す。
統率種であるキングとジェネラル達を倒した影響は大きかった。
率いる者がいないゴブリン達はもはや烏合の衆でしかなく、予想通りそれぞれが好き勝手にバラバラに散らばっていく。
統率種の次に知能の高いゴブリンメイジやゴブリンプリーストが排除されていたのも大きな理由だろう。
敵がいる方向ぐらいは理解しているらしく、どの個体も此方の野営地から離れていき、必死に氷の壁を破壊しようとしたり、登ろうとしたりしていた。
「……敵が近くにいなくなったな」
「そうですね。休む時間を取りますか?」
「ふむ……」
カレンとエリンの様子を窺うが、敵が目の前からいなくなったことで、今にも緊張の糸が切れそうな状態だった。
これ以上は無理そうだな。
「いや、二人も限界のようだし、もう終わらせよう。開幕はリーゼがしたから、最後は俺がやる。二人はリーゼと一緒に休んでいてくれ」
「い、いえ。私達もーー」
「言ったろ。無理はするなって。初めてにしては十分な戦果だよ」
地上に降りてエリンの肩に手を置くと、そのまま崩れ落ちようとしたので、慌てて抱き止める。
やっぱり、装備でブーストしても限界だったか。
「ご、ご主人様⁉︎」
「カレンの傍で休んでおけ」
エリンを横向きに抱き抱えて、カレンがいる塀の上に連れて行く。
「お姫様抱っことか裏山……」
「私もまだなのに……」
カレンとリーゼロッテの呟きが聞こえてきたが、聞こえなかったことにする。
白い頬を朱に染めたエリンとカレンをリーゼロッテに任せて、意識と身体をまだ生き残っているゴブリン達へと向けた。
「『
対象のゴブリン達を視界に収めて捕捉すると、即座に【大地魔法】の戦術級基本魔法を発動させる。
次の瞬間、軽い地響きと共に一瞬で生えてきた、細くて硬い鋭利な穂先を持つ数多の金属槍が、残りのゴブリン達を一体残らず串刺しにし、その命を奪っていった。
「い、一撃で……?」
「す、凄い……」
そういえば、攻撃的な大規模魔法行使を二人に見せるのはコレが初めてか。
カレンとエリンの驚きの声と、リーゼロッテのパチパチという小さな拍手の音を聞きながら、剣山状態の地面を元に戻すのだった。
[スキル【悪戯】を獲得しました]
[スキル【窃盗】を獲得しました]
[スキル【悪足掻き】を獲得しました]
[スキル【集団生活】を獲得しました]
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