第66話 夜襲に備えて
◆◇◆◇◆◇
「ーー襲撃だ‼︎」
「うひゃっ⁉︎」
「きゃっ⁉︎」
夕食後、自室で寛いでいたカレンとエリンの元へと突撃した。
緊急感を出すためにノックをせずにドアを開けたんだが、思っていたよりイイ反応が返ってきたな。
「もう一度言うが、襲撃だぞ?」
「しゅ、襲撃ですか?」
ベッドから落ちてひっくり返っているカレンはスルーして、先ほどと同じセリフを繰り返す。
「ああ、今ーー」
「もう! 夜這いするなら事前に言っておいてよ! 心と体の準備がーー」
「んなわけないだろ。幼いのは対象外だ」
「あだぁっ⁉︎」
起き上がって早々に頓珍漢なことを言っているカレンの頭上に、物凄く手加減したチョップを喰らわす。
痛みに悶絶しながら床をのたうち回るカレンを放置し、中断した言葉を続ける。
「襲撃っていうのは魔物のことだ。今この野営地に近づいて来ている群れがある。外に出て迎撃するぞ。防具はこれを着てくれ。三分以内に装備を整えて馬車の外に集合だ」
それぞれの防具をエリンに渡してから馬車の外に出る。
外に出ると、一足先に出ていたリーゼロッテからジトっとした目で見られた。
「え、どうかしたか?」
「……リオンは幼いのが好みなのですか?」
「?」
一体何を言って、ああ。さっきのカレンの発言か。
声のボリュームからしてカレンの発言しか聞こえていないんだろう。
「カレンの発言のことを言ってるなら勘違いだぞ。カレンにも言ったが、幼いのは対象外だ」
「年上はどうです?」
「外見年齢が近ければ何歳上でも対象内だ」
「……そうですか。念の為、二人が来るまで見張りをしておきますね」
リーゼロッテはそう言うと、どことなく機嫌の良い様子で塀の方へと歩いていった。
……これに対して、俺はどういう反応をすればいいんだろうな?
まさに反応に困るというやつだ。
「……ま、いいか。さてさて、何で攻撃しようかな?」
どうやったって勝てるぐらいに敵が弱いので、俺とリーゼロッテの場合だと、基礎レベルを上げるために積極的に狩る意味は正直言って薄い。
そのため、倒すにしてもスキルの
「メインは二人の実戦経験とレベル上げだから、ほどほどにしないとな。サポートも兼ねると、やっぱり魔法以外の遠距離系かな。弓か、或いは……銃でもいいな。銃関連のスキルを取るのに良さそうだ」
東の帝国ことロンダルヴィア帝国では銃火器の開発が行われている。
調査したところ、低スペック低品質の銃ならば既に一般にも出回り始めているようだ。
てっきり銃はロンダルヴィア帝国が初出しだと思っていたのだが、どうやら過去に実用化に乗り出した国は他にもいたらしい。
しかも、ダンジョンの中には、ごく稀に
現在、量産に乗り出しているのはロンダルヴィア帝国ぐらいのようだが、ダンジョン産のことを考えると、銃型魔導具である魔銃を使っていても少し珍しい程度で済む気がする。
「まぁ、銃を使ってみたいだけなんだけど」
素材を取り出し、ユニークスキル【
取り敢えず今回使う物のベースは狙撃銃だな。
銃の知識が無いから、こう狙撃銃と聞いてすぐにイメージしたカタチを選択した。
前世見たアニメで女性キャラが使ってたヤツだが、確かコレって
実弾はコスト的に却下で、魔力を消費して形成された擬似物質である魔力弾を採用。
魔力弾を撃ち出すのに使用するのは魔力と術式なため、本来の実銃ほどの反動は無いはずだから、発砲時にかかる負担は大きく軽減されているだろう。
実弾では無くなったことにより内部機構は大幅に、そして大胆に変更する。
内部で数種類のタイプの物質化した魔力弾を、魔力を消費するだけで自動的に生成できる方が使用者の負担は少ない。
魔力弾のタイプ別の術式経路は、思考操作で簡単に切り換えられるようにしておく。
魔力弾はオーソドックスに通常、貫通、爆裂の三種類を用意し、その術式を内部に刻む。
銃の主な構成材質は、魔力との親和性の高さからミスリルを、耐久性と靭性の面から魔鋼を採用し、この二つをメインにした合金で製作する。
長い銃身内部には、魔力弾を銃身内部で加速させる加速術式と、射線上の空気抵抗を減らし軌道を安定させる風の守りを魔力弾に自動付与する付与術式を刻んでおく。
後は空いているスペースに細々と補助術式を刻んでおいた。
「ふむ……こんなところか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈試作型魔銃壱式〉
等級:
能力:【三換魔弾】【弾道護風】
製作者:リオン・エクスヴェル
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
完成した魔銃を【看破の魔眼】の鑑定能力で見てみた。
【高速思考】で思考速度を加速しての設計に数秒、【万変創手】を使った製作に一分ほどしか時間が掛かっていない。
文字通りの意味で急拵えの品ではあるが、最低限の性能はあるように見える。
アイテムの等級は下から、
魔導具は一般級から存在するので、宝物級は魔導具としては下級に近い中級魔導具ってところだろう。
宝箱などから産出しても希少級止まりが殆どらしいダンジョン産の魔導具としては、十分当たりの部類に入るランクだと思われる。
魔力収束器や照準補正装置などが無いため、このまま使うとしたら自らの技量とスキルでどうにかするしかなく、扱いが難しい武器なのは間違いない。
今のままだと燃費も悪いので、前世の銃に倣ったカートリッジ形式のみにするか、自前の魔力と組み合わせたハイブリッド形式にすべきだろうか?
まぁ、今回使った後も使い続けるか分からないから、試作型の改良は追々だな。
脳内設計図通りに作られた狙撃銃型魔銃を構える。
暗い蒼銀色というよりは青みがかった銀灰色をした魔銃は、見た目がかなりシンプルだ。
思い付きと勢いで作ったから仕方ないが、素材の色のままなので若干キラキラしてるな。
艶消しと……色は黒に染めとくか。
「あとは実戦で試しながら調整するか。ん、来たな」
それぞれに合わせて多少デザインの違いはあるが、お揃いの防具を身に付けたカレンとエリンが馬車から降りてきた。
二人が着ている防具は、一言で表すなら軍服風ワンピースだ。
カレンは夜天の月套があるから上着は無いが、エリンには動きを阻害しない程度に薄くて軽い革製の上着をプラスして羽織り防御力を上げている。
共通しているインナーのワンピースは【万能糸生成】で生み出した特別製の糸を、【操糸術】で自由自在に操り縫製した品だ。
能力は共通して、【物理攻撃軽減】【魔法攻撃軽減】【状態保全】の三つ。
軽減系は読んで字の如くの効果であり、【状態保全】は防水、防汚、防臭、自動修復の四つの効果を持っている。
ちなみに、上級魔導具である叙事級からは、表示される能力一覧に無くても【状態保全】と同等の機能がランク特性としてデフォルトであるのだが、それより下の魔導具には無いため、術式を刻んで能力として発現してやる必要がある。
なお、自動修復についてだが、これはあくまでも刃が欠けたり、防具の小さな傷などを修復する程度の能力だ。
そのため、大きく裂けたり、真っ二つに折れたりした場合は、損壊が大きすぎるので元通りには修復できない。
「ーーということなので、あまりアテにしないように。損壊が大きくて修復されなかったり、サイズが合わなくなったりしたら遠慮せずに持ってきてくれ」
「うん、分かった」
「分かりました」
サイズに関しては、防具系魔導具の製作工程で特殊な処置を施せば、使用者に合わせてサイズを自動調整してくれるようになる。
サイズ調整の限度はあるが、防具を装着する際にサイズがピッタリ合うようになるので、とても便利な機能だ。
二人の軍服風ワンピースにこの便利な機能が付いていないのは、余分な機能を付ける空きが無かったからだ。
遺物級というランクからしたら破格なスキルである、【物理攻撃軽減】と【魔法攻撃軽減】なんていう軽減対象範囲が広いスキルを二つも付けたことによる弊害なのだが、女性的には【状態保全】は外したくないだろうし仕方がない。
一応、【状態保全】を外せばサイズの自動調整機能が付けられることを伝え、どうするかを聞いてみたが、二人揃って首を横に振られた。
「ところで、敵はなんなの?」
カレンからの問いに、まだ詳細を伝えていないことに気付いた。
「ああ、伝えていなかったな。敵は〈ゴブリン〉だ」
「えー、ゴブリンかぁ」
「ちなみに数は百体以上」
「ぶっ⁉︎」
「カレン、汚いわよ」
「でもエリンお姉様。いくらゴブリンとはいえ、百体以上よ、百体以上!」
慌てふためくカレンの反応も仕方ないが、更なる爆弾を投下する。
「なお、キングやジェネラルといった統率種や上位種もいる模様」
「あわわっ」
「カレン、落ち着きなさい。確かに私達からすれば絶望的だけど、ご主人様は慌てていないでしょ? だから大丈夫よ」
カレンと違ってエリンは冷静だな。
戦っているところは見せていないが、夕食前の掛かり稽古とかから俺の力を感じ取ったりしたのかな?
「まぁ、俺やリーゼからしたら、ゴブリン程度では慌てようが無いというか……オークキング率いる数百体のオークに他の魔物も加えた軍勢を、二人だけで倒した時に比べれば児戯だしな」
「……マジ?」
「マジ」
まぁ、実のところ、この世界ではまだ一度もゴブリンと戦ったことは無いんだけど。
ギルドの資料で調べた限りでは、この世界のゴブリンも前の異世界のゴブリンと変わらないようだ。
普通のゴブリンが小学生低学年ぐらいの子供の大きさ。
身体が大きく成長したホブゴブリンが大人ぐらいのサイズで、統率種のゴブリンジェネラルが二メートルを越えるぐらいだ。
緑色の肌に濁った両眼、汚らしい歯や爪、そして尖った耳を持つ醜い顔の人型の魔物。
人型魔物の特徴の一つとして、人類種のように特定の職種の技能を持つ個体が生まれる。
ゴブリンメイジやゴブリンランサーなどの個体をジョブ持ち、又は有職種と呼称するそうだ。
そのため、一定規模以上に膨れ上がった群れには、相応の数のジョブ持ちが生まれているため、その数と多様性は脅威的だろう。
「まぁ、厄介な
「あれ? なんか私達が主力で戦うみたいな流れなんだけど……」
「良い実戦の機会だからな。カレンとエリンのレベル上げ的に大体のゴブリン達は適正レベル帯だから頑張って倒そうな」
このゴブリンの群れは昨夜、帝都までの進路をマップで確認していた時に偶然見つけた。
使用する街道からも近く、レベル的にもカレンとエリンのレベル上げにはピッタリだ。
ゴブリン達の拠点から近い空き地を野営地に陣取り、二人が湯浴みをしている時に〈魔導神の加護〉などで強化された『
夕食後、適度に休めたタイミングで来てくれたのは偶々だ。
流石にそこまでは動きをコントロール出来ない。
「う、うん。そうね。確かにこれはレベル上げのチャンスよね。よぉし、やってやるわ!」
「はい。ご主人様からのご期待に沿えるよう頑張ります!」
うんうん。カレンもエリンもやる気十分だな。
二人の意思確認が済んだタイミングでリーゼがやって来た。
「敵の先頭がじきに見えます」
「来たか。よし。それじゃあ、それぞれの配置場所に案内するからついて来てくれ」
「「はい!」」
さぁ、
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