第63話 奴隷と商館



 ◆◇◆◇◆◇



「ふむ……これで良し。オリジナルは保管、と」



 ユニークスキル【魔賢戦神オーディン】の【複製する黄金の腕環ドラウプニル】によって複製が済んだ、オリジナルの各種魔導具マジックアイテムを【無限宝庫】に収納する。

 テーブルに載せられているのは、一昨日の襲撃作戦の成功報酬として、ランドルム領主であるアルムダ伯爵家秘蔵の魔導具の中から選んだアイテムの複製品だ。

 事後処理がひと段落したようで、今朝方リーゼロッテ共々領主邸に呼び出された。

 そこで追加報酬も合わせて各々二つずつアイテムを選んだ。

 流石に家宝と呼ばれるほどの品は報酬として選べる中には無かったが、それでも掘り出し物はあったので満足している。

 ちなみに、目の前には指名依頼の報酬以外にも、今回の作戦で得た一部の戦利品の複製品も並んでいる。

 ちょうど良い機会なので、纏めて【強奪権限グリーディア】でその能力を手に入れようと思う。

 まずは報酬で得た二つから。



[アイテム〈業魔の腕環〉から能力が剥奪されます]

[スキル【限界制御】を獲得しました]

[スキル【魔力喚起】を獲得しました]


[アイテム〈断理の鎖〉から能力が剥奪されます]

[スキル【遮断の楔】を獲得しました]

[スキル【乖離の楔】を獲得しました]



 次に戦利品……ニンベル達が使っていた装備の一部から獲得する。



[アイテム〈呪われし奇跡の魔剣ディルフィング〉から能力が剥奪されます]

[スキル【剛葬裂刃】を獲得しました]

[スキル【一刃一殺】を獲得しました]

[スキル【三度の奇跡】を獲得しました]

[スキル【三度目の瘴食しょうじき】を獲得しました]


[アイテム〈豪炎弾の指環〉から能力が剥奪されます]

[スキル【火炎弾】を獲得しました]

[スキル【炎熱属性強化】を獲得しました]


[アイテム〈疾風魔馬ゲイルホースの靴〉から能力が剥奪されます]

[スキル【疾風馬脚】を獲得しました]

[スキル【獣満馬力】を獲得しました]


[アイテム〈矛盾光装の槍杖〉から能力が剥奪されます]

[スキル【防盾光壁】を獲得しました]

[スキル【斬貫光刃】を獲得しました]


[アイテム〈愛欲の麗衣〉から能力が剥奪されます]

[スキル【愛欲の獣性】を獲得しました]

[スキル【麗しき玉体】を獲得しました]


[アイテム〈怪腕猿将アームモンキー・ジェネラルのベルト〉から能力が剥奪されます]

[スキル【怪腕猿舞】を獲得しました]

[スキル【豪怪膂力】を獲得しました]


[アイテム〈夜天の月套〉から能力が剥奪されます]

[スキル【夜天強魔】を獲得しました]

[スキル【光子操作フォトン・コントロール】を獲得しました]

[スキル【月光浴】を獲得しました]



 こんなところか。

 んー、せっかくだし蚤の市で手に入れた掘り出し物からも手に入れておくかな。

 勿論、複製したやつからだけど。



[アイテム〈傷を促す血喰の剣プルートネルベ〉から能力が剥奪されます]

[スキル【不治魔刃】を獲得しました]

[スキル【生命吸奪ライフドレイン】を獲得しました]

[スキル【魔力吸奪マナドレイン】を獲得しました]


[アイテム〈遊戯と詐欺のコイン〉から能力が剥奪されます]

[スキル【確率変動】を獲得しました]


[アイテム〈雷喰らいの指環〉から能力が剥奪されます]

[スキル【雷電吸収】を獲得しました]


[アイテム〈湧き出る魔法の水筒〉から能力が剥奪されます]

[スキル【液体再生成】を獲得しました]



「ふぅ。さて……どうするかな」



 能力が無くなり抜け殻になったアイテムを収納し、椅子の背もたれに身体を預ける。

 指名依頼を終わらせ、報酬の魔導具も受け取った。

 報酬金の方も昨日ギルドで受け取ってきたため、これでランドルムでの用事は無くなったことになる。

 観光も済ませてるし、何も無いなら、後は帝都に向かうだけかな?



「リーゼ」


「何でしょう?」


「何かランドルムでやり残したことはあるか?」


「そうですね……特に思い付きませんね」


「なら今日……は微妙な時間だから、明日の朝ランドルムを発つか」



 近いうちにランドルムを発つことは報酬を受け取った時に伝えてあるし、領主邸に再度挨拶に行く必要は無いだろう。

 ギルドにはこのあと報告しに行っとこうかな?



「リオン」


「うん?」


「帝都に向かうなら当然馬車ですよね?」


「そうだな。道中の移動では基本的に転移は使わない方針だから、魔導馬車で移動するつもりだ」


「でしたら、以前言っていた馬車の御者を調達してはどうですか?」


「あー、御者ね。でも中々そう上手く良い人材が雇えるとも思えないんだよな……」



 会ったばかりの相手を信用できるかと言われたら、俺は迷いなく否と答える人間だ。

 旅についてきてくれて、お飾りとはいえ馬車の御者をしてくれて、信用もできる奇特で希少な人材が現れる確率ってどれくらいだろうか?

 俺の能力とかアレコレの情報を口外しない、口が堅いのじゃないと駄目だしな。

 あ、情報漏洩に関しては【救い裁く契約の熾天使メタトロン】の【熾天契約】で封じることができるか。

 他には、リーゼロッテがいるから女性の方が良いかもしれないな。



「雇う? 買えばいいではないですか」


「……買う?」


「はい。奴隷を購入するんです。勿論、違法奴隷では無く、国から認められた奴隷商が扱っている正式な奴隷をです。裏切る心配もありませんから、求める条件を満たせるかと」



 ……なーるほど。奴隷か。その手があったか。

 前世でマトモな倫理観を持っていた身からすれば、奴隷と聞いてはしゃぐような感性は持って無いから、奴隷の存在を知っていても頭の片隅にすら選択肢が思い浮かばなかったよ。

 確かに求める条件的に最適かもしれないな。



「……そういえば此処は国の玄関口の一つだから、国内外から奴隷含めて色々集まるか」



 違法奴隷商がこれまで露見しなかったのは、出入りの激しい人や物の流入が隠れ蓑になっていたからなのかもな。

 こう、木を隠すなら森の中みたいな感じで。



「どうします?」


「ま、試しに行ってみるか」



 奴隷って聞くと若干テンション下がるんだが、資金は潤沢にあるから合理的な選択肢なのは間違いない。

 幾つか奴隷を扱う商館があるみたいだから、先ずは冒険者ギルドに寄ってから順番に見ていくとするか。



 ◆◇◆◇◆◇



 購入するにあたって、奴隷に求める条件をリーゼロッテと話し合って決めた。


 一つ、女性であること。

 二つ、肉体年齢的に若いこと。

 三つ、マトモな品性を持つこと。


 絶対条件はこの三つだけ。

 他には、何か料理といった技能を持っていたり、何かしらお得なポイントがある相手だとなお良し。

 訪れた奴隷商館では、馬車の御者目的の購入だと告げてある。

 実際に技能が無くても教えるから、経験の有無は問わないとも伝えておく。

 絶対条件に関しては、性格は実際に会ってみないと分からないので、商館には肉体的に若い女性とだけ要望を伝える。

 具体的な希望年齢を聞かれたので十代から二十代とざっくりと答えておいた。



「うーむ。そう都合良く見つからないか」


「最後の商館に期待しましょう」



 犯罪奴隷も含まれているので、紹介された数はそれなりにいたが、諸々の理由で全員失格だ。

 俺の横にいる絶世の美女であるリーゼロッテに妬みや敵意、情欲などの大変よろしく無い感情を向けてきたのは一発退場。

 何処の商館でも、これで半数以下にまで数を減らした。

 あとは【情報賢能ミーミル】の鑑定能力と、【審判の瞳】【超直感】の二つを併用して面談した結果……全滅である。

 保有スキルだけで決めるなら【情報蒐集地図フリズスキャルヴ】ですぐに見つかるだろうけど、求めるのは人柄がメインなので直接会うしかない。

 正直面倒になってきたが、今後楽をするためなので頑張るとしよう。


 

「ーーそれでは次の者を連れて参ります」


「ええ、お願いします」



 商館の支配人の言葉に頷く。

 最後の商館でも既に十人は紹介されている。

 他の商館よりは比較的マシなのがいたが、ピンとくる相手がいない。

 急ぐ必要は無いし、妥協する理由も無いからランドルムでは選ばないかもしれないな……。



「お待たせ致しました。次はこの者をご紹介させていただきます」



 そう言って支配人が連れて来た奴隷は二人の獣人だった。

 これまでは一人ずつだったのだが、何か理由があるようだ。

 【並列思考】を駆使して支配人の話を聞きながら、【情報賢能】で二人の詳細ステータスを閲覧する。

 ……これは驚いた。

 【無表情ポーカーフェイス】が無ければ顔に出ていただろう。

 支配人による奴隷の簡略化された身の上話プロフィールが読み上げられると、次は本人による簡単な自己アピールタイムだ。



「初めまして。私はカレンと申します。年齢は十歳で、まだ幼い身体ですが、御者でも何でも精一杯頑張ります。よろしくお願いします」



 肩にかかるぐらいの長さの銀灰色の髪を揺らしながら下げられた頭部には、獣人の特徴であるそれぞれの獣の特徴を表した獣耳が生えている。

 種族名が狐人族なのでアレは狐耳ということになるんだろう。

 自己アピールは一言二言程度の時間しか許されていないのですぐに終わった。

 次は、流れ的に支配人によるもう一人の紹介があるのだが……。



「エクスヴェル様。もし、こちらのカレンをお求めの際には、一つ条件がございます」


「条件ですか?」


「はい。カレンとこちらのエリンは異母姉妹でして、自分達のどちらかを購入する際にはもう片方も一緒に購入する、という条件です」


「一緒に、ですか……当人達の希望によるものでしょうか?」


「はい。今のような状態になる前、奴隷の身になった時に結ばれた契約です。エリンがこのような状態になったのは移送を担当した商隊の責任ですので、お安くさせていただきます」



 カレンの年齢は十歳で、外見年齢もそれぐらいの幼い容姿をしている。

 一方のエリンだが、年齢は十六歳、種族はカレンとは異なる狼人族で、今の状態でも分かるぐらいの美貌を持つ美少女だ。

 肩の少し下までの長さの綺麗な濃紺色の髪は手入れがされているようだが、この手入れは本人ではなく誰かがやっているのだろう。

 何故かと言うと、エリンの左腕は肘から先が欠損しており、右手も親指と人差し指と中指が欠損、そして顔に縦に走る傷跡に左眼の失明という大怪我を負っているからだ。

 露出している手足でコレだから、見えない服の下も肉が抉られたりしているかもしれない。

 歩いたりはできるが、この右手では髪の手入れなどの作業はやり難そうだ。

 よく見れば首にも傷跡があるので、喋りたくても喋れないらしい。


 支配人から詳しい話を聞くと、まぁ、怪我の具合から予想した通り、魔物に襲われてこうなったそうだ。

 簡単に言えば商隊が魔物に襲われた際に、護衛が全ての魔物を防ぎきれず、駆け付けた時には奴隷達に甚大な被害が出ていた。

 エリンはその時の被害者の一人ということになる。

 奴隷に堕ちただけでも不幸なのに、手足まで欠損するとは……よく見れば他の能力値と比べて運の値だけ低めだった。



「如何でしょうか?」


「そうですね……」



 二人のステータス以外にも、【審判の瞳】や【超直感】と言った各種スキルから得られた情報から判断しても申し分ない。

 エリンの怪我は治せばいいので問題無いが、まぁ、敢えて言うならカレンが幼すぎることか?

 十歳も十代に含まれているから間違ってないが、こんな幼女を御者席に座らせる俺って……十歳ならすぐに身体も大きくなるだろうし、それまでは御者をやらせるにしてもエリンとセットで座らせればいいか。

 ……御者席にいかにも非戦闘員な幼女を座らせてたら盗賊ホイホイな気がするが、経験値と戦利品もホイホイだから良しとする。

 場合によっては、外見から戦えると分かるような御者も得るべきかもしれない。

 ま、追々考えよう。

 内心で購入の意思を固めてから、【百戦錬磨の交渉術】と【値引き】をアクティブにして言葉を続ける。



「此処の商館では奴隷以外にも日用雑貨なども扱っていましたよね?」


「はい。保存食や食器類、寝袋やテントは勿論のこと、下着を始めとした各種衣類など、旅に必要な物は一通り揃っております」


「それは素晴らしいですね。サービス次第では即決で二人纏めて購入したいところなんですが……」



 【役者アクター】の補助を受けながら悩む演技フリをする。

 我ながらベタだなと思うが、買うつもりがあるのが伝われば良いので別に構わない。



「……即決して頂けましたら、二人の金額をピッタリ八万オウロに致しましょう。それに加えて、本日限り当店で奴隷以外の品を購入して頂いた際には代金を一、いえ二割引きさせていただきます」



 四千オウロ近く引いた上に二割引きか。

 円で換算したら二百五十万から十万ほど引かれていると考えれば……上々かな?

 【相場】スキルで何となく認識できる相場価格で判断するなら、あと五千オウロほどは値引きが出来そうだった。

 まぁ、相場価格の真ん中よりは下ぐらいまでには安くなってるから、これ以上欲を出すのは止めておくとしよう。



「購入した際は今の服装で引き渡しですか?」


「この衣装とは別にご用意させて頂きます」


「外を歩いていても変に見られないような?」


「勿論でございます」


「それは良かった。では、二人纏めて購入しましょう」


「ありがとうございます!」



 今の服装で外を歩いても清潔感はあるから大丈夫だろうが、少し質素すぎるのでちょっと強請ってみた。

 ま、最初から服を用意してあった可能性が高いけど、損はして無いので問題ない。

 支配人の後に続くようにカレンとエリンも頭を下げているのを後目に、懐経由で【無限宝庫】からアークディア金貨を十枚取り出しておく。

 その中から二枚抜き取り、横に座るリーゼロッテへと渡す。



「奴隷契約をしている間、二人の分の日用雑貨を買っておいてくれ。何を買うかはリーゼに任せる」


「分かりました。全部使っても?」


「ああ。二割引きになるそうだから、ついでに自分の分も買ってきても構わないぞ」


「ありがとうございます。では、さっそく行ってきます」



 追加で金貨を一枚渡すと、リーゼロッテは支配人の横にいた店員の案内に従って部屋を出て行った。

 その後、俺を主人にカレンとエリンの二人と奴隷契約を結んだ。

 契約時に多少驚くことがあったが、これは後で確認しよう。

 分かりやすい奴隷の証でもある首枷はどうするかと聞かれたが、着用は義務ではないし目立つから外してもらった。

 二人の準備が整うまでの間、支配人からあまり詳しくない奴隷関連の知識を仕入れておいた。

 まだ時間がかかるようなので、カレン達の後に紹介するはずだった者達を念のため見せてもらったが、特にピンとくるモノが無かった。

 仮に人数を増やすにしても別の場所でだな。

 【千里眼】でリーゼロッテを確認すると、商館の雑貨エリアで爆買いしているのが見えた。

 それは一体どこで使う気なんだ……ってやつも買っていたが、深くは考えないようにして、出されたお茶と茶請けの菓子を摘みながら大人しく待ち続けた。




 

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