第62話 ラタトスク
◆◇◆◇◆◇
リーゼロッテと合流後、現場にて襲撃作戦の総指揮を行っているアルムダ伯爵家騎士団の騎士団長に、拠点から逃げ出した一味を捕らえてくることを伝える。
騎士団からも人を出そうと言ってくれたが、人数が増えると動きが遅くなることと、まだ残党が残っているかもしれないため、こちらの方が人手が必要だ、という理由を上げ、【百戦錬磨の交渉術】で説得して援軍は断っておいた。
まぁ、一番の理由は能力を秘匿したいからなんだけど。
正式に許可を得るとランドルムの東門から外に出る。
ランドルムの外壁から少し離れた場所までホースゴーレムで移動してから、マップで捕捉している標的の進路上に転移魔法で先回りした。
転移先はランドルムとメイザルド王国を繋ぐ街道沿いに広がる森の中。
その森の中から街道へと進み出ると、以前ギルドでリーゼロッテに絡もうとして俺に気絶させられたチャラ男系イケメン冒険者ニンベルと、そのパーティーメンバーである女達がちょうど街道を曲がってやって来たところだった。
彼らが拠点から逃げ出した一味であり、捕らえるべき標的だ。
「なっ、お前はーー」
「「『
さっさと終わらせたいので無駄な問答はしない。
此方の姿を見て立ち止まったタイミングで、リーゼロッテと共に『気絶の矢』を連続発動させた。
白っぽい黄色の魔力矢の群れがニンベル達に襲い掛かるが、各々の手段で自らに当たる分だけを捌いているのが見える。
Bランクとは言ってもAランクに近い実力を持つ者もいるだけあって、真正面から迫る矢ぐらいは対処できるようだ。
「ガフッ……⁉︎」
「ギャッ⁉︎」
……真正面からはな。
【発掘自在】によって生成された金属製の槍衾が彼女達の背後から襲い掛かる。
矢の投射速度とは比べ物にならない速さで生成された槍衾は、肉感的な身体付きの女魔法使いと薄着の女格闘家を背後から串刺しにした。
ニンベル達の中で特に能力が高いのはこの二人だ。
割りとギリギリで矢を捌いていた他のパーティーメンバーとは違い、魔法と拳を使って普通に防いでいたことからもその実力の高さが窺える。
背後から襲い掛かる槍衾にも反応しようとしていたため、【静止の魔眼】と【虚脱の魔眼】で邪魔をしておいた。
騎士団長から全員を連れてくる必要は無いと言われたので、重要参考人であるニンベル以外の女達はある程度間引いておくことにした。
捕まった後、犯罪者である彼女達はおそらく重犯罪奴隷に堕とされるだろう。
全員容姿が整っているため、相当に運が良くない限りはロクな目に合わないことは間違いない。
【審判の瞳】で全員を視てみた限りでは、女達は誰もが然程変わらないぐらいには罪を重ねているようなので自業自得だ。
そう考えると、此処で死ねた二人はラッキーだったと言える。
さて、残り四人か。
[スキル【破衝拳】を獲得しました]
[スキル【戦場の勘】を獲得しました]
[スキル【格闘の心得】を獲得しました]
[スキル【戦闘狂】を獲得しました]
[スキル【回復特性】を獲得しました]
[スキル【天才】を獲得しました]
[スキル【退廃の心得】を獲得しました]
[スキル【淫靡な手練】を獲得しました]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
中々将来性を感じる者達だったようだが、悪に堕ちた以上は狩られるべき獲物でしかない。
どういう経緯でパーティーを組んだのか知らないが、現状では結果が全てなので、慈悲を与える理由は無い。
『気絶の矢』を連射していると、残る標的の一人である斥候女が指先を此方へ向ける。
立てられた指に嵌められた指環が輝き、炎弾が放たれた。
迫る炎弾を無視して魔法を放ち続ける。
着弾しようとした炎弾は、直撃する寸前で分解されて俺の身体に吸収された。
何事も無く【炎熱吸収】が発動したようで何よりだ。
「そ、そんな、グッ⁉︎」
目の前で起こった現象が信じられず動きを止めた斥候女に『気絶の矢』が直撃し、その意識を奪う。
残りは三人。
ちょうど斥候女が倒れたタイミングで、残る三人の足場が凍結し始めた。
当たり前だが、これはリーゼロッテの魔法だ。
相手を死なせないレベルに威力を調整するのに少々時間がかかったようだが、その効果は遺憾無く発揮された。
動きを鈍らせる程度の低出力ではあるが、相手をスタンさせる魔法の矢が降り注ぐ今の状況下では最適だろう。
「くそっ! これでも喰らギャッ⁉︎」
収納系
現状を打開する切り札だったようだが、目の前でそんな見え見えの行動を取るのは悪手だろうよ。
肩が砕けて怯んだ隙に矢を喰らってニンベルも気絶した。
ニンベル以外の女二人も動きの鈍った状態で防げるわけがないので、間を置かずに気絶することになった。
「ま、こんなもんか」
「ランク不相応の装備の所為で無駄に抵抗されましたね」
「全くだな」
ニンベル含めた全員が複数の
主に身体能力の強化を齎すアイテムが多かったが、先ほどの炎弾を放つ指環のような強化系アイテム以外も装備していたようだ。
全ては見ていないが、コイツらの実力を考慮すると、アイテムに見合った実力があったのは俺が早々に潰したAランク近い実力の二人ぐらいだ。
反撃に移られる前に潰せなかったら、まだ時間がかかっていたかもしれないな。
【
「開け」
俺の言葉を受けて、女魔法使いの遺体の傍に黒い穴が現れる。
これは【発掘自在】を使って
本来、【異空間収納庫】持ちが死んだら収納空間内のアイテムは取り出せなくなるため、実質ロスト扱いになるのだが、俺の【発掘自在】を使えば【異空間収納庫】持ちの遺体を触媒にしてその収納空間を開くことが可能だ。
異空間である収納空間内は【戦利品蒐集】の対象外のようなので、こうして直接回収する必要があるのが正直言って面倒だが、戦利品を得るためなのだから仕方ない。
ちなみに、触媒である遺体が消滅していても発掘することは可能だが、その場合の収納空間がある座標は遺体が最後に人型で存在した場所になるため、状況次第で難易度が跳ね上がる。
【異空間収納庫】持ちには出来るだけ綺麗に死んで貰いたいところだ。
黒穴に手を突っ込んで中身のアイテムを回収後、念のため気絶している奴らに睡眠毒を打ち込んでから身体を縛り上げる。
「これでよし。そろそろ戻ってきていいぞ、ラタトスク」
「ーーヂュッ?」
ニンベルの影の中から一匹の小さな黒鼠が首を傾げながら現れる。
これは【欠片成す人形】で生み出したネズミ型生体式諜報ゴーレム〈ラタトスク〉だ。
カラス型のフギンムニンが空からの有効マップの拡大と探索が役割なのに対して、ラタトスクは諜報を目的として生み出した。
フギンムニン以上の隠密能力と長期単独行動能力を持っており、冒険者ギルドでの遭遇時にニンベル達に近付いた際に影の中に潜ませておいたのだ。
つまりニンベル達の動きは終始把握していたわけだな。
元ネタを考えれば
全身黒一色の鼠という、病絡みの物凄く不吉の象徴くさい外見をしているが、病を周囲に散布するような能力は
……まぁ、【
「ヂュチュッ?」
「ああ。後の情報収集は必要ない。今後コイツらがどうなろうが構わないし、興味は無いからな」
「ヂュッ!」
ビシッと短い手で敬礼し了解の意を示すと、ラタトスクは俺の影の中へと沈んでいった。
リーゼロッテに頭を撫でられていた、女達の影に潜んでいた他のラタトスク達も俺の影の中に飛び込んでいく。
「それじゃあ、記憶を見せて貰おうか」
気絶したニンベルの頭部に、ユニークスキル【
乱暴に記憶を読み取って廃人にしてしまわないように慎重に記憶を読み取っていく。
ラタトスクを通して得ていた情報と統合したところ、ニンベル達が違法奴隷商人の拠点の一つである倉庫街にいた詳細な理由が分かった。
どうやら、違法奴隷商から今回は今までの比ではない数と質の奴隷を集められた、という報告を受け、見目麗しい愛玩目的の奴隷の物色にやってきていたらしい。
ちょうど違法奴隷達が集められている地下エリアに降りたタイミングで俺達が襲撃したので、身バレを防ぐべく、以前聞いていた脱出路から慌てて逃げ出したそうだ。
そこまで記憶を読んでから、不快感と苛立ちを覚えたので、地面を隆起させて気絶しているニンベルの股間を強打しておいた。
身体を痙攣させて口から泡を吹いているが、どうせ二度と使う機会は来ないんだから、別に使えなくなっていても構わないだろう。
あと、記憶を読む限りニンベルの実家は違法奴隷売買に深く関わっているようだった。
尋問の結果次第だが、今回のことで関係が明らかになれば、ニンベルの実家の権勢も終わりだろう。
隣国のメイザルド王国の者がどれほど関わっていたかは分からないが、自国民を拉致された上に売り捌かれていたアークディア帝国がブチ切れて戦争を仕掛けてもおかしくはない。
その時は前の異世界の時のように傭兵として参戦するのもアリだな。
「さて、せっかくだしスキルも奪っておくか……いや、ステータスからスキルが消えていたら不自然か?」
身柄を引き渡した際にステータスをチェックするだろうから、あからさまに数が少なかったら不審に思われるかもしれないな。
「ふと思ったのですが」
「ん?」
「他者に【偽装の極み】は使えないのですか?」
「いや、確か使えるはずだ」
「それなら、スキルを奪った後も変わらずスキルが残って見えるようにステータス表記を偽装すれば良いのでは?」
「……なるほど。いつまで偽装効果が持続するか不安要素はあるけど、試してみる価値はあるな」
さっそく、リーゼロッテからのナイスな提案を実行することにした。
これで万が一抵抗しても以前のような力を発揮することは出来ない。
スキル自体が無いと発動自体が出来なくなる
ジョブスキルなどの
他の女達にも喰手を伸ばして同じように奪っておこう。
[スキル【器用貧乏】を獲得しました]
[スキル【怯み耐性】を獲得しました]
[スキル【金運】を獲得しました]
[スキル【悪運】を獲得しました]
[スキル【
[スキル【
[スキル【機先を制する】を獲得しました]
[スキル【悪質な手癖】を獲得しました]
[スキル【器用な手先】を獲得しました]
[スキル【奉仕】を獲得しました]
[スキル【慰撫】を獲得しました]
[スキル【心身慰労】を獲得しました]
[スキル【八方美人】を獲得しました]
[スキル【堅守】を獲得しました]
[スキル【姿勢制御】を獲得しました]
[ジョブスキル【
まぁ、こんなところか。
一般的な鑑定能力のレベルにまで出力を制限した【看破の魔眼】を使ってステータスを視てみると、奪って消えているはずのスキルがちゃんと表示されていた。
「……うん。成功だ。良い提案だったよ、リーゼ」
「どういたしまして。リオンの保有スキルは私にとっても他人事では無いので、スキルが増えるのは大歓迎です」
「確かになぁ。そう考えたら女性専用的なスキルも奪った方が良いか?」
「いえ、使えないスキルが増えるのは邪魔でしょうから今のままで大丈夫です」
「そうか?」
まぁ確かに、ユニークスキルほどでは無いにしても、通常スキルも多少はキャパシティを喰うから邪魔というのは間違いない。
会話をしながらも記憶を読み取らせていた喰手に死体の処理をさせてから、気絶したニンベル達を連れてランドルム近くの森へと転移する。
何だかんだ過ごしていたら良い具合に時間が経っていたので、転移魔法が露見することは無いだろう。
それからホースゴーレムに騎乗し、【
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