第64話 今後の予定
◆◇◆◇◆◇
商館から宿へと戻る道中、奴隷契約時に起きた現象を確認する。
どうやら奴隷契約に使われている契約術は、【契約】スキルやリーゼロッテの【
調べてみたところ、【強欲神皇】の
奴隷は主人の物だから、奴隷のスキルも主人の物、という理屈らしい。
高位のユニークスキルに備わっている固有特性は、常時発動しているか条件が揃えば自動的に発動する物であるため、『強欲に蒐める権限』という名称からすれば何らおかしくない効果と言える。
固有特性はスキルと違って範囲が広い、と言うか効果の説明が割とざっくりとしているから、奴隷にこんな反応を示すとは思わなかったが……とんだジャイアニズムな特性だ。
それにしても、奴隷を買えばその奴隷が持つスキルが一気に手に入ると考えたら、まぁ、お得かな?
ユニークスキルなどのどうしても欲しいスキル持ちの奴隷がいたら、買ってみてもいいかもしれない。
ま、時と場合によるけど。
二人から得られた新規スキルは、カレンからは【鑑定妨害】【速筆】【日輪光護】【月輪光護】、そしてユニークスキル【
ちょうどキャパシティに
というか、【魔法支配】の内包スキル【魔力炉心】によって、ただでさえヤバかった総魔力量と魔力の自然回復力が更に超強化されたんだが……まぁ、魔力がいくらあっても困ることは無いから良いんだけど。
他にもスキルでは無いが、カレンには高位の鑑定能力でしか視ることが出来ない隠し称号として〈転生者〉と〈異界人〉の二つがあった。
【鑑定妨害】のスキルもあるから、隠し称号を視ることが更に難しくなっているが、俺には【
試しにその二つの隠し称号に【情報解析】をかけてみると、前世の名前と年齢が表示された。
思い付きで試したのだが、まさか分かるとは思わなかった……前世は若い成人女性だったようだ。
それにしても、前世の名前の読みが同じカレンなのは、何か理由があるのだろうか?
ちなみに、俺にはどちらの称号も無い。
以前会ったカガミの〈転移者〉のような隠し称号も無い。
十中八九、神的存在であるプローヴァが関わっているからだろうと思うので深くは考えない。
【勇者の血筋】の発現条件を、【
つまりエリンの先祖に勇者がいたということになる。
【
ステータス補正は大元である【勇者】ほどではないが、その辺の戦士系ジョブスキルよりは高いようだ。
あとは【武勇の肉体】による各種補正も大きな助けになったと思われる。
これらのパッシブスキルによるステータス補正が無かったら、低レベルのエリンは死んでいたかもしれないな。
そうこう考えているうちに宿についたので、受付で明日の朝チェックアウトすることの報告と、二人の分の追加料金を払っておいた。
当たり前だが、部屋は俺達と同室だ。
ベッドも四つあるからちょうど良かった。
「さて、先ずはエリンの怪我を治すか。ああ、初めに命令しておくが、『俺の許可なく俺達の能力や所持している
「かしこまりました」
主人である俺からの奴隷への命令に対して、カレンの返事とともにエリンが首肯する。
あ、そうだ。
「話す時は素の口調でいいぞ」
「いえ、そういうわけには……」
「主人として許可する。口調含めて楽にしてくれ」
「……いいの?」
「ああ。呼び方も好きにしていい」
カレンがチラッとリーゼロッテの方を見る。
「リオンが許可するなら私は構いません。私に対してはご自由にどうぞ」
「……じゃあ、普通に喋るわよ? 呼び方はご主人様とリーゼロッテさんと呼ばせて貰うわ」
「分かりました」
「別にリオンでいいぞ?」
「そこは流石にケジメをつけないと駄目だと思うから、ご主人様で。エリンお姉様もそれでいい?」
カレンからの問いに頷くエリン。
そういや喋れないんだった。
会話はこの辺にして、さっさと治すか。
「それじゃあ治すぞ……はい、治した」
「えっ、そんなあっさり?」
カレンが二度見しているが、エリンに触れて【
魔法でも治せたが、エリンの体力的に消耗が少ない方が良いだろうと判断した次第だ。
白銀と黄金の魔力光にエリンの身体が包まれ、手と眼の欠損部位が瞬く間に元通りになった。
見える範囲にあった顔や身体の傷も傷痕すら残さず完治したので、見えない範囲も完治しているはずだ。
あとで着替える際にでも確認してもらえば良いだろう。
「エリンお姉様大丈夫? ちゃんと動く? 見える?」
「……ええ、大丈夫よカレン。ちゃんと動くし見えるわ」
カレンが涙ぐみながらエリンの状態を確かめている。
商館の支配人の話では、カレンとエリンは異母姉妹で、それぞれお嬢様とそれに仕える使用人であり庶子という立場の違いがあったそうだが、この様子だと当人達は普通の姉妹のように接していたみたいだ。
「ご主人様。私の身体を治して頂きありがとうございます。このご恩に報いるためにも、妹と共に誠心誠意お仕えさせて頂きます」
深々とお辞儀をするエリンと共にカレンも頭を下げる。
顔の大きな傷痕が無くなり、生来のエリンの容姿が認識できたが、思っていた以上に美人だった。
怪我をした時に抉られていたのか、単純に体勢の問題だったのか、エリンはリーゼロッテに迫るレベルの双丘を持っており、着せられた服がキツそうだ。
ま、服とかそのあたりはリーゼロッテに任せよう。
それから部屋に夕食を持って来て貰って食事を摂りながら、エリンとカレンの二人の容姿を改めて確認しつつ話をする。
エリンは射干玉色の髪に、ルベライトのような赤紫色の瞳をしており、落ち着いた佇まいの真面目系美少女といった印象だ。
一方のカレンは、銀灰色の髪と琥珀色の瞳を持ち、年相応のあどけない顔立ちに合わない利発的な快活系美幼女といった感じだろうか。
「ーーでは、ご主人様達は現在の予定では最終的に迷宮都市に向かうのですね。そして私達はその道中の馬車の御者や身の回りのお世話をすればいいと」
「まぁ、基本的にそんな感じだな。迷宮都市に向かうのは、目標であるSSランクになるにあたって、迷宮都市で活動する方が色々都合が良さそうだからだな」
「SSランクって世界に四人いるんだっけ?」
「今日商館に行く前に冒険者ギルドで得た情報だが、最近SSランクが二人増えたみたいだぞ」
「えっ、そうなの?」
「らしいぞ。どこの国かは正確な情報が入って来てないから知らないが、二人増えたのは事実らしい」
数十年人数に変動が無かったところにいきなり二人も増えたから、色々と世界情勢が動くかもしれないな。
「増えたと言えば、この国のSランクも増えていましたね」
「そういやそうだったな」
確か、アルグラートを発つ直前に入ってきた情報だったか。
こっちは三人増えて、アークディア帝国のSランク冒険者が合計七人になった。
どうやら全員迷宮都市の冒険者らしい。
まぁ、Aランクに上がった際に教えてもらった、Sランクになるための条件の中には最低限到達しなければならないレベルも設定されていたから、日々ダンジョンに潜って魔物を倒している迷宮都市の冒険者が昇級するのは自然な流れだ。
俺がSランクに上がるのに必要な条件は、後はAランク冒険者として一国で一定の期間活動するだけだ。
早く昇級したくても規則で決まっているのでどうしようもない。
リーゼロッテはレベル条件は達成目前だが、帝国での活動日数が足りないので大体俺と同じぐらいになるそうだ。
「……ねぇ、もしかしてご主人様って結構強い?」
「強さの基準次第だが、Aランクになって間も無いが、たぶん現時点でもSランク相当の強さはあると思うぞ」
「そんなに強いんだ……あのね、ご主人様。お願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うん。私ね、強くなりたいの。今の私は周りに守られないとすぐに死んじゃうぐらいに弱いわ。だから最低でも自分の身を守れるぐらいには強くなりたい。だから、ご主人様に鍛えて欲しいの」
「ふむ……」
夕食に添えられていたワインボトルの栓を開けて中身をグラスに注ぐ。
横合いからスッと出されたグラスにも注いでやってから、自分のグラスを傾けてワインを味わう。
たっぷり十数秒の時間を掛けたのには特に意味は無い。
単純にワインを味わっていただけだが、【並列思考】では一応カレンの言葉を考えてはいた。
考える必要も無いぐらい答えは決まっているからこそ、時間を掛けた意味は無いんだが。
それでも今一度熟考してから口を開いた。
「いいぞ」
「やっぱり駄目……え、いいの?」
「強くなりたいんだろ? 俺としても自衛できるぐらいの力を付けて貰うのは悪くない案だしな」
「ご主人様。それでしたら、私もよろしいでしょうか?」
「いいぞ。ただ、強いからといって、他人を鍛えるのが上手いとは限らないぞ?」
「勿論構いません。ありがとうございます、ご主人様」
「ありがとう、ご主人様!」
カレンだけでなくエリンも強くなりたかったようだ。
まぁ、一方は力不足で部位欠損レベルの大怪我、もう一方は姉が自分を守ろうと庇った末に大怪我したのを目の前で見ているからな。
そこで折れずに強くなろうと奮起する姿勢は実に素晴らしい。
この気質だけ見ても二人を買った甲斐があったというものだ。
「ま、詳しいことは後で話すとして、今は冷める前に夕食を食べるとしようか」
「うん」
「はい」
久しぶりのマトモな食事……いや、商館ではマトモな食事は与えられていたようだから、良いとこの出身である二人にとって久しぶりの高級料理と言うべきか。
久しぶりの高級料理に舌鼓を打つ二人を前に、俺も食事を再開しつつ今後の予定に思考を巡らせる。
道中で二人の育成をしながらのんびり帝都に向かっても、約束の期日には間に合うだろう。
場合によっては二人も冒険者登録をさせて、奴隷とは別の肩書きを持たせるのもアリかな。
奴隷だと目に見えて分からないとはいえ、何かしら身分を証明する物があった方が良いだろうしな。
取り敢えず明日は朝一で冒険者ギルドに向かうとするか。
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