第53話 闇夜に動くモノ
◆◇◆◇◆◇
「ーーん?」
夕食後、魔導馬車内のリビングで【無限宝庫】に収納しているアイテムの整理と確認をしていると、【
「どうかしましたか?」
「ここに近付いてくる反応がある。これは……人間じゃないな」
キッチンで紅茶を淹れる練習をしているリーゼロッテにそう答えを返すと、【千里眼】を発動させる。
「魔物ですか?」
「ああ。アンデッドだ。こりゃ、ゾンビだな。数は今のところ五体だ」
反応があった地点を【千里眼】で確認したところ、そこには身体の各部が腐乱した肉体を持つ代表的なアンデッドである〈
「まだ距離はあるけど、真っ直ぐこっちに向かって来てるから、おそらく捕捉されてるな」
「ここで迎え討ちますか?」
「……いや、打って出る。車外とはいえ、寝所の近くに死体が来るのは嫌だからな」
「それもそうですね。では着替えてきます」
「別に俺一人で倒せるから、リーゼは此処で待ってて大丈夫だぞ?」
「私が此処にいたら、別の方向からもアンデッドが来るかもしれませんよ?」
言われてみれば、その可能性は充分ありえるか。
レーダー範囲内だけでなく、周辺エリアの情報も確認するために【
アルムダ伯爵領に向かうことが決まったその日には、マップ開拓のためにアルムダ伯爵領がある方角へ前もってカラス型の生体式探索ゴーレムであるフギンムニンを放っておいた。
そのため、アルムダ伯爵領のマップの殆どは解放済みだ。
それによると、ゾンビは今向かって来ている五体以外にも、そのゾンビ達がやって来た方角の奥地にアンデッドの集団が集まっていることが確認できた。
ただし、この集団は今向かって来ている五体とは距離がかなり開いており、今のところ此方にやって来る様子はない。
それらの情報とリーゼロッテの同行を許可し、まだやって来るまで時間があることを告げると、リーゼロッテはメイド服から戦闘装備に着替えるために自室へと戻っていった。
リーゼロッテを見送ってから再び【千里眼】を発動させる。
対象は当然ながら後方にいるアンデッドの集団だ。
「ゾンビに、グール……ゴーストにレイスか。アンデッドとしては、一般的なやつばっかりだな」
ザッと見た限りでは、集団を構成するアンデッドは全部で四種類いる。
生前よりもタフで力が強いが、動きは遅くなっている
肉体が腐り落ちて骨だけになったアンデッドである〈
何気にこの二度目の生では初のアンデッド戦だ。
転生時にインストールされていた知識と、【
一つだけ大きく違うのは、霊体タイプを除いた、元が人類種である人型アンデッドの中には、生前のスキルを使ってくる個体がいるということだ。
死による劣化か魔物への変質のせいかは分からないが、生前の全てのスキルを使ってくるわけではなく、大半の人型アンデッドは基本的な種族固有の能力しか使えないらしい。
だが、生前のスキルを使ってくる個体かどうかの見分けはつかないため、人型のアンデッドと戦う場合は魔物ランクが低いからといって油断していいような相手ではない、と情報源には書かれていた。
「スキルを使ってくるということは奪えるってことだよな?」
アンデッドの集団という表現通り、その場所には数十体のアンデッドがいた。
その中に生前のスキルを使う個体がいてくれたら嬉しい。
そして、そのスキルが新規スキルだと更に嬉しい。
アンデッドの集団は、俺達がいる街道沿いにある野営地から更に離れた森の奥地におり、そのには多数の人々が暮らしていた痕跡があった。
街道とは道が繋がっていないことなどを考えると、おそらく盗賊のアジトだったんだろう。
実際、今日潰した盗賊団のリーダーから奪った記憶情報の中にそれらしき情報があった。
改めて確認してみたが、このリーダー達が襲ったわけじゃないらしく、ここら一帯では有数の勢力を誇る盗賊団だったそうで、その盗賊団を潰したのが誰なのかは知らないようで情報が無かった。
どこのどいつが討伐したのか知らないが、アンデッド化しないようにちゃんと後始末をしていかなかったようだ。
それともそんな余裕が無い状態だったのだろうか?
近くには領境の街道を行き交う人々のための宿場町がある。
生者に引き寄せられる習性を持ち、そして襲うアンデッドが宿場町の近くに発生したというのは、迷惑という言葉では足りないほどに厄介な事態だろう。
見ず知らずの馬鹿の後始末をさせられるのは、新規スキル獲得のチャンスだとしても軽くイラッとするが、放置という選択肢は無い。
取り敢えず、この鬱憤はアンデッド達で解消させてもらうとしよう。
「お待たせしました……あら? 槍を使うのですか?」
装備を整えて自室から出てきたリーゼロッテが、俺の装備を見て疑問の声を投げかけてきた。
今の俺の装備は、黒と銀のカラーリングの真竜素材製の上下一式とコートという普段の防具に加えて、魔剣ヴァルグラムの代わりに深緑竜の素材を使って製作した深緑色の長槍である〈深緑の竜牙槍〉を携えている。
「夕食の時にジョブスキルの話題が出ただろう?」
「ええ」
「新しいジョブスキルを取得すると、その分だけ
「なるほど。だから槍ですか」
「ああ。まぁ、槍に限らず魔法系とか神官系とかも上げときたいし、これからは剣以外も意識して使おうと考えている」
魔導馬車を【無限宝庫】に収納し、森の中を進みながらリーゼロッテに今後の方針を告げる。
ランクが低い戦闘系のジョブスキルは軒並み上げて、全体的な能力値の底上げをしたいところだ。
暗闇の中、草木を掻き分けながら進み出して十分が経った頃。
生き物の声どころか、気配すらも感じられない不気味な静寂に支配された森の中を進んでいると、俺達二人以外に動くモノが前方より現れた。
事前情報通りの五体のゾンビだ。
「んじゃ、慣らすとするか」
深緑竜槍に魔力と意思を通すと、竜の牙を削り作られた穂先が不可視の風属性の魔力に覆われる。
このままでも倒すことは容易だが、せっかくなのでアンデッドに絶大な効果を発揮する【勇光聖闘気】を発動させた。
身体から湧き出た輝く黄金色の聖気が深緑竜槍全体を包み込む。
これで万が一にも攻撃を受けることは無い。
聖気というアンデッドが悲鳴を上げそうな力の発露によって、五体のゾンビ達は嫌でも俺を注視せざるを得ないのでリーゼロッテの方に流れることはないだろう。
「ーーフッ!」
深緑色の柄を両手で引き絞りながら前へと突き出す。
一番先頭にいたゾンビの胸部へと突き出された竜牙製の穂先は、ゾンビの身体に容易く大穴を空けた。
更に追い討ちをかけるように、その穂先に直接触れた部分から聖気が全身に広がっていき、その力を顕すように不浄な身体をあっという間に真っ白な灰へと変えてしまった。
「……お、おお。凄い威力だな。力を込めすぎたか?」
オーバーキルだったようなので、黄金色の輝きを放つ聖気を少し抑えてから、残る四体へと槍を振るってみた。
灰になった一体目の向こう側から掴み掛かって二体目の頸部へと、深緑竜槍を横薙ぎに振るう。
まだ聖気が強いのか、穂先によって斬り裂かれた頸部だけでなく、頭部と上半身も斬撃の余波を受けて灰になったので、更に聖気を抑えてみる。
横合いから襲ってきた三体目に対して、石突きを振り上げて下顎を強打すると、上手い具合に頭部だけをピンポイントで灰に出来た。
コツを掴んだ気がしたので、四体目を使って再び胴体へと槍を突き入れてみたところ、一体目のように全てが灰になることなく、胴体に穴が空いただけで動かなくなった。
五体目にも同じように攻撃して、アンデッドへ聖気が及ぼす効果の強さとその扱い方を大体把握すると、残っていた肉体部分を全て灰にしていく。
聖気のダメージがあるとはいえ、この残った肉体が原因で疫病が発生したら拙いので、しっかりと処理するのを忘れない。
思った以上に効果があって驚いたが、聖気がちゃんと実戦で使えることが分かった。
最大出力での攻撃は試していないが、それは相応の相手が現れた時で構わないだろう。
肉体は灰になったが、その場には着ていた衣服が残っていた。
五体分あるわけだが、【黄金探知】には何も反応が無いので、そのまま【発掘自在】で地面に埋めてからアンデッドの集団の元へと向かった。
[スキル【空腹耐性】を獲得しました]
[スキル【暗黒耐性】を獲得しました]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます