第49話 擬似魔王種
◆◇◆◇◆◇
異能種とは、ユニークスキルという通常のスキルよりも強力なスキルを持つ魔物に付けられる名称だ。
当然その代表的な特徴は
「ーーん?」
振り下ろした刃がこれまでに無かった何か硬い物に受け止められた。
僅かに食い込んでいるものの、このままの状態では押し切るのは難しそうだ。
「PUGUOOOOOーー‼︎」
オークキングが周囲へと魔力を解き放ち、身体に纏わりついている炎を吹き飛ばした。
黒炭になっていた体皮が一人でに剥がれ落ちると、瞬く間に新たな皮膚へと生え変わる。
それだけでなく、その体皮を保護するかのように昏い緑色の外殻ーー金属鎧とも言うべき防具が具現化され、その身を包み込んだ。
その変化過程を黙って見ていたわけではなく、変化が完了する一秒余りの間に数十の斬撃を見舞う。
だが、それらの斬撃はオークキングの身体から噴き出す昏い緑色の魔力に殆どが防がれた。
本気でやったわけではないが、先ほどまでなら容易くミンチが出来上がるほどの斬撃ではある。それが防がれた。
「へぇ、やれば出来るじゃないか。まぁ、〈擬似覚醒〉なのは残念だがな。原因は経験値不足かな?」
眼前にいるオークキングの姿は一変していた。
昏い緑色の全身鎧を身に纏い、同色の斧槍を携えている。
名称はオークキングのままだが、ステータス上には〈魔王・擬似覚醒〉という称号が追加されていた。
異能種の特徴は二つあり、一つはユニークスキルを持つこと。
そしてもう一つは、異能種はほぼ確実に〈魔王〉へと覚醒する点が挙げられる。
〈魔王〉とは、経験と年齢を積み重ねた異能種が自然に獲得すると言われる称号だ。
ただでさえ強力だった個体が、新たな能力を獲得するだけでなく、全能力値を大幅に増大させるため、魔王に覚醒した個体を討伐する際には国を挙げて対処することが多いらしい。
そのように魔王に覚醒した個体は、そのまんまだが〈魔王種〉と呼称される。
ちなみに、異能種は放置していたらほぼ確実に魔王種へと至ると言われているが、異能種でなくとも通常種である高位魔物が、ある日突然魔王種へと至ることもあるとのこと。
そのため、魔王化の条件にユニークスキルは含まれてはいない。
ただ単にユニークスキルがあったら楽に到達できるだけなのだろう。
そんな魔王種に近しい存在へとオークキングは変貌した。
昏い緑色の全身鎧と斧槍はそうして獲得した武具具現化能力によって生み出した物のようだ。
特異な武具の具現化という新たな能力を獲得したし、全能力値も増大したようではあるが、称号には〈擬似覚醒〉という情報が見える。
現状からの推測ではあるが、この魔王化は【
【微睡みの蓄積】によって、寝て蓄えられたエネルギーを使い、【堕落の奇跡】が魔王化という現象を強制的に引き起こした、ってところか。
ただ、本来の魔王化の過程とは異なるため〈擬似覚醒〉という魔王化一歩手前みたいな状態になったものだと思われる。
つまり、〈魔王種〉ではなく〈擬似魔王種〉というわけだな。
[経験値が規定値に達しました]
[スキル【推測】を習得しました]
[スキル【予測】を習得しました]
魔王化もそうだが、黒炭になったところ以外の焼け爛れた部位が回復していることから【炎熱耐性】と【火傷耐性】も獲得しているようだ。
普通の炎だとダメージが与えられないだけでなく、火傷状態にも出来ないかもしれないな。
「PUGO!」
「ん?」
「……PUGI?」
オークキングが片手を突き出してくるが、特に何も起こらない。
向こうも予想外だったのか硬直している。
一体何だ? と思いながら【
どうやら意識せずとも抵抗していたようだ。
擬似とはいえ、魔王化しても効果を発揮出来ないのはショックだろうな。
明日は来ないけど元気だせ。
さて、今のうちに少しスキルを弄るか。
[スキルを合成します]
[【猛毒攻撃強化】+【石化攻撃強化】+【疾病攻撃強化】+【腐食攻撃強化】+【麻痺攻撃強化】=【状態異常攻撃強化】]
[【推測】+【予測】+【状況観察】=【予見】]
狙い通りの形になったな。
補助系スキルである【予見】によって、向こうもそろそろ動きだすことが分かったので、その前にこちら側から仕掛けることにした。
魔剣ヴァルグラムの〈拒絶〉の対象を〈怠惰〉に設定する。
そして、【紫炎雷閃刃】を発動させると、機先を制するようにオークキングへと斬りかかった。
閃光のような鋭さの此方の攻撃を斧槍を使ってギリギリで防ぐオークキング。
だが、接触した刃から発せられる紫色の炎雷までは防ぐことは出来ない。
身に纏っている怠惰の力で炎雷を削ぎ落とそうとしたようだが、ヴァルグラムの拒絶の力によって怠惰の力が一部斬り裂かれたため、大して減衰することはなかった。
擬似魔王化によって多少耐性が上がったようだが、通常の炎よりも強力な紫炎に【状態異常攻撃強化】が重ねられた攻撃の前では、然程の効果は発揮出来ないだろう。
斬撃は防げても、紫色の炎雷によって全身鎧越しに〈麻痺〉と〈火傷〉の状態異常が降りかかる。
地味ではあるが、斬撃を振るう度に同じ数だけ炎雷が襲い掛かるため、いずれまともに身体が動かなくなるのは間違いない。
そして、それはそう遠くないはずだ。
◆◇◆◇◆◇
「PUGO‼︎」
「これは、強化系か」
暫く攻防を重ねていると、オークキングの持っている斧槍と鎧の固有能力が発動された。
オークキングの身体能力が大きく強化され、耐性も一時的に強化されたのか先ほどまで身を焦がしていた炎雷を物ともしていない。
横薙ぎに振るわれた攻撃を受け止めたが、これまでとは格段に強化された人外の膂力を持って強引に押し返される。
【暴竜鬼闘気】を発動させると多少拮抗できたが、それでも体格差を利用して強引に身体ごと弾き飛ばされた。
空中で体勢を整えて着地すると、その瞬間を狙って下段から掬うように斧槍を振り上げてくる。
その攻撃を防ぐために、魔法で障壁を張ったが、斧槍に宿った怠惰の力が障壁を弱体化させたらしく、アッサリと障壁は破壊され、俺の身体へと直撃した。
強烈な一撃によって吹き飛ばされると、その勢いのままボス部屋の岩壁を突き破り、山頂にあるボス部屋の外界である空中へと放り出される。
オークキングは、ボス部屋に空いた穴から素早く空中へと躍り出ると、追撃を仕掛けるために斧槍を大きく振りかぶってきた。
大きなダメージを受けて動きが鈍っていたら防ぐ暇が無いほどに素早い動きだ。
鈍重そうな見た目に似合わない動きと判断の速さに、思わず感心してしまう。
「『
「PUGIーー⁈」
感心しつつも、振り下ろされた斧槍の刃と入れ替わるように転移魔法を発動させた。
大きな隙を晒したオークキングの背後へと転移すると、俺は【
コロニー中に響き渡るような凄まじい轟音は、とても生物から発せられた物とは思えない。
超絶強化された身体能力だけでなく、【破滅の一撃】と【
[経験値が規定値に達しました]
[ジョブスキル【
地上へと落下していく肉体の破片を見送りつつ、肉体が爆散したことにより空中に放り出されていた斧槍をキャッチしてから地上へと降り立った。
マップを見るとコロニーにいるオークは既に尽きており、現在はオークではない魔物の掃討に移っているようだ。
コロニー外のマップに表示されていたオークの光点が消えると同時にオークキングが復活する。
現在有効化されている近隣マップに表示されているオークは今のがラストだ。
まだ有効化できていないエリアにもいるかもしれないが、どちらにせよ残機は残り僅かだろう。
「さて、やってみるか。奪い盗れーー【
残る最後の
右手に持つ昏い緑色の斧槍の柄から斧槍全体へと黄金色の魔力が流れ込む。
斧槍の強い抵抗を感じつつも、強い意志と膨大な魔力を流し込んでいく。
すると、斧槍の各部に黄金色の装飾が増えていき、先ほどまであった抵抗が徐々に収まっていくのが分かった。
[対象を強奪します]
[強制
[アイテム〈
[アイテム〈怠惰の魔王斧槍〉の強奪に成功しました]
通常、高位の人型魔物が使える傾向にある具現化能力によって具現化された物は、術者の手を離れると程なくして魔力粒子状になって霧散する。
だが、その具現化された物が実体化し失われない状況がある。
それは
ダンジョン内の人型魔物にはダンジョンの力によって具現化された武具などのアイテムが与えられるのだが、その具現化武具を持った人型魔物を倒した際、稀に具現化武具が消えずに残ることがある。
ギルドの資料によれば、この世界ではこれを
本来ならば、この顕在化現象はダンジョンの外では起こらないのだが、俺は【
【強欲なる盗奪手】は他者のアイテムなどを強制的に奪う力なため、こういった裏技みたいな使い方が出来るのだろう。
まぁ、顕在化するために膨大な量の魔力を相応に消費したが、そのうち回復するから問題は無い。
「ハハッ、思った通りか。悪いな。オマエの武器、奪っちまった」
復活が終わり、再び具現化した鎧を纏ったオークキングは、様々な感情が入り混じった形容し難い表情をしていた。
その中でも絶望の色が一番強い気がする。
まぁ、立て続けのどんでん返しを体験したから無理もないか。
斧槍が此方の手に渡ったので、もう大丈夫だろうと判断し、身を守っていた【聖鱗煌く積層金剛城壁】を解除する。
さて、次はその鎧を貰おうか。
「PU、PUGOOOOO⁉︎」
「……逃げる気か?」
背中を見せて逃走するオークキングに向かって【金属生成】で生み出した鉄槍を【投擲】する。
紫色の炎雷を纏った鉄槍は、強度の問題から全身鎧を貫けなかったが、直撃すると同時に爆散し、その衝撃がオークキングを転倒させた。
[保有スキルの
[スキル【投擲】がスキル【射出】にランクアップしました]
【投擲】が【射出】にランクアップしたことによって、わざわざ手で保持せずとも物体を放てるようになったようだ。
両手を空けたまま投射物を放つことができるので地味に嬉しい。
【虚脱の魔眼】と【麻痺の魔眼】でオークキングを直視しながら近づいていくと、横合いから黒い鬣と体皮のライオン型の魔物が襲い掛かってきた。
中々の高ランクの魔物だが、これもオークキングに支配された魔物の一つだ。
このままキングスロウスで迎撃しようと思ったが、此方に急速に近づく気配を察したので、肩に担いだまま待機する。
その直後、上空から急降下してきたリーゼロッテが持つ双剣によって頭部を貫かれて、ライオン型の魔物はその動きを止めた。
「ーー失礼しました。これがラストです」
リーゼロッテはライオン型の魔物の頭部から双剣を引き抜くと、地上へと降り立ってから此方へと頭を下げる。
どうやらもう他の魔物を掃討し終えたらしい。
伊達にこれまでソロで活動していたわけではないようだ。
数百体の魔物を倒したため、さすがに疲労の色が濃いが、泰然とした姿勢を保つぐらいの体力と気力は残っているように見える。
「ご苦労様。後は休んでいてくれ。多分、すぐ終わる」
「分かりました。お気をつけて」
「ああ」
離れていくリーゼロッテを見送り、視線をオークキングへと戻す。
此方には目もくれずに氷壁へと向かって走る後ろ姿が見える。
今の状態でも氷壁を壊すぐらいは容易だろう。
【
もうこれ以上は鍛練のために力を制限する必要は無い。
リーゼロッテを待たせてるし、さっさと終わらせよう。
[対象を強奪します]
[強制顕在化に成功しました]
[アイテム〈
[アイテム〈怠惰の剛鬼鎧〉の強奪に成功しました]
オークキングが身に付けていた全身鎧が顕在化し、支配権が俺に移ったため強制的に装備が解除され、【無限宝庫】へと収納された。
装備が剥ぎ取られた瞬間、オークキングが跳ね起きるようにして勢いよく身体を起こすと、踏み付けていた足を振り払って殴りかかってきた。
「出来れば、ちゃんと魔王に覚醒した状態で戦いたかったな。ま、俺がいなかったらアルグラートが滅んでいたかもしれない程度には強かったよ」
「PU……GO……」
袈裟斬りに魔王斧槍キングスロウスを振り抜き、オークキングにトドメを刺す。
異能種から擬似魔王種へと至ったオークキングは、斜めに身体を両断されて地に伏すと、二度と復活することはなかった。
[スキル【運搬】を獲得しました]
[スキル【採掘】を獲得しました]
[スキル【調教】を獲得しました]
[スキル【祈祷】を獲得しました]
[スキル【撤退】を獲得しました]
[スキル【学習】を獲得しました]
[スキル【不屈】を獲得しました]
[スキル【防御体勢】を獲得しました]
[スキル【環境適応】を獲得しました]
[スキル【守護の心得】を獲得しました]
[スキル【狩猟の心得】を獲得しました]
[スキル【鍛治の心得】を獲得しました]
[スキル【生活の知恵】を獲得しました]
[スキル【虫の知らせ】を獲得しました]
[スキル【
[スキル【
[スキル【飛行補正】を獲得しました]
[スキル【甲殻強化】を獲得しました]
[スキル【立体機動】を獲得しました]
[スキル【糸生成】を獲得しました]
[スキル【操糸術】を獲得しました]
[スキル【猛毒弾】を獲得しました]
[スキル【重撃無双】を獲得しました]
[スキル【森の住人】を獲得しました]
[スキル【森林浴】を獲得しました]
[スキル【
[スキル【岩石弾】を獲得しました]
[スキル【獅子咆哮】を獲得しました]
[スキル【獅子葬爪】を獲得しました]
[スキル【氷凍耐性】を獲得しました]
[スキル【反撃】を獲得しました]
[スキル【悪知恵】を獲得しました]
[スキル【敵意緩慢】を獲得しました]
[スキル【安眠】を獲得しました]
[スキル【快眠】を獲得しました]
[スキル【眠れる獅子】を獲得しました]
[スキル【統率】を獲得しました]
[スキル【再生強化】を獲得しました]
[スキル【精神干渉強化】を獲得しました]
[スキル【睡眠強化】を獲得しました]
[スキル【限界突破】を獲得しました]
[ユニークスキル【怠惰】を獲得しました]
[大罪系最上位権能が確認されました]
[ユニークスキル【怠惰】が最適化されます]
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[スキル【装具具現化】がスキル【上位装具具現化】にランクアップしました]
[スキル【酸弾】がスキル【強酸弾】にランクアップしました]
展開していた【
オークキングは勿論だが、リーゼロッテが倒した魔物もその蒐集対象だ。
数が数だから新規スキルだけを見ても数が多い。
その新規スキルの中でも、【怠惰】は中身の内包スキルが俺専用に最適化されたようだ。
どうやら大罪系ユニークスキルを他者から奪うと最適化されるらしい。
まぁ、オークキングが使っていたスキルのままだと持て余していただろうから、元のスキルから変化しても構わないんだけど。
持て余していると言えば、スキルの数が一気に増えたので、合成案を思い付いたらさっさと合成しておかないとゴチャつきそうだ。
それでもスキル集めは止められないから、これは〈強欲〉ならではの悩みなのかもしれないな。
此方に近づいてくるリーゼロッテに手を振りながら、俺は【合成】を発動させた。
[スキルを合成します]
[【蛇睨み】+【麻痺の魔眼】=【静止の魔眼】]
[【超速再生】+【真竜の漲る生命力】+【再生強化】=【神速再生】]
[【休眠】+【安眠】+【快眠】+【睡眠強化】=【安楽休眠】]
[【罠設置】+【罠解除】=【罠術】]
[【詐術】+【暗躍】+【悪知恵】=【権謀術数】]
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