第50話 次の目的地は……



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーまたしてもアルグラートを救ってもらったようだな。感謝する」


「昇級試験に必要なことでしたのでお気遣いなく。防衛依頼を受けたわけでもありませんから」


「そうだとしても五百以上もの魔物の群れに、それらを率いるオークキングの存在の危険度を考えれば、領主として感謝の言葉ぐらいは贈りたくなるものだ」



 場所は領都アルグラートにある領主邸。

 そこの主人であるヴァイルグ侯と面談している。

 本題に入る前に世間話をしていたのだが、今はその内容が先日のオークコロニーの話へと移っていた。

 アルグラートの危機に関わる事態であるため、調査結果が出る前に領主であるヴァイルグ侯に話が上がっているのは当然だろう。

 アルグラートに帰還後にギルドマスターであるカスターに報告した内容にも目を通しているようだ。



「本来ならば、これからもアルグラートの民のために尽力して欲しいところだが、今日は出立の挨拶に来たのであろう?」


「ご存知でしたか。仰る通り、本日は出立前のご挨拶に伺わせて頂きました」


「以前からアルグラート以外の場所へ向かうことを示唆しておったからな。無事にAランクへと昇級したことと併せて考えれば、新天地へと向かうには区切りの良いタイミングだろう」



 ヴァイルグ侯はそう言うと、目の前に置かれた紅茶に口をつけて一息つく。

 俺もそれに合わせて自分の分の紅茶を一口だけ口に含み、会話で渇いた喉を潤しながら、ここ最近のことを思い返す。


 三日前、オークコロニーを殲滅後に移動時間も考えて一日空けてからアルグラートに帰還すると、オークコロニーの発見と殲滅が完了したことを冒険者ギルドに報告した。

 討伐証明として、初攻撃時に回収したオークキングの頭部を鑑定に出したのだが、通常の鑑定能力では異能種であるかどうかは分からないため、群れを率いていたオークキングが異能種であったことは報告していない。

 それ以外のことは、大体ありのまま報告に上げたので、その危険度の高さから結構な額の追加報酬が貰えた。

 回収した魔物の内、食肉確保用であるオークと一部の高位魔物を除いた、他の魔物の素材は冒険者ギルドに売却することにした。

 Aランクに昇級するのはまず間違いなく、Aランクになったらアルグラートを出るつもりなので、最後になるだろうから報告後に素材を大量売却しておくのも忘れない。


 素材売却の話になった際、カスターが「売るならオーク肉も売ってくれ」と言っていたが、首は横にしか振らなかった。

 それでも尚、執拗に交渉してくるので、【寄付】を発動しながら何も言わずオーク肉の塊をスッとカスターに差し出す。

 そしたら、カスターは無言でオーク肉を自分の魔法の小袋マジックポーチへと収納し、何事も無かったように話の趣旨をオーク肉から別の内容へと変えた。

 どんだけ食いたかったんだよ、っと口に出して突っ込みたかったがグッと我慢した。

 その翌々日にAランク冒険者の証明証ライセンスである黄金色のプレートをギルドで受け取って、ヴァイルグ侯にアポを取り、翌日の今に至るわけだ。



「目的地は、帝都を経由してから迷宮都市に向かうのだったかな?」


「はい。その予定です」



 よく調べてるなぁ、と思いつつ顔には出さない。

 カスター含めて何人かには話していたので驚きはない。



「帝都以外に何処かに寄らなければならない場所はあるかな?」


「いえ、無かったと思います」


「ふむ。それならば、少し依頼を受けて欲しいのだが、いいかな?」


「内容と報酬次第ですね」


「では説明させてもらおう。リオンは、アルムダ伯は知っているかな?」


「私の記憶が正しければ、銀鉱山解放作戦の成功を祝したパーティーで一言二言ご挨拶をさせて頂いたかと思います」



 レベルアップなどで知力値が増大した副産物で記憶力が上がっていなかったら、間違いなく覚えていなかっただろう。

 前世から人の名前と顔を覚えるのは物凄く苦手なのだ。



「うむ。依頼というのはな、そのアルムダ伯への手紙の配達だ。だから、東部国境のアルムダ伯爵領に向かってもらうことになる。リオンが依頼を受けてくれるのならば非常に助かる」


「何故、自分なのでしょう?」



 普通にギルドで依頼を出すか、配下の者に任せればいい気がするのだが?

 ヴァイルグ侯爵家ならお抱えの連絡要員ぐらいいるだろう。



「リオンだから説明するが、この手紙は内密に、そして確実にアルムダ伯に届けてもらう必要があるほどの重要な物なのだ。そのため、敵対勢力からの妨害などの可能性を踏まえると、既に知られている連絡方法は極力使うわけにはいかず、だからと言って秘匿性からギルドを通して依頼を出すわけにもいかない。だから、元よりアルグラートを発つ予定のリオンに託すのが此方としては都合が良いのだ」



 アルグラートを発ってもおかしくないのもあるだろうが、万が一バレて何かしらの妨害を受けても俺なら切り抜けられるから、というのもあるんだろうな。



「ギルドを通さない上に機密性の高い依頼になるため、報酬は特別な物を用意させた」



 ヴァイルグ侯の合図を受けて、控えていた老執事が鞘に納められた一本の剣を持ってきた。



「この剣は数代前のヴァイルグ家の当主が蒐集した武具コレクションの一つでな。一目見て気に入り購入したはいいが、父祖は買ったらそれで満足する方だったそうでな、実際に使われることは無かったそうだ。それ以来、長く放置されていたせいで鞘からも抜けなくなっていたのだが、珍しい魔導具マジックアイテムを集めているリオンならば気に入るのではと思い報酬に選ばせてもらった」


「……随分と高位の魔導具ですが、本当によろしいのですか?」


「依頼で出したわけではないが、オークコロニーを殲滅したことに対する謝礼も含めている。あとは、先ほども言った通り鞘から抜けなくてな。使用することもできないから、我が家にとっては父祖が集めたコレクションとしての価値しかないから手放しても然程痛くは無い。……リオンにとってはそうではないようだがな」



 つい正直な感情が顔に出ていたのを見られてしまったが、【権謀術数】を発動させて曖昧な笑みを浮かべて誤魔化しておく。……まぁ、手遅れだろうけど。

 こんな代物が報酬として出されたのは、【豪運】のおかげかもしれないな。



「これほどの報酬を頂けるのならば是非もありません。アルムダ伯爵様への手紙の配達はお任せください」




 ◆◇◆◇◆◇



 「ーーと、いうわけで報酬も先払いで受け取ったので、手紙の配達のためにアルムダ伯爵領に向かうことになった」



 宿泊している白銀の月花亭の自室でリーゼロッテに今後の予定を知らせる。

 今日はヴァイルグ侯や冒険者ギルドなど、出立前に各所の知り合いへの挨拶回りに一日を費やしたのだが、リーゼロッテはついて来ていない。

 殆どが初対面なので同行しても手持ち無沙汰になるため、昼間はずっと別行動をとり生活必需品や嗜好品の買い物をしていた。



「〈リオン・エクスヴェル名誉男爵〉としての初依頼が手紙の配達というのは何だか残念ですね」


「昇級後直ぐに上級貴族から直接依頼を受けたと考えれば妥当じゃないか?」


「言われてみればそうですね。ギルドを通していないから実績にはなりませんけど」


「そこは内容が内容だから仕方ないさ」



 リーゼロッテが言ったように、今の俺の名前は〈リオン・エクスヴェル〉になっている。

 国によって多少異なるが、Aランク冒険者になると国から爵位が貰えるので姓が必要になるからだ。

 エクスヴェルは、前世の姓である玄鐘クロガネを、玄人エキスパートベルに分けて、再び圧縮してくっ付けてexbellエキスベル

 そのスペルの読み方を変えてエクスベル。そこから少し発音を変えて〈エクスヴェル〉にしたという、まぁ、特に思い付かなかったので、前世の姓をこっちの世界風に多少捻っただけの姓にした。

 エクスの名の通り、少しばかり星王剣エクスカリバーを意識してはいる。


 爵位のためにエクスヴェルという姓が必要になったわけだが、爵位と言っても一代限りの名誉貴族であり、本来の貴族とは違って国から爵位に伴う俸禄は無いし、それに伴う貴族の義務なども無いため、今まで変わらない比較的自由な身でいられるらしい。

 まぁ、自由でいられるのはAランクまでで、Sランクにもなると国の行き来などで制限を受けるとのこと。

 リーゼロッテがあっさりと国の所属を変えられたのはAランクだからだ。

 Aランク昇級時に名誉貴族の爵位が与えられるのは、少しでも国に帰属する強者を増やすためだとカスターが教えてくれた。

 だから、アークディア帝国における名誉と付く爵位は、殆どが冒険者のための爵位だと言ってもいい。


 その名誉貴族だが、国内での扱いは基本的に通常の貴族と同じだ。

 そのため、平民よりも上の立場になり、国に認められた身分になれるというのは大きな価値を持つらしい。

 ちなみに、名誉貴族は名乗りの際に名前だけか、姓までか、或いは爵位まで名乗るかどうかは個人の自由なんだそうだ。

 これは、Aランクは名誉爵位を持つが、その爵位は殆どが一番下の名誉騎士爵止まりで、平民とあまり変わらないのが理由になる。

 この爵位に関しては、国に対する貢献度によって上がり、Aランクだと最大で名誉子爵位まで与えられるとのこと。

 俺は竜殺しの実績と、秘密裡にだがミスリル鉱床を発見した実績が重なって初めから二段階上がって名誉男爵位スタートになった。

 だから俺の場合は公的な場などでは爵位まで名乗った方が良いらしい。

 アークディア帝国での実績が無いリーゼロッテは一番下の名誉騎士爵なのだが、本人は気にしていないそうだ。

 一番下の名誉騎士爵は爵位がある以外は平民と変わらない扱いだが、その次の名誉准男爵からは色々特典というか、優遇措置を受けられるようになる。

 Sランクになると、様々な理由から一気に名誉公爵位が与えられ、様々な優遇措置を受けられるんだそうだ。

 いずれはそこまで上り詰めたいものだな。



「適当に彷徨きながら帝都に向かうつもりだったけど、やっぱり目的があった方が行き先に悩む必要が無いから楽で良いな」


「東部国境ですか。色々な物が集まっていそうですね」


「それも依頼を受けた理由の一つだな。手紙をさっさと届けたら観光でもしようかな?」



 明日からの旅路に思いを馳せつつ、アルグラート最後の夜を締め括るようにスキルを合成してから眠りに着いた。



[スキルを合成します]

[【致死の一撃ジ・エンド】+【無音斬殺サイレント・キル】+【対物攻撃アンチ・マテリアル・アタック】+【外皮貫通】=【死を刻む刃デス・エッジ】]

[【休息】+【瞑想】+【心身療護】=【心身休護】]

[【財宝探知】+【金属探知】=【黄金探知】]

[【鷹の目ホークアイ】+【望遠】+【視力強化】+【空間認識力強化】=【千里眼】]

[【直感】+【虫の知らせ】=【超直感】]





☆これにて第二章終了です。

 全体的なテーマが『プライド』だったような気がしないでも無い章でした。

 当初の設定ではリーゼロッテは積極的なタイプではなかったんですが、不思議ですね。

 きっと傲慢と忠義が原因でしょう。

 この後に一章終了時と同様に二章終了時点の詳細ステータス(偽装ではない)を載せるのですが、今話との同時更新ではなく次の更新日に更新させていただきます。

 ステータスは既に出来ている(合成関連でゴチャゴチャしてます。申し訳ない)のですが、ちょっと三章のプロットを練るための時間をもらいます。あと暑くて少しダウンしているのも理由の一つですかね……。

 三章の更新はステータス掲載後の次の更新日からを予定しています。

 三章でもメンバーが増える予定です。お楽しみに。


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 どうぞよろしくお願い致します。



 

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