第48話 相性と作業
◆◇◆◇◆◇
オークキングの異能種がいる岩山へと向かうために広場を進む。
オーク達の横を、前を通り過ぎても相手が此方に気付く様子はない。
今は一人で行動しており、【認識遮断】によって自らを認識されるような要素が全て遮断された状態になっているため気付かれないのだ。
オーク達の騎獣の一つである狼タイプの魔物も同様で、その鋭い嗅覚は俺の匂いを認識できていない。
それでも半ば癖のように足音や気配を押し殺しつつ、散歩に出かけるような足取りで主要居住区である広場を抜ける。
続けて、岩山の各所に配置された歩哨のオーク達の前も問題無く通り過ぎた。
広場の時とは異なり、道端の石や砂利を蹴って音を立てないよう気を付けて進んだので多少時間はかかったが、相手に気付かれることなく無事にボスの前へと辿り着いた。
頭部から足先まで三メートルはあるだろうか?
岩山の山頂にある一際大きな洞窟の中にオークキングがいた。
岩肌の地面に何らかの獣の皮を敷き、その上で仰向けになり、イビキをかいて寝ている。
さて、成功するかな。すると良いな。してくれたらすぐ終わるのにな。
ザンッ、と殺気を出さずに淡々と作業のように魔剣ヴァルグラムの刃を丸太のように太い頸部へと振り下ろした。
首の切断に成功すると同時に、再生を防ぐために分たれた頭部を胴体から引き離す。
後は【
「やっぱ無理か」
「グゥオオオオオォーッ‼︎」
ボスが寝床にしていた岩山内部の空間内に咆哮が鳴り響く。
斬り落とした頭部を回収するために手を翳している僅かな間に、首の断面から骨肉が盛り上がっていき、新たな頭部が形成された。
今の咆哮はその頭部からだ。
此方をギロリと睨む眼は殺意と敵意に満ちている。
オークキングが戦意を高めるのを見ながら『
『聞こえるか、リーゼ。やっぱり暗殺は無理だったよ』
『予想通り復活しましたか』
『ああ。ボス部屋の入り口にいたオークがいきなり死んで、それと同時にオークキングが復活した。配下のオークの数だけ復活すると見ていいだろう。だから外の掃除はよろしく』
『分かりました。ご武運を』
『そっちもな』
オークキングが振り下ろしてきた拳を避けながら念話を切る。
リーゼロッテの方は【並列思考】でマップ上を常に確認していれば大丈夫だろう。
続けて指先に魔力を込めて指を鳴らす。
それを合図に道中の広場や岩山にばら撒いてきた髪の毛を核にして、【欠片成す人形】によって
ゴーレムの繋がりを介してコロニーにいる魔物を殲滅するよう指示を出す。
チラッとボス部屋の入り口の方に目を向ける。
そこではオークキングの助太刀に入ろうとタイミングを見計らっていたオーク・ガードナーが、背後に生成されたストーンゴーレム二体に撲殺されていた。
「複数であたれば勝利は確実かな」
髪の毛の毛先を切り、それに魔力を込めて作られたストーンゴーレムの性能を確認していると、肉弾戦では此方を捉えられないと判断したのか、目の前のオークキングに動きがあった。
戦闘開始時から発動し続けていた【
「させんよ。満たせーー【
オークキングが発動させたユニークスキルを、その直後に上書きして消し去った。
今オークキングが発動したのは超過稼働能力の【災界顕現】ではないが、同種の領域展開能力だ。
【
支配下である同族のオークや魔物達も対象に含まれているかは分からないが、俺とリーゼロッテは確実に含まれているだろう。
展開されようとしていた範囲はこのコロニー全域。
同じ大罪系ユニークスキルでも格上のランクである【
【傲慢】だけでなく、美徳系ユニークスキル【
【怠惰】系能力を防ぐのに役に立ちそうな
領域展開能力同士の優劣は基本的には能力のランクで決まる。
つまりは、大元であるユニークスキルのランクの上下によって決まるため、格上である【災界顕現】により上書きされたわけだ。
俺が展開している限りオークキングは領域を展開できないし、敵性対象であるオークと魔物達は常に体力と魔力を俺に奪われ続ける。
敵の能力を封じつつ敵を攻撃するという、まさに一石二鳥な手段だ。
自らの能力が消されたことに困惑しているオークキングの頭部を再び斬り落とす。
目の前でそんな隙を晒しているのを黙って見ているわけがない。
更に、先程とは違って残った胴体も斬り刻み、数十のパーツへと解体する。
トドメとばかりに解体したパーツを収納しようとするが、肉片の一部は死体判定ではなく、生きている生物判定らしく収納出来なかった。
その生物判定の肉片から瞬く間に肉体を再生させてオークキングが復活する。
ホントに面倒くさい能力だ。
「条件付きとはいえ、この不死性は厄介だな。アルグラートに南下していたらどうなっていたやら」
次は唐竹割りに身体を両断してから【
一般的にはオークキングは単体でも危険で強力な魔物なんだろうが、今の俺からすれば正直言って雑魚である。
初撃で戦果確認用のオークキングの頭部を確保したため、攻撃方法に気を付ける必要も無くなったので尚更だ。
異能種と呼ばれるユニークスキルを持った魔物は、その特異性から最低でも通常種よりワンランク上の扱いになるのだが、そのユニークスキルを発揮できなければ通常の魔物と変わることは無い。
領域系能力以外にも内包スキルはあるのだが、現状では効果を発揮していないようだった。
ギルドの資料によれば、本能に正直な魔物が持つユニークスキルは強力な効果であることが多いらしい。
目の前のオークキングもそのうちの一体なんだろうが、まぁ、相性が悪かった。
【
加えて、復活して即座に素早く動けるわけではないらしく、復活直後の硬直時に適当に斬り刻み、死亡判定部位は【戦利品蒐集】で収納、残りの復活部位は焼却、のコンボが安定して続けられた。
ゲームのように復活中は無敵状態というようなことはないようだ。
復活する度にマップ上に表示されているオークの数も減っている。
どうやら【怠惰】の内包スキル【身堅き生贄】は、支配下の同族の命を糧に復活するという能力でほぼ確定のようだ。
生贄というからには他の生物の命を糧にすると予測出来たため、リーゼロッテには他の魔物達の討伐を頼んだのだ。
外の様子を【望遠】で確認すると、一面が銀世界になっていた。
コロニーを囲むように分厚い氷の壁が形成されており、その内側ではリーゼロッテとゴーレム達ーーリーゼロッテが生み出したアイスゴーレムも追加されているーーがオークを含めた魔物達を蹂躙しているのが見える。
数での不利も小さい上、凍土と吹雪による地形変化も加わり、駄目押しに俺が【災界顕現】を発動しているので戦況は終始こちら側に傾いていた。
コロニー外に出ているオークもオークキングの残機に加えられるなら、正確な数が分からなくなるが、それでもコロニー内と比べると大した数ではないのは間違いない。
じきに全ての残機を削り切れるだろう。
そんな風に考えていたのが駄目だったのかもしれない。
されるがままだったオークキングに変化が起きた。
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