第46話 大森林を北へ 前編
◆◇◆◇◆◇
「この時間って、こんなに人が多いんだな」
「普段は朝早くではないんですか?」
「ああ。朝イチは人混みが多いし、何より眠いからな。後は、Bランク以上の依頼は大体何かしら残っているし、常設依頼もあるから別に急ぐ必要が無いというのもある。万が一依頼が無かったらその日は休みにすればいいだけだからな。だから普段は朝早くから行動しなくても問題は無いわけだ」
目の前にあるのはリュベータ大森林へと通じるアルグラートの北門。
その北門前の広場には大勢の冒険者が列を成していた。
列の先頭では衛兵達が冒険者の
大森林に入った者の記録を残しておくのには理由がある。
それはシンプルに生存確認。
これはアルグラートにいる冒険者の確認、つまりは滞在戦力の把握にも繋がるので割りと重要だ。
大森林に入った冒険者が唯一の出入り口である北門に帰って来なかったら、その冒険者はほぼ確実に大森林内で死んだということになる。
そして、その情報は冒険者ギルドと共有される。
記録上は行方不明ではあるが、その冒険者の力を頼れなくなることには変わりない。
他にも理由はあるが、そういった諸々の判断を下すためにも冒険者達の出入りの記録を残しているわけだ。
「自由ですね」
「自由だぞ。誰に強制されるわけでも必死になるわけでもなく、自分の好きなように行動し生きる。自由とは、ある意味では最高の贅沢だ」
大半の者は社会に出れば望む望まないに関わらず自由を奪われる。
そうして失った自由に釣り合うほどの金銭が得られる者は一体どれほどいるのだろう?
そんな不自由な人生を経験し、果てに難病に罹り死んだ身としては、今生では天涯孤独なので本当に自由だ。
自由が故に全ては自己責任だが、そんなことは当たり前のことで覚悟の上なので何も問題無い。
「まぁ、それができるのも力と資金があってこそですけどね」
「違いない。世の中ままならないよな」
選択を誤ると直接的な命の危機に繋がることを考えれば、この世界は前世よりもかなりハードモードだ。
そんな世界で、別の二つの世界で培った力を持ってスタートできた俺は間違いなく恵まれているし運が良いと言える。
自分の努力の結晶なので他人に憚ることも罪悪感を覚えることも一切無いが、これもある種の世の中の不条理の一つなんだろうな。
『それにしても、随分と注目を浴びてないか?』
『普段この時間帯に見かけないリオンが、大変美しい女性を連れて並んでいるからじゃないですか?』
『美女なのは間違いないが、自分で言うことか?』
『事実ですからね。もっと喜んでくれて良いんですよ?』
『ワーイ。ウレシイナー』
『そうでしょう、そうでしょう。その喜びを目に見える形で示してくれると嬉しいですね』
『事実なんだから形で示す必要はないだろう? きっとこの喜びはリーゼにしっかり伝わっていると信じているよ』
『伝わってはいますが、それとは別に欲しいのです』
『強欲かよ』
『強欲ではなく傲慢なだけですが、何か? さぁ、同じベッドで寝るか、一緒に湯浴みするか選んでください』
『……前から思ってたんだが、リーゼが持ってるのって【
『失礼ですよ、リオン。私は誰彼手を出すようなふしだらな女ではありません。私ほど心身共に清らかで一途な女はいないでしょう』
『別に色欲持ちだからと言って淫乱なわけじゃないんだが……まぁ、そっち方面の感情や欲望が増幅されるから、制御出来なかったらそうなるかもしれないけどさ』
列に並んで暇な間、周りに聞こえないように『
リーゼロッテの傲慢ムーブを受け流しているうちに列が進む。
リーゼロッテと会話をしながら【並列思考】を使って【
手応えから可能なことが分かったので早速実行する。
[スキルを合成します]
[【暴竜膂力】+【暴牛鬼闘】=【暴竜鬼闘気】]
[【紫電一閃】+【紫煌雷刃】+【暴炎溶断】=【紫炎雷閃刃】]
[【金剛城塞】+【強靭なる鎧装】+【煌鱗竜鎧】+【衝撃吸収】+【堅殻剛身】+【聖剛障壁】=【聖鱗煌く積層金剛城壁】]
[【超回復】+ 【竜精活力】+【体力回復力強化】+【魔力回復力強化】=【超越回復】]
[【
[【無音行動】+【秘匿行動】+【
[【夜襲】+【奇襲】+【強襲】+【待ち伏せ】=【襲撃の極み】]
[【逃走】+【緊急回避】+【回避率強化】=【超回避】]
[【狙撃】+【命中率強化】=【超狙撃】]
[【集団統括】+【鼓舞】+【群勢指揮】+【集団行動】+【指揮】=【軍勢統括】]
ふとした思いつきで作ったにしては良いスキルができたのではないだろうか?
今からの試験にも使える物もあるし幸先が良い。
中には上位のユニークスキル並みの性能を持つスキルもある。
今回は転移を使う予定は無いので、これらのスキルを使う機会もあるだろう。
やがて、自分達の番が来たので冒険者プレートを衛兵に提示し、手続きを済ませてから大森林へと足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇
「ブギィッ⁈」
「うーむ。ここまで性能が高いとはな。良い意味で予想外だ」
リュベータ大森林に入って暫く経ってから
俺よりも巨大な体を使っての突進攻撃を仕掛けてきているわけだが、俺はそれを片手で牙を掴み軽々と受け止めていた。
使っている強化スキルは【
以前受け止めた時よりも元となる各種
「……受け止めること自体は素の身体能力でも出来るけど、さすがに地面に線を引くか」
試しに強化スキルを解除し、それと同時に全身に力を入れる。
両手を使ったものの僅かに押されただけで止めることができた。
「それじゃあ、次はコレだな」
右手が黒い燐光に覆われると、正面を向いていたグレートモスボアの身体を殴りやすいようにグイッと横にズラし、その首元へと右の拳を叩き込んだ。
ドパァンッ、という何かが弾け飛んだ音が聞こえる。
当然のことながら音の発生源は目の前からだ。
拳との接触範囲よりも二回り大きい穴が空いており、分厚い身体を貫通し向こう側が見えている。
しかも首という急所に攻撃を叩き込みはしたが、それは首全体のサイズからすれば穴が空いたのは一部分のみ。
本来の生命力ならば負傷してもなお動けるはずなのだが、殴打の際に発生した衝撃が胴体の方にもかなり浸透したようで、内臓の一部が破裂したことによりグレートモスボアはそのまま横向きに倒れ伏し動かなくなった。
どうやら【破滅の一撃】も凄まじい性能を持つようだ。
「リオン」
「ん?」
「模擬戦では使わないでくださいね」
「それはどっちを、あ、はい。両方ね。了解、了解。勿論分かっているさ」
離れたところで観戦していたリーゼロッテからの忠言を苦笑しながら受け入れる。
どうやら【合成】して出来たスキルの性能は、元のスキル群を足したよりも強力になる傾向にあるみたいだ。
必ずしもではないだろうが、少なくとも今の二つは素材になったスキルを全て発動させたよりも効果が高かった。
……この二つを同時使用したらどうなるんだろうか?
それに、前の異世界での身体強化系能力の集大成である【戦神闘争】も発動させたら……うん、迂闊に使えないな。
この二つは【戦神闘争】と同様に基本強敵を相手にした時にのみ使うとしよう。
まぁ、これほどの性能のスキルを普段から使い込むようでは鍛練にならないから、使用制限を掛けるのは最初から決まってたんだけどね。
「となると普段使いできる身体強化系スキルが限られてくるな。これはどうだろう?」
【暴竜鬼闘気】を発動させると、身体全体が薄っすらとした紅いオーラに包まれた。
「ふむ。感覚的には【
「ギュエーッ⁉︎」
少しぐらい前から【万能索敵】に引っ掛かっていた、空の上から此方を観察している三つ目の禿鷹タイプの魔物である〈
何となくだが、あの断末魔には驚愕の色が含まれているように感じる。
【襲撃の極み】も常時発動しているから良い感じに奇襲できたな。
結構離れていたのに我ながらよく届いたものだ。
この程度の強化なら偶に使っても構わないだろう。
[スキル【望遠】を獲得しました]
[スキル【麻痺の魔眼】を獲得しました]
[スキル【虚脱の魔眼】を獲得しました]
[スキル【麻痺攻撃強化】を獲得しました]
[スキル【視力強化】を獲得しました]
[スキル【空間認識力強化】を獲得しました]
[スキル【魔眼耐性】を獲得しました]
お、今生初の魔眼能力じゃないか。
しかも中々使えそうな名称なので期待できる。
【
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