第45話 試験の備えと能力剥奪
◆◇◆◇◆◇
「む。これ以上は進めないか」
既に日は沈み、月明かり以外に光源の無い森の中を暗闇が支配する時間帯。
俺はリュベータ大森林の北東部にある精霊水が湧き出る巨大岩と希少な草花の群生地が特徴的な広場にいた。
大型の水甕の中へと精霊水が流れ落ちる水音以外に音が無いような空間で、脳裏に流れ込んできた情報に思わず口から感想が洩れる。
「どうかしましたか?」
背後に設置した魔導馬車から降りてきたリーゼロッテが声を掛けてくる。
未だ上気した肌としっとりとした髪質を見るに、魔導馬車内に増築した浴室から出てきたばかりのようだ。
俺と出会う以前のリーゼロッテが行っていた身体の清め方と言えば、宿で貰ったお湯を使って借りた室内で身体を拭う方法と、人気が無く危険度の低い森の中の水場での水浴び、そして身体の汚れを魔法を使って浄化するという三つだけだった。
それは故郷にいる時でも同様であり、潤沢な量のお湯を使用した湯浴みというものの知識はあったそうだが、利用したことは無かったらしい。
興味はあったが、流れの冒険者であるリーゼロッテが利用できるのは平民向けの公衆浴場とかになる。
だが、街中に公衆浴場がある町に立ち寄っても実際に利用することはなかったそうだ。
浴場内で着用する湯着があるとはいえ、それ一枚しか身に纏っていないリーゼロッテが現れたら大騒動になるのは目に見えている。
一時の好奇心を満たすことと、その後に起こる厄介ごとを秤にかければ、多くの者の目に素肌が晒される場を利用しないのは当然と言える。
そんなリーゼロッテが魔導馬車内に増築した浴室にて湯浴みを初体験した結果だが、まぁ、見事にハマっていた。
元々は俺だけしか使わないので浴室も俺の部屋内にあったのだが、リーゼロッテが行動に共に行動するにあたり、部屋が増えたことによる空間容量の節約のために各部屋に浴室を置くのではなく、湯浴み専用の部屋を別に用意することにしたのだ。
せっかくなので以前の一人二人入れる広さから、湯船を六畳ほどの大きさにまで拡張したことによって、足を伸ばしてゆったりとした気分で入れるようになった。
そんな贅沢な浴室にリーゼロッテは今のところ毎日入っている。
アルグラートに戻ってからは夕食の後にこの場所に転移して、魔導馬車の浴室を使用するのが日課だ。
俺も風呂は好きなので魔導馬車が出来て以降、他人と行動をしていた時を除けば毎日入っていたので、やっていることは以前と変わらない。
アルグラートから距離があり、厄介なタイプの魔物もおらず、入浴のついでに精霊水と希少な草花が採取出来るため、毎回自然とこの場所で入浴するようになった。
だが、今回に限って言えば入浴はついでだ。
「ん? ああ。北に探索に出したフギンムニンが破壊されただけだよ。北西の方はまだ無事だ」
明日の試験に先立ってマップを有効化しておこうと思い、此処に来てすぐカラス型の生体式探索ゴーレムであるフギンムニンを空に放ったのだが、それが飛行する魔物に見つかり破壊されてしまったのだ。
多少は北のマップは広がったし、北西に向かって放った分は今もなおマップを拡大中なので成果は上がっている。
「新しい地図上にはコロニーは無かったのですか?」
リーゼロッテが椅子に座ってる俺の背後にまわり、肩を揉みながら尋ねてくる。
別に肩は凝ってないのだが、彼女の好きにさせる。
決して頭の上に載せられた胸の重みを感じていたいからではない。
生地の薄いバスローブ越しにサイズ相応の重みと柔らかさ、そして適度な張りの良さをほぼダイレクトに体感しながら質問に答える。
「見た感じでは見当たらないな。夜だからか比較的強力な魔物が飛び交っているし、空からの探索は諦めた方がいいかもな……見てみるか?」
「見れるんですか?」
「ああ。マップは自分以外にも可視化できるみたいだ。ほら」
脳裏に浮かんでいたマップが眼前の空間に表示される。
リーゼロッテが思わずといった様子で身を乗り出して来たことによって頭の上から位置がズレ、バスローブのはだけた胸元から溢れ落ちそうな爆乳によって目隠しされた。
風呂上がりによる仄かな水気と温かさが感じられる魅惑のアイマスクは、横になった状態で使えばさぞかし眠気を誘うことだろう。
「……」
「この動いている赤い点が魔物ですか。地形も恐ろしいほどに精緻ですね。まさかこれほど詳細に動きが把握できるとは……凄いスキルです」
「そうだな。ホントにスゴいよ。取り敢えず前が見えないから移動してくれ」
「……あら。申し訳ありません」
今気付いたといった様子で素直に退いてくれた。
【
表情こそ澄まし顔だが、どうやら自らが意図したものではない場合は普通に羞恥心を覚えるらしい。
「出来れば前もって位置を知りたかったが仕方ない。予定通りだが、明日は地上を警戒しながら進んでいく。どのくらい時間がかかるか分からないから、そのつもりで今日は休んでくれ」
「場所が分からないから転移も使えませんからね」
「ああ。普通のオークが無事にアルグラート近くまで辿り着けるくらいだから、そんな途轍もなく遠いというわけではないだろうけどな」
その後、精霊水製の冷えた果実水を渡してから、リーゼロッテに大まかな明日の行動予定を告げていく。
俺はまだ明日に向けた作業があるため残るが、待たせるのも何だからリーゼロッテには先に宿へと戻ってもらうことにする。
リーゼロッテも残ると言ってきたが、長く部屋を空けるわけにはいかないからと言うと、渋々ながら承諾してくれたので転移で送った。
それから、精霊水を貯めていた水瓶と魔導馬車を【無限宝庫】に収納すると、テーブルの上に幾つかの
今から行うのは魔導具からスキルを手に入れる作業だ。
リーゼロッテを拘束していた
戦闘中でも時間が無いというわけではないのと、アッチの方が総コストが高いし派手だからという理由もあるが、ちょうど良い機会なので今のレベルで使用するとどのくらい消耗するかを調べるためだ。
この世界に来た最初の日の夜に、魔導具の能力を奪って【ステータス偽装】のスキルを手に入れた時は、魔力以外にもかなりの精神力を消耗していた。
あれから随分とレベルが上がった。
他にも色々な要因で精神力含めた全ての
消耗度次第では有用な魔導具を手に入れる度にその能力を手に入れても良いかもしれない。
「さて、どうなるかな」
そう呟きながら手に取った魔導具に【強奪権限】を発動させた。
[アイテム〈絶影のマント〉から能力が剥奪されます]
[スキル【絶影の霞衣】を獲得しました]
[スキル【気配希薄化】を獲得しました]
「ふむ。以前あった倦怠感が全く無いな。というか精神力の消耗が無くなっている。もしかして一定レベルに達したからだろうか?」
或いは、レベル以外の要素による効果か。
予想だと、〈強欲の勇者〉の称号効果である『強欲の権能の強化』の力が大きいと思われる。
【
魔力を消費するのは変わらないが、精神力の消耗が無くなったことにより、使用後の倦怠感も無くなったのは大きい。
この後は寝るだけなので思いつく限りのスキルを手に入れるとしよう。
[アイテム〈紅黒竜の革鎧〉から能力が剥奪されます]
[スキル【炎熱耐性】を獲得しました]
[スキル【煌鱗竜鎧】を獲得しました]
[アイテム〈紅黒竜の籠手〉から能力が剥奪されます]
[スキル【暴竜膂力】を獲得しました]
[アイテム〈紅黒竜の鱗靴〉から能力が剥奪されます]
[スキル【衝撃吸収】を獲得しました]
[アイテム〈紅黒竜の竜牙短剣〉から能力が剥奪されます]
[スキル【
[スキル【外皮貫通】を獲得しました]
[スキル【
[アイテム〈聖なる竜祝衣〉から能力が剥奪されます]
[スキル【体力回復力強化】を獲得しました]
[スキル【魔力回復力強化】を獲得しました]
[スキル【心身療護】を獲得しました]
[アイテム〈
[スキル【紫電一閃】を獲得しました]
[スキル【
[スキル【紫煌雷刃】を獲得しました]
[スキル【破魔光刃】を獲得しました]
[スキル【雷光耐性】を獲得しました]
[アイテム〈
[スキル【暴炎溶断】を獲得しました]
[スキル【暴牛鬼闘】を獲得しました]
[アイテム〈勇猛なる守護輪〉から能力が剥奪されます]
[スキル【勇猛なる心身】を獲得しました]
[アイテム〈比翼連魔の黒杖〉から能力が剥奪されます]
[スキル【比翼連魔】を獲得しました]
[スキル【高位魔導補助】を獲得しました]
[スキル【高位魔導強化】を獲得しました]
[アイテム〈堅殻の聖剛盾〉から能力が剥奪されます]
[スキル【堅殻剛身】を獲得しました]
[スキル【聖剛障壁】を獲得しました]
[アイテム〈
[スキル【疾風魔弾】を獲得しました]
[スキル【
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[スキル【炎熱耐性】がスキル【炎熱完全耐性】にランクアップしました]
[スキル【魔法攻撃耐性】がスキル【魔法攻撃完全耐性】にランクアップしました]
[スキル【幸運】がスキル【豪運】にランクアップしました]
獲得できた新規スキルはこんなところか。
溜まっていた多数の隠密系装備からもスキルを手に入れたので、隠密系スキルの熟練度がかなり上がった。
同じ物がダブっていた隠密系装備は除くが、今まで使っていた紅黒竜素材の防具や戦利品などの希少品は、予め【
ちなみに、スキルの熟練度を上げるために幸運効果のアイテムを複製しまくって【幸運】スキルを強奪してみたのだが、回数を重ねるごとに熟練度の伸びが悪くなっていき、ランクアップした頃にはかなりの魔力を消費していた。
さすがに、そこまで上手くはいかなかったが、ランクアップは出来たので良しとしよう。
戦利品の魔導具の数はそれなりに多いので能力の確認にはどうしても時間がかかる。
その上、能力が被っている物も多いので、これに関してはじっくりと確認していこうと思う。
取り敢えず今日のところはこの程度にし、後片付けを済ませてから宿へと帰還した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます