第39話 報復に向けた話し合い
◆◇◆◇◆◇
東の帝国ことロンダルヴィア帝国と国境を接する小国家群の一つに〈カルグロア王国〉という国がある。
これまで国として目立つ特色は無かったのだが、昨今では周囲の接している国々が親ロンダルヴィアと反ロンダルヴィアとに二分される中において、敢えて中立の立場を維持することによって双方の勢力から利益を得るようになった国だ。
小国家群を渡り歩きながら冒険者として活動していたリーゼロッテが半年近く前から拠点にしていた場所が、このカルグロア王国の〈カルット〉という町であり、味方に裏切られた末に捕らえられた場所でもある。
「あの町が最後に拠点にしていたカルットなんだな?」
「ええ。私達が今いるこの山は国内でも一二を争うぐらいに魔物が多いエリアで、そこに生息する魔物の素材を得るためにカルットを拠点にする冒険者が多いのです。アイツらもカルットを拠点にしていたので、おそらく今もあの町にいるかと思われます」
リーゼロッテを捕らえて派閥の上役に献上しようとしていた貴族が持っていた地図や記憶情報を頼りに、ロンダルヴィア帝国から東に『
まぁ、正確にはカルットを見下ろせる位置にある山の中腹にだけど。
俺一人だったらユニークスキル【
【契約】で情報漏洩対策を立ててるとはいえ、今回の報復後に別れるリーゼロッテにユニークスキルは出来るだけ見せるわけにはいかないため、時間のかかる遠見と転移による移動方法になったわけだ。
「それじゃあ、壁を超えて町に入るか」
俺達がカルットの町にいる記録を残すわけにはいかないが、【
スキャン後に対象がいない場合は何処にいるか町で情報蒐集する必要もあるため、それなら最初から土地勘のあるリーゼロッテと一緒にカルットに入っておくのが効率的だろう、という判断だ。
「そうですね。では、よろしくお願いします」
そう言うと、
屋敷には他にも女性物の衣装はあったのだが、リーゼロッテが選んだのはメイド服だった。
選んだ理由は単純にサイズの問題だ。
決まったサイズしかない他の服とは違って、このメイド服は幾つものサイズ別の予備の使用人用衣服が保管された衣類倉庫から持ってきている。
百八十ほどある身長と大変立派な胸部のことを考えて、比較的サイズに余裕のありそうなメイド服を選んだのは正解だった。
ロングスカートの裾も地面に擦るほど長くないちょうど良い長さだ。
まぁ、それでも胸の辺りがパッツパツなように見える。
個人的には
「……別にそこまでくっ付く必要はないんだが」
「邪魔だというなら離れますが?」
「そんなことはないさ」
転移を行使する術者自身は、発動する転移魔法自体に術者を保護する術式が含まれているため大丈夫だが、共に転移する者がいた場合、転移することに慣れていないと酔いにも似た感覚に襲われる者もいるらしい。
そのことを初回行使時に実感したリーゼロッテが、二回目の転移からは知識で識っていた対策法である保護術式の対象に含まれるために術者に触れた状態での転移を行うようになった。
酔い自体は大したものではなくとも、簡単な解決策があるならばその方法を取った方がいいので俺に異存はない。
ただ、触れるだけでいいのに腕に抱きついてくるのはいかがなものか?
腕に抱きついていることによって、転移を行使する度に腕に押し当てられる適度な張りと柔らかさのある爆乳が、俺の理性の鎧をゴリゴリ削っているのは問題だが、役得だと自分に言い聞かせればなんとかなる……たぶん。
「……ある意味修行だな」
「修行?」
「いや、何でもない。じゃあ、いくぞ。『瞬間転移』」
転移魔法が発動した次の瞬間に景色が切り替わった。
◆◇◆◇◆◇
幸いなことにカルットの町の中に標的の冒険者達はいた。
マップで確認した時は、ちょうど依頼の帰りだったようで、冒険者ギルドへ立ち寄ってからパーティー全員で町の食堂の一つに入っていくところだった。
「ーーそれじゃあ、襲撃は全員纏めてでいいんだな?」
「ええ。各個撃破して残りのメンバーに警戒されたり逃げられたりするわけにはいかないので」
ターゲットが平民街の人気食堂で夕食を摂っている頃、俺達はカルットの町で有数の高級レストランの個室で食事を摂りながら今後の計画を話し合っていた。
客層が上流階級であるため、その店構えに相応しいドレスコードで来店したのもあって、密談にも使える料金の高い個室を利用できている。
そのまま利用したら怪しまれたかもしれないが、【礼儀作法】と【貴種の気品】を発動させておいたおかげで店員が此方を怪しんだ様子はなかった。
なお、リーゼロッテは元々良いところの生まれだからか、作法や佇まいに違和感が無いので問題ない。
服装に関しては、俺は自前の自作スーツを、リーゼロッテは屋敷で調達したドレスを俺がユニークスキル【
ちなみに、一見ただの人族である俺はまだしも、リーゼロッテはエルフ種である上に目立つ容姿をしているため、貴族の屋敷での戦利品の中にあった〈偽装の腕環〉を貸し出して、人族の金髪紫眼美女に変装させている。
顔立ちまでは変えられなかったが、種族だけでなく髪と眼の色まで違う。
駄目押しに認識阻害の
「となると、いつ襲撃するかだよな」
「今夜はどうでしょうか?」
「リーゼロッテの体調は万全じゃないだろ? だから今夜は無しだ」
「ですが、逃げられたらーー」
「一度捕捉した上に今も動向を監視しているから、どこに逃げようが見つけられる。だから心配は要らないよ」
「……そうですか」
「それに、長々と時間をかけるつもりもない。俺も数時間前に襲撃をしたばかりで、体力はまだしも精神的に疲労している。だからお互いに今夜は回復する時間に充てて、明日の夜か依頼を受けている昼間に奴らを襲撃しようと考えているんだが、どうだ?」
「そういうことでしたら構いません」
「なら決まりだな。一つ問題があるとすればリーゼロッテの防具なんだが……明日平服を買うついでに防具屋で買い揃えるか?」
リーゼロッテが使っていた神官衣のような防具は破損が激しいため使えない。
それ以外に持っているのは今着ているドレスやメイド服といった普通の衣服のみ。
食事が運ばれてくる間に話していて知ったのだが、屋敷の貴族の執務室内の隠し金庫内にあった
奪った記憶によれば、普段使いの装備ごと献上する予定だったようだ。
その魔法の小袋を先ほど返却して中身を確認してもらったところ、襲撃された時に装備していた武器と装身具系魔導具も入れられていたので、武器に関しては用意する必要はない。
だが、他には予備の武器に冒険者プレートと金銭、生活小物や野営道具、そして最低限の衣類が入っているだけで、戦闘に使えるような予備の防具は無かった。
「それは構いませんが、この町の武器屋と防具屋はそこまで良い物はありませんよ」
「冒険者が集まるのに?」
「はい。単純に国内に腕の良い職人がいないんです。近隣諸国の反東帝国派と親東帝国派の間をコウモリのように行き来して生存しているような不安定な情勢下にある国ですからね。この国に思い入れでもなければ、他国でも職に困らない腕の良い職人は国を出て行きますよ」
「なるほど。なら駄目になった防具ほどの性能の防具は手に入らないか」
「アレは故郷から持ち出した家宝のような物なので、近い性能の防具は無理でしょう。当たらなければ大丈夫なので防具に関しては最低限の性能の物を買おうと思います」
「ま、仕方ないか」
アイテム等級で言えばリーゼロッテの破損した防具は俺が使っている紅黒竜製防具と同じ
そのため、【造物主】の【復元自在】を使えば修復することは容易いのだが、大国の国宝レベルである遺物級の装備がそんな簡単に修復できることは知られない方が良いだろう。
もしかすると【契約】を解除できる手段がある可能性もあるのだから、無闇矢鱈に情報を与えることは自分の首を絞める結果に繋がりかねない。
まぁ、今後も行動を共にするような相手にだったらある程度の情報を明かすのは構わないのだが。
俺も今はソロで活動しているが、そのうち仲間が出来るかもしれない。
魔導馬車の御者のこともあるし、少なくともいつか同行者ができるのはほぼ確定事項だ。
さて、仲間やら昇級試験やら考えることは幾らでもあるが、今は直近のリーゼロッテが行う報復の手伝いに集中するべきだな。
【並列思考】で『遠見』と『
それから俺は、リアルタイムで得ている情報を元に、リーゼロッテと明日の襲撃の内容を詰めていった。
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