第37話 拘束を解奪する



 ◆◇◆◇◆◇



 隠し地下牢への入り口があるエリアには多くの兵士がいた。

 それだけこの先にいる人物を逃したくないのか、或いは奪われたくないのだろう。

 この兵士達をどうするか少し悩んだが、生かしておいたら逃げたことがバレるのは間違いないが、実際に此処に隠し地下牢があるのを知っている者は少ない筈だ。

 奪った記憶を確認してみたが、入り口が隠されている一室内には兵士達の中でも屋敷の主人である貴族の私兵で固められているらしい。

 他の兵士達の巡回ルートからも少し離れているから、姿が見えなくなっても朝まで気付かれないと思われる。

 地下牢に誰を捕らえているかを知らされているのは私兵の中でも一部だけみたいだが、その一部以外の者達には此処に雇われた自らの不運を呪ってもらうとしよう。


 そうと決まれば早速動くとする。

 音が漏れないように私兵達がいる室内の中心部にある影の中で、複合系基本魔法『静寂サイレンス』を発動させた。

 部屋の中の音が消えると同時に【捕食者の喰手】で私兵達が逃げられないように拘束する。

 私兵達が突然の事態に困惑するのを無視して喰手を次々と具現化していく。

 長々と根刮ぎ強奪する時間は無いので、喰手で全身を覆ったらさっさと殺して喰手に消化させることにした。



「ーーッ⁉︎」


 

 私兵達がなす術もなく喰手に捕まっていく中で、リーダーらしき大斧使いだけがその魔斧で喰手を破壊して拘束を逃れた。

 喰手は純粋な物理攻撃には強いのだが、その性質上魔力を伴った攻撃に対しては弱いので、魔導武具マジックウェポンである魔斧の攻撃で破壊されてしまうのは無理もない。

 静寂の魔法によって何を言ってるのか分からんが、隠密能力をフルに発揮している俺を感知することは出来ないようなので、【一撃必殺】と【無音斬殺サイレント・キル】を発動させて具現化ナイフを使って背後からサクッと首を狩って暗殺しておいた。



[スキル【速読】を獲得しました]

[スキル【休息】を獲得しました]

[スキル【瞑想】を獲得しました]

[スキル【魅惑の肉体】を獲得しました]

[スキル【寵愛】を獲得しました]

[スキル【二重連斬デュアル・スラッシュ】を獲得しました]

[スキル【荒ぶる重撃】を獲得しました]

[ジョブスキル【魔獣使役師モンスター・テイマー】を獲得しました]

[ジョブスキル【細工師クラフトマン】を獲得しました]

[ジョブスキル【踊り子ダンサー】を獲得しました]

[ジョブスキル【双剣士デュアル・セイバー】を獲得しました]

[ジョブスキル【高位盾士ハイシールダー】を獲得しました]

[ジョブスキル【剣豪ブレイダー】を獲得しました]



 私兵達の中には元冒険者でもいたのか、【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】によって獲得したスキルはバラエティに富んでいた。

 どいつもこいつも似たり寄ったりのスキル構成だったハルス達暗部とは大違いだ。


 血痕などの襲撃の痕跡を喰手で消しつつ、まだ残っている『静寂』の効果を破却しておく。

 そのまま効果を残しておいたら、それ自体が襲撃の痕跡になるからだ。



「ここからは影に潜らなくていいかな」



 今回初めて長時間使用した『潜影行動シャドウ・ダイブ』は、影に潜り移動できるので便利ではあるのだが、その影空間内では当たり前のことだが空気が無いため呼吸ができない。

 今の身体なら数十分は余裕だろうが、潜影中は文字通りの意味で息が詰まる。

 感覚的に言えば、光を通さない真っ黒な水の中を移動しているような感じだ。

 自分の姿や影空間外はハッキリと見えるが、影空間内の暗さは夜の暗闇とは異なるため、闇を見通す【暗視】は意味をなさない。

 そのため、ずっと影の中にいたら息が詰まるだけでなく気まで滅入るということを早めに知ることが出来たのは僥倖と言える。

 だから此処からは必要でも無い限り無理に使うことは無いだろう。

 

 気を取り直し、私兵達が屯していた部屋の通路側から死角になる場所の壁に触れて、金庫の時と同様に【発掘自在】を発動させた。

 すると、地下へと繋がる通路の仕掛けが解除されたことにより壁の一部がスライドして地下への通路が現れる。

 そこを降りていくと、背後の方で音も無く壁がスライドし自動で閉まった。

 マップ上で周辺に動きが無いことを確認しつつ地下へと降りていく。

 やがてマップが切り替わったので【地図有効化マップ・スキャン】を使用し、新たなエリアのマップを見れるようにした。



「グルルル……」



 新たなエリアに足を踏み込んで直ぐの場所には魔物がいた。

 見上げるような獅子の身体に、翼のように生えた複数のカマキリの鎌腕、尻尾は毒蛇で、獅子の頭部の上には狼と双角馬バイコーンの頭部が生えている。



(これは……合成生物キメラってやつか。もしかしてテイマーが使役していたやつかな?)



 三つの頭部それぞれが辺りを警戒するようにキョロキョロとしているが、隠密状態のこちらに気付いた様子はない。

 使役者が死んだのに特に暴れたりしないので、もしかしたらテイマーの従魔ではなく、この隠し地下牢の番人なのかもしれないな。

 このまま放置スルーしてもいいのだが、せっかくの初キメラなので倒しておくか。

 まだ熟練度レベルが低い【装具具現化】で生み出せる武器では時間がかかりそうなので、【無限宝庫】から魔剣ヴァルグラムを召喚する。

 【魔装刃】で剣身に魔力の刃で強化しながら一気に距離を詰め、三つの頭部を斬り落とした。

 そのまま流れる様に【弱点看破】によって見抜いた心臓部をヴァルグラムで貫くと、頭部を再生しようと蠢いていた頸部の切断面の動きが止まり、その生命活動を停止した。



[スキル【二連突き】を獲得しました]

[スキル【連続攻撃】を獲得しました]

[スキル【合成】を獲得しました]



「数は少ないが、中々良さげなスキルを手に入れられたな」



 特に【合成】が素晴らしい。

 前の異世界の時にも【強欲】のギフトの力で他者のギフトを奪い続けた結果、所持するギフト数が膨れ上がり過ぎて持て余していたのだが、それを解決してくれたのが二つ以上のモノを合成するギフトだ。

 その対象は物質だけでなくギフトにまで及んでおり、そうして生まれた新たなギフトは総じて強力で、能力を奪う【強欲】との相性は抜群だった。

 今回の【合成】のスキルは、その名の通り合成能力を持つギフトと同じことが出来るようだ。

 前の異世界ギフトよりも今生の異世界スキルの方が能力を集めやすいため、その重要度は自然と高くなる。

 この世界に来て一ヶ月余り経つが、なんだかんだで多くの能力が集まったため、それを整理整頓し強化出来るスキルは非常に有り難い。



「まぁ、実際に試すのは後だけどな」



 【戦利品蒐集】でキメラの死体を回収して通路の奥へと進む。

 マップによれば門番は今の一体だけなので、隠密能力は発動させたままだが、そこまで慎重に動く必要はないだろう。

 隠し地下牢があるエリアはそこまで広くないので程なくして牢屋がある場所に辿り着いた。

 


「これは……厳重だな」



 そこには牢屋の一室を丸々使って拘束されている一人の女性がいた。

 目隠しと口枷を付けられているため人相までは分からないが、白銀色の長髪であることと、エルフの上位種である〈ハイエルフ〉の女性ということが分かっている。

 奪った記憶による事前情報で上位種族ハイエルフであることは分かっていたのだが、仮にその情報や鑑定能力が無くとも目の前の彼女がハイエルフだと言うことを直感的に理解できただろう。

 そう思ってしまうほどに彼女からは何かを感じる。

 この感覚は吸血鬼族ヴァンパイアの上位種〈不死鬼族ノスフェラトゥ〉であるS級冒険者レイティシアに会った時と同じだ。

 まだ実際に上位種族に会ったことがあるのが二人だけだから断言はできないが、上位種か否かは感覚的に理解できるものなのだろう。



(ということは、俺の種族が人族の上位種の一つである超人族スペリオルなのは周りも認識しているということか?)



 一瞬、そんな考えが浮かんだがすぐに否定する。

 誰もが相手の種族が上位種かどうかを認識できるならば、そういった反応が頻繁にある筈だ。

 俺が直接会ったことのある上位人類種は、俺自身も含めて三人だけなのでかなり希少な存在であることが分かる。

 そんな上位人類種に遭遇して誰も反応を示さないというのはおかしい。故の前言撤回だ。

 まぁ、それがこの世界では普通だと言われたらそれまでだが、少なくとも転生時に与えられた知識の中にそんな情報は無かった。

 ということは、知覚できる俺が特殊なのか、或いはこの感覚自体が上位人類種に共通している特殊な知覚能力なのかもしれない。



「ま、取り敢えずそれは置いておくとして、どうやってこの拘束を解除するかだな」



 魔女と呼称されていたハイエルフを拘束し続けるのに使われているアイテムはただのアイテムではない。

 このアイテムは、ダンジョンから産出される魔導具マジックアイテムの中でも、その入手難度と性能の高さから迷宮秘宝アーティファクトと呼ばれる物だ。

 【情報賢能ミーミル】の【情報解析】によれば対象の肉体を一定期間弱体化した上で拘束し続ける効果があるとのこと。

 その期間が過ぎない限り弱体化を解除出来ないという強力な効果を持つのだが、発動するにはこの牢屋ほどの広さを必要とする。

 どうやら目隠しや口枷などの拘束具だけでなく、床や壁に展開されている魔法陣までもがこの迷宮秘宝によって具現化された物らしい。


 つまり、『発動した空間全てを対象人物を弱体化し拘束する一つの異界に造り変える』のが、この迷宮秘宝の能力というわけだ。

 しかし、此処で拘束しておく間はまだいいが、効力が切れた後はどうするつもりだったんだろうか?

 奪った記憶によれば閣下とやらには何かしらの用意があるらしい。

 まぁ、その用意とやらを今から台無しにするのだが。


 時間経過を除けば彼女を解放するにはこの異界を破壊できるほどの攻撃力か、空間に干渉できる能力が必要になる。

 その両方の手段を持っているが、前者だと生き埋めになってしまうので、選ぶのは自然と後者になる。

 だが、それだと時間がかかりそうなので正攻法ではない理不尽な力ユニークスキルを使うとしよう。

 


「最近よく出番があるな。奪い解けーー【強奪権限グリーディア】」



 【強奪権限】の超過稼働能力オーバー・アクティベート・スキル貪欲なる解奪手グリードリィ・デモリッション】を発動させた。

 両腕が指先から順に硬質な輝きを放つ黒に染まっていき、肩部からはカラスのような翼が具現化される。

 その両腕を迷宮秘宝が発動されている牢屋の中へーー拘束異界の中へと突き入れた。

 理不尽な破壊と強奪の腕が迷宮秘宝の力をあっという間に分解し吸収する。

 エネルギー量はシルヴィアの精神世界スキル領域の炎の鎖よりかは劣るかな?



[解奪した力が蓄積されています]

[スキル化、又はアイテム化が可能です]

[どちらかを選択しますか?]



「悩ましいところだが、やっぱりスキル化かな」



[スキル化が選択されました]

[蓄積された力が結晶化します]

[スキル【封印縛鎖】を獲得しました]



 刹那の内にスキルの詳細を確認すると、拘束から解放されたハイエルフと相対するために意識を正面へと向けた。

 さて、魔女と称される存在は一体どんな人物なのかな?




 

 

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