第35話 再会の約束と狩りの時間
◆◇◆◇◆◇
シルヴィアのユニークスキルに宿る呪いを解呪して精神世界から現実世界に戻ってから三日が経った。
どうやら精神世界で流れた時間は現実世界では一瞬だったようで、俺の身体から溢れた
現実世界に戻って来て早々に視界に入ったシルヴィアの姿は一変していた。
燻んだ金色の髪は明るい金色の髪に、火傷や炭のような有り様だった肌は本来の白い肌へと戻っている。
呪いによって確認出来なかった芸術品のように整った顔立ちも露わになっており、少し気の強そうなツリ目を丸くしたエルフ美女が至近距離から此方を見つめ返してきたのが印象的だった。
身体の痛みやらの体調が改善されているはずだから解呪は成功したことは理解しているはずだが、まだ実感が無いようだったので、【
そこに映っている自分の姿を見たシルヴィアの反応は、語るのも野暮なので割愛。ちょっと貰い泣きしそうになった。
暫くして落ち着いたシルヴィアからの感謝と謝罪の言葉を受け取ってから、事前の交渉通りの報酬を貰った。
シルヴィアが持つ全てのスキルを【
苦労に見合った報酬で満足のいく結果ではあるのだが、一つだけ残念だったのが【天啓護騎の戦乙女】の内包スキルの一つである【祝聖戦姫】が使用できなかったことだ。
このスキルは【戦姫】という名前が付く通り女性専用のスキルであるためか、男である俺は対象外になっていた。
それ以外の内包スキルは使えるだけマシなのだが、常態的に全能力を強化したりするスキルが使えないというのは、やっぱり残念な気持ちになる。
そんな解呪後の悲喜交交なことがあってからの三日間は色々あった。
シルヴィアの部屋の前にいたシェーンヴァルト家から派遣されてきた護衛達から感謝されたり、バルサッサの冒険者ギルドの敷地内にある訓練場でシルヴィアにユニークスキルの使い方を教えたり、マルギットも加えて三人で模擬戦をしたり、カガミのアキンドゥ商会で香辛料などを購入したり、市中の店々でお土産含めた品々を買い漁ったりなど充実した日々を過ごした。
まだ滞在しても良かったのだが、色々とやることがあるため、バルサッサに来て四日目の今日の朝一にアルグラートへ向かって帰還することにした。
「リオン。今回は本当に世話になった」
「上手くいって良かったよ。あれから身体に異常はないか?」
「ああ。問題無い。心身ともに生まれ変わったと思うぐらいに快調だよ」
確かにバルサッサの北門前で、見送りに来てくれたシルヴィアが屈託のない笑顔を向けてくる。
容姿的にも態度的にもまるで別人のようだ。
解呪後に、俺がマルギットと敬語無しで話しているのに気付いたシルヴィアから自分に対しても敬語はいらないと言われたので、それ以来普通に話している。
マルギット共々恩人から敬語で話されるのが気になるタイプのようだ。
そんな風に敬語無しのタメ口でーー傍から見たら親しそうに話しながら三人で町中を歩いたり、訓練場で模擬戦をしたりしたものだから、バルサッサに滞在中は周りの男連中からの嫉妬の視線が凄かった。
今まで火傷のような呪いの痕を隠すために顔の右半分を覆う仮面を着けていた上に、マルギット以外の他人とは殆ど話さなかったシルヴィアの変貌ぶりが一番の原因だろう。
まぁ、極力他人と、特に異性と話さないのは今も然程変わらないみたいだけど。
「リオンはアルグラートに戻ってからどうするの?」
「戻ってからか? ギルドで護衛依頼の達成報告をして、野暮用があるからそれを済ませてから帝都に向かう予定だよ」
「それなら、帝都へはいつ頃来られる?」
「うーん、初めて行くからな……一般的な馬車でアルグラートからだと移動にどれくらいかかるんだ?」
「アルグラートからなら大体一ヶ月前後だと思うわ」
「一ヶ月前後か。それなら多分二ヶ月後ぐらいに着くと思うけど、何かあるのか?」
「実は私達も用事を済ませたら帝都に向かう予定なのよ。暫く滞在する予定だから、その時に私達の親、特にシルヴィアの御母上に会ってもらいたいの」
「シルヴィアの?」
マルギットの発言を受けて視線をシルヴィアに向ける。何だか恥ずかしそうだ。
「あー、その、なんだ。私の呪いとかでお母様には色々心配をかけたからな。それを解決してくれたリオンには直接感謝を告げたいだろうから、帝都の実家に来てくれないだろうか?」
「なるほど。まぁ、そういうことなら、って、あれ? 領地の方じゃなくて帝都が実家なのか?」
元王族で現公爵家だったはずだが、もしかして領地は無いのか?
「ん? ああ、そういえば説明していなかったな。正確に言えば私の家はシェーンヴァルトの分家なんだ。継承権はあるが、本家は叔父上が継いでいて、元王国だった土地を公爵領として今も治めている」
「そういうことか。でも何故帝都に?」
まさか人質的なやつか?
いや、それならシルヴィアがこんなに自由に動けるのもおかしいか。
「お母様が帝都で魔法関連の重職に就いてるからだ。これが叔父上の方が家を継いだ理由でもある。だから私は生まれも育ちも帝都育ちでな。マルギットと幼馴染なのもそういった縁なんだ」
「私の実家であるアーベントロート家は領地持ちではない武官系貴族だから、私も生まれも育ちも帝都なのよ。私の母がシルヴィアの御母上であるオリヴィア様の元同僚兼友人で、その繋がりで私の母もシルヴィアの呪いについて知っていたわ。おそらく母もリオンから直接話を聞きたいと思うから私の家にも来てくれると嬉しいわ」
シルヴィアの方は家に呼ぶ理由も分かるが、マルギットの方は理由としては若干弱い気もするが……まぁ、同じ帝都内だから別に構わないか。
「話を聞きたいとは言うが、スキルの詳細を話す気はないぞ?」
「ええ」
「構わない」
「分かってるならいいよ。ならどっちから訪ねればいい?」
「そこは当然、当事者であるシルヴィアの方からどうぞ」
「分かった。じゃあ、何ごとも無ければ二ヶ月後ぐらいに帝都に着くだろうから、先ずはシェーンヴァルト家を訪ねるとするよ」
さて、思いがけず長話になってしまったがそろそろ向かわなくては。
生み出したホースゴーレムに跨がると二人の方へ振り返る。
「それじゃあ二人共、また会おう」
「ええ、シルヴィア共々待ってるわ」
「本当にありがとう。今度は帝都で会おう」
シルヴィアとマルギットに再会の約束と別れを告げ、手を振り返してからバルサッサを立った。
◆◇◆◇◆◇
「そろそろいいか」
バルサッサを出発し、左右を雑木林に挟まれた街道をホースゴーレムで進むこと三十分。
最初のうちはあった人気も少し前から無くなっている。
速度を緩めて街道の端に移動し地面に降り立つと、ホースゴーレムを解除してから雑木林の中に入っていく。
街道から見えない位置まで進むと、【
「……大丈夫そうだな。それじゃあ、『
【情報蒐集地図】のマップに備わっているマーキング機能によってマーカーを付与された者の中から一人を選び、その光点に向かって空間系基本魔法『遠見』を発動させた。
脳内に送られてきた光景の中では、一人の優男が屋敷内を気配を希薄にした状態で歩いている姿が見える。
彼の名はハルス。
アキンドゥ商会の護衛依頼中に商会長であるカガミをスカウトしに来たロンダルヴィア帝国のとある貴族に仕える工作員だ。
爆炎による怪我は治療したようだが、身に付けている装備は随分と草臥れているのが見える。
俺達を襲撃してから就寝時を除けば、ほぼ休まずにずっと移動し続けて来たからだろう。
撤退するのを見逃して以来、【並列思考】を使用して定期的に監視していたのだが、昨日の昼過ぎにハルスが仕えている貴族の領内に入ったのがマーカーの現在地の名称で分かっていた。
そして、つい先ほどその貴族の屋敷に入ったところだ。
おそらく仕えている貴族や上司に俺やカガミのことを報告するつもりなんだろう。
放置して情報を他所に拡散されるのも困るので、上役共々口封じさせてもらう。
「それに、向こうの帝国の情報も知りたいからな」
今まで俺を襲撃してきた暗殺者やらなんやらが身に付けていた装備品から厳選した物に加えて、〈絶影のマント〉などの竜からの戦利品も装備した全身隠密仕様に装備を変更し、バルサッサに滞在中に製作したカツラと顔を隠すためのシンプルなデザインの仮面を身に付けて外れないように固定する。
マントの色も黒なため、内側の装備も含めて全身黒一色になった。
まぁ、カツラはありふれた茶髪だし、マントの内側の防具は暗色ではあるが黒では無いので、あくまでもイメージカラー的な話だ。
防具の確認は済んだので、後は戦利品にあった認識阻害系の
「ふむ。これならバレないだろう」
取り出した姿見で今の姿を確認する。
後は不用意に喋らないよう気を付ければいいか。
「さて、狩りの時間だ」
最終確認を済ませると、魔法越しの視覚にて認識している座標へと転移魔法を発動させた。
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