第25話 鉱喰竜ファブルニルグと魔剣ヴァルグラム 前編
◆◇◆◇◆◇
自分以外の者達を退却させて全ての岩喰い蜥蜴達を殲滅すると、竜ーーただの竜ではない真なる竜種たる〈真竜〉と向かい合う。
大空洞における唯一の光源である魔力結晶の光に照らされた全長二十メートルを超える巨体の、しなやかさを感じる竜皮は漆黒色で構成されていて、一言で黒竜と称されるような姿だ。
変わっている点として、漆黒色の鱗が生え揃っている所々には蒼銀色の鱗が混じっており、四つある竜眼が白銀色なのが文字通り異色な部分で、そこを考慮すると黒銀竜と称するのが正しいのかもしれない。
「〈鉱喰竜ファブルニルグ〉か。
その美しくも荒々しい造形をした身体から竜の魔力たる竜気を立ち昇らせながらも、ファブルニルグは此方を静かに見据えている。
眼に宿る戦意は今すぐにでも襲い掛かってきそうなほどに爛々としていた。
だが、まだ襲い掛かってくる様子はない。
「もしかして、こっちの準備が整うのを待ってくれているのか? どうやら戦闘狂らしいな。そういうことなら、その期待に応えないとな」
【
続いて【戦神闘争】を始めとした全ての身体強化系スキルを発動させ、【魔装刃】と【魔装鎧】によって武器と身体を魔力で覆い強化する。
駄目押しとばかりに、自作の精霊水製
「断ち切れーー〈
最後に魔剣のーー魔剣ヴァルグラムの固有能力である〈拒絶〉の力を解放してから準備は完了だ。
「待たせたな。それじゃあ……始めようか‼︎」
『GUOOOOOO‼︎』
此方の【挑発】に応じるようにファブルニルグが放ったのは、地面から見渡す限り生える金属槍の群れだった。
追従してくる金属槍を宙に飛び上がることにより避け、背後に
「ーー『
魔法陣から放たれる四つの雷轟の大槍がファブルニルグに襲い掛かる。
その攻撃力が理解できるのか、咄嗟に地面に伏せて攻撃を回避すると、伏せたままの状態で数多の状態異常を誘発させるブレスを放ってきた。
【状態異常無効化】によって状態異常を無効化できても、竜のブレスという純然たる破壊のエネルギーの奔流を浴びるわけにはいかない。
「チッ」
伏せて即座に放っただけあって本来のブレスより威力は無いのだろう。だが、一般的な竜である成竜の上位種である真竜のブレスは、例え牽制であっても直撃すれば大ダメージを負うことは間違いない。
その上、【
視認先に転移する『
『GURURURU!』
ファブルニルグの体表に瞬時に魔力障壁が幾重にも展開され、斬撃は十層を破壊したところで消滅した。
「ふむ。硬いな。グングニルならイケそうだが鉱山が崩れるだろうし、普通に魔法とヴァルグラムで戦うしかないか」
戦う場所は敵の
レベルは相手が二十五も上。
有効そうな広範囲魔法などは密閉空間では使用不可。
生物としての元々の性能差から時間をかけるほど此方が不利になる。
しかし、勝てる可能性が僅かでもあるならば、逃げるという選択肢は無い。
それに、強い敵と戦うのは良いものだ。
「不利だねぇ。だが面白い!」
【
ーー『
『GYAAAAAAAA⁉︎』
ファブルニルグもハッキリとは目で追えない速さで駆け、硬い竜鱗にも通じそうな四種の戦術級基本魔法を四つの魔法陣にセットして連続で発動し続ける。
ドドドッ!という幾重にも連なる轟音を発しながら、【
侵食する強酸の雨、纏わりつく業炎の腕、身体を貫く雷轟の大槍、打ち砕く聖なる光撃の計四種の戦術級の攻撃魔法の連射は瞬く間に障壁を剥ぎ取り、ファブルニルグの高い魔法耐性の身体にもダメージを与えていく。
そうして魔法攻撃に怯んだ隙に、【暗殺者】を発動させながら駆け抜け様に【
硬い竜鱗や竜皮、竜種が持つ魔法耐性によって魔法ダメージを軽減できるからか、魔法攻撃は最初の一撃を除いて無理に避けようとはせずに受けるがままだが、ヴァルグラムの拒絶の力の危険性は感じているのか必ず回避行動をとる。
ヴァルグラムの素体になった魔剣も格上殺しの力を持った拒絶の刃だったが、新生してヴァルグラムとなった今の魔剣は、その拒絶の力が一段と増しているため、格上からすればその危険性は嫌でも分かるのかもしれない。
そんなヴァルグラムの攻撃は避けられるが、基本的に此方の速さにファブルニルグは翻弄されているようだ。このまま魔法を撃ち続けていけばレベル差があっても倒せるだろう……このままなら、だが。
『GUOOOO‼︎』
「グッ⁉︎ ガッ!」
ファブルニルグの全身から放たれた魔力の波動に全ての魔法が掻き消された。
それだけではなく、同時に放たれた威圧系能力によって身体の動きを強制的に止められたところに、鋭く振り抜かれた尻尾の一撃を喰らってしまう。
音速に近い速さでファブルニルグとは反対側の壁へと飛ばされ、轟音を立てながら壁に衝突した。
「ゴフッ……そう上手くはいかないか。久しぶりの痛みは堪えるなぁ。懐かしいよ、ホントに」
背中と口から血を流しつつも、壁に埋もれた状態から抜け出して宙に立つ。
幾重にも講じた防御手段は全て破られたが、直感的にヴァルグラムだと耐えられないと判断して【無限宝庫】からエクスカリバーを瞬時に取り出し盾代わりにして直撃は防いだことと、装備していた竜素材の防具、そして【衝撃分散】や【物理攻撃軽減】に【殴打耐性】などのスキルのおかげで致命傷は避けられた。
これらの存在が無かったら、今の一撃で即死はしなくても瀕死ぐらいにはなっていたかもしれない。
代わりに防具は半壊したうえに、さすがに衝撃を完全には消せなかったので身体の内外に大ダメージを負った。
「罅一つ無しか。流石はエクスカリバー。鞘から抜けたら更に良かったんだが……無理か」
危機に瀕したら使えたりしないかと思ったが、そう上手くはいかないらしい。
エクスカリバーを収納してから口元の血を拭う。
エクスカリバーを持っていた腕の骨には罅が入っていて凄く痛むが、それを我慢して外れた肩を先に戻すと、一撃で三割以上失った体力と罅が入った骨を含めた全身の怪我の回復のために精霊水製の上級
それでも全回復しないが、残りのダメージは回復系スキルの効果によって十秒もあれば全回復できる程度なので問題ない。
半壊した防具をユニークスキル【
怪我も【復元自在】で治せたが、上級ポーションは服用して暫くの間は自然回復力が上昇するので、まだ戦いが続くことを考えるとポーションの方が効果的だろうと判断した。
再度剥がれた障壁やバフを自らに付与しながら大空洞の反対側に視線を向けると、持ち前の生命力を使って魔法により受けたダメージの回復に専念しているファブルニルグがいた。
考えていることは同じなのか、視線は油断なく此方を見据えている。
「レベル差があると威圧系は良く効くな。近くに張り付くのは危険か。遠距離戦は無謀だし、ヴァルグラムでのヒット&アウェイしかないな」
ファブルニルグの傷が癒えたタイミングで此方も小休止を終えて動き出す。
「我が身を護れーー〈
魔剣ヴァルグラムの拒絶の力を魔力の波動と威圧対策の護りとして身体に纏わせ、攻撃用にそのまま刃にも宿したまま突貫する。
距離が近くなると、先程その有効性を実証した魔力の波動と威圧のコンボを再び放ってきた。
「二度も喰らうかよ!」
拒絶の力を宿した刃により魔力の波動も威圧も纏めて斬り裂いた。斬り裂いた後の余波も護りにと身体に纏った分で防げたようだ。
目の前で起こった現象に一瞬だけ固まるファブルニルグ。
その隙を逃さず、その頸部へと瞬時に駆け寄りヴァルグラムを振り切る。
一瞬後に拒絶の刃が金属の鎧ごと頸部を断ち切り勝敗を決する。そう思っていると、ファブルニルグの姿が消えた。
「消えっ、いや、潜ったのか」
ファブルニルグがいた場所には徐々に塞がっていく大穴があった。
【
そして、地中に潜ったファブルニルグが取った手段がーー。
「うおっ! チッ、面倒な」
鉱山の深部にある大空洞は、当然ながら前後上下左右の全てが岩壁や土で構成されている。
その上、【発掘自在】は最高位のユニークスキル【強欲神皇】の内包スキルではあるが、レベル差もあってかファブルニルグの方が地面への支配権限が上なようで、周囲の地形全てがファブルニルグの支配下だ。
結果、本体は姿を見せず凡ゆる方向から次々と土、岩、金属の槍や刃の群れーー大地の触手とでもいうべき物が無数に襲い掛かってきた。
加えて、所々に空いた大穴から即座に撃てる低出力のブレスが放たれてくるのでファブルニルグの位置は常に把握している必要がある。
どうやらヴァルグラムの刃を避けるために遠距離戦に移行するようだ。
しかし、このままだと互いに決め手に欠けている状態だ。
地力の差を考えれば有効な戦法なんだろうが、最初に感じた戦意からすると違和感がある。
まぁ、いつまでも戦いが続くようなら、鉱山が崩壊するのも覚悟の上で、全力でグングニルを放つ必要性がありそうだ。
竜が現れたことにより、ただでさえ面倒な状況になっているから、そこに鉱山崩壊なんて追加案件は出来れば御免被りたいところだな。
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