第26話 鉱喰竜ファブルニルグと魔剣ヴァルグラム 後編



 そのまま暫く戦況が膠着していると、大地の触手とブレスだけでは捉えきれないと考えたのか、追い討ちをかけるようにファブルニルグは更なる手を打ってきた。

 この大広間はファブルニルグが住処として使っていたようで、そう多くはないが生え変わり抜け落ちた鱗や爪などの竜素材が落ちている。

 その竜素材が核となって周囲の岩石を取り込み、歪な人型の身体を構成すると襲い掛かってきた。

 俺が宝石を素材に自作したゴーレムコアと竜素材という違いはあるが、あれは間違いなくゴーレムだ。落ちてる竜の素材で創り出されたゴーレムなので〈蒔かれた者スパルトイ〉といったところか。

 そのスパルトイ達は身体の一部に竜素材が使われているため頑強で、真竜であるファブルニルグの魔力が宿っているからか身体性能も非常に高い。

 先着した数体を破壊したところ、周囲の地面や転がっている鉱石を引き寄せて欠損を補ったり、竜素材を中継機に送られてくる魔力によって裂けた身体が再生されるようだ。

 それならばと、素早い挙動で振るってきたスパルトイの片腕を構成する竜爪の振り下ろしを避け、コアである竜爪を叩き斬り機能を停止させると竜爪を丸ごと【無限宝庫】へと収納し再利用を防ぐ。

 体感的には冒険者で換算するとAランク下位ぐらいだろうか。しかも再生能力付きだ。百体はいるので外の連中がこんなのに襲われたらひとたまりもないな。

 俺もヴァルグラムの拒絶の力が無かったら、グングニルを使ってブレスやスパルトイに対処するしかなかっただろう。

 ファブルニルグに対してはグングニルを投擲して討伐一択だっただろうから、鉱山が崩落するのは避けられなかったに違いない。

 紅黒竜の住処で手に入れた魔剣や魔導具マジックアイテムの残骸を使ってヴァルグラムを作って本当に良かった。



「それにしてもいつまで続くんだ。こっちの体力が尽きるのを待つつもりか?」



 大地の触手とスパルトイ達の猛攻を捌き、七度目のブレスを斬り捨てながら相手の狙いを予測する。

 此方に補足されないために常に動き続ける必要があるためブレスの威力は牽制レベル。

 此方を捕らえようとする大地の触手はブレスに比べれば到達速度は遅く、破壊しないわけにもいかないが容易く破壊できる。

 スパルトイが厄介だが破壊してコアの竜素材を収納すれば復活はしないため、鬱陶しいだけで大したことはない。

 時間がかかると不利なのはこっちだから有用と言えば有用だが……。



「あの戦意のわりには消極的だな。ん?」



 いつまで続くのかと思っていると、突如としてスパルトイ達が特攻を仕掛け、速度と量が増した大地の触手が全方位から濁流のように迫ってきた。



「一体何が、ってそういうことか‼︎」



 下方の地面の向こう側で急速に魔力が高まり収束していくのを感じ取った。これは本気のブレスの兆候だ。

 一瞬で数十の斬撃を見舞っても一向に尽きる気配の無い大地の触手に対処している限りブレスを妨害することは出来ない。そして、真竜のブレスはチャージが速い。



「断ち斬れーー〈拒み喰らう覇王の剣ヴァルグラム〉!」



 瞬時に空いた大穴から飛び出してきた滅びのブレスを白銀色の拒絶の光を纏った斬撃で割断する。

 左右に分かたれたブレスによってスパルトイと大地の触手が破壊されていく。背後の分もブレスの余波で崩壊しているようだ。



「ッ⁉︎」



 ブレスが途切れる。そう思った次の瞬間、鋭き破壊の刃が目の前に現れた。

 それはファブルニルグの牙だ。

 ブレスを放ちながら上昇してきたのは、最初からブレスが防がれるのは折り込み済みだったからだろう。

 本命は自らの牙による攻撃。

 転移の発動も間に合わない。竜の魔力溢れる体内では転移による脱出は難しいだろう。ヴァルグラムの拒絶の刃も濃厚な魔力空間内で上手く発動できるか怪しい。

 重力に引かれて落ちていきながらも、上から迫る鋭い牙はヴァルグラムで受け流し、下顎の牙は身体を捻って避けると、その慣性のまま口内へと身体を滑り込ませた。



『GURURURU……GU? GUGYAAAAA⁈』



 ファブルニルグの下顎に大穴を空けて真っ暗な閉所から飛び出す。

 口内から脱出した俺は、即座にヴァルグラムの白銀色の光の刃を発動させ、振り向き様に下から上へと斬り上げ、ファブルニルグの左の手足と翼を切断した。

 再度絶叫するファブルニルグが追撃を避けるために大量の金属槍を生成してきたので、左の手足と翼を一瞬で収納して離れた場所へと転移し距離を取る。



「ふー。結局使ったな。思っていた用途とは違ったけど。うぇっ。血が口に入った」



 全身に浴びた竜血を【無限宝庫】へ収納してから視界を確保すると、左手に握られた漆黒の神槍へと視線を向ける。

 竜の口内では案の定ヴァルグラムの拒絶の力が使えなかった。アイテム自体のランクが高ければ使える気がしたが、今発動出来なければ意味がない。

 口内で上下から迫る竜の歯に対処するために本能的に【神焉槍顕現グングニル】を発動させた。

 問題なく瞬時に顕現したグングニルをつっかえさせて噛み潰されるのを防ぐと、素早くグングニルを上下の歯の間から外し、俺ごと真下に向かってグングニルを【投擲】して脱出したわけだ。



「最初の竜の時と同様にグングニル様々だな。まぁ、こっちの竜の方が格上ではあるし条件は厳しいんだけど」



 髪を掻き上げながら向こうを見ると、ファブルニルグはヴァルグラムの拒絶の力によって再生を阻害されている手足と翼の部分に金属で作った義肢を取り付け、尻尾も使ったクラウチングスタートのような体勢を取った。

 口から漏れ出す魔力ーーブレスの魔力が身体全体を覆っていき、全身が徐々に破壊の光に包まれ、身体の各部にある蒼銀色の竜鱗を基点に生成される蒼銀色の金属を重厚な全身鎧のように纏っていく。

 全身を蒼銀色の金属で覆ったその姿は、色は違うし全体的に細めだが、どこか特撮怪獣作品の怪獣型メカを彷彿とさせた。

 破壊の光が明滅するとともに迸る紫電が周囲と蒼銀色の鎧を不気味に照らしている。まさに触れた物を消滅させる破壊の鎧だ。



「……どうやら終幕みたいだな」



 治癒できない傷口から漏れ出て此方に吸われ続けている生命力を歯牙にも掛けず切り札らしき突撃体勢を取る姿を見て、この戦いの終わりを感じ取った。

 この場では本領を発揮できないグングニルを解除し、両手でヴァルグラムの柄を握る。

 ……今の俺はきっと笑っているんだろうな。



「奴に勝てるだけの魔力を喰らえ、ヴァルグラム」



 握っている柄から急速に魔力を吸われていく。吸われていく度に銀灰色の刃が纏っている白銀の光が強くなっていく。

 ボロボロになった大空洞を白銀色に照らす様は、さながら太陽のようで月のようでもある。

 ヴァルグラムへの魔力供給は全回復時の四割ほどの魔力を喰らったところで止まった。



「ちょうどそっちも準備が終わったようだな?」


『GURURURU……』



 全身を眩く発光させ、紫電を纏うその姿は凡ゆる物を蹂躙する美しい輝きを放っている。

 向こうがより強く地面を踏み締めたのに合わせて唱える。



「万物尽く拒み喰えーー〈拒み喰らう覇王の剣ヴァルグラム〉‼︎」


『GURURU、GUOOOOOOO‼︎』



 拒絶の力を最大限発揮するための発動権言アクティブ・ワードを唱えた瞬間、ファブルニルグが咆哮と共に地面を蹴った。

 彼我の距離が大空洞の端から端ほどに離れていても、見上げるような巨体である破壊の竜はあっという間に距離を詰めてきた。

 発動権言により顕現した巨大な滅びの斬光の刃を眼前に迫るファブルニルグへと振り下ろす。


 拒絶の力と破壊の力。

 二つの力が互いの概念を押し除けようとするのを心身で感じた。

 時間にしてみろば力の拮抗は一瞬だったのだろう。

 その一瞬の中で相手が発する力の波の切れ間を見過ごすことなく、全身から限界以上の力を捻り出し、吠えながらヴァルグラムを振り抜いた。



「ーーッラァ‼︎」



 深い水底から這い上がったかのような解放感と共に振り抜かれる。

 膨大な魔力とスキルによる支援を受けた滅びの光の刃が、破壊の鎧ごと真竜の肉体を両断した。

 二つに分かれた肉体が地面を滑りながら激しく破壊していき、やがて止まる。

 破壊の鎧とは異なり、振り下ろされた滅びの光の刃は大空洞を大きく傷付けない。

 指定した対象のみを〈拒絶〉することに全ての力を収束した滅びの光の刃を形成するのが、ヴァルグラムの奥の手だからだ。

 故に今のヴァルグラムは、対象であるファブルニルグ以外を無駄に傷付けることはできない。直接は傷付けないが、剣圧の余波による影響が出るのは仕方のないことだ。


 役目を果たしたヴァルグラムの力の波動が鎮まっていくのを感じながら乱れた息を整える。

 ヴァルグラムを鞘に納めると、二つに分かたれて命の火を絶やしたファブルニルグへと振り返った。



「……良い戦いだった。楽しかったよな、お互いにさ」




[ユニークスキル【強欲神皇マモン】の【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】が発動します]

[スキル【金属喰い】を獲得しました]

[スキル【悪食】を獲得しました]

[スキル【岩土生成】を獲得しました]

[スキル【金属生成】を獲得しました]

[スキル【猛毒生成】を獲得しました]

[スキル【岩土操作アース・コントロール】を獲得しました]

[スキル【金属操作メタル・コントロール】を獲得しました]

[スキル【財宝探知】を獲得しました]

[スキル【金属探知】を獲得しました]

[スキル【危機感知】を獲得しました]

[スキル【状況観察】を獲得しました]

[スキル【緊急回避】を獲得しました]

[スキル【穴掘り】を獲得しました]

[スキル【欠片成す人形】を獲得しました]

[スキル【覇動王威】を獲得しました]

[スキル【強靭なる鎧装】を獲得しました]

[スキル【竜装纏鎧】を獲得しました]

[スキル【岩土完全耐性】を獲得しました]

[スキル【重力完全耐性】を獲得しました]

[スキル【破壊完全耐性】を獲得しました]

[スキル【対魔力】を獲得しました]

[スキル【真竜の漲る生命力】を獲得しました]

[スキル【魔力吸収】を獲得しました]

[スキル【上位種の威厳】を獲得しました]

[スキル【大地の雫】を獲得しました]

[スキル【大地の王】を獲得しました]

[マジックスキル【破壊魔法】を獲得しました]


[条件〈命懸けの戦い〉〈一騎討ち〉などが達成されました]

[称号〈強欲の勇者〉が有効化されました]

[ジョブスキル【大勇者アーク・ブレイヴァー】が仮解放状態から本解放状態へと覚醒しました]

[称号〈救済の英雄〉が有効化されました]

[ジョブスキル【大英雄アーク・ヒーロー】が仮解放状態から本解放状態へと覚醒しました]


[ジョブスキル【大勇者】が覚醒したことにより、ユニークスキル【魔賢戦神オーディン】の未解放スキル【◼️◼️◼️◼️】が解放されます]

[内包スキル【不滅の勇者の祝福エインヘリアル】が解放されました]

[称号〈強欲の勇者〉〈救済の英雄〉が有効化されたことにより、神器〈◼️◼️剣エクスカリバー〉が解放されます]

[〈星王剣エクスカリバー〉が使用可能になりました]

[称号〈星剣の主〉を取得しました]


[特殊条件〈真竜討伐〉〈血肉捕食・真竜〉などが達成されました]

[ジョブスキル【竜殺者ドラゴン・スレイヤー】がジョブスキル【竜喰者ドラゴン・イーター】にランクアップしました]


[特殊条件〈真竜討伐〉〈単独撃破・真竜〉などが達成されました]

[スキル【竜血祝聖】を取得しました]


[一定条件が達成されました]

[ユニークスキル【強欲神皇】の【拝金蒐戯マモニズム】が発動します]

[対価を支払うことで新たなスキルを獲得可能です]

[【捕食】【鉄の胃袋アイアン・ストマック】【消化力強化】【丸呑み】【岩石喰い】【金属喰い】【悪食】と大量の魔力を対価として支払い、ユニークスキル【暴食ザ・グラトニー】を得ることができます]

[新たなスキルを獲得しますか?]



「色々手に入れたみたいだが……初めて見るタイプの通知だな。まぁ、せっかくだから、っとその前に」



 魔力の消費が激しい戦いだったので全回復時の半分以下にまで魔力が減っている。

 以前救援対価時に任意発動させた時とは異なり、今回初めて発動した【拝金蒐戯】の自動発動能力にどのくらい魔力を支払わされるか分からないので、精霊水製の上級魔力回復薬マナ・ポーションを数本飲んである程度まで回復させておく。



「よし。六割あれば大丈夫だろう。獲得するーーうおっ、結構キツい」



 急激な魔力の減少に思わず地面に片膝をつく。魔力の減少は残り三割を切ったところで止まった。



[同意が確認されました]

[対価を支払い新たなスキルを獲得します]

[ユニークスキル【暴食】を獲得しました]



「……無事に獲得できたみたいだな? こういう獲得パターンもあるのか」



 【戦利品蒐集】でファブルニルグ関連の素材は血の一滴も残さずに回収し、辺りに散らばっている鉱石や魔力結晶などの他の素材もこっそり頂戴する。

 その後、戦闘の跡はそのままにしつつも、ボロボロになった大空洞が崩落しないように丁寧に復元と補強を施す。



「この程度でいいかな。侯爵達がソワソワしているみたいだが、早く地上に戻り過ぎると転移がバレるかもしれないし、ちょっと寄り道してから戻るか」



 取り零しが無いかを確認してから戦いの舞台であった大空洞を後にする。

 真竜を倒したと知られたら面倒臭いことになりそうだから、表向きの話を上手い具合に作らないといけないな。



 

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