第23話 戦場は坑道へ


 ◆◇◆◇◆◇



 討伐軍が鉱山前の広場にいた岩喰い蜥蜴の掃討を終えた。

 死傷者と岩喰い蜥蜴の死体を町の中へと運び入れると、戦闘痕の残る広場を均す者達と、場所を取る岩喰い蜥蜴の死体を解体する者に別れた。

 作業が終わるのを待つ間ヒマだったので、兵士達に混ざって地面を均したらすぐに終わってしまった。

 ユニークスキル【強欲神皇マモン】の【発掘自在】による地形操作は、今までは主に戦闘の際に地面を隆起させて敵を串刺しにするのに使っていたが、本来はこういう非戦闘時でこそ本領を発揮する能力だ。



「本来の使い方をしてやったのはいいんだが、また暇になってしまったな」



 地面を均していた兵士達も今は解体の方に行っているか、次の戦いに備えて休んでいる。時間的には昼頃なので、皆休憩がてら軽く食べているようだ。

 特に疲れていないので、ヴァイルグ侯に断りを入れてから坑道の魔物の気配の無い出入り口付近まで足を踏み入れることにした。

 匂いが届かないように風の結界で身を覆い、ストックしてある竜肉串を食べながら【情報蒐集地図フリズスキャルヴ】を発動させる。

 【地図有効化マップ・スキャン】を二連打してエリアの地図を有効化すると、坑道出入り口から下に十メートルほどの範囲までの地図が表示された。

 坑道は事前の情報通り迷路のようになっていて、慣れた者で無かったら地図無しだと迷うほどに入り組んでいる。

 地図を三次元表示に切り替え、地図上に表示された上位種にマーカーを付けながら隅々まで確認してみたが、違和感の発生源は見当たらなかった。



「これは……もっと地下か?」



 久しぶりに発動させた【黄金運命】の導きに従って意識を下に向けていくと、地下五十メートルほどの深さにある拓けた空間に巨大なナニカがいることが確認できた。

 居場所だけで詳細までは分からなかったが、地図上でマーカーを付けることはできた。大きさからして少なくとも岩喰い蜥蜴の上位種ではないだろう。



「……こりゃ楽しみができたな」



 待ち受ける強敵の気配にテンションが上がっているのを自覚しつつ、蜥蜴達に気付かれないように気配を抑えたまま町へと戻った。


 地上の第一戦が終わってから一時間が経った頃。

 休憩や雑事を終わらせた面々が集まり、それぞれのグループで固まり、戦闘準備を済ませているのを確認し、指揮所からの開始の合図を受けてから再び一人で坑道へ入る。



「さて、やりますか。ーー『誘いの風ウインド・オブ・インビテーション』」



 創作オリジナル魔法により発せられた風を坑道内を嘗めるように行き渡らせる。

 地図上の有効化されている範囲と照らし合わせながら風を操り、坑道内の魔物達へと浴びせていく。

 やがて、魔物達が誘われるようにジワジワと出入り口へと向かっているのを地図上で確認すると、坑道の出入り口に蓋をするように遮音結界を張ってから大きく息を吸い込んだ。



「ーー来い! 蜥蜴共‼︎」



 【挑発】を発動させながら発した大声は坑道中に響き渡った。

 魔法によって既にボンヤリとだが意識を向けられていたところに、風よりもハッキリとした音という刺激をスキル効果を乗せて与えてやったことによって、魔物達が駆け足で向かってくる。

 上手い具合に有効化されている地図内の坑道にだけ声は届いたようで、地下へと続く道からは魔物が来る様子は無い。

 事前に坑道内の魔物を地上に引っ張り出す方法を考えた時、『誘いの風』だけだと誘引効果が薄いので地上に来るまで時間がかかるだろうし、【挑発】だけだと此方の姿が見えない上に音が反響してちゃんと辿り着かない魔物も出てくるだろうと予測していた。

 それぞれに欠点があったので、試しに組み合わせてみたのだが、どうやら上手くいったようだ。

 使える魔法の中には、より効果的に大量の魔物を集めることができる『魅惑の波動ルアー・ウェーブ』という魔法があるのだが、『誘いの風』や【挑発】と違って消費魔力が多い以外はデメリット無しで使えるので、人前で使ったら危険視されそうなため自重している。



「そろそろ来るぞー‼︎」



 地上へ出て離れた場所にいる者達に呼びかけてから坑道出入り口の真上の岩場に跳び乗る。

 多くの重量感ある足音を響かせながら岩喰い蜥蜴達が坑道から飛び出してきた。



「『纏わりつく呪雹カースド・ヘイル』」



 地上に現れた岩喰い蜥蜴達に行動阻害のための呪雹を付与しつつ、【強奪権限グリーディア】の【災界顕現ワールド・ディザイア】を展開する。



「お前達の相手は向こうだぞ。『重力の操り手グラヴィティ・ハンド』」



 敵意ヘイトを引いたことにより、一部の岩喰い蜥蜴達が立ち止まり此方を見上げてくるので、基本魔法『重力の操り手』を使って岩喰い蜥蜴に働く引力を操り、念動力サイコキネシスのように宙に浮かせると、後方の討伐軍の前へと放り投げていく。

 視線を後方に向け、眼前に転がってきた岩喰い蜥蜴に襲い掛かる味方の姿を確認する。



「一瞬呆けてたけど、ちゃんと動いてくれたな。おっと上位種が来たな」



 地図上でマーカーが付与された光点が地上に出てくる。

 現れたのは、毒々しい深緑色をした岩喰い蜥蜴が一体に、鋼色をした岩喰い蜥蜴が二体、他の二種よりも少し大きい黒紫色の岩喰い蜥蜴が一体。

 背後を晒している四体に向かって、【隠者ハーミット】と【暗殺者アサシン】、【気配遮断】を発動させてから、素早く四度魔剣を振るって頸部を刈り取った。

 出てきて早々に瞬殺した上位種四体を『重力の操り手』で浮かせ、【異空間収納庫アイテムボックス】の黒穴へと放り込み収納する。

 背後で障壁をガンガン叩いてくる通常種達を兵士達の近くへと投げ捨ててから元の位置へと跳び上がった。



[ユニークスキル【強欲神皇】の【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】が発動します]

[スキル【強撃パワー・アタック】を獲得しました]

[スキル【猛毒攻撃強化】を獲得しました]

[スキル【石化攻撃強化】を獲得しました]

[スキル【疾病攻撃強化】を獲得しました]

[スキル【腐食攻撃強化】を獲得しました]

[スキル【魔法攻撃軽減】を獲得しました]

[スキル【殴打耐性】を獲得しました]



 厄介なはずの上位種を瞬殺してしまったが、仮に正面から戦っても俺は前の異世界からの持ち越しである【状態異常無効化】を持っているから、相手の強みが通じないので結果は変わらなかっただろう。

 それからも通常種を放り投げ、数体の上位種を狩った。



 ◆◇◆◇◆◇



 その後、次のエリア分の魔物までは先程と同様に地上に誘導してから討伐したが、想定よりも数が多いのと、これより下にいる岩喰い蜥蜴を地上に連れて来るには時間がかかり過ぎることから、効率性を重視し全軍で坑道に潜ることになった。

 坑道は迷路のように入り組んでおり、俺が駆け付けるまでにどうしても時間がかかる。

 表向きは【風塵魔法】の基本魔法である『風の触覚エアリアル・センス』で探知して駆けつけることになっているため、予め地図を見てから上位種の動きを先読みして動いても怪しまれることはないだろう。

 外部の光が届かない坑道内を、自然界の魔力の結晶体である魔力結晶の青白い光に照らされながら進み、俺が個人的に名付けた第一エリアと第二エリアを通過して行き、目的地である第三エリアに到着した。



「ルターム様も行かれるのですか?」



 討伐軍が小隊単位でバラけて探索を開始する中、第二エリアと第三エリアの境界に作った仮指揮所から先へと進もうとしていたルタームを呼び止める。

 騎士と魔法使いを三名ずつ連れて行くことから、自らも討伐に参加するつもりのようだ。彼らの背後には荷役らしき兵士が四名ほど続いている。



「ああ。ヴァイルグ家の次期当主としては、終始後方に下がったままというわけにはいかない」



 ルタームは苦笑しながらヴァイルグ家の家紋が飾られた佩剣の鞘を軽く叩く。

 身に付けてる金属製の全身鎧も腰に佩いている剣も全て上質な魔導具マジックアイテムだ。どちらにも家紋があるのでヴァイルグ侯爵家の家宝かもしれない。特に鍔の中央に薄紫色の宝珠が輝く魔剣はかなりの逸品だ。



「極力手は出しませんので、私も参りましょうか?」


「……いや、リオン殿は引き続き父上からの依頼の方を頼む。他の者が上位種と遭遇した際には救出してやってくれ」



 他の者達は俺に来て欲しそうだったが、リーダーであり警護対象でもあるルタームの意思を尊重することにしたようだ。



「ルターム様は上位種と戦われると?」


「これでもBランクぐらいの力はあるからな。大森林の表層あたりの魔物だったら問題なく勝てるぐらいの経験もある。それに、一人で戦うわけじゃないから大丈夫だ」



「侯爵様にこのことは?」


「伝えてるとも。渋られたが、何とか許可を貰った」



 肩を竦めるルタームから周りの人達に視線を向けると頷きが返って来たので本当のようだ。



「ならば私からは言うことはありません。御武運を」


「ああ。リオン殿も気を付けてな」



 去っていくルターム達を見送ると、背後の岩陰へと向き直る。



「……侯爵様は何と?」


「ーールターム様が危機に陥ったら介入するようにとのことです」


「了解しました、とお伝えください」


「かしこまりました」



 岩陰にあった気配の一つが地上へと向かい、残った一つがルターム達を追いかけて行ったのを確認すると、俺自身もルタームとは違う道に入り、その先へと駆け足で向かう。

 地図を見るにこのままだと騎士の一隊が上位種に遭遇するからだ。

 騎士の強さはレベル四十前後なので、冒険者のランクで言うとCランク上位からBランク下位ぐらい。

 岩喰い蜥蜴の上位種のレベルが四十半ば辺りだと考えると勝てるか微妙なラインだ。

 このエリアにも強欲の領域を展開しているのでこのまま騎士達が死んだらスキルを得られるが……。



「このまま見過ごすほど心根は腐ってないんでね。ーーそこの角に上位種がいます! こちらで引き受けるので少々お待ちを」


「な、なんだ⁉︎」



 突然声をかけられて驚いている騎士達を追い越すと、声に反応したのか死角になっている曲がり角からのっそりと上位種が現れた。

 鋼色の上位種は石化のブレスを吐こうとしていたようだが、腰に佩いていた竜牙製の短剣を投擲し、狙い通り鼻先に突き刺してブレスを妨害した隙に距離を詰めて魔剣で頭部を斬り落とした。



[経験値が規定値に達しました]

[スキル【投擲】を習得しました]

[スキル【狙撃】を習得しました]



 深々と鼻先に突き刺さった短剣を抜いて上位種の死体を収納すると、背後の騎士達に軽く頭を下げる。



「お聞きになっているかと思いますが、ヴァイルグ侯爵様より岩喰い蜥蜴の上位種を任されている冒険者のリオンと申します。上位種は契約通りに早急に討伐する必要がありますので此度の非礼等はご容赦ください」


「あ、ああ。構わない。むしろ助かった」


「ご理解戴けて幸いです。それでは他にも上位種がいるようなのでこれにて失礼致します」


「う、うむ。頑張ってくれ」



 立板に水に話を進めてからその場を後にする。

 第三エリアにいる上位種の数は残り五体さっさと倒して先に進みたいものだ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る