第16話 ギルマスとの面談



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー次はメルディ草を十束です」


「はい、お預かりします」


「次はグレートモスボアの背中の苔と牙なので他の部位ともども解体お願いします。肉と皮は全部、骨は一部を引き取りますが、それら以外は売却します」


「かしこまりました。後で解体場に提出をお願いします」


「分かりました。次はリュベータ・アーミービーの各種素材ですが、十体あればいいですかね?」


「そうですね。依頼書に書かれている分ならばそれで十分かと。こちらは全て売却ですか?」


「はい、売却します。これも解体場に出しておきますね」


「お願いします」


「次はフォレストウルフの群れの討伐証明部位でーー」



 差し出した依頼書とその大量の対象素材の数々の確認にカウンターにいた職員達は大忙しだ。

 その原因は一体誰なんだろうか。そう、俺です。

 今日は冒険者受付カウンターではなく、素材受取カウンターの補佐をしているハーフエルフであるレノアの美貌が若干引き攣っているが、きっと気のせいだ。

 それからも【異空間収納庫アイテムボックス】から素材を出し続け、一通り今提出できる素材を出し終えると解体専門の職員がやってきて解体場に案内された。背後からカウンターにいた職員達の安堵の声が聞こえた気がするが、百体まではいってないんだからきっと気のせいに違いない。

 解体場に魔物の死体を出すと、此方が言う前にレノアがギルドマスターの執務室までの案内を申し出てくれた。どうやら職員、少なくとも受付嬢達には俺がギルドに来たら案内するよう話が通っているらしい。



「しかしギルドマスターですか。どんな方なのか知らないので緊張しますね」


「フフフ。見た目は厳ついけど温厚な人だから大丈夫よ」


「だと良いんですけどね」


「盗賊団を一人で殲滅できるリオンくんでも緊張するのね?」


「そりゃしますよ。盗賊討伐とお偉いさんとの面談は違いますし、何を聞かれるか具体的に分からないのは不安要素ですから」


「確かにそうね」



 周りの目がないから口調を崩しているレノアと会話を交わしながら階段を登る。

 さて、ギルドマスターに会う前に今一度偽装ステータスを編集するとしようか。

 あれこれ経験を積んでいるのと他者のステータスを視て集めた情報を元に、それ相応のステータスに偽装しておくのが自然だろうしな。

 この世界に来て以降、少なくとも面と向かって他者からステータスを視られてはいないと思うので大胆に編集しても問題あるまい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


○名前

リオン

○種族

超人スペリオル族 レベル55

○所属

〈アークディア帝国冒険者ギルド・アルグラート支部〉

○職業

〈Bランク・中級冒険者〉

○称号

なし

職業ジョブスキル

剣術師ソード・ロード】【高位狩人ハイハンター】【軽戦士ライト・ウォリアー】【野伏レンジャー】【魔導師ウィザード】【司祭プリースト】【錬金術師アルケミスト】【料理人コック

魔法マジックスキル

【火炎魔法】【風塵魔法】【岩土魔法】【聖光魔法】【暗黒魔法】【氷凍魔法】【雷電魔法】【重力魔法】【術理魔法】

○スキル

・強化系スキル

身体強化ブースト】【剛腕】【駿足】【強敵殺しジャイアント・キリング

・攻撃系スキル

【威圧】【魔装刃】【挑発】

・防御系スキル

【魔装鎧】

・回復系スキル

【超回復】【休眠】

・感覚系スキル

【直感】【罠感知センス・トラップ】【敵性感知センス・エネミー】【鷹の目ホークアイ】【暗視】

・耐性系スキル

【状態異常耐性】

・生産系スキル

【罠設置】

・補助系スキル

【高速思考】【言語理解】【武芸百般】【罠解除】【鼓舞】【逃走】【奇襲】【強襲】【指導】【取引】【集団行動】【狩猟採集】

・成長系スキル

【弱肉強食】

・特殊スキル

【幸運】【異空間収納庫アイテムボックス


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 新しい偽装ステータスでは適度に希少レアスキルを追加しておいた。

 魔法はほぼ自重無しで公開している。【空間魔法】は転移を都合良く使われる可能性があるので一応非公開。

 【剣聖ソード・マスター】は【剣術師】へ、【状態異常無効化】は【状態異常耐性】へといった本来の最上位スキルより二、三ランク劣る下位互換スキルに偽わるなど細かい偽装も行った。

 これならば少なくとも今日のようにリュベータ大森林で好きに活動できるだけの力はあるはずだ。

 さて、準備も済んだし、虎穴に飛び込もうか。



「ギルドマスター、レノアです。リオン様をお連れしました」


「ああ。入ってくれ」



 ノックをして入室したレノアに続いて俺も執務室に入る。

 最低限飾り立ててはいるが無骨な印象は拭えない室内には二人の男がいた。タイミングからして、ちょうど何か話し合っていたのだろう。

 一人は冒険者登録の際に受けた特殊試験の試験官であるガリアスだ。つまり、残るもう一人の四十代後半ぐらいの鬼人族の男がギルドマスターなのだろう。額から生える二本の角に顎髭がただでさえ厳つい顔立ちを更に厳めしくしている。



「よく来てくれた、リオン。私がこのアルグラート支部のギルドマスターのカスターだ。こうして噂の新人に会えて嬉しいぞ」


「初めましてギルドマスター。先日冒険者になりましたリオンと申します。以後お見知り置きを」



 厳つい容姿を裏切る穏やかな声質と物言いに内心少々面食らいつつも軽く挨拶する。



「こっちこそよろしくな。レノア君、人数分のお茶を頼むよ」


「かしこまりました」



 執務机から部屋中央のテーブルに移動したカスターに促されソファに座ると、対面にカスターとガリアスが着席した。どうやらガリアスもそのまま同席するらしい。着席後にガリアスと目が合ったので軽く会釈しておく。



「呼び出した本題に入る前に少し話そうか。時間は大丈夫かな?」


「はい。今日は下で解体と査定してもらっている分を受け取れば宿に帰るだけです」


「それはよかった。受付で聞いたが、今日は大森林に行っていたそうだな。確かヒルハ草の採取依頼だったか。無事に集まったか?」


「ええ。群生地を幾つか見つけましたので、依頼の四倍の八十束ほど納品しましたよ。勿論群生地は採り尽くしていません」


「品薄だから大量に集めてくれて有り難い。ヒルハ草の生態もちゃんと理解しているようで何よりだ」



 ちょうど会話が途切れたタイミングでレノアがやって来てそれぞれの前にお茶を置いていく。レノアに礼を言って彼女が退室すると、お茶で口を湿らせてからカスターが本題に入った。



「さて、まだ色々話したいところだが、日もほぼ落ちているし本題に入るとしよう。先ずは先日の盗賊団についてだ」



 先ずは、ね。つまりまだ何かあるということか。



「リオンが捕縛してくれた盗賊二名を尋問したところ他国の軍人であることが確認された。衛兵隊長に提出してくれた資料や協力者の情報なども大いに役立つ物だと領主様からお褒めの言葉を頂いている」


「お役に立てたならば何よりです」


「未だ調査中でゴタついているのでギルドと領主からの追加報酬には暫くかかるので待っていてくれ。言うまでもないことだが、これには情報の拡散を防ぐための口止め料も含まれるため、この件は吹聴しないよう頼むぞ」


「元よりそのつもりなのでご安心を」


「うむ。では次に、銀鉱山についてだが、リオン。君は一人で蜥蜴達を殲滅するつもりだと聞いたが、本当か?」


「はい。予定では明日向かうつもりでしたが、何か問題が?」


「うーむ。問題と言えば問題だな。そうじゃないと言えばそうではないが」



 言い淀んでいる様子のカスターから視線を横のガリアスに向けると、肩を竦めながらその理由を教えてくれた。



「リオンよ。そもそも件の銀鉱山の持ち主は?」


「領主様ですね」


「ああ。そして前回の討伐隊の構成は?」


「……上級冒険者と領主軍ですね」


「そうだ。つまり領主軍も含めて失敗した鉱山解放を冒険者だけで行うのは奴らの面子と士気に関わるわけだ。しかも上級冒険者ならまだしも、成否に関わらずBランクとはいえ中級冒険者の新人が一人で行うとな」



 なるほどね。確かにプライド的に向こうは納得し辛い状況だ。カスターが言い淀んでいたのは依頼した俺に対する申し訳なさからかな? 別に無理して討伐したいわけではないので、それならそれで構わない。



「なるほど、理解しました。では討伐依頼は中止ですか?」


「ああ、依頼は中止だ。だが討伐は中止にはならない」


「どういうことでしょうか?」



 カスターの方に向き直り尋ねると首肯が返ってきた。



「どうやら領主様は特殊試験での元Aランク冒険者に勝利したのと、Aランク近い実力の首領率いる大規模盗賊団を単独且つ無傷で討伐した実績から、リオンをA相当の実力があると見做したようだ。そして、回復した領主軍と共に次の銀鉱山解放作戦への参加を要請してきたんだ」



 ……どうやら言い淀んだ理由はコレっぽいな。

 さて、どうしたもんかな。


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