第15話 魔水


 ◆◇◆◇◆◇



 森に引き返した後、人目が無いことを確認してから転移魔法でオークと戦った場所に戻ってきた。

 地図を開いてリュベータ大森林の現在有効化されているエリア内を検索する。魔水で検索したらヒットしなかったので、池と水源で検索したら森の奥地に複数がヒットした。

 魔水もだが、まだ本来の目的であるヒルハ草も採取したいので、ヒルハ草の群生地と池や水源の場所全てを通るルートを進むことにする。

 さっそく一番近場の池に向かいながら、時間的にも昼時なので【無限宝庫】内のバスケットからおにぎりを手元に取り出して昼食を摂ることにした。



「うん、美味い」



 一方の手で昼食を食べながら、もう一方の手で草藪から飛び出してきた魔物を斬る。我ながらどっちかにしろとツッコマれてもおかしくない状態だ。

 まぁ、誰も見てないし、奥に向かえば向かうほど食べる暇が無くなるだろうから、こうして食べるのは仕方ないので問題ない。

 とはいえ、片手で食べられるのは今日の弁当ではおにぎりだけなため、空振りだった一つ目の池の畔の岩に座って残りのおにぎりとおかずを食べることにした。

 匂いは気にしなくていいからしっかり食べたい、と伝えていたため、おにぎり以外のペペロンチーノに似た麺料理や甘辛く煮た鶏肉料理に季節の野菜を使った新鮮なサラダなどを味わっていると、ブブブッという羽音が聞こえたので結界の外に視線を向ける。

 そこには小柄の成人男性サイズの蜂の大群が押し寄せてきていた。地図上に表示されている光点の数から三十体はいるようだ。



「うわぁ、デカいしキモいな。『大放電撃ギガント・スパーク』」



 結界の表面に沿って【雷電魔法】の基本魔法を放つ。

 結界の周りにいた蜂の魔物達は縦横無尽に迸る電撃を受けて煙を上げながら地に落ちていった。



[ユニークスキル【強欲神皇マモン】の【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】が発動します]

[スキル【毒生成】を獲得しました]

[スキル【蜂の一刺し】を獲得しました]

[スキル【集団行動】を獲得しました]



 数が数だけに新規スキルを三つ手に入れた。

 黒煙を上げる蜂達を収納すると、残りのおかずを急いで食べきって地図で見つけた蜂の巣に襲撃を仕掛けることにした。

 手に入れたばかりの【毒生成】で掌の上に生み出した麻痺毒を【火炎魔法】と【風塵魔法】で燻して巣の中に送り込む。

 隠密系スキルを多重発動させてから近くの草藪で待つこと十分。

 地図上の蜂達の状態を確認してから蜂達にトドメを刺して巣を収穫した。



[ユニークスキル【強欲神皇】の【戦利品蒐集】が発動します]

[スキル【捕食】を獲得しました]

[スキル【狩猟採集】を獲得しました]

[スキル【拠点建築】を獲得しました]

[スキル【貫通力強化】を獲得しました]



 死体やスキル以外にも蜂蜜を始めとした蜂由来の各種素材を手に入れた。

 魔物だしサイズも大きいが、調べたところ特に問題無いようなので全て収納しておく。



「やっぱり大森林は身入りが良い。素材もスキルも豊作だ。もうちょっと魔物の出現頻度は少なくてもいいと思うけどね、っと」



 巨大な猪の突進をヒラリと避ける。

 蜂の巣を襲った後に向かったヒルハ草の群生地には先客がいた。

 背中の部分に緑色の苔と草花を生やした巨大な猪タイプの魔物〈巨大苔猪グレートモスボア〉だ。

 ヒルハ草をムシャムシャと食べていたからか、多少の傷は即座に塞がってしまう。その上、皮膚も硬いだけでなく魔力の障壁まで纏っている。

 このまま好き放題に走らせると群生地が踏み荒らされて採取できなくなるだろう。剣で致命傷を負わせると派手に流血して群生地が血だらけになるのも問題だ。

 二回目の突進を避けた際にそれらのことに気づくと、剣圧でも薬草が駄目になりそうなので剣を納めた。

 手を軽く振ってからグレートモスボアを手招きする。



「来いよ、小豚ちゃん!」


「ブギィッ!」



[経験値が規定値に達しました]

[スキル【挑発】を習得しました]



 言葉に魔力を込めた挑発はよく効いたようで、三回目はこれまでよりもいっそう力強い突進だった。

 小さな眼に怒気が宿っているのを感じつつ、【身体強化ブースト】と【剛腕】を発動させ、突き刺さると胴体に大穴が空きそうなグレートモスボアの牙を掴んで受け止める。ズズッと少し後退したが無事に突進を止めることができた。



「当たり前だが獣臭いな! よい、しょっと」



 困惑しているグレートモスボアを牙の根元部分を掴み直してから持ち上げて、すぐ背後の薬草が生えていない場所へと放り投げる。

 素早く腰の竜牙製の短剣を抜くと【魔装刃】を発動させ、グレートモスボアの他の場所より柔らかい喉笛へと突き刺す。

 触媒である実刃よりも長く伸ばされた魔力の刃が深々と突き刺さったことによってグレートモスボアは事切れた。



[ユニークスキル【強欲神皇】の【戦利品蒐集】が発動します]

[スキル【突進攻撃チャージ・アタック】を獲得しました]

[スキル【鋼硬皮膚ハード・スキン】を獲得しました]



 邪魔者を排除した後は、これまで通り少しだけ残してヒルハ草を収納する。



「うーん。【剛腕】はいらなかったかもな。あ、そういや食用可らしいけど、どんな味なんだろ」



 ふと、グレートモスボアが食べていたヒルハ草は人でも食べれることを思い出したので食べてみたが、絶対に食べられないわけではないが青臭いし結構苦い。

 俺はベジタリアンには程遠い舌であることを再認識した実食だった。



 ◆◇◆◇◆◇



「さて、時間的に次が最後だが、今度こそ魔水はあるかな?」



 グレートモスボアを倒して以降も何体もの魔物を倒しながら森の各所を歩き回った。

 意図せずいくつかの常設依頼を達成したが、未だに魔水が湧き出る水場には出会さない。

 のんびり歩いて探索したのでそろそろ陽が落ちる時間帯だ。有効化された地図内の水場は全て見回れるが、次で無かったら探すにしても明日以降になる。



「薬効を高める魔水ってのに興味があったんだけどな。お、着いたな……って、ああ。間違いなく此処だ。本当に魔力に溢れているな」



 木々が拓けた場所には地面から一部だけ露出している部分でも三メートルある岩があった。

 空中に立って上から確認したところ、巨岩の平たい上面の半分程の範囲が繰り抜かれて作られた小さな池、という表現があっている。そこには透き通った水が溜まっており、そこから溢れ出た水は岩場の溝を通って周囲の地面に散布していた。

 その地面には希少な草花が咲き誇っており、水に宿る魔力がその生育に大きく関わっているのは間違いない。

 何故地図上の検索に引っ掛からなかったのかは、魔水というのは通称であり、正式名称は〈精霊水〉だということが鑑定の結果分かった。まぁ、今後も呼称は通称で構わないだろう。

 魔力を感知できる者が見れば一発で分かるぐらいに芳醇な魔力を宿した水は、反射した陽の光と魔力光が合わさって美しく輝いている。



「幻想的な光景だな。暫く眺めていたいところだが、時間も無いし魔物が来ないうちにさっさと採取するか」



 地図上に映る魔物を示す複数の光点が百メートルも離れていない場所を彷徨いているので、手早く且つ大胆に魔水と草花を採取していく。

 空の水瓶は一つしかなかったので、それを満タンにした後は【無限宝庫】に直接収納していく。

 自動的に魔水を収納し続けながら、雑多に生えている数種類の希少な草花を手作業で採取する。ヒルハ草のように根元から纏めて掘り起こす方法が使えない物もあるため地道に手で採取するしかない。

 十分ほど採り続けた辺りで作業を切り上げると【空間魔法】を使用し、木々の間から遠目に小砦が見える大森林の入り口付近へと一瞬で転移した。


 アルグラートに帰還後、位置関係的に近かった薬師のところを尋ねて魔水を渡しておいた。カイルとミリーから話は通っていたので、驚かれはしたがちゃんと受け取って貰えた。

 その後冒険者ギルドへ向かうと、今日は忙しい時間帯らしく多くの冒険者で溢れていた。



「お疲れ様です、リオンさん。初めてのリュベータ大森林はいかがでしたか?」


「ただいま、リリーラさん。魔物や薬草が多かったですね。色々ありましたが、ヒルハ草や他の薬草のいくつかは採取できましたよ」


「ありがとうございます。ヒルハ草以外に達成した依頼はどちらでしょうか?」



 リリーラが提示した採取系の常設依頼書の中から数枚抜き取り、追加で魔物素材の常設依頼書も出して貰い数枚受け取る。



「薬草以外にもいっぱい獲ってきたんですね」


「次々襲ってきたのを撃退していたら自然と集まりました。依頼書を持って素材受取カウンターに行けばいいんですよね?」


「はい。向こうのカウンターで専門の職員が査定して、その場で依頼達成か否かの判断と報酬の受け渡しを行います」


「分かりました。それでは」


「あ、リオンさん。ちょっと待ってください」


「はい?」



 カウンターを離れようとしたらリリーラに呼び止められた。一体どうしたんだろうか?



「……実はギルドマスターがお呼びです。依頼の処理が終わってからで構いませんので、職員の誰かに案内してもらってください」


「……俺何かやりましたっけ?」


「やったと言えばやったじゃないですか。ほら、盗賊の」


「ああ、そういえばそうでしたね。分かりました。後で伺います」



 周りに聞かれないように互いに顔を近づけた上に小声での会話を終えると、周囲の男連中からの嫉妬の視線を浴びながら素材受取カウンターへと向かった。

 

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