第10話 取り敢えず報告


 ◆◇◆◇◆◇



 依頼を受けた先にいた盗賊団ーーグリッドル盗賊団というらしいーーを討伐した。

 一昨日の野営で寝る前の手慰みに造っていたゴーレムコアから生成した20体のクレイゴーレム達による進撃と、『魔法の矢マジック・アロー』を百発ほど放つことで開幕の狼煙とした。

 術理魔法の基本魔法の中で最も攻撃力の低い『魔法の矢』だが、その代わりとでも言うように追尾性能がある。

 本来ならばグリッドル盗賊団の盗賊達に直撃してもそう簡単には倒せないのだが、そこはレベル格差と最高位のジョブスキルによる補正、あとは過剰な魔力供給による攻撃力強化が合わさった結果、追尾性能有りで格下は当たればほぼ確殺な魔力の矢が完成してしまった。

 まぁ、元が最低位の攻撃魔法だから魔力を纏わせて上手くやれば剣や盾で防ぐことができるし、レベルやジョブによる能力値構成ビルド次第では格下でも直撃しても死なないと思う。

 クレイゴーレム達と『魔法の矢』で殆どの盗賊達を討伐した俺は真っ直ぐ敵の幹部達が集まっている場所を強襲することにした。

 到着後、盗み聴いたところちょうど逃げ出す準備をしていたようで危なかった。

 今回得た戦利品の新規スキルは、【高位弓士ハイアーチャー】【高位槍士ハイランサー】【高位盗人ハイシーフ】【高位狩人ハイハンター】【野伏レンジャー】【暗殺者アサシン】【歩哨センチネル】【高位魔術師ハイメイジ】【錬金術師アルケミスト】【風塵魔法】【氷凍魔法】【雷電魔法】【聖光魔法】【暗黒魔法】【空間魔法】【魔装鎧】【群勢指揮】【秘匿行動】【暗躍】【尋問】【捕縛】【変装】【異空間収納庫アイテムボックス】の23種。

 あとは、重複したジョブスキルだけでなく、既に取得していた下位のジョブスキルも統合されて熟練度レベルが上がった。

 そうした結果、【弓士アーチャー】は【高位弓士】、【槍士ランサー】は【高位槍士】、【盗人シーフ】は【高位盗人】、【狩人ハンター】は【高位狩人】に置き換えられ、獲得したばかりの【高位魔術師】は直ぐに【魔導師ウィザード】へとランクアップした。

 大量のスキル獲得の通知を見るだけで気分が良い。

 【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】によって自動回収された金銀財宝や武具に各種物資の山は、【無限宝庫】があるため幾らあっても大歓迎だ。

 

 アジトに残った連中を討伐した後、逃げ出した二人を捕まえた。

 既に【情報蒐集地図フリズスキャルヴ】でマーキング済みだったので何処にいるかを知るのは簡単だ。

 ターゲットがいる上空に向かって、手に入れたばかりの【空間魔法】で『瞬間転移テレポート』を発動させた。

 その後、【暗黒魔法】で二人を眠らせてから街道近くの森の中へと転移した。



「アイテムの類いは全て回収した、集めた死体は全部穴に入れて燃やした、アジトは重力魔法で崩した、証拠は捕まえた。……うん、問題ないな」



 初依頼としては文句無しの達成度ではないだろうか。

 ゴーレムコアに魔力と思念を込めてから地面に放り投げると、行きでも使ったホースゴーレムが生成された。

 ただし、行きとは異なって少し大型で、後部には荷物載せのスペースが出来ている。

 荷台に武装解除して縛り上げ、麻袋に入れた軍人盗賊二人を載せる。

 ホースゴーレムに跨がると、手綱越しに意思を伝えて森から街道へと出て、アルグラートに向かって走らせる。

 転移魔法を使えば一瞬でアルグラートに帰還できるが、この世界での転移魔法の扱いが分からないため秘匿する必要があるからだ。

 一度街道に近い森の中に転移したのもそういった理由からだ。

 当初の場所から結構離れているが、ホースゴーレムならば疲れ知らずなので日が暮れる前にはアルグラートに着くだろう。

 明日は北の森林でヒルハ草の採取だ。

 北の森林には多種多様な魔物が生息しているらしく、また大量にスキルが手に入れられるかもしれない。

 今から明日が楽しみだ。



 ◆◇◆◇◆◇



 予定通り日が暮れる前にアルグラート南門に到着した。

 南門の検問所にいた衛兵に事情を話したところ、上役である隊長がやってきて再度同じ話をすることになった。

 依頼を受けて偵察に向かい結果的にそのまま壊滅させた盗賊団は、どうやら他国の軍人が中心になって作られたらしいということを、証拠を提示しつつ説明したところ、【説得】のおかげかあっさりと信じてくれた。

 ついでに情報幹部から押収した収納系魔導具マジックアイテムである魔法の鞄マジックバッグに入っていた怪しい資料と、副首領の【異空間収納庫アイテムボックス】に入っていた資料も含めて衛兵隊長には色々と押し付けておいた。

 盗み聞きした盗賊達の会話から市内にアルグラートの動きを盗賊団に教えているのがいると、名前と大体の居場所を教えておくのも忘れない。

 勿論、この情報元は【情報蒐集地図】からだ。

 マーキングはしているので、いつまでも捕まらなかったり、市外に逃げ出したりしたら捕まえようかな。

 盗賊引き取り証明書を貰ってからギルドに向かおうとしたら、後日また話を聞くかもしれないため宿泊している宿を教えて欲しいと言われたので教えておいた。

 分かっていたことだが、内容が内容なだけに一度報告して終わりにはならないようだ。



「リオンさん! 良かった。無事だったんですね」



 ギルドに到着して並んだ空いていた受付の列がちょうどリリーラだった。

 どうやら心配を掛けたようだ。



「無事ですよ、リリーラさん。心配をお掛けしましたね」


「一人で盗賊団の討伐なんて無茶を言うからですよ。無事に偵察が済んだみたいで良かったです」


「討伐しましたよ」


「……はい?」


「盗賊団は討伐してきましたよ。一応二人ほど生かして捕まえてきて衛兵に渡してきました」


「……え、本当ですか?」



 パチクリと瞬きをしてから恐る恐るリリーラが尋ねてきた。



「本当ですよ。これが盗賊引き取り証明書です。あと、盗賊団について色々報告しなければならないことがあります。報告は此処でしても構いませんか?」


「内容次第ですが……他言できない類いの話ですか?」


「だと思いますよ。少なくとも衛兵隊長が出てきて領主様に報告を上げると言っていたほどの内容です」


「分かりました。少々お待ち下さい」



 リリーラがカウンター裏に引っ込むと直ぐに上司らしき40代ぐらいの男性職員を連れて現れた。

 対応を引き継いだ彼の案内を受けてギルドの二階にある応接室の一つに入った。

 テーブルを挟んで置かれた向かい側のソファに座るよう促され座ると、ノックをして入ってきた女性職員が冷たいお茶を持ってきてくれた。

 女性職員が退室すると、お茶で喉を潤してから男性職員が口を開いた。



「今回対応させてもらう職員のベイルだ。早速だが、南部の盗賊団を討伐したというのは事実か?」


「はい、事実です。盗賊引き取り証明書以外で証拠になるか分かりませんが、アジト内にあった冒険者プレートです。おそらく以前盗賊団討伐に向かったと聞いたパーティーの物かと思われます」



 懐から取り出した四つの金属プレートを差し出す。

 それを受け取り一枚一枚確認したベイルは、悲しげに眉を下げてから頷いた。



「……確かにアイツらの物だ。持ち帰ってくれて感謝する」


「いえ、ついでですから」


「そうか。それで、報告する内容とは? Bランク冒険者のパーティーが敗れるほどだから、ギルドの方でも漠然とした強さは把握していたが」


「そうですね。先ず、数は百人以上いましたよ」


「なんだと⁉︎」



 百という数に驚きを隠せない様子のベイル。

 まぁ、大体は数十人ぐらいだよな。統制的にも食糧的にも。



「加えて、多数の魔法使いに冒険者崩れ、そして軍人もいました、あと、全体的に装備が揃っていて、レベルも技量も高かったように感じましたね」


「冒険者崩れはまだしも、多数の魔法使いに軍人だと?」


「魔法使いは十人近くだったと思います。他には、盗賊達の秩序立った動きに指揮官の存在、幹部から隊長と呼称される盗賊団の首領。まぁ、見えてくる物がありますよね」


「……他領か、或いは他国か」



 言っている意味が分かったのか苦虫を噛み締めたような表情になったベイルは、何故このような形で報告をしたのかを理解したようだ。

 他領という候補が出てきたのは、他国だと断定出来る材料が無いからだろう。

 もしくはアルグラートを、というよりもヴァイルグ侯爵家を敵視している家があるのかもしれない。



「盗み聴いた会話から他国っぽいですけどね。他国の者じゃないと“この国から撤退”なんて言わないと思いますし」


「確かにな。報告は分かった。衛兵隊長が上に報告を上げると言っていたなら、やがてギルドの方にも連絡が来るだろう。それからにはなるが、今回の依頼の達成報酬に追加報酬を支払わせて貰う。一先ずは事前に決まっていた通りの討伐報酬だけ受け取ってくれ」


「有難うございます」



 ベイルが他の職員を呼んで持って来させた報酬を受け取る。

 中々の重さだが、これって変更後の討伐報酬の倍以上はないか?

 あ、口止め料か。なるほどね。



「……リリーラから依頼書の変更願いが来た時は何を言ってるんだと思ったが、流石は元とはいえAランクのガリアスに勝っただけはあるな」



 一人納得して報酬を懐に納めていると、何だか呆れが多分に混ざった視線を向けられた。

 まぁ、褒め言葉として受け取っておこう。



「ガリアスさんほどの強さの者はいませんでしたよ。平均的には中級下位ってところでしょうか。首領の強さは近いレベルでしたけど、まぁ、何とかなりました」


「……実質Aランクの盗賊とその一味百人を一人で倒して無傷な奴が言うセリフじゃないな」



 事実を言っただけなのに再び呆れられてしまった。

 その後、ベイルと少しだけ話をしてからお暇する事にした。

 リリーラに挨拶をしていこうと思ったが、忙しそうだったのでそのままギルドを出た。

 また明日会うだろうから別に構わないだろう。

 話していたら外は既に夕暮れ時。

 一般的には陽が沈むと同時に店が閉まるため、殆どの店はまだギリギリ開いている筈だ。

 せっかくなので、色々寄り道してから帰るとしよう。


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