第8話 三つの依頼
◆◇◆◇◆◇
領都アルグラートに着いた翌日。
一晩ぐっすり寝て2日分の疲れがすっかり取れたようで、改めて若い肉体の有り難みを身に染みて感じながら朝食後に宿を出た。
脳内の地図上に表示される時計によれば時刻は朝の十時前。
朝のピークも過ぎて人の流れが落ち着いたタイミングだったらしく、冒険者ギルドまでの道もギルドの周りにも人は少ない。
「自分で時間を選べるから気が楽だよな」
自由度が高い代わりに生命の危険があるけどね。
ギルドの扉を開けて中に入り冒険者受付カウンターへと向かう。
ピークを過ぎたからか開けている受付は3つだけで、それぞれに一人ずつ並んでいてどこに並ぶか一瞬悩んだが、ちょうど良く一つ空いたので其処に向かった。
「お待たせ致しました。当ギルドは初めてでしょうか?」
「ええ、昨日登録したばかりです。よく初めてだと分かりましたね」
「ふふふ。記憶力には自信がありますからね。それに、なんと言いますか雰囲気がありますので見かけたことがあったら覚えているはずですから。私はリリーラと言います。よろしくお願いしますね」
雰囲気とは一体なんだろう?
立ち振る舞いではなく、オーラ的なやつなら自分ではよく分からないから何とも言えないな。
「自分はリオンと言います。此方こそよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。それではリオンさん。本日はどのようなご用件でしょうか?」
柔らかい雰囲気の20代前半ぐらいの人族であるリリーラが、肩に流した三つ編みのキャラメルブロンドの髪を揺らしながら尋ねてきた。
「昨日ガリアスさんから、この都市の依頼の傾向を知るために初回の依頼は受付で斡旋されたものを受けるようにと言われたんですが、話は通っていますか?」
「ガリアスさんからですか? あ、はい! 通ってますよ。ということは、ガリアスさんに勝ってBランクからスタートする新人冒険者ってリオンさんだったんですね!」
「ええ、どうにか勝てましたからね」
目を輝かせているリリーラに苦笑しながら冒険者プレートを差し出すと、ハッとして咳払いをするとプレートを確認してから背後にある棚から三枚の依頼書を持ってきた。
「ガリアスさんから出来れば、初回は此れらの中から選んで受けて欲しいそうです。ただ、どうしても他の依頼が受けたいならば他の依頼でも構わないとのことです」
三枚の依頼書を受け取り確認してみる。
一枚目は、アルグラートの北に広がるリュベータ大森林に自生するヒルハ草の採取依頼。
二枚目は、アルグラートから南へ下る街道に出没する盗賊団のアジトの偵察依頼。
三枚目は、アルグラートの西にある領主所有の銀鉱山を住処にしている岩喰い蜥蜴の討伐依頼。
東西南北で俺がやってきた東部だけ選択肢にないが偶然だろうか?
いや、そういや東に竜が出たのはギルドも当然知ってるだろうから、依頼を制限しているのかもしれないな。
さて依頼だが、特に悩む必要はない。
「急ぎの依頼は盗賊団、銀鉱山、大森林の順ですか?」
「基本的にはそうなります。南部は交易路で人の往来が盛んなので急ぎです。銀鉱山は少し前から岩喰い蜥蜴の巣になっていまして、何度も領主様が討伐隊を送ってはいるのですが、数が多いのと上位種がいて中々解放に至っていません。前回の討伐から一ヵ月以上経っていますので、銀鉱山から溢れ出るほどに数を増やさないように間引きをするのが目的ですね。ヒルハ草はリュベータ大森林の浅い場所にはあまり生えていないため、元より採取に向かえる人が少なく、上位の
「なるほど。ヒルハ草はまだしも、盗賊団と岩喰い蜥蜴は他のBランクやAランク冒険者で解決出来なかったのですか?」
Bランク冒険者を主体とした複数のパーティーで挑めば盗賊団の壊滅くらい可能な気がするんだが。
Aランク冒険者のパーティーなら岩喰い蜥蜴とやらにも勝てるんじゃないかな?
そんな疑問にリリーラの柳眉が下がった。
「実は前回の討伐隊にAランクを始めとした一部の上級中級の冒険者も参加したんです。ですが、先程言いました上位種が数体どころか多数現れまして、その攻撃で先頭で戦っていたAランク冒険者の殆どが部位欠損レベルの負傷や治療が困難な状態異常で動けない状況です。盗賊団はその討伐隊が撤退した後ぐらいに現れまして、残った中級冒険者の中で討伐に向かってくれたパーティーがいたのですが……」
周りに言いふらしていい内容ではないため前のめりに小声で話してくれていたリリーラが首を横に振る。
どうやら中級冒険者のパーティーが負けるほどに件の盗賊団は強いらしい。
そして岩喰い蜥蜴の上位種は状態異常攻撃持ちで多数いる、と。
「……中々危機的状況ですね」
「大きな声では言えませんがそんな状況です。南に関してはこれ以上今の状況が続くようなら他の町から上級冒険者を招くことになると思いますけど、それにも情報が必要ですから」
「だから偵察依頼ですか」
「はい」
「分かりました。では、初めは盗賊団にしましょう」
「ありがとうございます! あれ? 初めは、ですか?」
「ええ。盗賊団を討伐し終わったら次はヒルハ草ですね。そして最後に岩喰い蜥蜴の殲滅に向かいます」
ヒルハ草以外はレベル的にもスキル的にも金銭的にも美味しい依頼だと思われる。
領主や先輩冒険者達が失敗した依頼を単独で成功すれば昇級にグッと近づくに違いない。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 何も全部受ける必要はないんですよ。それに盗賊団は討伐ではなくて偵察で、岩喰い蜥蜴は殲滅じゃなくて間引きですよ⁈」
小声のまま叫ぶという器用な真似をするリリーラの指摘をスルーして他にも聞きたいことがあるので聞いておこう。
「盗賊団の討伐証明ってどうやるんですか?」
「基本的には物的証拠が無いので討伐者による自己申告になりますね。討伐依頼の場合は討伐確認のために報酬の支払いには時間がかかる場合があります。生かしたまま連れてくれば犯罪奴隷として売却できますし証明にもなりますよ。って、そうじゃなくてですね」
「それなら大丈夫そうですね。では先ずは盗賊団の方を解決してくるので処理をお願いします。大丈夫ですよ。偵察して一人で無理そうだったら元の偵察のみをこなして帰還しますから」
「う、うーん。元Aランクのガリアスさんに勝ったから大丈夫そうに思えますけど、私の判断では変更出来ないので銀鉱山の方も含めて上司に聞いてきます。例え許可がでても、ちょっとでも無理だと思ったら偵察のみですからね」
心配そうに言い聞かせてくるリリーラを安心させるために、「勿論です。心配して下さってありがとうございます」と笑みを作って答える。
此方の言葉に薄く頬を染めたリリーラは、いつの間にか対応を終えて聞き耳を立てていた他の受付嬢達に声をかけてから上階に上がっていった。
リリーラが戻ってくるまでの間どうしようかと考えていると、手が空いた他の受付嬢達が話しかけてきた。
朝のピークが過ぎて暇なのだろうか?
誰もいないカウンター前にいると目立つでしょう、とリリーラの席に座って話しかけてきたハーフエルフのレノアもそうだが、受付嬢は皆美人揃いだ。
色んなタイプの美人がいるため、これは意図的なんだろうなと思われる。
これだけ美女がいれば結構な数の男性冒険者はアルグラートに留まる理由にしていそうだ。
業務上仕方ないとはいえ、野卑た視線や軽薄な誘いが多そうだな、と受付嬢達に同情してしまう。
まぁ、分かった上でこの仕事に就いてるんだろうし給与も高そうだけど。
やがてカウンターに戻ってきたリリーラがレノアを押し退けながら、変更が認められたことを告げた。
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