第7話 模擬戦からの宿泊



 グラウによる開始の合図と同時に地面を踏み鳴らし、ガリアスを拘束するために地面を隆起させる。

 隆起した地面が槍のような形に変化してガリアスに迫る。

 ガリアスは周囲の地面の変化に一瞬だけ目を見開いて驚くと、大剣の表面に魔力を纏わせて強化し、一撃で全ての土槍を砕いてから包囲網を突破して此方に向かってくる。

 不敵な笑みを浮かべるガリアスを迎え撃つべく、同じ様に長剣の表面に魔力を纏わせ強化する。

 振り抜かれる大剣の動きに長剣を合わせて受け止めたことにより鍔迫り合いになった。



「ほう。魔装刃が使えるとはな。試験に挑むだけはある」


「それほどでもありませんよ」


「うおっ⁈」



 周囲に瞬時に展開された二十もの『魔法の矢マジック・アロー』が一斉に放たれる。

 至近距離からの魔力で構成された矢の斉射に堪らず後退するガリアスを追撃する。

 大剣を振るい魔力の刃を飛ばしてきたので、此方も魔力の刃を飛ばして打ち消す。

 距離を詰めると、先程とは逆の形でガリアスが此方を向かい撃つが、今度は鍔迫り合いをするつもりはないので、絶え間無く木剣を振るい剣戟を交わし続ける。



「くっ。とんでもない新人が来たもんだ」


「いえいえ。精一杯背伸びしてるだけですよ」


「抜かせっ!」



 大剣を上手く使って此方の剣を必死に防ぐ様子を見ながら考える。

 レベル自体はガリアスの方が上だが、俺には取得している複数の最高位職業ジョブスキルと、ユニークスキルの一部能力によって常態的に能力値が増大されている。

 九つもレベル差があるが、実際の能力値は同じか、多少俺が上ぐらいだと思う。

 前の異世界のものではあるが、対人戦の経験は時間はまだしも密度に関しては俺が上だろう。

 問題なのは約三十年ものブランクがあるため、今の手札のままでやり過ぎないようにする自信がないこと。

 能力値も圧倒的に上というわけではないから、現状だと決め手に欠けている。

 初撃の土槍か『魔法の矢』で速攻で決めたかったが、そう簡単にはいかなかった。

 あまり手の内を見せたくはなかったが、時間もないし仕方ない。

 スキルと他の属性魔法も使うとしよう。

 偽装ステータスに表示されている分だけだから、手札を明かしても大した痛手じゃないしな。



「【身体強化ブースト】」



 強化系スキルによって身体能力が一時的に強化される。

 続けて魔力を纏わせていた木剣に重力魔法を重ねる。

 斬れ味ではなく、衝撃を与える際の一撃の重さを増すようにした創作オリジナル魔法だ。

 名前は、『重撃刃ヘヴィ・ブレイド』でいいだろう。

 これ以上の強化は木剣が耐えられそうにないので、これで決めなければいけない。


 速度も筋力も増した上に剣撃の重さまで増した攻撃にガリアスは捌き切れなくなっていく。

 有効打ではないが既に身体中に細かい攻撃を与えている。

 刃の無い木剣を軸にしているため魔装刃も刃が無い形になっているものの、衝撃波によってできた細かい傷からの出血は避けられない。

 果敢に攻める俺とは異なり、ガリアスは防戦一方なうえに一撃一撃が重くて上手く攻撃を流せないせいで、まともに衝撃を受け止めているからだ。



「【瞬間加速アクセラレーション】!」



 残り時間も少なくなってきたタイミングで、ガリアスが勝負を仕掛けて来た。

 事前の情報収集で確認していたステータスの中で唯一警戒していたスキルである【瞬間加速】だ。

 スキルを発動させたガリアスが突っ込んでくるのに合わせて土の槍を発生させると、その姿が掻き消えて一瞬で背後へと回り込んで来た。

 発動させる魔力の消耗は多いようだが、その速さは今の俺だと一瞬見失ってしまうほどだ。

 大剣を振りかぶっているのを気配で感じながら、俺は直感的に今がチャンスだと判断した。



「『高重力場グラヴィティ・フィールド』」


「なっ⁈」



 【重力魔法】の基本魔法である《高重力場》を発動し、背後の空間に重力場を発生させた。

 突然身体が重くなって、速くなった身体の動きが一気に鈍くなったことに一瞬の混乱が生まれる。

 その隙を逃すことなく、大剣を振り上げた体勢のガリアスの首筋に木剣を当てる。

 これで決まりチェックメイトだ。



「私の勝ちですよね?」


「……はぁ。ああ、俺の負けだよ。まさか負けてしまうとはな」



 重い息を吐きながら大剣を手放したガリアスが負けを認めたことにより、模擬戦の勝敗が決した。

 グラウによる模擬戦終了の声を聞きながら俺も剣を下ろす。

 こうして俺はBランクから冒険者を始めることが決まった。



[経験値が規定値に達しました]

[スキル【魔装刃】を習得しました]

[マジックスキル【岩土魔法】を習得しました]



 ◆◇◆◇◆◇



「あー、ベッド最高」



 宿泊している宿の一階で夕食を食べると、部屋に戻って貰ったお湯で身体の汚れを拭ってからベッドに倒れ込んだ。

 模擬戦が終わった後、冒険者ギルド所属を示す証明証である冒険者プレートが用意できるまでの間、体力回復薬ライフ・ポーションで細かい傷を治し終えたガリアスからおすすめの宿を聞いておいた。

 ある程度の金はあるから風呂に入れる宿はないかガリアスに聞いたところ、アルグラートには貴族や商人の中でも資金に余裕がある者しか連泊できないような最高級宿にしかないとのこと。

 登録したばかりの段階でそんなところに泊まるのは如何なものかと思ったので断ったら、代わりに教えてくれたのが、ここ〈白銀の月花亭〉だ。

 宿泊費は高めだが、治安の良い立地であり、飯も美味い上に量があり、泊まる部屋も綺麗と文句なしの宿だ、と説明を受けた。

 Bランクの稼ぎなら払えるそうなので宿泊場所を其処に決めると、ギルド証明証ライセンスであるプレートが完成するまでの間アルグラートについて色々話を聞いていた。



「Bランク、中級冒険者か。意外と少ないんだな?」



 【情報蒐集地図フリズスキャルヴ】でアルグラート内にいる上級と中級の冒険者を検索したところ、Bランクは全部で三十人ほどしかいなかった。

 個人的には少ないと思ったのだが、もしかしてこれは多かったりするのだろうか?

 あと、検索してステータスを見て分かったことだが、ランクには大体の目安となるレベルがあるようだ。

 他のランクも調べてみたところ、

 Fランク……レベル一桁。あるいはレベル十前後ぐらい。

 Eランク……レベル十台。

 Dランク……レベル二十台。

 Cランク……レベル三十台。

 Bランク……レベル四十台。

 Aランク……レベル五十~六十台?

 といった感じだった。

 勿論、あくまでも目安のレベルであり、これに当てはまらないレベルの冒険者もいた。

 元冒険者であるガリアスを除いてもAランクは市内に十人もおらず、情報不足で信憑性はないが、Aランクの大方の強さの目安が付けられたのは良かった。



「SランクとSSランクのレベル帯は幾つなんだろうか?」



 ガリアスに聞いたところ、アルグラートにはいないがアークディア帝国内にSランクは四人いるらしい。

 二人は帝都に、残る二人は帝国最大の迷宮都市にいるとのこと。

 SSランクともなると他国にでも行かないと逢えないようだ。

 Sランクに逢うには確率的に迷宮都市に行った方がいいのかな?



「まさか、小説や漫画に出てくるような冒険者になるとはな。まぁ、この世界では冒険者ギルドがある代わりに傭兵ギルドは無いし、前世のような会社勤めなんてしたくないから必然なんだが」



 前の異世界から帰還後、暫くしてから無聊を慰めるために読み始めた娯楽小説やら漫画やらの世界の主人公みたいな現状に苦笑する。

 若い肉体を得た影響なのか、精神も肉体に引き摺られて若返っているようで色々欲求が沸き起こっている。

 他人と比べて欲が表に出にくいほど理性の鎧と鎖は頑強だが、この身に【強欲】を宿すほどには強い欲望を持っていると自覚している。

 前世では物欲ぐらいしか満たしていなかったが、今世ではそれ以外も満たしてもいいかもな。



「知性と理性を忘れずに欲望を満たしていきたいね」



 色々やりたいことはあるけど今日のところは睡眠欲を優先しよう、と就寝前にベッドのシーツと枕の感触を堪能する。

 異世界生活初日は野営で気が休まらなかったから、気を抜いてゴロゴロしたくなるのは仕方のないことだった。



「明日は早速依頼を受けるかな。ああ、Bランクになったから何処かで戦利品を売るのもいいな」



 身に付けていた装備を一瞬で収納してから、明日の予定に頭を巡らせながら瞼を閉じた。


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