第2話 ニューライフ(人生)は咆哮から始まる
◆◇◆◇◆◇
転移した先には見渡す限りの美しい草原が広がっていた。
「おお! ここが新たな世界か。良い景色だなぁ」
『GUOOOOO‼︎』
「おお、鳥の声が……じゃないな。うん。いきなり竜かよ」
視線を斜め前に向けると一頭の紅黒い色の竜が空に向かってめっちゃ吼えていた。
足元には、身体の一部が陥没したり焦げたりしている深緑色の竜が倒れているので、おそらく勝利の雄叫びを上げているのだろう。喧しいことこの上ないが。
「最初から終盤ボスに
手に漆黒の神槍が具現化される。
神槍を片手に身体強化系スキル【戦神闘争】も発動させて後方に大きく引くと、油断しまくっている紅黒竜に向かって神槍を投擲した。
ゴウッと大気を裂く音が耳に届くと同時に、放たれた神槍が竜の首を消し飛ばした。
胴体に近い部分の首が消し飛んだことにより、断末魔の声を上げることもなく死んだ竜の身体が倒れる。
それと同時に神槍を顕現させるために消費し続けていた魔力供給を切ると、竜を貫通して飛んでいった神槍が消滅したのを感知した。
「知識通りかなりの殺傷力だな……まぁ、惜しむらくは俺は槍よりも剣が得意なことか。魔力も馬鹿みたいに喰うから必要でもない限り顕現させる理由がないな」
インストールされた知識によれば、この世界でも竜の死体は捨てるところが無いほどに丸ごと貴重な素材らしいので収納しておくことにする。
その中でも心臓は特殊な素材らしいので、他の素材共々ちゃんと有効活用しなければな。
すると、脳裏に文字が浮かんできた。
どうやら【
ゲーム染みた機能だが便利なのは間違いない。
[経験値が規定値に達しました]
[スキル【
[スキル【
[ジョブスキル【
[ユニークスキル【
[マジックスキル【火炎魔法】を獲得しました]
[マジックスキル【重力魔法】を獲得しました]
[スキル【弱肉強食】を獲得しました]
[スキル【威圧】を獲得しました]
[スキル【竜精活力】を獲得しました]
「ーーふむ。以前持っていた【強欲】のギフトが【強欲神皇】になっているみたいだな。【無限宝庫】なんて収納容量に制限の無いスキルも発現しているから、この世界では荷物の持ち運びに困ることは無さそうだ」
紅黒竜とその頭部、そして深緑竜の死体に手を向けると、専用異空間へ一瞬で収納された。
竜同士の争いで辺りに散らばっている血肉や鱗も回収したいと念じると、地面に染み込んだ血液も含めて認識しているそれら全てが収納された。
少し離れたところにもあるようだが、それらは念じても収納出来ないため、どうやら有効範囲外らしい。
遠目に見る限り端材のようなので、取りに行くのも面倒だから放っておいても構わないだろう。
そして、収納した物を確認しようとしたところ、脳裏に収納物一覧が表示された。
前の異世界でもギフトと呼ばれるスキルと似て非なる力はあったが、ここまでの性能の収納系ギフトはなかった。
収納系ギフトを持つ犯罪者から【強欲】で奪うまでは魔法で作った容量が小さい収納空間を使ってたっけ。
収納魔法を開発するまで背嚢引っ提げて戦ってたよな。それらを上回る力を持つスキルを使えるとはプローヴァには感謝だな。
「前世で収納魔法を組み立てた苦労を思うと複雑な性能とお手軽さだけど。ま、力に罪はないさ。うん」
ちょっとだけアンニュイな気持ちになりつつ背後に振り返る。
今いる草原の丘から見下ろすと、少し離れたところに左右に延びる街道が見える。インストールされた知識ではそれぞれが何処に繋がっているかは分からなかった。
インストールされているのはこの世界の一般常識と言語、前の異世界との差異、スキル化された能力の詳細、現時点での自分の力について、今いる場所が何という国なのか、国同士の大まかな位置関係ぐらいだ。だから町の位置などのより細かい地理の情報はなかった。
【
「ふむ。何の情報も無いし此処は運に任せるか。指し示せーー【
街道に立って発動した【
行き先を右に決めてゆったりと歩き出した。
◆◇◆◇◆◇
インストールされた知識の一般常識を確認しながら街道を歩くこと二時間ほど。
小腹が空いてきたと感じ始めた頃、今いるエリアの地図の端の方に人の集団を発見した。
「森の中か。しかも随分と森の奥に。……怪しいな。何となく金の匂いがする」
【直感】と【黄金運命】を信じて街道を外れ森へと入る。
我ながら熟練の森の狩人顔負けの動きで草木を鳴らさず揺らさずどんどん進んでいく。
[経験値が規定値に達しました]
[ジョブスキル【
目的地まで半分ほど進んだところで新たなスキルを習得した。
どうやら隠密能力を有する
今の状況にピッタリな能力だったので早速発動して誰からも認識されない隠密状態になった。
多少の音を立てても問題ない状態だが念のため引き続き忍び足で進む。
やがてたどり着いたのは岩肌にできた洞窟だった。洞窟の周囲は見通しが効くように拓かれており、洞窟の入り口では見張りらしき二人の男が周囲を警戒していた。
(身なりからして盗賊か? ちょっと鑑定してみるかな?)
【神焉槍顕現】や【情報蒐集地図】と同様にユニークスキル【
知識によればそのウィンドウは網膜投影のように自分自身しか見ることが出来ないのでバレる心配はないらしい。
とはいえ、今のままだと肉眼でしか情報を得ることができない。戦闘中でも反射的に視線を向けてしまいそうだ。
それが隙になることもありそうなので、有視界表示ではなく脳内表示へと設定を変更することにした。
(レベルは15と17。所属欄に〈盗賊団〉か。こんなところに拠点を構えてるしまず間違いないか)
地図上で洞窟の中を調べて見たところ数は45。
表示される簡易ステータス上の所属は全員が盗賊団だったため囚われている人はいないようだ。
知識によればこの世界の盗賊も討伐したらその盗賊の所有物は討伐者の物にしていいという慣習がある。
【直感】が働いた理由はおそらくこれだろう。結構溜め込んでいるのかな?
「人質もいないし、さっさと片付けるか」
見張りが縦一列に並ぶ位置に移動すると、見張りを挟んで反対側の草藪へと山なりに石を投げる。
ガサッという音に見張りの注意が向いた瞬間、隠密状態のまま目の前の草藪を飛び越え、二歩目で手前を、三歩目で奥の見張りの頸部へ手刀を軸に発生させた魔力の刃を振るった。
[ユニークスキル【強欲神皇】の【戦利品蒐集】が発動します]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[スキル【
盗賊の死体から長剣と短剣を二本ずつ拝借してから再度スキルを発動させて気配を消しながら洞窟を進むと、ちょうど曲がり角から二人の盗賊が談笑しながら歩いて来たところだった。見張りの交代だったんだろう。
インストールされている知識には言語知識もあるから何を言っているか理解できる。
此方に気付く前に短剣二本を頭部へ投擲して即死させると、短剣を引き抜き盗賊達の武器を回収してから更に歩を進める。
[ユニークスキル【強欲神皇】の【戦利品蒐集】が発動します]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
有効距離は短いが洞窟内全体をより詳細に確認できる【
どうやら昼間から酒盛りをしているようだ。まさか敵がすぐ近くまで来ているとは夢にも思うまい。
スキルを解除してから堂々と広間に足を踏み入れると、盗賊達がキョトンとした間抜けヅラを此方に向ける。
「やぁ諸君。君たちは盗賊で間違いないかな?」
「……誰だテメェは」
リーダーらしきヒゲ面大男が酔いの醒めた顔で睨み付けてくる。ここからだと見えないが、傍に置いている大剣の柄にそっと手を伸ばしているようだ。
「旅人だよ。で、君たちは盗賊かな?」
「おう。盗賊だが、だったらどうするよ」
俄かに殺気立つ盗賊達に笑みを浮かべる。ああ、人の殺気を受けるなんて久しぶりだな。まさに異世界って感じだ。
「そりゃ勿論、殲滅しようと思ってるよ」
地面をタンッと軽く踏み鳴らすと地面が隆起し瞬時に鉄の槍が生成され、リーダー以外の盗賊達の急所を正確に貫いた。
ポカンとする盗賊リーダーを放置して鉄の槍を解除すると40人の盗賊達全員が倒れ伏した。当然死亡である。
レベル差とスキルが強いのも相まって楽に倒せるから良いね。
[ユニークスキル【強欲神皇】の【戦利品蒐集】が発動します]
[ジョブスキル【
[スキル【罠解除】を獲得しました]
[スキル【
[マジックスキル【術理魔法】を獲得しました]
「なっ、えっ?」
「どうしたんだい。まさか勝てると思ったのかな?」
声をかけるとビクッと肩を振るわせ、此方が近付いていくと盗賊リーダーの顔色が段々と悪くなっていく。
「旅人としてこの辺りの情報を知りたくてね。ちょっと記憶を見させてもらうよ」
大人しくさせるために死なない程度の出力の重力場を発生させて地面に伏せさせると、盗賊リーダーの頭部に触れて【強欲神皇】の【
あ、せっかくだから情報ついでに力も根刮ぎ奪っておこう。
[ユニークスキル【強欲神皇】の【強奪権限】が発動します]
[ジョブスキル【
[スキル【
[スキル【集団統括】を獲得しました]
[スキル【鼓舞】を獲得しました]
[スキル【剛腕】を獲得しました]
[スキル【逃走】を獲得しました]
[スキル【
それから30分後。盗賊のアジトにあった金目の物や各種物資に武器の類いを全て回収した。
洞窟を出ると入り口の壁に触れて洞窟を構成する岩肌に干渉すると、他の盗賊達や魔物が再利用できないように天井と壁を崩して完全に埋めてしまう。
戦利品も盗賊リーダーから得られた情報も中々の物で実に有意義な狩りだった。
竜もいきなり遭遇したのは正直どうかと思ったが、今回得られた情報と合わせると非常に素晴らしい出逢いだったということが分かった。
「まさか倒した竜の住処が解るとはな。此処からそこまで遠くないみたいだし、早速行ってみるか!」
何か落ちてるといいなぁ、と上機嫌に呟きながら洞窟跡地から更に森の奥へと潜っていった。
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