黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵

第一章

第1話 ニューライフ(命)はモノクロームから始まる


『ようこそ。玄鐘理音クロガネリオン


「ーーえっ?」



 気付いた時には真っ黒な空間に立っていた。いや、正確には地面は真っ白だが、それ以外が全てが真っ黒な白と黒のみモノクロームな空間だ。

 そして目の前には直径1メートルぐらいの白い球体が浮かんでおり、その表面に文字が浮かび上がっている。



「……アンタは? というか俺は死んだ、んだよな?」


『ワタシの名はプローヴァと申します。此度のアナタの案内を任された者です。アナタは病気で亡くなりました。享年58歳です』


「……そんな58歳を呼び出してどうしたんだ」


『質問にお答えする前に訂正ですが、此方にお喚びした際に全盛期の頃の肉体を与えておりますので爺さんではありませんよ』



 そう言うと文字が表示されていた球体の表面が鏡面へと変わり、角度も調整して姿見の役割をしてくれた。

 黒髪に濃紫色の瞳、中の上、上の下ぐらいには整った精悍な顔立ちをしている。

 そこには二十代ぐらいの頃の姿の自分がいた。



「……確かに若いな。魔王討伐に喚ばれた時ぐらいのな」


『正解です』



 約30年前に俺は召喚先の世界の人類を滅ぼそうとしていた魔王を倒すために同意した上で異世界召喚された。

 本来なら魔王だけで良かったが魔王を倒しても暫くしたら再び別の魔王が現れることから黒幕がいると考えた。

 そして調べた結果、その世界の一部で崇められていた女神が元凶であることが分かった。

 理由はマッチポンプによる信仰力の獲得によって自らの力を高めるためらしい。

 そんな邪神をどうにか討伐してから召喚時の契約通りに元の世界へと送還された。



「懐かしい話だ。で、また魔王討伐のために喚んだのか?」


『いいえ、違います』



 魔王討伐経験者に全盛期の肉体を与えた上で喚びだしたから、てっきりまた討伐かと思ったんだが違うのか。



「では何故?」


『先程の質問とあわせてお答えします。ワタシはアナタに新たな人生を提案するためにお喚びしました。行き先はタイミングの都合上、前とは別の異世界です。魔王討伐などの使命もありません。自由にお過ごしください』


「……何故そんな提案を?」


『本来の魔王討伐だけでなく我らの不始ま、こほん。……邪神討伐まで果たして貰ったのに報酬が魔王討伐分だけというのはどうかと思いましたので、送還後にアナタが異世界に焦がれるようなことがあれば、亡くなった後に此処にお喚びするようになっておりました』


「なるほどね」



 邪神のことを我らの不始末って言いかけたことはスルーしておこう。咳払いまで文字とは妙に人間臭いが、それもスルーだな。

 この球体自体がプローヴァの本体なのか、プローヴァなる神のような人外の存在が自らの意志を伝えるための中継機なのか、どっちなんだろうな。



「確かに恋しくなったよ。刺激が足りないというかズレのようなモノを常に感じていてね。目が肥えたのもあるんだろうけど、おかげで結局死ぬまで所帯を持つ気にはなれなかった」


『でしたら新しい人生を承諾しますか?』


「拒否した場合はどうなるんだ?」


『輪廻の輪に送られ地球にて記憶を消された状態で転生します』


「異世界に行くとも、当然な」


『了承しました。此処から異世界に渡るにあたり全盛期の肉体に加えて、邪神討伐時の力を出来る限り復元します。申し訳ありませんが、当時所有していたアイテム類に関しては規定により与えることができません。ご了承ください』


「規定なら仕方ない。能力が復元されるなら構わないよ」


『ご快諾ありがとうございます。なお、転移先の異世界はスキルがある世界になっております。つきましては、邪神討伐の報酬の一環としまして復元した能力や経験を現地スキルへと変換・適応させます。そのまま処理しますと膨大な数のスキルになりますが、許可をいただければ此方の判断で一部のスキルを統合し進化させることが可能です。如何なさいますか?』



 ふむ。数が膨大だと全てを把握できるか分からないな。

 前の異世界と同じ仕様なら問題ないが、仕様が違うなら下手したら命取りになるかもしれない。

 それに、進化というからには以前より強化されるということだろう。なら身の安全にも繋がるよな。



「前より強くなれるならやってくれ」


『かしこまりました。それでは処理を行います。少々お待ちください。…………完了しました。能力の詳細につきましては、肉体にインストールしてある転移先の情報と共に転移後に有効化されますので後ほどご確認ください』


「分かった。あ、そういえば文明を発展させちゃいけないみたいな禁止事項とかあるのか?」



 自由に過ごしていいとは言ってもどこまで自由にしていいのかが分からないからな。



『特にありません。強いて言うならば星を真っ二つにしたりといったような直接的に世界を滅ぼすことでしょうか』


「間接的にならいいのか?」


『間接的ならば現地人が関わっておりますので滅んでも自分達の選択と行動の結果ですので構いません』


「なるほどね。まぁ、直接的にも間接的にも滅ぼすつもりはないけど。とりあえず本当に制限無しってことが分かったよ」


『ご納得いただけたようで良かったです。それでは転移を行なっても構いませんか?』


「ああ、色々ありがとうな、プローヴァさん」


『どういたしまして。それでは玄鐘理音、良い人生を』



 その言葉が表示されると自分の身体が輝き、真っ黒な空間から景色が切り替わった。

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