第3話 街道にて
◆◇◆◇◆◇
「うわぁ……何か予想した以上にあるな」
場所は俺が討伐した竜の住処である山の中腹にある洞穴。
上にも前にも大きな穴が空いており出入りはしやすそうな住処だ。
そんな住処の奥には光り物が沢山あった。一般的な金銀財宝が殆どだが、魔剣などの
「勝利の雄叫び挙げて油断しているところに速攻で大技使ったから簡単に勝ったけど……もしかしてかなり強い竜だったんだろうか?」
まぁ、レベル1だったのが一気にレベル51まで上がるくらいだから強いのは分かりきっていたんだけど、具体的な強さが分からなかった。
竜の死体を取り出して【
しかし、レベル80ってこの世界でどれくらいの希少さなんだろうか。
「ま、不意打ちに近いとはいえ勝ったのは事実だから別にいいか。さっさと回収しよう」
手を翳して視界に入る財宝全てを【無限宝庫】へと収納した。詳しく検分するのは落ち着いてからでいいだろう。
他にも住処の至る所に落ちている竜の牙やら爪やら鱗やらを一つ残らず収納してから山を降り、森を抜けて再び街道へと出た。
空を見上げると、街道を離れる時には陽が真上手前だったのがもう随分と傾いていた。あと一、二時間もすれば日が暮れ始めるだろう。
「こりゃ今日は野宿かな」
気持ち歩くペースを上げるが未だ町らしき影は見えない。
まぁ、どれくらいで着くかを知らないので予想をつけられるわけがないんだが。
「街道なのに人も通らないし、もしや森と山に行ってる間に入れ違ったか? いっそのこと走るか飛んで行くか?」
悩みながらも歩みを止めずに進んでいると、脳内に表示していた地図上に反応があった。
集団なのは盗賊の時と同じだが、今度は森の中ではなく街道の先の方からかなりの速さで此方に向かって来ている。
手に入れたばかりの【
向かって来ている集団は統一された装備を身につけ、全員が馬に騎乗していた。
魔術師らしき者もいるが、殆どの者は金属製の鎧姿で装備には紋章が施されているので、おそらくどこかの貴族に仕える騎士なのだろう。
転移先だからか、この国に関する情報は他の国よりもそれなりにインストールされていたけど、どの貴族がどこの領地を治めているのかの知識はなかった。
【万物鑑定】を使ったところ〈ヴァイルグ侯爵家騎士団〉という所属情報が表示された。
鎧に施されたあの家紋がヴァイルグ侯爵家のものなんだろう。他にも鎧の質とか使われた素材は何か、という情報も出てきた。
「ふむ。隠れてやり過ごすより情報を集めるべきか。こっちから呼び止めるのは無礼だろうし、話しかけられたら聞いてみよう」
騎士に見られるにあたり装備は問題ないはず。
元々この世界に送られた時の格好は旅人風の服装だし、盗賊のアジトで見つけた背嚢に旅人らしい物資を同様にアジト内で見つけた物を入れている。
武器も盗賊達が使っていた長剣と短剣を身につけているし、特に変なところはないだろう。
「一応軽く服を汚しておくか。旅をしてきたにしては新品過ぎると怪しいからな。問題なのはステータスだよな」
前の世界には他人のギフトやアイテムを調べる鑑定系ギフトがあったし、今の俺も【情報賢能】という鑑定もできるスキルを持っている。
だからあの集団の中に鑑定系スキルを持っているのがいたらステータスを見られて面倒なことになる。
「知識によればユニークスキルはかなりレアみたいだからな」
最低でも【
「ステータスを見られないことを祈ろう」
視線を遮っていた木々を抜けて互いに目視できる距離まで近付いた。まだ距離があるが馬ならすぐに近くまで来るだろう。
騎士のリーダーらしき者が全体に指示を出している。元々耳が良いのに加えて種族進化とレベルアップによって格段に上がった聴力が騎士の声を拾っていた。どうやら俺に聞きたいことがあるらしい。
百メートルを切ったタイミングで街道を横に外れて騎士達が通り過ぎるのを待つフリをする。
さぁ、演技の時間だ。
「全隊止まれ!」
隊長らしき騎士の掛け声に集団が統制が取れた動きで立ち止まった。
その中から一騎だけ前に出てくると、馬上から此方を見下ろせる位置で止まった。
あーキンチョウする。取り敢えず一般常識通りに頭を垂れておこう。
「旅の者か?」
「はい、騎士様。この先の町に向かっている最中です」
「そうか。我らはこの先の都市アルグラートの領主ヴァイルグ侯爵家に仕える騎士である」
えーと、都市アルグラートは、あったあった。これも一般常識の範囲なのか疑問だがインストールされた知識にあったぞ。
「もしやと思いましたがヴァイルグ家の騎士様でしたか。その騎士様が私に何かご用でしょうか?」
「うむ。少し訊ねたいことがあってな。ああ、頭は上げて構わないぞ」
「感謝致します」
許可を得たので頭を上げる。まぁ、実際のところ頭を下げなくてもいいみたいだけど、下げても構わないなら最初ぐらいは下げて反応を見ておくべきだろう。
あー、首と背中が痛……くはなかったな。やっぱジジイの身体とは違って若い身体は良いな。
「実は今朝方アルグラートから東の方角の空に竜が二頭飛んでいるのが確認されてな。我らはその二頭の竜の動向を探る偵察隊なのだ。メルソードの方角から歩いて来たようだが何か知らぬか?」
「ああ、あの竜でしたか」
あいつら数時間も戦ってたのか。傍迷惑な。おかげで人に会えてこの先の町、もとい都市の名前がアルグラートだと知れたよ。
「む。知っているのか」
「はい。ちょうど昼前の時間帯にあの山の方角へと飛び去っていくのが見えましたよ。二頭で激しく争っていたようでして、その影響なのか今日は一度も魔物を見ていません」
「山の方角に去ったのは二頭ともか?」
「はい」
「そうか。頭に入れておこう。情報感謝する」
「お役に立てたならば幸いです」
「我らも此処に来るまで魔物を見ておらんが、森には夜のみ活動する魔物もいる。腕に覚えはあるようだが野営の際には気をつけよ」
「はい。ありがとうございます。騎士様もお気をつけて」
「うむ。ではな」
それから部隊に声を掛けてから騎士達は去っていった。姿が見えなくなるまで見送ると大きく息を吐いた。
「ふぅー。なんとかなったな。今朝方竜を見て、それから上層部で話し合いからの偵察命令が部隊に下って、その準備をして出発したとして昼過ぎ夕暮れ前にこの位置か。うーん、徒歩だと明日の昼には着くぐらいの距離かな」
やはり野営は確実か。
まぁ、都市までの距離が分かったから距離が分からない場合とは同じ野営でも気分が違う。
この世界では初の野営を楽しむ余裕が更にできた。
「それに、この世界の騎士の水準が知れたしな」
頭を下げている間も、話している間も【並列思考】と【
おかげで公開ステータスの判断材料が一気に増えた。
「部隊に鑑定系スキル持ちがいなかったのはラッキーだったな。いろいろと情報が得られたし実に有意義な邂逅だった。さて、明日中にはアルグラートに着きたいし、日が昇っているうちに少しでも距離を稼いでおくか」
アルグラートの方角へと踵を返し、止まっていた歩みを再開させた。
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