第16話

王弟ブラッドリーによって、次々と断罪されていく彼等を横目に、私は自分の出番が来るまで聞き役に徹した。


信頼と言う名の上に胡坐をかき裏切られ、気の毒なほど打ちのめされている国王ダリウス。

純粋で可愛いだけだと思っていた妹が、実は無知蒙昧だった事を初めて知った、宰相アルフ・サットン。

周り全てが自分の味方だと、高をくくっていた、馬鹿なカレン・サットン。


本当に、喜劇にすらなり得ない、くだらない話だわ。

でも、彼等が起こした事はくだらないでは片付けられないのが事実。


「此処に居る者達の処分は追って伝える。それまでは、使用人、サットン兄妹は牢に収監。兄上は暫くは自室で軟禁とします」

ブラッドリーが締めくくろうとしたので、慌てて私は手を挙げた。

「王弟殿下、私からもよいですか?」

「あぁ・・すみません。ベアトリス殿下からは重要な発表がありましたね」

忘れられちゃ困るわ!私にとって一番重要なのが、離縁成立の件なのだから。


「ダリウス陛下、こちらを」

そう言うとアイザックが陛下の元へ離縁成立の用紙を渡した。

「こ・・・れは・・・」

「私もこの半年間、何もしていない訳ではありませんのよ?神殿に通いつつ、平民街を視察させて頂いてましたの」

「平民街を?」

「えぇ。皆様にはとても親切にしていただきましたわ。親切に、そして仲良くさせて頂いたからこそ、この様な判断をさせて頂きました」

そう、元々は此処までやるつもりは本当に無かった。

いくら嫁いだとはいえ、仮初の結婚の様なものだったし、半年後無事に離縁できればいい、としか考えていなかったもの。

でもね、自国ではそれほど身分上下が無かったから・・・・いや、無かったのではなく、互いの立場をよく理解し上手く付き合っていたのよ。

だけど、ここでは本当に力ある者が弱い者を虐げている。意味が分からなかった。

話をしてみれば、そんな状況の中でも一生懸命生きようとしている、したたかで優しい人達。

一度触れ合ってしまえば、放っておく事なんてできないのよ。


「婚姻に関しては、ダリウス陛下の希望だとお聞きしました。もし、私に好意を持っていただいての求婚であるならば、もっと違うやり方があったのではないでしょうか。定期的に互いの国を訪問しあったり、互いに歩み寄り、もっともっと互いに知り合うべきだったのだと思います」

「・・・・そう、ですね・・・私は正直な所、初めから諦めていたのです。互いに王となる身でもあり・・・貴女はとても美しい。私の様な平凡な容姿の男になど、興味すら向けてもらえないと思っていたのですから」

「・・・・確かに容姿は、相手を知る時に一番初めに得る事が出来る情報かもしれません。しかし、どんなに容姿が良くても最終的には相性だと思うのです。性格の良し悪しは、案外身体から滲み出るものですしね。ですから、陛下の第一印象はとても穏やかで温かい方だと思いました」

―――ちゃんと彼が自ら行動を起こし出会っていれば、恐らくは・・・・

「だからこそ本当に、残念だと思いました」


「―――・・・そう、ですね・・・」

彼はそう言ったきり、静かに目を閉じた。


自業自得とはいえ、悔しいだろうなと思う。自分の恋心を利用され、それを踏み躙られただけではなく、結果的に全てを失ってしまったのだから。

そう考えたら、何だか腹立たしくなってくる。

全てはブラッドリー殿下に任せてたけど、私も一言、言いたくなってきたわ。

アルフにもムカつくけど、特にカレン!全然この状況を分かってない。

あれだけ責められて、一時は青白い顔色してたのに、のど元過ぎれば何とかってやつ?我関せずって顔している。

これもアルフの教育の賜物かしらね。


「サットン伯爵令嬢、貴女も病弱という事で周りの気を惹くのではなく、知識、教養を身に付け貴族としての務めを果たしていれば、ダリウス陛下の婚約者候補くらいにはなれていたかもしれませんのに・・・・怠け癖がその身に染み付いてしまっている今では、到底無理な話ですけれどもね」

嫌味の一つや二つ言っても、罰は当たらないと思うわ。

「王家を謀ったという罪で、これからが大変だと思いますが、精々頑張ってくださいませ」

私の嫌味が通じたのか、醜く顔を歪め立ち上がろうとしたその時、扉が開きミラと騎士達が戻ってきた。


「ご報告いたします。カレン・サットンの部屋からは、ベアトリス殿下の所持するドレスや宝飾品が数点見つかりました。ミラ殿に確認頂いた所、指輪が一点、ピアスが一点が行方不明との事。現在、侍女達の部屋を捜索させています」

「そうか、ご苦労だった。必要ならば侍女共の尋問を許可する。皆を連れて行け」

アイザックが指示を出すと、一斉に騎士達が動き次々と拘束していく。

皆が大人しく連れて行かれる中、カレンだけが大騒ぎしていた。

「なにするのよっ!私は悪くないわ!悪いのはあの女よ!王女だからって無理矢理押しかけてきて・・・私がダリウス陛下の妻になる筈だったのにっ!」

「やめろ!カレン!・・・・もう、止めてくれ・・・」

兄の悲痛な叫びに何も感じていないのか、カレンは今度は助けを求めた。

「お兄様、助けて!私は何も悪くないわ!全部あの女が悪いのよ!あの女さえこの国に来なければ・・・・ダリウス陛下は、私のモノなのにっ!」


―――パァン・・・


皆が驚き目を見開いた。

アルフがカレンの頬を叩いたのだから。

叩かれたカレンの方が、私達よりも信じられないという顔をしていた。

「・・・・お、兄さ、ま?」

アルフは静かに涙を流し、ただ一言。


「すまない・・・カレン・・・」


その言葉にどれほどの意味が込められているのか・・・誰にも分からない。

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