第12話
「私の部屋から、色々な物が無くなっているようなのです」
「え?・・・・まさか・・・」
ダリウス国王が侍従長を見た。
「侍従長が指示しているのか総侍女長が指示しているのか・・・はたまた、誰か他の人間なのかは、分かりませんが」
チラリと彼等を見れば、益々顔色を失っている。
そして、後ろに控えている侍女たちの中であからさまに青い顔をしガタガタ震えている者が数人。
「盗まれた物の中にはクレーテ帝国から頂いた物や、デルーカ帝国から頂いた物もあるのです。其々とても貴重な物ですわ」
そう言って、にっこり笑えば数人の侍女たちがよろめき膝をついた。
ダリウス国王どころかアルフまでも顔を強張らせる。
そんな彼等の事など無視して、カレンにひたりと視線を向けた。
「あら、サットン伯爵令嬢が今身に着けているドレス、クレーテ帝国皇帝陛下から私が頂いたドレスにとても似ていますわね」
何を言われているのか分からないという表情で、カレンは私を睨み返した。
「失礼な事を言わないでくれます?このドレスは私に似合うからと、頂いた物ですわ」
「まぁ、ちなみにどなたから頂いたのかしら?」
「それは・・・とある方から・・としか」
「あらあら・・・誰とも分からない方からの贈り物を、何の疑いもなく受け取られ身に着けたのですか?その方を随分と信頼されているのですね」
「当然です!いつも私の身の回りの事をしてくれているんだもの!」
「まぁまぁ、身の回りという事は、侍女から贈られたと」
「いいえ!侍女がその方から受け取り渡してくれたのよ!」
「なるほど。その侍女からは送り主の名前も聞いていないのですか?」
「別に聞かなくても、彼女等が信頼できる人って言っていたんだから良い人なのよ!」
・・・・呆れた・・・・・
この一言に尽きる。もう、何を言っても無駄なようだから、ミラに視線を向けた。
ミラは頭を下げ、カレンの側へと立った。
「サットン伯爵令嬢、そのドレスが誰の物なのかはっきりさせたいので、袖口の釦を確認させて頂きますわ」
ミラが手を伸ばそうとするとカレンは勢いよくその手を払った。
「無礼者!たかだか侍女の分際で私に触れるとは!身の程を弁えなさい!」
―――ぶちっ・・・と、私の中で何かが切れた。
ミラやアイザックに関する事となると、私の沸点は途端に低くなる。
いきり立つアイザックを手で制し、立ち上がりカレンを見下ろした。
「身の程を弁えるのは貴方です、サットン伯爵令嬢」
静かな怒りを湛えた声は、さほど大きな声ではないのに良く響き渡った。
「彼女ミラは、少なくとも貴女よりは身分は上です」
「なっ!王女の侍女をしているからって!」
「ミラの実家はデルーカ帝国カノープス公爵家ですわ。そして此処に居る私の護衛アイザックもまたカノープス公爵家の子息」
カレンの言葉を遮る様にクルス兄妹の正体をばらせば、此処に居る皆の顔色が青色から白色に近くなった。
クレーテ帝国とデルーカ帝国が親しい様に、母がシュルファ国へと嫁いできた時点で我が国も両帝国の庇護下に入ったようなものなのだ。
そしてよく両帝国には訪問させてもらっていて、幼い時にデルーカ帝国を訪れた際にカノープス公爵と知り合いクルス兄妹と近しくなった。
アイザックやミラとは家族の様に仲良くさせてもらったのだが、まさか私に仕えたいと帝国を出てくるとは思わなかったのが正直な所。
アイザックは次男だったからそれが許されたのだろうけど、ミラも一緒で良かったのか・・・今でも考える時がある。
あのまま帝国に留まっていれば、もしかしたら何処かの国の王太子や王子と結婚できていたかもしれないのに。
余談だが、デルーカ帝国は家名に面白い風習がある。
デルーカ帝国での家名はちょっと特殊で、名前・母親(妻)の家名・嫁ぎ先の家名の順番となる。
アイザックの場合、名前=アイザック、母の家名=クルス、父の家名=カノープスと言うわけ。
ミラも同じだけれど、もしミラがどこかの貴族にお嫁に行った場合、ミラ・カノープス・嫁ぎ先家名となるのだ。
遠い昔は何代もの家名をつらつらと並べ立て、収拾がつかなくなり今の状態に落ち着いたのだと言う。
私の国にいる時にはカノープスは名乗らず、母親の家名で通していた。カノープスと言う名は、デルーカ帝国だけではなく世界的にも有名で、昔の戦争で敵味方関係なく人々を救った事で未だに英雄扱いされているので、自由に動き回るのには目立ちすぎるのだ。
武に長けた家柄で、アイザックはもとよりミラも中々の腕前だ。
それほどまでに有名な貴族だが、病弱を売りにしまともな教育から逃げていたカレンには、カノープス公爵家すら知らないようだ。
そして、自分が犯した失態に気付いていないのかキョトンとしている。
慌てる兄であるアルフを横目に、ミラはカレンのドレスの袖口の釦を確認する。今度はカレンも大人しくしている。
いくら教養がなくとも貴族の階級位は知っているようだ。
ミラは袖口の釦の表と裏を確認し、ゆっくりと顔を上げた。
「表にはシュルファ国の紋章
その声は、静かにそしてしっかりと、皆の耳に届いたのだった。
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