第11話
食堂に入ると、最後に入室した私達に、皆の視線が一斉に集まった。
そして、ざわざわとしていた室内が一瞬で水を打ったかのように静まりかえる。
当然よね。この国に来てから地味な服しか着ていない私しか、皆は見たことなかったものね。
ミラが気合を入れて着飾らせてくれた私は、恐らく傾国並みに美しい・・・はずだ。
アイザックもシュルファ国王女近衛騎士としての正装をしていた。
白の軍服に銀色の肩章、そして銀糸の飾り紐。襟や袖口、裾には銀と赤の刺繍が施され、釦は全て紅玉。その所為か、いつも以上にキラキラしてるし。
男性陣は放心した様に開いた口が塞がらず、女性陣の目が怖い位見開かれアイザックを凝視している。
―――何故かミラだけはシュルファ国の侍女服だけれどね。
決して狭くはない部屋なのだが、狭く感じるほどの人がいる。勿論、私が招待した。
立ち並ぶ人達の顔を確認。
役者がそろったわね・・・
思わず口元に笑みが浮かぶ。そして最初のカードを切った。
「本日は急なご招待に応じて頂き、ありがとうございます」
にっこり優雅に微笑みながら、約半年ぶりで顔もほぼ忘れかけていたアルンゼン国王でもあるダリウス・アルンゼンに顔を向けた。
すると国王は勿論、私を目の敵にしていたアルフ・サットンまで頬を染めている。
男共の反応に、反対に悔しそうな顔をする、カレン・サットン。
それが愉快で、彼女の顔を見てフッと微笑んでやった。
そんな挑発に容易く乗ってきたカレンは、正に悪鬼の様な表情を浮かべた。
そして、なんというタイミングが悪いのか・・・いや、タイミングが良かったのかもしれない。
アルンゼン国王がたまたまカレンの方へと顔を向けた瞬間に、その表情を見せたのだから。
小さく「うわっ」と、驚いたように声を上げのけぞる国王に、急いで表情を取り繕うカレン。
顔色を失くし怯えたように震えるが、弱々しいふりしても今更遅いっての。それが本性なんだから。
驚いていたのは国王だけではなく、兄であるアルフもだったけれど。今まで見たことが無かったんでしょうね。
あんな、醜い妹の顔を。まぁ、これも余興の様なものだけれど。
此処に招待したのは、私の身の回りの世話役だった者の代表者達と実際に世話役だった侍女達、そしてカレンの侍女達だ。
国王は勿論の事、侍従長に総侍女長、侍女頭、宰相でもあるアルフ・サットンに妹のカレン。
このメンツは席に着かせた。彼等の後ろに私やカレンの世話役の侍女達が並ぶ。
席に着いた面々は不安そうに互いに顔を見合わせている。
当然よね。仮にも使用人の分際で国王夫妻と同じテーブルに着くなんて考えられない事。特に選民意識の強いこの国では。
ましてや私に対し後ろ暗いところがあるのだから、気が気ではないでしょうね。
そんな奴らの事など無視し、断罪される彼等とは別に此度の事には一切関与していない者達に食事の指示を出した。
彼等は全て打ち合わせ通りに動いてくれる。
指揮を執るのは、間者として潜入していたアイザックの部下達。
この城の料理人はほぼ下級貴族と平民で占められており、料理長のみが伯爵家出身なのだ。
だが料理を作ることもなく偉そうに指示するばかり。本当に腕の良い料理人は泣き寝入りするしか出来ない状況だった。
料理人だけに限らない。この城内だけでなく、この国全てで同じ事が起きているのだから、なんとも腹立たしい。
私がこの国に来て一番最初に口にした、あのクソ不味い料理も総侍女長の命令でもあり料理長の命令でもあった。
だから今度は私が彼等にお願いしたのよ。あの料理を此処に居る皆にお出しするようにと。
これは貴方たちの環境と立場を変える為の第一歩なのだと説得したら、協力してくれたわ。
因みに料理長も、この場に並んでいるわよ。
席に着いている者達へと運ばれてくる、あの料理。
「さぁ、まずはお食べください」
総侍女長と侍女頭はそれが何かわかったのか、固まっている。
国王とアルフ・サットンは警戒しながらもそれを少し口に入れた瞬間思いっきり咳込んだ。
カレンに至っては警戒すらせず思いっきり口に入れ、涙を流しながら水を一気飲みしている。
「一体これは何なんですか!我々を殺す気ですか!?」
当然の事ながら、アルフが食ってかかってきた。
「あら、異な事を仰る。この料理は私がこの国に来て初日の夕食に出された物ですわ。あまりに辛くて総侍女長に聞いたら、『贅沢は言うな』と言われましたの」
口元をナプキンで押さえながら国王は総侍女長を見た。
「代わりの物を用意するようにと言ったら、次はこれが出てきましたのよ」
彼等の前に置かれる、お湯の様な薄いスープに生野菜が浮かんだ、見るからに不味そうな物。
「私の時はただのお湯に生野菜でしたが、皆様には限りなくお湯に近いスープにしてみましたわ。ちなみにこれを指示したのは侍女頭ですわ」
次々暴露されていく事態に、侍従長までが顔色を悪くする。
名指しされた当人二人は既に屍の様な状態だ。
「これがこの国の味付けなのですよね?私はとてもではありませんが受け付けなかったので、料理人にお願いしてシュルファ国の味付けでお願いしましたのよ」
当然、料理長が茶々を入れてきたが、私に従うのが彼等の役目。不満ありありの顔で頷いていたわね。
全くどんな教育を受ければこんな貴族が育つんだか。
呆然とする彼等に対し、こんな事で音を上げられては困るから、すぐさま次のカードを切った。
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