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 その夜、健三は七恵と大樹を連れて外食をした。大樹が立ち直ってくれたので、これから気持ちを切り替えてあさっての始業式に臨んでほしい。今日の外食で元気になってほしい。


 今夜はステーキハウスでステーキだ。3人ともハラミステーキにスープ、ごはん、サラダ食べ放題のセットを頼んだ。


 まだステーキは来ない。七恵と大樹はサラダバーで好きなサラダを取りに行っている。サラダバーには七恵や大樹の他にも何人かの人がいて、サラダを取っている。


 健三が隣のテーブル席に目をやると、1人の男がいる。その男はどこか舞子に似ている。ひょっとして、舞子の父だろうか?


「あれっ!? 畑中舞子さんのお父さんですか?」

「はい。って、どちら様ですか?」


 やはりそうだ。隆は驚いた。舞子の会社の上司だろうか? だったら、まさかここで会うとは。


「わたくし、畑中舞子さんの上司の本村健三と言います。よろしくお願いします。今日はありがとうございます。おかげでうちの息子が気を取り戻したんですよ」

「えっ!?」


 ありがとうございますって。舞子が何かいい事をしたんだろうか? 入ってそうそう、舞子はすごいな。


「うちの息子、引きこもりだったんだけど、畑中さんのおかげで直ったんですよ」


 仕事の事じゃなくて、家族の事で舞子がいい事をしたんだ。舞子は子供の頃から悩んでいる子がいると相談に乗る優しい女だ。教員になりたいと思ったのもそれがきっかけだ。


「お待たせしました。ハラミステーキ200g2枚と、150g1枚です」


 店員が鉄板に盛られたステーキを持ってきた。ステーキは縦に切られていない。これから自分でナイフで切る。


「あんたとこの娘さん、教員目指してたんだって?」

「うん、そうだけど。どうしたの?」

「そうなんですか。実はですね、舞子は昔、教員を目指してまして」


 実は健三も教員を目指していたそうだ。だが、自分には教える力がないと感じ、諦めて土木事務所に就職した。教員の夢はもう諦めている。


「そうなんですか?」

「いえいえ、もう夢は諦めろと言ったんですけどね」


 隆は苦笑いをした。まだ夢を持っているとは。もう諦めろと言ったのに。夢を忘れられない奴だな。


 程なくして、七恵と大樹が帰ってきた。2人は楽しそうだ。昨日の2人とはまるで別人だ。笑顔が絶えない。あれもこれも、舞子のおかげだ。これからもっと多くの事を教えて、1人前の社員にしていかないと。




 休日明けの出勤日、すっかり疲れを取った舞子は会社にやって来た。今週もまた頑張ろう。平日の仕事があるから週末の休みがある。


 舞子はオフィスのある階にやって来た。すでに何人かの人が仕事をしている。キーボードの音が聞こえる。オフィスはとても静かだ。


「舞子ちゃん、あんた、お父さんから聞いたんだけど、教員を目指してたんだって?」


 誰かに気付き、舞子は振り向いた。健三だ。一体どうして話しかけたんだろう。どうして教員を目指していたことを知っているんだろうか?


「そ、そうですけど」


 舞子は戸惑っている。もう諦めてここで仕事をしたいのに。


「へぇ、実は俺も目指してたんだ」

「そうなんですか?」


 舞子は驚いた。まさか、健三も目指していたとは。そして、健三もその夢をあきらめていたとは。


「ああ。でも、自分には教える力がないと思って諦めたんだ」


 健三は下を向いた。今でも夢を諦めた時の事を考えると、とても落ち込んでしまう。


「そうなんだ。私はネットに依存してしまい、落第したんだ。で、教員になれなかったんだ。でも、あきらめきれないんだ」


 舞子も夢を諦めた時の事を思い出した。教授に諦めろと言われて涙ながらに諦めた。何人かの人は採用されて喜んでいた。それを舞子はうらやましそうに見ていた。


「夢がかなわないの、辛いよね」


 健三は落ち込む舞子の肩を叩いた。昨日はあんなに頑張ってくれたのに。今日も頑張れよ。


「でも・・・、もう就職したんだから」


 でも舞子の決意は固い。家計を支えるために、就職しなければならない。もう諦めなければならない。


「また頑張ってみろよ!」

「そ、そうね。また挑戦したいね」


 舞子は戸惑いながらも、余裕ができたらまた頑張ってみようかなと思った。それはいつになるんだろう。


 と、浩平がやって来た。浩平は荷物を持っている。いつもと様子がおかしい。


「えっ、今日で奉仕活動は終わり?」


 話しかけた舞子はふと思った。もうすぐ始業式だ。また中学校に戻らなければいけないんだろう。短い間だったけど、印象に残った。


「ああ」


 浩平は寂しそうな表情だ。別れるのが辛いようだ。少し泣いているようにも見える。


「もうあの人の悪口言っちゃだめだよ」


 舞子は浩平の肩を叩いた。昨日の大樹のように、浩平も立ち直ってほしい。これからもっと多くの経験をして、立派な大人になってほしい。


「わかってるよ。お世話になりました」


 大樹は健三にお辞儀をした。大樹にあんなにひどい事を言ってしまい、引きこもりにしてしまったのは事実だ。だが、それを受け止めて、生きていかなければならない。すでに大樹は引きこもりから立ち直った。だから、自分も立ち直らなければならない。


「頑張ってね」

「舞子さんも頑張ってね」


 浩平は会社を去っていった。7日からはまた元の中学生だ。だが、ここで知った事を忘れずに、これからもっと頑張ってほしいな。


 舞子は笑顔で浩平を見ていた。今はそうじゃないけど、いつかはあの子のような中学生を教えたいな。一体それはいつの日になるんだろうか? その時には、浩平はどんな大人になっているんだろうか?


 健三もその姿をじっと見ている。もうこれ以上大樹をいじめるなよ。思いやりのある人に育って、立派な大人になれよ。

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Restart 口羽龍 @ryo_kuchiba

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