3
次の日、今日も舞子は近所の喫茶店でランチを食べていた。今日は朝から今まで外に出ていない。今日はあまり外に出ないようにしている。明日からまた仕事だ。今日はしっかり休んで明日に備えよう。
舞子はカルボナーラを食べながら先週の事を思い出した。入社して初日は色々あったけど、頑張る事ができた。だが、これからもっと忙しくなっていくだろう。もっと頑張らねばこの会社でやっていけないだろう。
と、何かに気付き、舞子はカウンターを見た。健三がいる。健三は何かを考えているようだ。
「本村さん、どうしたんですか?」
「息子の事が気になって」
健三は息子の事を気にしていた。大樹が振り向いてくれるには、どうすればいいんだろう。七恵でも開き直ってくれない。俺でも開き直ってくれない。このままでは不登校になってしまう。引きこもりになってしまう。
「どうしたんですか?」
息子がどうしたんだろう。浩平は反省しているのに、立ち直らないんだろうか?
「ずっと部屋にひきこもっているんだよ。このままでは7日の始業式に来れるかどうか心配で」
舞子は驚いた。健三がそんな事で悩んでいるなんて。健三も私同様悩んでいる事があるのか。
「そうなんだ。心配ですね。あっ、そうだ。よかったら、相談させて?」
健三は驚いた。新しく入ってきたばかりの舞子に任せていいんだろうか? 大樹は立ち直ってくれるんだろうか?
「い、いいけど。だけど、そうしようとしたら突き飛ばされるよ。けがするよ」
健三は忠告した。昨日も大樹の恐ろしさを実感した。けがをしても責任は取らない。それでもいいのか?
「でも、やってみる!」
舞子の決意は固い。自分は教員を目指していた。引きこもる少年の心がなんとなくわかる。教員を目指していたからこそできる事がある。必ず大樹を立ち直らせてみせる!
「そう。どうなっても知らないよ」
健三の表情は冷たい。本当に大丈夫だろうか?
「いいの」
「ならば・・・」
健三は舞子に任せる事にした。専門の人じゃないけど、本当にできるんだろうか? 専門家を呼んだ方がよかったかもしれない。健三は不安だ。
約1時間後、2人は本村家にやって来た。いたって普通の家だ。自分の住んでいる家に似ている。よく見ると、昼間なのにカーテンの閉じている部屋がある。ここに健三の息子がいるんだろうか? どんな子だろう。かっこいいんだろうか? そうじゃないんだろうか? 会うのが楽しみだ。
2人は玄関の前に立ち、健三はインターホンを押した。
「お邪魔します」
舞子がインターホン越しに声をかけると、女の声がする。七恵の声だ。どことなく元気がなさそうだ。大樹の事で悩んでいるんだろうか?
2人は玄関に入った。玄関は少し暗い。大樹の事が気になってあんまり点けてないんだろうか?
七恵がやって来た。少し元気がない。大樹の事で悩んでいるからだろうか? 早く元気を取り戻してほしいな。
2人は2階にやって来た。大樹の部屋は左の扉にある。その扉の向こうの部屋はカーテンがかかっていた。その中はどうなっているんだろう。
「大樹くん」
舞子は心配そうな声で話しかけた。どんな反応をするんだろう。
「帰れ! 誰にも会いたくない!」
暴力的な口調が聞こえた。それを聞くと、健三はのけぞった。あまりにも怯えているようだ。
「話がしたいの!」
舞子は必死だ。何としても立ち直らせたい。
「誰とも話したくない!」
「出て来い!」
健三は無理やり扉を開け、部屋に入った。大樹は少し怯えたが、すぐに暴れ出した。健三は大樹を抑え込んだ。大樹は必死で抵抗したが、健三の抑え込む力が強い。
大樹は肩を落とした。本当に7日からまた来ていいんだろうか? またいじめられるんじゃないだろうか?
「このままでいいの?」
舞子は必死だ。何としてもまた学校に行ってほしい。
「それでいいんだ! 誰とも会いたくないんだ!」
大樹はまた部屋に帰ろうとした。もう部屋から出たくない! 死ぬまで引きこもりでいい。
「もうみんな反省してるのよ!」
舞子は浩平の事を思い浮かべた。清掃活動を通じて反省している。だからまた学校に来てほしい。
「このままでいいと思ってるの?」
舞子は問いかけた。このまま孤独なままで一生を終えるだけでいいのか? 誰とも会わず、自分の部屋の中で一生を終えるなんて、全然楽しくないだろう。
「そ・・・、それは・・・」
大樹は下を向いてしまった。確かにそんな人生、楽しくない。もっとみんなといる方が寂しくない。でも、誰も信じられない。この部屋の中が一番安心できる。誰にも邪魔されないし、楽しいものがいっぱいある。
「このままずっと1人ぼっちでいいと思ってるの?」
「そ、そんな・・・」
突然、健三がビンタをした。このままで言いわけはない。このままでは成長しないままずっとこのままだ。
「ならば、学校に行って頑張りなさいよ!」
舞子は力強い口調だ。
「は・・・、はい・・・」
その怖さに圧倒され、大樹は落ち込んだ。子どもの頃から散々両親の怖さを実感して、またもやその怖さを知った。
「畑中さん、ありがとな」
「どういたしまして」
舞子は去っていった。健三と七恵はその様子を見ている。これで安心して大樹を見ていられる。まさか、舞子にこんな才能があったとは。ただの新入社員だと思っていたのに。後輩ができた時にも期待できそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます